もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~

第118話 ウェルグァンダルへ

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 ゲオの講義の日がやってきた。
 以前リグナムが言っていた通り、ゲオはとても有名な先生らしい。
 ゲオの講義はとても大きな講堂で行われたのに、最終的には席が全部埋まって立ち見の人までいた。

 だけど、イーアは30分前に講堂に行ったから、最前列の席を確保できた。
 ゲオに「ウェルグァンダルにつれていって」と頼んでも怪しくないくらいに熱心な生徒だと思わせないといけないから。イーアは、いい席をとって、これを見よといわんばかりに精霊についての本を机に山積みに置いた。

 でも、まだ30分も前なのに、どんどん生徒が入ってくる。
 イーアが座ってすぐ、隣にも同級生がやってきた。

「やぁ、アラム君。隣、いいかい?」

「いいよ」

 隣に座ったのはレイノーという少年だ。ちょっとクールな感じで優秀で、もしもこの学校に女子がいたら、とてもモテそうなタイプだ。
 レイノーの後ろでおどおどしている小柄な少年はグスタという名前で、大貴族の家の子らしいけれど、気が弱くてよくいじめられている。

「ア、アラム君は精霊学にも興味があるの?」とグスタに聞かれ、アラムことイーアは「うん。今、一番興味があるんだ」と言っておいた。

「でも、君はお父上みたいに古代魔術の道に進むんだろ?」とレイノーにたずねられ、イーアは口ごもった。

「えーっと。どうだろ……」

「アラム君の父上、今日の新聞にも出ていたよ」

 そう言ってグスタが見せてくれた帝国新聞には、ギルフレイ卿がのっていた。
 最近は、バララセの反乱のことが新聞にのるようになっていた。
 反乱軍の軍勢をギルフレイ卿が壊滅させたというニュースがよくのっている。

 今日も新聞は、ギルフレイ卿を英雄のようにほめたたえていた。この学校の生徒たちもギルフレイ卿を英雄みたいに思って喜んでいる。
 けれど、そんなニュースを見るたび、イーアはその壊滅させられた反乱軍の死者の中に、コサやランがふくまれていたらどうしようと不安になってしまう。

「うん……」

 イーアがそのまま何も答えずにいると、「君の複雑な気持ちはわかるよ」とレイノーが言った。
 イーアの気持ちがレイノーにわかるわけがないけれど、本音を言うわけにはいかないのでイーアが無言でいると、レイノーは言った。

「総督のお仕事は、自ら反乱を鎮圧することではないのだから。帝国軍がしっかり反乱軍を鎮圧していれば、君のお父上自ら手を下す必要はないんだ。まったく、嘆かわしいよ。最近の帝国軍の体たらくは。こんなことじゃ、本当にラムノスの予言が実現してしまいそうだ」

「ラムノスの予言?」

 イーアが聞き返すと、グスタがあわてたようすで言った。 

「<滅亡の予言者>のことは、話してはいけないんだよ。不吉なことが起こるから」

 「ただの迷信にすぎないさ。でも、先生にバレれば叱られるから」と言って、レイノーは小声でささやいた。

「昔、ラムノスという占術士が、帝国の滅亡を予言したんだ。もちろん、真っ赤な嘘だ。栄光の帝国が滅びるはずがない。高名な占術士もみんなその予言を否定した。そして、<滅亡の予言者>ラムノスは反逆を扇動せんどうした罪で死罪になった」

「へぇ」

「でも、これを言ったり聞いたりすると、<滅亡の予言者>のたたりがあるって言われているのさ」

 そうレイノーが言った直後、「たたりを避けるには、10人にこの話をしないといけないんだよ」とグスタがおびえた声でささやき、レイノーは肩をすくめた。

「というふうに信じるバカがいて騒ぎになるから、この話は禁止されているのさ。そんな祟りがあるわけないだろ」

 そうこうしているうちに、ゲオが登場し講義が始まった。

 みんな熱心にゲオの講義を聞いていた。ゲオは世界の各地にいる精霊、特に、教科書にのっていないような、とても珍しい精霊の話をいろいろとしてくれた。
 といっても、ほとんどはイーアがすでに知っている精霊の話だった。なにせイーアは以前ゲオに直接教えてもらったのだから。それに、イーアはこの後どうやってゲオと話をしようかと、そればっかり考えていたからあまり頭に入らなかった。

 やがて、講義が終わるとすぐに、イーアは壇上だんじょうから降りていくゲオのもとに急いだ。なんとかゲオと話をしないといけない。
 でも、他にも質問しようと生徒が集まってきたので、イーアはあえて先をゆずって、質問したい生徒数人の列の最後にならんだ。
 周囲に怪しまれないように、ゲオにも怪しまれないように、なにげなくウェルグァンダルに行くきっかけをつくらないといけないから。

 しばらくして順番がきて、イーアがふつうの生徒が知らないような精霊のことをいろいろと質問していると、ゲオがほめてくれた。
 外見はアラムでも中身はウェルグァンダルの召喚士だから、これくらい知ってて当然だし、そもそも去年の冬休みにゲオに習ったことばかりだけど。
 イーアは、ここぞとばかり、すかさずゲオにお願いした。

