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第2部 バララセ東部 ~密林の巨鳥と水竜の島
第91話 難破
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ンワラデの話によると、古水竜ティロモサはムトカラから見て南東にある無人島付近の海にいるらしい。
イーア達はまずムトカラから南にむかい、浜辺で小船にのってティロモサのいる海域にむかった。
内陸部に住むマデバ族にはいい船乗りがいないらしいので、イーア達は浜辺に住み漁をして暮らしているシギロ族の船に乗せてもらうことになった。
そのシギロ族の小舟にのってしばらく進むんだところで、イーア達が乗っている小舟の船頭さんは言った。
「この先、海神様の海。おれたちは、この先には行かない。海神様の海に入るのは禁止されている」
「わかりました。ありがとうございます」
シギロ族の船乗りはイーアたちの小舟から降りて海に入ると、もう一つ、いっしょにきていた小舟の方へと泳いでいった。
ここからは、イーアとオッペンで舟をこいで進まないといけない。
「よっしゃ! おれに任せろ! おれは昔、父ちゃんと海に遊びに行ったことがある」
そう言ってオッペンは元気よくこぎだした。だけど、すぐに、進んでいるのか流されているのかよくわからない状態になった。
(一度戻った方がいいかな)
イーアはそう思ったけれど、すでに後ろで待っていたはずのシギロ族の小舟がどこにも見えなくなっていた。
かわりに、海を漂流する木の破片が近づいてくるのが視界に入った。
よく見ると、小さな破片の向こうに、何か大きなものも見える。
「オッペン、見て。あれ、船の残骸? たぶん、けっこう、大きな船だよね」
シギロ族の小舟とは違う、大きな立派な船の一部、みたいなものが見えた。
「お、おう。あとさ、なんか、波がでかくなってる気がしねぇか?」
たしかに、波がうねるように大きくなっている。
海のことを何も知らないイーアにも海が荒れだしているのがわかる。空は晴れたままだけど、まるでここだけ嵐がきているかのようだ。
それに、強い精霊の気配を感じる。
(これは、ティロモサ……?)
イーア達の乗っている小舟は、今はもう確実に、完全に流されていた。巨大な渦巻きの周縁をぐるぐるとまわるように勢いよく流されている。
まるで、何かに引きこまれるように。
イーアは悟った。
たぶん、海中にティロモサがいる。
きっと、ティロモサが海流を操っているのだ。
「もどろう!」
だけど、波はさらに大きく激しくなり、そして、目の前で巨大な壁のように海面がもり上がった。
次の瞬間、イーアは海中に沈んでいた。
海の中、こちらを監視するようににらむ暗い影が一瞬だけ見えた気がした。
・・・
気が付いた時、イーアは砂浜に倒れていた。
ヤララから預かっている『通信鳥ケピョン』という小さな霊鳥が、イーアの頭、腕、砂浜をピョンピョンととびはねながら、小さな虫をついばんでいた。
ケピョンは、この旅の間ずっとイーアの近くを飛んでいたけれど、存在感がなくてただの小鳥にしか見えない地味な見た目なので、誰もたいして気にしなかった。
イーアもたまにケピョンのことを忘れていた。
『ケピョン、なにがおきたんだっけ……? ティロモサに舟を沈められて……その後……』
たずねても、ケピョンは答えない。精霊語は通じるはずだけど、ケピョンはただの小鳥みたいに鳴くだけだ。
イーアは、海中で必死にもがきながら風船魚プープクを呼んだことまでは思い出せたけれど、その後はよく思い出せなかった。
(はぁ……。強い精霊との契約は、やっぱり簡単にはいかないよね)
ンワラデが言っていた通り、古水竜ティロモサとの契約はとても難しそうだ。
話せばわかりあえるとイーアは思っていたけれど、話しをするひまさえなく海に沈められてしまうのでは、どうしようもない。
イーアは重たい体を起こし、人気のない砂浜にすわった。
しばらくは、まったく動く気にならなかったけれど、ひたすら波が打ち寄せ続けるのを見ながらしばらく休んでいると、すこし回復してきた。
ぐっしょり水びたしで重くなったかばんをひっくり返して海水を出すと、かばんから青いチルランがふよふよと出てきた。
