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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~
第124話 アンドルの過去
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ベグランはユウリに語った。
「魔女ってのは、よく強烈な異端者の女につけられる異名だが。<誘惑の魔女>ってのは、アンドルさんの母親さ。<誘惑の魔女>はそりゃ、美しい魅惑的な女だったらしい。俺も一度会ってみたかったね。その女魔導士と先代のギルフレイ侯爵の間に生まれたのがアンドルさんだ。侯爵様の方はすでに妻子ある身だったんだがねぇ。ま、貴族にはよくある話さ。たいていが愛のない政略結婚だからなぁ。妻のほかに愛人のひとりやふたりいたってふしぎはない。だけど、侯爵様は特に女好きで知られていた。<誘惑の魔女>の方は、古代魔術の知識を盗むために侯爵様に近づいたって話だ」
「<誘惑の魔女>は古代魔術を学べない身分だったということですか?」
数ある魔術の中でも古代魔術は別格扱いで、許可なく学べば処罰される。
そして基本的に平民は古代魔術を学ぶことが許可されない。名門魔導士の家系であれば身分に関係なく古代魔術を学ぶことが許されるケースがあるらしいけれど、そういう家系の者はたいてい爵位は低くても貴族だった。
「もちろん。ところがだ、この美女、用済みになるとあっさりと侯爵様を振って、別の男と恋仲になった。まぁ、元々魔女の方としては侯爵様に好意なんてなかったんだろう。アンドルさんが生まれちまったこと自体が間違い、あるいは、侯爵様の暴力の結果みたいなもんで。だが、まぁ、侯爵様としては振られりゃ腹がたつ。しかも、魔女の恋人は奴隷人種だったときた。プライドをズタズタにされた侯爵様は激怒して、魔女という汚名とありったけの罪をかぶせることにした。結局、<誘惑の魔女>は許可なく古代魔術を盗み学び教えたという罪で、何年か後に捕まって処刑されたのさ」
「つまり、ギルフレイ卿の母親は、先代の侯爵、ギルフレイ卿の父に殺されたということですか?」
「そうさ。そして、母親を殺されたアンドルさんは侯爵様への復讐を誓い、魔導士となって<白光>に入団。<白光>でお偉いさんと話をつけた上で、ひそかに父と兄を相次いで殺し、自らが侯爵位についた」
「そんなこと……」
許されるはずがない。父殺しがばれれば当然、死刑だ。
そもそも平民の愛人との間に生まれた子どもに爵位をつぐ権利はない。
ユウリは最近知ったが、帝国の法律では、結婚していない相手との間に生まれた子どもは父親が認めたとしても子どもとして認められない。
だから、実子であっても養子にするしかなく、養子には普通、貴族の爵位をつぐ権利がない。
そのため、ホスルッドはユウリを正式な跡取りにするための手続きに苦労していた。
ただでさえ簡単ではないのに。父と兄を殺して、爵位を奪うなんて。
でも、ベグランはにやりと笑って言った。
「それが許されるようになるのが、ここのすごいところでねぇ。もちろん、ギルフレイ侯爵が<白光>の団員だったら、話はまったく違ったんだが。もともとギルフレイ侯爵家ってのは、先祖に王家の血も入ってる高貴な家ではあっても魔導士の旧家ではない。<白光>はアグラシア帝国と表裏一体の同盟関係にあるっていわれてるが、別に王侯貴族の配下にあるわけじゃない。うちはうちの論理で動くのさ。だから、ここじゃ、大貴族様より君んちみたいな家系の方が大事にされる。クローの跡取りの君なんか、それなりの才さえありゃ、派閥の長として将来の幹部入り確実なんだ。うらやましいねぇ」
ベグランがそう言った時、ユウリは、なぜ自分がここで奇妙に尊重されるのか、なぜホスルッドが若くして<白光>の幹部なのかを理解した。
クロー家は帝国貴族としての表の顔は取るに足らないただの貧乏子爵家にすぎない。だが、<白光の魔導士団>創設者の一人を祖とする古い魔導士の家系であるため、<白光>では権力を持っていたのだ。
