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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~
第134話 ヤララとガリ
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ウェルグァンダルの塔にくる依頼の手配をひとりですべてまわしているヤララは超多忙だ。
そのヤララの部屋では、いつも霊鳥達がのんびり思い思いに過ごしている。
ヤララは顔のアザが理由で呪われた子として人間に捨てられて霊鳥に育てられた。
だからヤララにとって、霊鳥といっしょにいるのは家族や友達といっしょにすごしているようなものだ。
人間との交流はなくても寂しさはない。
むしろ人間とはかかわりあいになりたくなかった。
ヤララの家族の霊鳥を殺したのは、人間だから。
人間を嫌い恐れるヤララにとって唯一の例外は、あの時人間達の魔の手から助けてくれたウェルグァンダルの召喚士ガリだった。
それに、そもそもガリは自分は人間ではなくドラゴンだと主張する。
ヤララは『自分は人間じゃない』とは思っても『自分は霊鳥だ』とまでは主張できないので、(どっからあの自信がでてくるのかわからない)と思いながら、ガリが少しうらやましい。
だって、どう考えても自分は霊鳥じゃない。霊鳥のみんなも、ヤララを友達や家族だと思ってはくれても、同じ霊鳥だとは思わない。
なのに、ガリは自分はドラゴンだと平然と言い切り、ドラゴンの多くもそれを受け入れてしまう。
ドラゴンが特殊なのか、ガリが特殊なのかはわからないけれど。
時々ガリにあきれながら、ヤララは(あんな存在になれたら)とどこかで憧れていた。
ヤララがイーアに連絡をとった直後、ちょうど部屋にガリがやってきた。
『イーアと連絡はとれたよ。まだ向こうの準備はできていないって。大丈夫かな。ギルフレイ卿の傍にずっといて。正体がばれちゃうんじゃないかな。友契の書でここに転移できるとはいえ、バレたら……』
ガリはヤララの言葉をさえぎるように淡々と言った。
『とっくにバレている。遅くとも、この塔に来た時点で。そうでなければ、アラムが召喚士と接触して、ギルフレイ卿が何も手を打たないはずがない。だいたい、あいつの魂は普通の人間と違い独特だ。ギルフレイ卿が名声通りの魔導師なら、一目で気が付くはずだ。アラムの中に、自分がバララセで殺したあいつが入っていると』
『ええ!? すでに気が付いている!?』
ヤララが驚くと、近くにいた霊鳥たちがいっしょに驚いて鳴き声をあげた。……といっても、霊鳥たちは驚いたわけじゃなくて、ヤララの真似をして遊んでいるだけだ。
霊鳥たちはガリとヤララの会話を聞き取ることはできるけれど、人間世界の詳しい事情や心情には興味がないから内容はあまり理解していない。
ヤララは考えながら言った。
『気が付いても、イーアを殺すには息子のアラムを殺さないといけないから、ギルフレイ卿は手をだせないってこと?』
ガリはそっけなく言った。
『魂だけ殺すすべはいくらでもある。古代魔術の使い手にとっては』
ヤララは早口に言った。
『そ、そんなこと言われたら、また心配になってきたよ。べ、べつに、人間なんてどうでもいいんだけど。でも、あの子、やたらとなれなれしくて、いつもここにきてたから。なんだかあの子はちょっと人間じゃない感じがして嫌いじゃなかったから。なんだか、気になって……。大丈夫かな』
心配しているヤララを心配して、霊鳥が一羽、椅子の手すりにとまってヤララに体をよせた。小鳥みたいなふるまいだけど、全長1メートルを超える霊鳥だから、けっこうな圧力がヤララにかかる。
ガリは言った。
『殺すつもりなら、とっくに殺している。つまり、ギルフレイ卿にはあいつを殺す気がない、どころか、むしろ生かしていたいのだろう』
『でも、バララセでイーアを殺した人でしょ? 殺す気がないわけないでしょ』
ガリは少し考えてから言った。
『たしかに、ギルフレイ卿らしくはない。人の心をもたぬ暗黒神の忠実なしもべなら、帝国と<白光>の邪魔になる存在は誰であれ迷いなく殺すはずだ』
『じゃあ、なぜ?』
ヤララの問いに、ガリは淡々と答えた。
『バララセから回収したあいつの体からは、入門前からかけられていた魔術が消えていた。術が発動して消えたようだ。その術のせいだろう』
ドラゴン使いの召喚士としての名声の影に隠れてあまり知られていないが、育ての母に習ったドラゴンの術と人間の魔術の両方を会得しているガリは、両方の技術を組み合わせ、普通の魔導士には使えない独自の魔術を使う。
見るだけで瞬時に様々な解析を行う術もそのひとつだった。