青いチルランも海の中で大変な目にあったみたいで、いつもより疲れた感じでふよふよ浮いている。
いざとなれば、チルランは元いた場所、ガネンの森に戻れるはずだけど、今回も青いチルランはがんばって戻らなかったらしい。
それから、イーアは周囲の様子を観察した。ここがどこかはわからないけれど、だいぶ流されてしまったようだ。
太陽の位置を見る限り、かなり時間がたっている。
背後には密林があり、海と密林の間にはきれいな白い砂浜がずっと広がっていた。人が近くに住んでいる気配はない。砂浜に人工物は何もないから。
太陽はまだ海の上にあるけれど、夕暮れが近そうだ。
透き通るような海はとても美しくて、いつまで見ていても飽きなかった。
イーアはしばらくぼんやりと、打ち寄せる波の音を聞きながら、砂浜を歩く小さな透明なカニや、きれいな貝殻をせおったヤドカリを眺めていた。
幸せな気分でぼーっとしているうちに、イーアは元気になってきて、これからどうしようか考えだした。
(ティロモサとの契約はムリかも。先にカゲが言ってた魔道具を探そうかな)
ムトカラでオッペンにダウジングで調べてみてもらった結果では、イーアが探している、過去を見ることができる魔道具はムトカラより南にありそうだった。
イーアは『友契の書』を確認してみた。
カゲが召喚できそうだ。
イーアが呼びだすと、カゲはあたりを眺めるように動きながらのんびり言った。
『おやおや、きれいな浜辺ですねぇ。なんだか懐かしい感じがします』
『カゲ、ここを知ってるの? 探してる道具って、このへんにあると思う?』
『そうですねぇ……。ありそうな、なさそうな。だけど、そうだ。思い出しましたよ。あの道具があるのはメラフィスから見て東にある密林の中の神殿なんです』
『ここは、たぶん、そのあたりだけど。神殿……?』
少なくともここから見える範囲に、そんな建物はない。
そこで、カゲは手をぽんとたたくようなしぐさをした。
『あ! もうひとつ思い出しましたよ。あの密林の神殿の近く、ちょっと海を越えた先に島があるんですよ。たしか、あの島には……』
カゲはそこでとまって、しばらくして、首をかしげたまま言った。
『えーっと……何でしたっけ』
あいかわらずカゲはあまり役に立たない。
でも、カゲが言っている島は、たぶん、ティロモサがいる海域にある島のことだろう。
探している魔道具はここから遠くない場所にありそうだ。
カゲにはいったん帰ってもらって、イーアは砂浜に座って考えた。
(魔道具を探すには……オッペンに頼もう。あ! すっかり忘れてた! オッペンはどうなったんだろ!?)
オッペンを探さないと! とイーアが思った時、突然、通信鳥ケピョンが変な動きをはじめて、ケピョ、ケピョ、と鳴きだした。
『どうしたの?』
イーアがケピョンにたずねると、返ってきたのは、ヤララの声だった。
『イーア! 聞こえる?』
『うん。聞こえるよ、ヤララ。すごいね。通信鳥って。本当にウェルグァンダルとバララセでおはなしできるんだね』
『そんなのんびり……してるってことは、だいじょうぶなんだね。ンワラデから、イーアがティロモサに襲われて行方不明になったって連絡がきて』
『心配してくれたの? ありがとう』
『ちがっ。心配とかじゃなくて。ガリに頼まれてるから。仕事だから』
ヤララはイーアの任務のサポートについてくれることになっていた。ふつうはそんなサポートはしないけれど、今回は特例で。
ヤララは『通信鳥』を使いこなせ、さらに、「遠隔召喚」と呼ばれているヤララにしかできない特殊な技術をもっているから、ウェルグァンダルの塔にいても支援ができるらしい。
『それで、どうする? 赤い水晶石でイーアがいる場所を教えてくれたら、ンワラデに場所を伝えて救援に行ってもらうけど』
赤い水晶石はイーアがガリから渡された魔道具で、起動すると持ち主の居場所がヤララの持っている地図に表示されるらしい。
『うーん。どうしようかな。まだ、いいや。それより、オッペンを探さないといけなくて……』
でも、その時、ちょうどタイミングよく、「おーい!」という声が聞こえた。
オッペンだった。
オッペンは上半身はだかで、脱いだ服を手に持って振りまわしながら元気よく歩いていた。