ベグランは話し続けた。
「だから、二流魔導士だった侯爵様は<白光>入団を認められていなかった。長男はさらに無能な上に、領民の女をさらって虐げるのが趣味みたいな酷い男だったからねぇ。だから、あの方の父殺し兄殺しが許されたんだろう。ただし、それは<白光>への絶対的な忠誠と実力が条件ってものだ。そのために、アンドルさんは、暗黒神……最近は、至高神と呼ぼうなんてお偉いさんが言ってるが、とにかく、そのど偉い古代神と契約をした」
「古代神との契約?」
メラフィスの古代神との契約は古代魔術でよく使われる技法だ。
古代神との契約は、特殊な魔法装置や複雑な儀式が必要とされるため、誰にでもできるものではなく、さらに、多くの場合、契約には何かしら<生贄>と<代償>が必要になるという。
「古代神の中でも別格な力を持つ神でねぇ。もちろん契約の詳細なんて、俺なんかにゃわからないが。ただ、噂によれば、代償は心、条件は<白光>への絶対的忠誠、って話だ。ま、あくまで噂だがね。さらに、血縁すべてをその手で殺す、という呪いが付与されたとも言われている」
「血縁すべてを殺す?」
「ああ。あの方は、父と兄を自らの手で殺しただけじゃない。妹がひとりいたって噂だが、それも殺したらしい。アンドルさんのひとり息子は、あの方のせいで魂を失ったって話さ。息子は最近目覚めたって噂だが、どうなんだろうなぁ。反魂の術でも使ったのかねぇ」
肉親すべてを自ら殺した男。
「すべてを失った」とホスルッドが表現した理由をユウリは理解した。
ギルフレイ卿が払った代償はあまりに大きい。そう思わずにはいられなかった。
「そこまでして、その契約でギルフレイ卿が得たものは何ですか? 復讐と帝国での地位?」
「暗黒神に与えられたのは膨大な魔力と呪炎だけさ。後はあの方が勝手に成し遂げた。戦闘も権力闘争も、どっちもお得意なのさ。あの方は」
「バララセの戦いでも活躍されてるらしいですね」
ユウリがそう言うと、ベグランは意地悪そうに笑った。
「そのとしで皮肉も使いこなすのかい? アンドルさんは君のおかげでバララセにとばされたって俺は聞いたぜ?」
ユウリは、はっとした。グランドールの地下でギルフレイ卿の邪魔をしたことまで、ベグランに知られているとは思わなかった。
いったいベグランはどこまで知っているのだろう。
ベグランはそのまま話をつづけた。
「ま、アンドルさんの他に今のバララセをおさえられる者はいないだろうねぇ。俺もあっちでだいぶ骨を折ったが。あの方がいなくなったら、間違いなくバララセは落ちるだろうな」
ユウリはバララセの独立には興味がなかったが、ベグランの言ったこと自体は気になった。
「ギルフレイ卿の代わりになるほどの力を持つ人が、<白光>にはいないということですか? つまり、ギルフレイ卿が一番強いと?」
ベグランは首をひねった。
「うーん。幹部の皆さんの力を俺はよく知らないが。だけど、ああいう汚れ仕事をやる幹部は他にいないからねぇ。ほら、君のお父様なんて、絶対やらないだろ? そんなことより空飛ぶお城で優雅にお茶飲んでたいってね」
たしかにホスルッドなら断りそうだが、そもそもホスルッドが<白光>で何をしているのか、ユウリはよく知らなかった。ホスルッド自身は「所属しているのが仕事みたいなものだからね」と言っていたが。
「ギルフレイ卿のなにがそんなに強いんですか?」
ユウリがそうたずねると、ベグランは大げさに驚いたふりをした。
「いやぁ、さすがクロー家のお坊ちゃん。アンドルさんなんか強かないって?」
「そういう意味じゃありません。純粋な疑問です。ギルフレイ卿はぼくよりはるかに強い。それはわかっています。でも、<白光>には他にも強い魔導師がいますよね?」
「まぁね。古代魔術のお偉方なんて、そりゃ大規模な術をお使いになるからね。でも、本人が戦うってなったら、アンドルさんは別格さ。最近、バララセ人どもはアンドルさんを魔王って呼んでるが。あの方は本当に魔王みたいでねぇ。無尽蔵の魔力で高度な魔法を使い放題。しかも、あの呪炎が厄介ときた。あの方を殺したい者にとっては、って話だが」