「ゲオ先生。ウェルグァンダルの塔には大きな図書室があって、精霊についての本がたくさんあると聞きました。ぜひ、その図書室を利用させてください。学校の図書室には精霊についての本があまりないんです。ボクはもっと精霊について勉強したいんです」

 とても熱心な生徒のふりをしてお願いすると、ゲオは快諾かいだくしてくれた。

「ああ。いいとも。図書室の利用には塔主の許可が必要になるが、私から話をしておこう。君の名前は?」

「アラムです」

 イーアはあえて、アラムの苗字は言わなかった。ゲオは言った。

「では、用意ができたら君に連絡するが、それまでに保護者の方の許可をとっておくように」

「え? 保護者の許可?」

 イーアはドキッとした。

「保護者の許可なしにはウェルグァンダルの塔につれていくことはできない」

「……わかりました」

 そう言ってうなずいたけれど、イーアはもちろん、絶対にアラムの保護者の許可なんて取る気はない。
 ガリに接触しようとしていることをギルフレイ卿に知られたら、困る……どころじゃなくて、正体がバレて殺されかねない。



 それからしばらくして、ゲオから連絡が届いた。
 約束の日時に、イーアが最初にウェルグァンダルに行ったときにも乗った不気味な黒い馬車が、ラグチェスター校の前まで迎えに来た。馬車にはすでにゲオが乗っていた。

 やがてウェルグァンダルの門のところへ到着し、馬車から降りると、ウェルグァンダルの塔が見えた。
 イーアは家に帰ってきたような、なつかしい気分になった。
 ウェルグァンダルの塔の付近はあいかわらず不気味で荒涼としていたけれど。

(やっと帰ってこれたー)

 この不気味な景色で心があたたかくなるのは、ちょっと感性がおかしくなっちゃった気もするけれど、なにせ、バララセに行ったっきり、ずっと帰ってこられなかったのだ。

 塔の入り口で、リグナムが出迎えてくれて、イーアとゲオを図書室に案内した。
 図書室についてすぐ、ゲオは言った。

「申し訳ないが、私は急ぎの仕事があるので、今日はこれで失礼しないといけない。聞きたいことがあれば、リグナムに聞いてほしい。帰るときも、リグナムに言えば馬車を用意してくれる。もしも何かあれば、すぐにこの魔切手で私に連絡を」

 そう言って、ゲオはイーアに魔切手をさしだした。

「わかりました。わざわざ送ってもらって、ありがとうございます」

 ゲオは立ち去り際に、リグナムに声をかけた。

「では、リグナム。あとは頼んだよ。塔主には念を押してあるが、何かもめるようなことがあれば、すぐに私に連絡しなさい」

 リグナムは力強く返事をした。

「はい! わかりました。ゲオ先生。ガリには絶対に邪魔をさせません」

(えー……。わたしはガリに会いたいんだけど。でも、リグナムさん相手なら、適当にごまかして会っちゃえば大丈夫だよね)と、思いながら、イーアはふたりの会話をこっそり聞いていた。
 ゲオが去ると、リグナムは言った。

「アラム様。さぁ、用事があれば、なんなりと僕に命令してください」

(あれ? わたしとしゃべるときと、リグナムさん、しゃべり方がちがうよ?)と心の中で思いながら、イーアは言った。

「だいじょうぶです。自分で本を探すので。あの、そういえば、塔主の先生は、今日はいらっしゃらないのでしょうか? ごあいさつしたほうが……」

 リグナムは早口に言った。

「いません。いつもいません。でも、今日はいなくてちょうどよかったんです。今、いろいろあるから……」

「いろいろ?」

 聞き返すと、リグナムはペラペラしゃべった。

「それが、バララセで召喚士が2人も殺されちゃって。あ、いえ、これは関係ないことだから、ってゲオ先生に言われているので、もちろん全然アラム様には関係ないことです。はい」

(バララセで召喚士が殺された……?)と思ったところで、イーアは気が付いた。

「あ……」

 たぶん、イーアはギルフレイ卿に殺されたのだ。
 そして、アラムはギルフレイ卿の息子。
 つまり、今、自分はウェルグァンダルの召喚士を殺した犯人の息子なのに、のこのことウェルグァンダルの塔にやってきてしまっている。

 ゲオには名前をなのらなかったけれど、アラムの父親が誰か、ゲオは気が付いていたのだろう。
 ゲオが保護者の許可をとるように何度も念押ししていたのは、きっと、そのせいだ。
 イーアはもちろん、ウェルグァンダルに行くことをアラムの家の誰にも言っていないけれど、もし言っていたら、絶対にギルフレイ卿がとめたはずだ。
 今、「アラム」は常識的に考えてありえない状況にいる。

 そこまで考えて、ふと図書室の入り口を見た瞬間、イーアは、はっとした。
 暗い人影が、入り口の向こうに静かに立っている。

(ガリ!?)

 イーアが気が付くとすぐに、ガリはきびすを返し、暗闇の中に消えた。

「あの、リグナムさん。ちょっとトイレに行きたいです」

「ああ、トイレは廊下にでて、左にまがってください」

「ありがとうございます」

 イーアはトイレに行くとみせかけて、エレベーターに乗って、塔主の部屋にむかった。
 エレベーターを降りたところで、ガリが待っていた。

『ガリ!』

 ガリは無言で、ついてくるようにと手で合図した。
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