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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~
第120話 <星読みの塔>
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アグラシアで最も歴史ある占術の名門一派<星読みの塔>。
古い石造りの塔の内部はどこも見た目は質素で地味だった。
その古く質素な塔に似つかわしくない美しい深紅のローブを身にまとい、型破りな塔主アスカルは今日もあきれたように嘆いていた。
「なんで、こんなことも知らないんだ? 一応、グランドールで基本は習っているだろ?」
オッペンを弟子にとってから、アスカルはこんなセリフをもう何回言ったかわからない。ほぼ毎日言っている。
「知らねー。習ってねーもん。だから、おれのせいじゃなくて、シャヒーン先生のせいだぜ」
オッペンは、今日も自信満々にシャヒーン先生の名声をおとしめた。
オッペンは部屋の中央に置かれた大きなテーブルに大きな占術の本を広げて勉強中だ。
<星読みの塔>の修練プログラムは、本来、座学より修行の方が多いが、オッペンは基本を知らなさ過ぎて、いまだ勉強中心の日々だ。
アスカルは、忙しい中でも時間を割いて、毎日オッペンの勉強を見てやっていた。
塔主自ら教えなくても、と周囲の人間に言われつつ。アスカルは「こんなひどいのを他の者にまかせられるか。シャヒーンの懇願に負けて引き取っちまった責任とって、自分で教えるよ」と言っていた。
人望だけで塔主になったと自称するアスカルは、面倒見がいいことで知られている。
開けっ放しのドアのところでノックの音が響いたと思うと、占術士のリリファがあわてて室内に入ってきた。
「アスカル様、大変です。ウェルグァンダルの塔主が、エレイさんのところに」
アスカルは大きなテーブルにもたれかかりながら面倒くさそうに答えた。
「ガリにはフリーパスをだしているだろ。エレイの数少ない……たぶん、唯一の友達なんだ。エレイは外に出られない分、友人にくらい自由に会わせてやれ」
リリファは心配そうに説明した。
「でも、今、エレイさんのところに、ホーヘンハイン城主、クロー家のホスルッド様が来ているんです。このままでは鉢合わせしてしまいます。召喚士が殺された件で<白光>とウェルグァンダルは今、一触即発、すでに水面下で戦争が始まっているという話も……」
アスカルは頭をふりながら言った。
「ほっとけ。あいつらだって、ここでドンパチ始めるほどバカじゃない。だいたい、ウェルグァンダルは<白光>相手にやり返す気はないはずだ。町の一つや二つ、一瞬で消し飛ばせる奴らが本気で戦いだしたら、大惨事になる。そんな大事になるなら、うちの占術士の誰かがすでに予見しているはずだ」
そんな会話を聞きながら、「イーアの師匠とユウリの師匠って仲悪いのか?」とオッペンは思った。……だけでなく、口にだしてつぶやいていた。
アスカルはオッペンの方に振り返り、同情するように言った。
「そうか。殺された召喚士はお前の友達だったな」
だけど、オッペンは鉛筆をくるくる回しながら気楽な調子で答えた。
「あー。でも、おれ、イーアが死んだって思えねーんだよ。だって、おれが占うと、またイーアに会えるってでるんだぜ。なんか、そんな気がするしよ。だから、おれはまた会えるって信じてるんだ」
アスカルは片眉をあげた。
「ほう?」
「ま、占いなんてあてになんねーけど」
そう言って勉強に戻る占術士見習いオッペンに、アスカルは肩をすくめてあっさり認めた。
「まぁな。100パーセント当たる占いなんてない。だが、お前の未来予知の素質はエレイに次いで強いからな。案外あたっているかもしれない」
アスカルは何か考えているような表情を浮かべた。
「そういや、エレイって誰だ? おれ、会ったことねーな」
そうオッペンがたずねると、アスカルは言った。
「今の<星読み>だ」
「<星読み>?」
「この塔で一番未来予知能力が高い占術士さ。そのため、エレイには許可を与えた者しか会えない。誘拐の危険があるから、外出許可もなかなか出せない」
オッペンは思わず叫んだ。
「んげっ。こんな陰気くせぇところにずっと閉じこめられてるってことかよ! そいつ、むっちゃ、かわいそーじゃねーか!」
「エレイさんをそいつ呼ばわりしないでください!」と後ろでリリファが怒る中、アスカルはうなずいた。
「まったくだ。こんなところにいると気が滅入る。だから、どんどん外出許可を出すように塔の方針を変えたんだが。エレイの場合は安全確保が難しい上に、本人が外出したがらないのさ。<代償>で、視力と身体能力の多くを失っていて自由がきかないうえに、人の思考を読む力があるせいで、外は外でつらいらしい」
オッペンはそれを聞いて思い出した。
「そういやさ、ししょー。こないだ<代償>と<制約>っての教えてくれただろ。<代償>は何かを犠牲にすることで、<制約>は能力の一部をしばることで、能力をあげることができるって。で、おれ、試してぇことがあんだけどさ」
アスカルは天井の隅を見ながら、しかめっ面でつぶやいた。
「ろくな予感がしないねぇ。なにせ、お前は素質だけならエレイに次ぐくせに、どの占術士に聞いても将来おまえが<星読みの塔>を支える占術士になるって結果がでないんだ。まったく、教えがいのない弟子だよ」
そんな占術士になる気が欠片もないオッペンは、アスカルのぼやきに自信満々にうなずいた。