『あ、オッペンは、だいじょうぶそう。じゃ、ヤララ。わたしはしばらくこの辺りを探索してみるから。じゃね』
『え? うん。タフだね……』
通信鳥はもとのただの変な小鳥みたいな鳴き声に戻って飛びたつと、イーアの頭の上にちょこんとのった。
イーア達はまずムトカラから南にむかい、浜辺で小船にのってティロモサのいる海域にむかった。
内陸部に住むマデバ族にはいい船乗りがいないらしいので、イーア達は浜辺に住み漁をして暮らしているシギロ族の船に乗せてもらうことになった。
そのシギロ族の小舟にのってしばらく進むんだところで、イーア達が乗っている小舟の船頭さんは言った。
「この先、海神様の海。おれたちは、この先には行かない。海神様の海に入るのは禁止されている」
「わかりました。ありがとうございます」
シギロ族の船乗りはイーアたちの小舟から降りて海に入ると、もう一つ、いっしょにきていた小舟の方へと泳いでいった。
ここからは、イーアとオッペンで舟をこいで進まないといけない。
「よっしゃ! おれに任せろ! おれは昔、父ちゃんと海に遊びに行ったことがある」
そう言ってオッペンは元気よくこぎだした。だけど、すぐに、進んでいるのか流されているのかよくわからない状態になった。
(一度戻った方がいいかな)
イーアはそう思ったけれど、すでに後ろで待っていたはずのシギロ族の小舟がどこにも見えなくなっていた。
かわりに、海を漂流する木の破片が近づいてくるのが視界に入った。
よく見ると、小さな破片の向こうに、何か大きなものも見える。
「オッペン、見て。あれ、船の残骸? たぶん、けっこう、大きな船だよね」
シギロ族の小舟とは違う、大きな立派な船の一部、みたいなものが見えた。
「お、おう。あとさ、なんか、波がでかくなってる気がしねぇか?」
たしかに、波がうねるように大きくなっている。
海のことを何も知らないイーアにも海が荒れだしているのがわかる。空は晴れたままだけど、まるでここだけ嵐がきているかのようだ。
それに、強い精霊の気配を感じる。
(これは、ティロモサ……?)
イーア達の乗っている小舟は、今はもう確実に、完全に流されていた。巨大な渦巻きの周縁をぐるぐるとまわるように勢いよく流されている。
まるで、何かに引きこまれるように。
イーアは悟った。
たぶん、海中にティロモサがいる。
きっと、ティロモサが海流を操っているのだ。
「もどろう!」
だけど、波はさらに大きく激しくなり、そして、目の前で巨大な壁のように海面がもり上がった。
次の瞬間、イーアは海中に沈んでいた。
海の中、こちらを監視するようににらむ暗い影が一瞬だけ見えた気がした。
・・・
気が付いた時、イーアは砂浜に倒れていた。
ヤララから預かっている『通信鳥ケピョン』という小さな霊鳥が、イーアの頭、腕、砂浜をピョンピョンととびはねながら、小さな虫をついばんでいた。
ケピョンは、この旅の間ずっとイーアの近くを飛んでいたけれど、存在感がなくてただの小鳥にしか見えない地味な見た目なので、誰もたいして気にしなかった。
イーアもたまにケピョンのことを忘れていた。
『ケピョン、なにがおきたんだっけ……? ティロモサに舟を沈められて……その後……』
たずねても、ケピョンは答えない。精霊語は通じるはずだけど、ケピョンはただの小鳥みたいに鳴くだけだ。
イーアは、海中で必死にもがきながら風船魚プープクを呼んだことまでは思い出せたけれど、その後はよく思い出せなかった。
(はぁ……。強い精霊との契約は、やっぱり簡単にはいかないよね)
ンワラデが言っていた通り、古水竜ティロモサとの契約はとても難しそうだ。
話せばわかりあえるとイーアは思っていたけれど、話しをするひまさえなく海に沈められてしまうのでは、どうしようもない。
イーアは重たい体を起こし、人気のない砂浜にすわった。
しばらくは、まったく動く気にならなかったけれど、ひたすら波が打ち寄せ続けるのを見ながらしばらく休んでいると、すこし回復してきた。
ぐっしょり水びたしで重くなったかばんをひっくり返して海水を出すと、かばんから青いチルランがふよふよと出てきた。
青いチルランも海の中で大変な目にあったみたいで、いつもより疲れた感じでふよふよ浮いている。
いざとなれば、チルランは元いた場所、ガネンの森に戻れるはずだけど、今回も青いチルランはがんばって戻らなかったらしい。
