もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~

第119話 エルフの血

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 塔主の部屋に入ってドアを閉めると、ガリはアラムの姿のイーアを上から下までじろじろ見ながら、苦い表情で言った。

『よりによってギルフレイ卿の息子に。なぜこうなった?』

 ガリはイーアが説明する前にもう状況を察してくれたようだ。話はスムーズに進みそうだから、イーアはいつものように精霊語で答えた。

『わからないけど。ムトカラで襲われた時、カゲが何か呪文を唱えていたから、そのせいかな?』

『このままではお前が死ぬと判断し、転生術の類を行ったか。だが、魂を入れ替える魔術はかなり高度な禁術だ。その辺の魔導士や精霊に使える術ではない。しかも、装置も魔道具もなしにとっさにその場でそんなことを行える者がいるのか? カゲというのは何者だ?』

『わかんないけど。とにかく、ガリ、もとに戻るの手伝って!』

 ガリは無言でイーアを、アラムの姿をもう一度数秒観察して、ぼそりと言った。

『そのままではいけないのか? そこそこ健康な体に、この上ないご身分だ』

『いやだよ! だって、わたしはアラムじゃないもん。わたしは、ガネンの民の女の子イーアだもん!』

 それが帝国でどんなに不利なことでも、イーアはイーアだった。
 それに、自分にちょっと劣等感を感じていた昔ならともかく、今のイーアは、茶色い肌も黒い髪も目も、女の子であることも、全部好きだった。
 アラムの体になってから、強く実感する。これは自分じゃないと。

 ガリは淡々と言った。

『お前はほぼ一度死んでいる。元の体に戻すのは難しいが、それでも戻るというなら、やるべきことは二つ。一つは、霊魂転移の術を使える術者を探すこと。さっき言ったように、魂を別の肉体に移す術は非常に高度な魔術だ。古代魔術の一種らしいが、俺には使える魔導師をつれてくることはできない』

『たぶん、カゲならできると思う。わたしをアラムの体に移したのはたぶんカゲだもん』

 ガリは『友契の書』を取り出して言った。

『そのカゲとやらは、すでに、おまえの友契の書から消えている』

 イーアは思い出しながら言った。

『あの時、カゲは、さよならって言ってた……。でもカゲは『別の私に会うまで』って言ってたから、たぶん、ほかにもカゲはいるんだと思う』

『ならば、その者を探せ。二つ目は、お前の体の修復だ。お前の体は完全に心臓をつぶされていた。すぐに凍結保存したため他の損傷は少ないが。心臓を修復しなければ、魂を戻したところで即座に死ぬだけだ』

『じゃあ、すごい治癒師の人を探さないといけないんだね』

 致命傷を、というより、もはや死体の状態を、治せるほどの治癒師が必要。
 イーアにそんな人の心当たりはなかった。
 腕のいい治癒師への依頼は大金が必要らしいけれど、そんなお金もない。
 ガリはさらに言った。

『しかも、お前の体は普通の人間のものではない』

『え? わたし、普通に人間だよ?』

 イーアは、ガリが何を言っているのかよくわからなかった。

『それがあやしかったため、身体組成を調べさせてもらった』

『……普通に人間だったでしょ?』

 ほかのもののはずがない。
 ガリはいつものように淡々と説明した。

『お前が人間だというなら人間だが。普通ではない。お前の体は霊素の割合が高すぎる。人間でも多少霊素割合が高い者はいるが、その範疇はんちゅうを超えている』

 霊素は霊力の源といわれているもので、世界中のあらゆるものに存在している。
 精霊の体や精霊が住む異界の物質は霊素の割合が高く、人界に住む人間や普通の動物は霊素の割合が低い。
 と、イーアは以前習っていた。
 イーアは首をひねって考えながら言った。

『ガネンの民は精霊の森に住んでいるから、霊素の割合が高いのかな?』

『たしかに環境で多少変わるかもしれないが。そもそもガネンの民が精霊に近い存在なのだろう。少なくとも、その祖先は。精霊の中には人型のものがいることは知っているな?』

『うん。妖精さんとか、小人さんとか、人型の精霊はいろいろいるよね』

『かつて、まだ精霊と人が同じ世界に住んでいた頃、エルフと呼ばれる、特に人間によく似た精霊がいた。エルフは人間と見分けがつかないほど似ていて、地域によっては人種のひとつとして扱われることもあった。メラフィスの古代王国では、美しい人々、という名で呼ばれていたらしい。現在では多くの人間がエルフはすでに絶滅したもの、あるいは、もともと存在しない架空の存在だと信じているが、実際は、エルフは人界を去り、霊的位階の高い、つまり霊素濃度の高い異界に移り住んだだけだ』

『へぇ』

 ガリは淡々と結論を言った。

『ガネンの民は、彼らの末裔まつえいなのだろう』

『へー……え? ガネンの民はエルフ?』

 言われてみれば、たしかにガネンの民は精霊と同じように異界に住んでいたし、精霊語を話していたし、エルフが見た目で人間と区別がつかないなら、ガネンの民がエルフではないと否定する根拠がイーアには思いつかなかった。