『術? 入門の時に何かの術を解いたってイーアが言っていたけど。たしか、お母さんがかけていた術だとか』
『本人は気づいていなかったようだが、元々あいつには2つ術がかけられていた。どちらもかなり高度で複雑な魔術だ』
本人の才能が桁外れなせいで魔術に関する評価基準がやたらと厳しいガリが「高度」というのは、尋常でなく高度なはずだ。そう思って、ヤララはたずねた。
『イーアのお母さんって、そんなにすごい魔導士だったの?』
『名は知られていない。だが、アグラシアでもトップレベルの魔導士だったろう。術のひとつは入門時に解かせたが、もうひとつの解呪の術らしきものは有用かもしれないため、あえて放置した』
その術は、イーアの霊力に制約をかける代わりに一定条件で発動する解呪の術のようだった。
それはイーアの異質な霊力を隠すと同時に精神魔法から守るためのものだと推測し、ガリはその術のことをあえて放置していた。
だが、ガリは今は違うことを考えている。
『あれはギルフレイ卿のために残した術だったのかもしれない』
イーアが殺された時に発動し、ギルフレイ卿の精神を支配していたものの解呪が成功していたとすれば、今のギルフレイ卿の行動に説明がつく。
ギルフレイ卿がイーアに接触し術が発動したあの瞬間に、「<白光>のアンドル」はイーアの母によって倒されたといえるのかもしれない。
そして、それはあの一族の物語では終わらない。
ギルフレイ卿は有能な政治家であり、一人で大軍に匹敵する強大な力を持つ大魔導師。帝国のバララセ支配を支える人物であり、帝国の要所の一つであるギルフレイ侯爵領の領主。
つまり、打倒帝国を目論む人間にとって、ギルフレイ卿は難攻不落の強大な障害であると同時に、帝国の急所の一つだった。
ギルフレイ卿が落ちれば、帝国は揺らぐ。
(まさかギルフレイ卿が寝返りはしないだろうが。<滅亡の予言者>ラムノスに手品を見せられているような気分になってくる)
ガリがそう考えていると、ヤララはたずねた。
『ギルフレイ卿にかかってた暗黒神の呪いが一部解けたってこと? でも、だからって、イーアは<白光>の敵でしょ? イーアをかばうのは、<白光>への裏切りじゃ?』
『気が付かないふりをしているのだろう。あの肉体はあくまでアラム。息子を庇護するのは当然のこと。確証がなければ、裏切りにはならない。あいつの正体が周囲にまでバレればギルフレイ卿はあいつを殺さざるを得ないだろうが。あるいは、<白光>が動く。いずれにせよ、もう長くはないはずだ。あいつがいつ戻ってきてもいいように、塔周辺の警戒を強めてくれ』
『わかった。霊鳥たちを周りに集めておく』
そのヤララの部屋では、いつも霊鳥達がのんびり思い思いに過ごしている。
ヤララは顔のアザが理由で呪われた子として人間に捨てられて霊鳥に育てられた。
だからヤララにとって、霊鳥といっしょにいるのは家族や友達といっしょにすごしているようなものだ。
人間との交流はなくても寂しさはない。
むしろ人間とはかかわりあいになりたくなかった。
ヤララの家族の霊鳥を殺したのは、人間だから。
人間を嫌い恐れるヤララにとって唯一の例外は、あの時人間達の魔の手から助けてくれたウェルグァンダルの召喚士ガリだった。
それに、そもそもガリは自分は人間ではなくドラゴンだと主張する。
ヤララは『自分は人間じゃない』とは思っても『自分は霊鳥だ』とまでは主張できないので、(どっからあの自信がでてくるのかわからない)と思いながら、ガリが少しうらやましい。
だって、どう考えても自分は霊鳥じゃない。霊鳥のみんなも、ヤララを友達や家族だと思ってはくれても、同じ霊鳥だとは思わない。
なのに、ガリは自分はドラゴンだと平然と言い切り、ドラゴンの多くもそれを受け入れてしまう。
ドラゴンが特殊なのか、ガリが特殊なのかはわからないけれど。
時々ガリにあきれながら、ヤララは(あんな存在になれたら)とどこかで憧れていた。
ヤララがイーアに連絡をとった直後、ちょうど部屋にガリがやってきた。
『イーアと連絡はとれたよ。まだ向こうの準備はできていないって。大丈夫かな。ギルフレイ卿の傍にずっといて。正体がばれちゃうんじゃないかな。友契の書でここに転移できるとはいえ、バレたら……』
ガリはヤララの言葉をさえぎるように淡々と言った。
『とっくにバレている。遅くとも、この塔に来た時点で。そうでなければ、アラムが召喚士と接触して、ギルフレイ卿が何も手を打たないはずがない。だいたい、あいつの魂は普通の人間と違い独特だ。ギルフレイ卿が名声通りの魔導師なら、一目で気が付くはずだ。アラムの中に、自分がバララセで殺したあいつが入っていると』
『ええ!? すでに気が付いている!?』
ヤララが驚くと、近くにいた霊鳥たちがいっしょに驚いて鳴き声をあげた。……といっても、霊鳥たちは驚いたわけじゃなくて、ヤララの真似をして遊んでいるだけだ。