「どういうことですか?」
ギルフレイ卿を殺したい者として、興味をひかれずにはいられなかった。
「魔女ってのは、よく強烈な異端者の女につけられる異名だが。<誘惑の魔女>ってのは、アンドルさんの母親さ。<誘惑の魔女>はそりゃ、美しい魅惑的な女だったらしい。俺も一度会ってみたかったね。その女魔導士と先代のギルフレイ侯爵の間に生まれたのがアンドルさんだ。侯爵様の方はすでに妻子ある身だったんだがねぇ。ま、貴族にはよくある話さ。たいていが愛のない政略結婚だからなぁ。妻のほかに愛人のひとりやふたりいたってふしぎはない。だけど、侯爵様は特に女好きで知られていた。<誘惑の魔女>の方は、古代魔術の知識を盗むために侯爵様に近づいたって話だ」
「<誘惑の魔女>は古代魔術を学べない身分だったということですか?」
数ある魔術の中でも古代魔術は別格扱いで、許可なく学べば処罰される。
そして基本的に平民は古代魔術を学ぶことが許可されない。名門魔導士の家系であれば身分に関係なく古代魔術を学ぶことが許されるケースがあるらしいけれど、そういう家系の者はたいてい爵位は低くても貴族だった。
「もちろん。ところがだ、この美女、用済みになるとあっさりと侯爵様を振って、別の男と恋仲になった。まぁ、元々魔女の方としては侯爵様に好意なんてなかったんだろう。アンドルさんが生まれちまったこと自体が間違い、あるいは、侯爵様の暴力の結果みたいなもんで。だが、まぁ、侯爵様としては振られりゃ腹がたつ。しかも、魔女の恋人は奴隷人種だったときた。プライドをズタズタにされた侯爵様は激怒して、魔女という汚名とありったけの罪をかぶせることにした。結局、<誘惑の魔女>は許可なく古代魔術を盗み学び教えたという罪で、何年か後に捕まって処刑されたのさ」
「つまり、ギルフレイ卿の母親は、先代の侯爵、ギルフレイ卿の父に殺されたということですか?」
「そうさ。そして、母親を殺されたアンドルさんは侯爵様への復讐を誓い、魔導士となって<白光>に入団。<白光>でお偉いさんと話をつけた上で、ひそかに父と兄を相次いで殺し、自らが侯爵位についた」
「そんなこと……」
許されるはずがない。父殺しがばれれば当然、死刑だ。
そもそも平民の愛人との間に生まれた子どもに爵位をつぐ権利はない。
ユウリは最近知ったが、帝国の法律では、結婚していない相手との間に生まれた子どもは父親が認めたとしても子どもとして認められない。
だから、実子であっても養子にするしかなく、養子には普通、貴族の爵位をつぐ権利がない。
そのため、ホスルッドはユウリを正式な跡取りにするための手続きに苦労していた。
ただでさえ簡単ではないのに。父と兄を殺して、爵位を奪うなんて。
でも、ベグランはにやりと笑って言った。
「それが許されるようになるのが、ここのすごいところでねぇ。もちろん、ギルフレイ侯爵が<白光>の団員だったら、話はまったく違ったんだが。もともとギルフレイ侯爵家ってのは、先祖に王家の血も入ってる高貴な家ではあっても魔導士の旧家ではない。<白光>はアグラシア帝国と表裏一体の同盟関係にあるっていわれてるが、別に王侯貴族の配下にあるわけじゃない。うちはうちの論理で動くのさ。だから、ここじゃ、大貴族様より君んちみたいな家系の方が大事にされる。クローの跡取りの君なんか、それなりの才さえありゃ、派閥の長として将来の幹部入り確実なんだ。うらやましいねぇ」
ベグランがそう言った時、ユウリは、なぜ自分がここで奇妙に尊重されるのか、なぜホスルッドが若くして<白光>の幹部なのかを理解した。
クロー家は帝国貴族としての表の顔は取るに足らないただの貧乏子爵家にすぎない。だが、<白光の魔導士団>創設者の一人を祖とする古い魔導士の家系であるため、<白光>では権力を持っていたのだ。
ベグランは話し続けた。
「だから、二流魔導士だった侯爵様は<白光>入団を認められていなかった。長男はさらに無能な上に、領民の女をさらって虐げるのが趣味みたいな酷い男だったからねぇ。だから、あの方の父殺し兄殺しが許されたんだろう。ただし、それは<白光>への絶対的な忠誠と実力が条件ってものだ。そのために、アンドルさんは、暗黒神……最近は、至高神と呼ぼうなんてお偉いさんが言ってるが、とにかく、そのど偉い古代神と契約をした」