「まぁな。で、おれがやりてーのはさ。<制約>で、未来予知の力を縛って……」
アスカルは最後まで聞かずにうなずいた。
「うむ。聞かなかったことにしよう」
古い石造りの塔の内部はどこも見た目は質素で地味だった。
その古く質素な塔に似つかわしくない美しい深紅のローブを身にまとい、型破りな塔主アスカルは今日もあきれたように嘆いていた。
「なんで、こんなことも知らないんだ? 一応、グランドールで基本は習っているだろ?」
オッペンを弟子にとってから、アスカルはこんなセリフをもう何回言ったかわからない。ほぼ毎日言っている。
「知らねー。習ってねーもん。だから、おれのせいじゃなくて、シャヒーン先生のせいだぜ」
オッペンは、今日も自信満々にシャヒーン先生の名声をおとしめた。
オッペンは部屋の中央に置かれた大きなテーブルに大きな占術の本を広げて勉強中だ。
<星読みの塔>の修練プログラムは、本来、座学より修行の方が多いが、オッペンは基本を知らなさ過ぎて、いまだ勉強中心の日々だ。
アスカルは、忙しい中でも時間を割いて、毎日オッペンの勉強を見てやっていた。
塔主自ら教えなくても、と周囲の人間に言われつつ。アスカルは「こんなひどいのを他の者にまかせられるか。シャヒーンの懇願に負けて引き取っちまった責任とって、自分で教えるよ」と言っていた。
人望だけで塔主になったと自称するアスカルは、面倒見がいいことで知られている。
開けっ放しのドアのところでノックの音が響いたと思うと、占術士のリリファがあわてて室内に入ってきた。
「アスカル様、大変です。ウェルグァンダルの塔主が、エレイさんのところに」
アスカルは大きなテーブルにもたれかかりながら面倒くさそうに答えた。
「ガリにはフリーパスをだしているだろ。エレイの数少ない……たぶん、唯一の友達なんだ。エレイは外に出られない分、友人にくらい自由に会わせてやれ」
リリファは心配そうに説明した。
「でも、今、エレイさんのところに、ホーヘンハイン城主、クロー家のホスルッド様が来ているんです。このままでは鉢合わせしてしまいます。召喚士が殺された件で<白光>とウェルグァンダルは今、一触即発、すでに水面下で戦争が始まっているという話も……」
アスカルは頭をふりながら言った。
「ほっとけ。あいつらだって、ここでドンパチ始めるほどバカじゃない。だいたい、ウェルグァンダルは<白光>相手にやり返す気はないはずだ。町の一つや二つ、一瞬で消し飛ばせる奴らが本気で戦いだしたら、大惨事になる。そんな大事になるなら、うちの占術士の誰かがすでに予見しているはずだ」
そんな会話を聞きながら、「イーアの師匠とユウリの師匠って仲悪いのか?」とオッペンは思った。……だけでなく、口にだしてつぶやいていた。
アスカルはオッペンの方に振り返り、同情するように言った。
「そうか。殺された召喚士はお前の友達だったな」
だけど、オッペンは鉛筆をくるくる回しながら気楽な調子で答えた。
「あー。でも、おれ、イーアが死んだって思えねーんだよ。だって、おれが占うと、またイーアに会えるってでるんだぜ。なんか、そんな気がするしよ。だから、おれはまた会えるって信じてるんだ」
アスカルは片眉をあげた。
「ほう?」
「ま、占いなんてあてになんねーけど」
そう言って勉強に戻る占術士見習いオッペンに、アスカルは肩をすくめてあっさり認めた。
「まぁな。100パーセント当たる占いなんてない。だが、お前の未来予知の素質はエレイに次いで強いからな。案外あたっているかもしれない」
アスカルは何か考えているような表情を浮かべた。
「そういや、エレイって誰だ? おれ、会ったことねーな」
そうオッペンがたずねると、アスカルは言った。
「今の<星読み>だ」
「<星読み>?」
「この塔で一番未来予知能力が高い占術士さ。そのため、エレイには許可を与えた者しか会えない。誘拐の危険があるから、外出許可もなかなか出せない」
オッペンは思わず叫んだ。
「んげっ。こんな陰気くせぇところにずっと閉じこめられてるってことかよ! そいつ、むっちゃ、かわいそーじゃねーか!」
「エレイさんをそいつ呼ばわりしないでください!」と後ろでリリファが怒る中、アスカルはうなずいた。
「まったくだ。こんなところにいると気が滅入る。だから、どんどん外出許可を出すように塔の方針を変えたんだが。エレイの場合は安全確保が難しい上に、本人が外出したがらないのさ。<代償>で、視力と身体能力の多くを失っていて自由がきかないうえに、人の思考を読む力があるせいで、外は外でつらいらしい」
オッペンはそれを聞いて思い出した。
「そういやさ、ししょー。こないだ<代償>と<制約>っての教えてくれただろ。<代償>は何かを犠牲にすることで、<制約>は能力の一部をしばることで、能力をあげることができるって。で、おれ、試してぇことがあんだけどさ」
アスカルは天井の隅を見ながら、しかめっ面でつぶやいた。
「ろくな予感がしないねぇ。なにせ、お前は素質だけならエレイに次ぐくせに、どの占術士に聞いても将来おまえが<星読みの塔>を支える占術士になるって結果がでないんだ。まったく、教えがいのない弟子だよ」
そんな占術士になる気が欠片もないオッペンは、アスカルのぼやきに自信満々にうなずいた。
「まぁな。で、おれがやりてーのはさ。<制約>で、未来予知の力を縛って……」
アスカルは最後まで聞かずにうなずいた。
「うむ。聞かなかったことにしよう」
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