霊鳥たちはガリとヤララの会話を聞き取ることはできるけれど、人間世界の詳しい事情や心情には興味がないから内容はあまり理解していない。
ヤララは考えながら言った。
『気が付いても、イーアを殺すには息子のアラムを殺さないといけないから、ギルフレイ卿は手をだせないってこと?』
ガリはそっけなく言った。
『魂だけ殺すすべはいくらでもある。古代魔術の使い手にとっては』
ヤララは早口に言った。
『そ、そんなこと言われたら、また心配になってきたよ。べ、べつに、人間なんてどうでもいいんだけど。でも、あの子、やたらとなれなれしくて、いつもここにきてたから。なんだかあの子はちょっと人間じゃない感じがして嫌いじゃなかったから。なんだか、気になって……。大丈夫かな』
心配しているヤララを心配して、霊鳥が一羽、椅子の手すりにとまってヤララに体をよせた。小鳥みたいなふるまいだけど、全長1メートルを超える霊鳥だから、けっこうな圧力がヤララにかかる。
ガリは言った。
『殺すつもりなら、とっくに殺している。つまり、ギルフレイ卿にはあいつを殺す気がない、どころか、むしろ生かしていたいのだろう』
『でも、バララセでイーアを殺した人でしょ? 殺す気がないわけないでしょ』
ガリは少し考えてから言った。
『たしかに、ギルフレイ卿らしくはない。人の心をもたぬ暗黒神の忠実なしもべなら、帝国と<白光>の邪魔になる存在は誰であれ迷いなく殺すはずだ』
『じゃあ、なぜ?』
ヤララの問いに、ガリは淡々と答えた。
『バララセから回収したあいつの体からは、入門前からかけられていた魔術が消えていた。術が発動して消えたようだ。その術のせいだろう』
ドラゴン使いの召喚士としての名声の影に隠れてあまり知られていないが、育ての母に習ったドラゴンの術と人間の魔術の両方を会得しているガリは、両方の技術を組み合わせ、普通の魔導士には使えない独自の魔術を使う。
見るだけで瞬時に様々な解析を行う術もそのひとつだった。
『術? 入門の時に何かの術を解いたってイーアが言っていたけど。たしか、お母さんがかけていた術だとか』
『本人は気づいていなかったようだが、元々あいつには2つ術がかけられていた。どちらもかなり高度で複雑な魔術だ』
本人の才能が桁外れなせいで魔術に関する評価基準がやたらと厳しいガリが「高度」というのは、尋常でなく高度なはずだ。そう思って、ヤララはたずねた。
『イーアのお母さんって、そんなにすごい魔導士だったの?』
『名は知られていない。だが、アグラシアでもトップレベルの魔導士だったろう。術のひとつは入門時に解かせたが、もうひとつの解呪の術らしきものは有用かもしれないため、あえて放置した』
その術は、イーアの霊力に制約をかける代わりに一定条件で発動する解呪の術のようだった。
それはイーアの異質な霊力を隠すと同時に精神魔法から守るためのものだと推測し、ガリはその術のことをあえて放置していた。
だが、ガリは今は違うことを考えている。
『あれはギルフレイ卿のために残した術だったのかもしれない』
イーアが殺された時に発動し、ギルフレイ卿の精神を支配していたものの解呪が成功していたとすれば、今のギルフレイ卿の行動に説明がつく。
ギルフレイ卿がイーアに接触し術が発動したあの瞬間に、「<白光>のアンドル」はイーアの母によって倒されたといえるのかもしれない。
そして、それはあの一族の物語では終わらない。
ギルフレイ卿は有能な政治家であり、一人で大軍に匹敵する強大な力を持つ大魔導師。帝国のバララセ支配を支える人物であり、帝国の要所の一つであるギルフレイ侯爵領の領主。
つまり、打倒帝国を目論む人間にとって、ギルフレイ卿は難攻不落の強大な障害であると同時に、帝国の急所の一つだった。
ギルフレイ卿が落ちれば、帝国は揺らぐ。
(まさかギルフレイ卿が寝返りはしないだろうが。<滅亡の予言者>ラムノスに手品を見せられているような気分になってくる)
ガリがそう考えていると、ヤララはたずねた。
『ギルフレイ卿にかかってた暗黒神の呪いが一部解けたってこと? でも、だからって、イーアは<白光>の敵でしょ? イーアをかばうのは、<白光>への裏切りじゃ?』
『気が付かないふりをしているのだろう。あの肉体はあくまでアラム。息子を庇護するのは当然のこと。確証がなければ、裏切りにはならない。あいつの正体が周囲にまでバレればギルフレイ卿はあいつを殺さざるを得ないだろうが。あるいは、<白光>が動く。いずれにせよ、もう長くはないはずだ。あいつがいつ戻ってきてもいいように、塔周辺の警戒を強めてくれ』
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