『ただ、エルフにしては、お前の体は霊素が少なすぎる。人間にしては高いが精霊にしては低い、どちらともいえない状態だ。エルフはまれに人間との間に子をなすこともあったという。ガネンの民は、エルフと人間の間に生まれた者が多い集団だったのかもしれない』

 ガリの説を聞きながら、イーアは思い出した。

『あ、そういえば、お母さんはもともとガネンの民じゃないかも。森の外から来たみたい』

『母親が人間なら、それで説明がつく。いずれにせよ、ハーフエルフの肉体をただの人間の治癒師に十分に修復できるかがわからん。ただでさえ損傷激しく治癒困難な状態だ』

『だいじょうぶだよ。わたし、いつも普通の人間用で生きてきたもん』

 薬だって治癒魔法だって、いつも普通に効いた。
 よくよく思い出してみれば、たしかに、イーアはちょっと特殊な体質だと、昔、風邪をひいたときにナミン先生が言っていたような気もしないではないけれど。

『治癒師の心当たりはあるか?』

『ないよ』

 イーアが即、断言すると、ガリは言った。

『治癒師は俺が探そう。お前はまずは魂を移すことのできる術師を探せ。それが不可能ならば、体の修復をしても意味がない』

『わかった。ありがとう。わたしはカゲを探すね』

 そこでイーアは思い出してガリにたずねた。

『そういえば、さっきリグナムさんがうっかり言ってたけど、ウェルグァンダルはギルフレイ卿と対立しているの?』

『いや。お前とンワラデが殺された件が水面下で広まって、俺が報復を企んでいるのではないかという噂が魔導師の間で流れているだけだ』

『ンワラデさんも殺された!? なんで?』

 ガリは無表情に淡々と言った。

『理由はわからん。お前が殺されたすぐ後のことだ。口封じに殺されたか、無謀に抗議でもして殺されたか、あるいはバララセの政治的な問題かもしれん。あいつはマデバ族の長でもあり、ギルフレイ卿はバララセ総督でもある。そもそも、ンワラデに関しては殺害者が誰かはっきりとわからない。お前を殺したのは間違いなくギルフレイ卿だが』

『やっぱり、ギルフレイ卿なんだね。でも……』

 自分を襲ったのはギルフレイ卿だろうと、イーアは最初から思っていた。
 だけど、だとすると、引っかかることがあった。
 イーアが意識を失う前、最後に聞いた言葉……。

『俺は報復なんてするつもりはないが、ギルフレイ卿の子がここに来るのは、常識的にありえない。すべて準備がそろい、いざ元の体に戻す、という時がくるまで、もうここには来るな。だが、これは隠し持っておけ』

 そう言って、ガリが差し出したのは、『友契の書』だった。

『契約は切れていない。死ねば契約は終了するはずだが、魂の名を封じているため、肉体がかわっても契約が続いているのだろう。だが、前例のないケースだ。使えるかどうか、今、試してみろ』

 イーアは『友契の書』を手に取り、ためしにティトとホムホムを呼んだ。
 ティトもホムホムも普通にあらわれた。

『ティト!』

 イーアは久しぶりに会えたティトにハグしようと思ってとびつこうとした。なのに、ティトはイーアを、アラムの姿を見るなり、しかめっ面をして、さっと後ずさった。

『わたしだよ? イーアだよ?』

 ティトに逃げられて、イーアはあわてて言ったけれど、ティトはしかめっ面のうなりだしそうな顔のまま言った。

『わかってる。でも、人間臭い。魔導士臭い。いやな体に入ったな、イーア』

『これはギルフレイ卿の子どものアラムだよ。なぜかカゲがこの体にわたしを送ったみたい。もとの体に戻るために、ティト、カゲを探して。カゲなら魂を移せるから。ひょっとしたら、ガネンの森にもカゲの分身がいるかも』

 ティトは、嫌な臭いが気になるという風にフンフン鼻を鳴らしながら、言った。

『わかった。とっとと元に戻そう。おれはガネンの森を探す。で、どうやってイーアに連絡するんだ?』

 イーアは考えてしまった。

『それが問題だね。ギルフレイ卿の家では絶対にティトを呼べないもん。今はラグチェスターっていう学校の寮に入ってるけど、一人部屋じゃないし』

 そこで、『俺を介して連絡しろ』とガリが提案し、ティトはものすごーく嫌そうな顔で、『今だけだぞ』と言ってガリと召喚契約を結んだ。

 ほとんど話が終わったところで、ガリは最後につぶやくようにたずねた。

『どうして、カゲとやらは、魂を移す先にわざわざその体を選んだ?』

『わかんない。アラムはずっと意識不明だったからかな? それとも私を殺したギルフレイ卿の息子だから?』

 ガリは納得していない様子で言った。

『カゲという術者かお前かどちらかにアラムと縁がないか?』

 イーアは首をかしげてうなった。

『うーん。でも、わたしはアラムのこと、まったく知らなかったよ? 貴族のアラムと縁なんて、あるわけないよ。だけど、どうして、アラムはずっと意識不明だったんだろ。ちょっとアラムのこと、調べてみようかな』

 その後、イーアはリグナムが待つ図書室に戻り、数時間、形だけ調べ物をしてから、リグナムに馬車をお願いして学校に戻った。
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