「古代神との契約?」
メラフィスの古代神との契約は古代魔術でよく使われる技法だ。
古代神との契約は、特殊な魔法装置や複雑な儀式が必要とされるため、誰にでもできるものではなく、さらに、多くの場合、契約には何かしら<生贄>と<代償>が必要になるという。
「古代神の中でも別格な力を持つ神でねぇ。もちろん契約の詳細なんて、俺なんかにゃわからないが。ただ、噂によれば、代償は心、条件は<白光>への絶対的忠誠、って話だ。ま、あくまで噂だがね。さらに、血縁すべてをその手で殺す、という呪いが付与されたとも言われている」
「血縁すべてを殺す?」
「ああ。あの方は、父と兄を自らの手で殺しただけじゃない。妹がひとりいたって噂だが、それも殺したらしい。アンドルさんのひとり息子は、あの方のせいで魂を失ったって話さ。息子は最近目覚めたって噂だが、どうなんだろうなぁ。反魂の術でも使ったのかねぇ」
肉親すべてを自ら殺した男。
「すべてを失った」とホスルッドが表現した理由をユウリは理解した。
ギルフレイ卿が払った代償はあまりに大きい。そう思わずにはいられなかった。
「そこまでして、その契約でギルフレイ卿が得たものは何ですか? 復讐と帝国での地位?」
「暗黒神に与えられたのは膨大な魔力と呪炎だけさ。後はあの方が勝手に成し遂げた。戦闘も権力闘争も、どっちもお得意なのさ。あの方は」
「バララセの戦いでも活躍されてるらしいですね」
ユウリがそう言うと、ベグランは意地悪そうに笑った。
「そのとしで皮肉も使いこなすのかい? アンドルさんは君のおかげでバララセにとばされたって俺は聞いたぜ?」
ユウリは、はっとした。グランドールの地下でギルフレイ卿の邪魔をしたことまで、ベグランに知られているとは思わなかった。
いったいベグランはどこまで知っているのだろう。
ベグランはそのまま話をつづけた。
「ま、アンドルさんの他に今のバララセをおさえられる者はいないだろうねぇ。俺もあっちでだいぶ骨を折ったが。あの方がいなくなったら、間違いなくバララセは落ちるだろうな」
ユウリはバララセの独立には興味がなかったが、ベグランの言ったこと自体は気になった。
「ギルフレイ卿の代わりになるほどの力を持つ人が、<白光>にはいないということですか? つまり、ギルフレイ卿が一番強いと?」
ベグランは首をひねった。
「うーん。幹部の皆さんの力を俺はよく知らないが。だけど、ああいう汚れ仕事をやる幹部は他にいないからねぇ。ほら、君のお父様なんて、絶対やらないだろ? そんなことより空飛ぶお城で優雅にお茶飲んでたいってね」
たしかにホスルッドなら断りそうだが、そもそもホスルッドが<白光>で何をしているのか、ユウリはよく知らなかった。ホスルッド自身は「所属しているのが仕事みたいなものだからね」と言っていたが。
「ギルフレイ卿のなにがそんなに強いんですか?」
ユウリがそうたずねると、ベグランは大げさに驚いたふりをした。
「いやぁ、さすがクロー家のお坊ちゃん。アンドルさんなんか強かないって?」
「そういう意味じゃありません。純粋な疑問です。ギルフレイ卿はぼくよりはるかに強い。それはわかっています。でも、<白光>には他にも強い魔導師がいますよね?」
「まぁね。古代魔術のお偉方なんて、そりゃ大規模な術をお使いになるからね。でも、本人が戦うってなったら、アンドルさんは別格さ。最近、バララセ人どもはアンドルさんを魔王って呼んでるが。あの方は本当に魔王みたいでねぇ。無尽蔵の魔力で高度な魔法を使い放題。しかも、あの呪炎が厄介ときた。あの方を殺したい者にとっては、って話だが」
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ギルフレイ卿を殺したい者として、興味をひかれずにはいられなかった。
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