それから、イーアは周囲の様子を観察した。ここがどこかはわからないけれど、だいぶ流されてしまったようだ。
太陽の位置を見る限り、かなり時間がたっている。
背後には密林があり、海と密林の間にはきれいな白い砂浜がずっと広がっていた。人が近くに住んでいる気配はない。砂浜に人工物は何もないから。
太陽はまだ海の上にあるけれど、夕暮れが近そうだ。
透き通るような海はとても美しくて、いつまで見ていても飽きなかった。
イーアはしばらくぼんやりと、打ち寄せる波の音を聞きながら、砂浜を歩く小さな透明なカニや、きれいな貝殻をせおったヤドカリを眺めていた。
幸せな気分でぼーっとしているうちに、イーアは元気になってきて、これからどうしようか考えだした。
(ティロモサとの契約はムリかも。先にカゲが言ってた魔道具を探そうかな)
ムトカラでオッペンにダウジングで調べてみてもらった結果では、イーアが探している、過去を見ることができる魔道具はムトカラより南にありそうだった。
イーアは『友契の書』を確認してみた。
カゲが召喚できそうだ。
イーアが呼びだすと、カゲはあたりを眺めるように動きながらのんびり言った。
『おやおや、きれいな浜辺ですねぇ。なんだか懐かしい感じがします』
『カゲ、ここを知ってるの? 探してる道具って、このへんにあると思う?』
『そうですねぇ……。ありそうな、なさそうな。だけど、そうだ。思い出しましたよ。あの道具があるのはメラフィスから見て東にある密林の中の神殿なんです』
『ここは、たぶん、そのあたりだけど。神殿……?』
少なくともここから見える範囲に、そんな建物はない。
そこで、カゲは手をぽんとたたくようなしぐさをした。
『あ! もうひとつ思い出しましたよ。あの密林の神殿の近く、ちょっと海を越えた先に島があるんですよ。たしか、あの島には……』
カゲはそこでとまって、しばらくして、首をかしげたまま言った。
『えーっと……何でしたっけ』
あいかわらずカゲはあまり役に立たない。
でも、カゲが言っている島は、たぶん、ティロモサがいる海域にある島のことだろう。
探している魔道具はここから遠くない場所にありそうだ。
カゲにはいったん帰ってもらって、イーアは砂浜に座って考えた。
(魔道具を探すには……オッペンに頼もう。あ! すっかり忘れてた! オッペンはどうなったんだろ!?)
オッペンを探さないと! とイーアが思った時、突然、通信鳥ケピョンが変な動きをはじめて、ケピョ、ケピョ、と鳴きだした。
『どうしたの?』
イーアがケピョンにたずねると、返ってきたのは、ヤララの声だった。
『イーア! 聞こえる?』
『うん。聞こえるよ、ヤララ。すごいね。通信鳥って。本当にウェルグァンダルとバララセでおはなしできるんだね』
『そんなのんびり……してるってことは、だいじょうぶなんだね。ンワラデから、イーアがティロモサに襲われて行方不明になったって連絡がきて』
『心配してくれたの? ありがとう』
『ちがっ。心配とかじゃなくて。ガリに頼まれてるから。仕事だから』
ヤララはイーアの任務のサポートについてくれることになっていた。ふつうはそんなサポートはしないけれど、今回は特例で。
ヤララは『通信鳥』を使いこなせ、さらに、「遠隔召喚」と呼ばれているヤララにしかできない特殊な技術をもっているから、ウェルグァンダルの塔にいても支援ができるらしい。
『それで、どうする? 赤い水晶石でイーアがいる場所を教えてくれたら、ンワラデに場所を伝えて救援に行ってもらうけど』
赤い水晶石はイーアがガリから渡された魔道具で、起動すると持ち主の居場所がヤララの持っている地図に表示されるらしい。
『うーん。どうしようかな。まだ、いいや。それより、オッペンを探さないといけなくて……』
でも、その時、ちょうどタイミングよく、「おーい!」という声が聞こえた。
オッペンだった。
オッペンは上半身はだかで、脱いだ服を手に持って振りまわしながら元気よく歩いていた。
『あ、オッペンは、だいじょうぶそう。じゃ、ヤララ。わたしはしばらくこの辺りを探索してみるから。じゃね』
『え? うん。タフだね……』
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