もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~

第135話 未来

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 アラムの部屋に戻ったイーアは、やけっぱちな気分で『友契の書』を取り出した。

 ギルフレイ卿に正体がバレても、もう知らない。
 むしろ、とっととバレてほしい。
 そしたら、もうアラムのふりなんてする必要はないから、堂々と、アンドルを怒鳴りつけてやることができる。「よくもお母さんを殺したな! お父さんを、おじいちゃんを、おばあちゃんを、ガネンの村のみんなを殺したな!」と、のどのところまで出ていた叫びを解き放てる。

 それに、なんとなく、アンドルはすでにイーアや青いチルランの正体に気がついているような気がした。
 イーアが妹の子だと知っていて、そのそばにいるチルランが本当の息子だと知っていて、すべて知った上で、ああやってふるまっているような気がした。
 そんな気がするというだけだけど。
 もしそうだとすれば、なおさら、腹が立つ。
 互いに知らんぷりして仮面をかぶって演技を続けているようなこの状況、とっとと壊してやりたい。

 イーアはアラムの部屋の中で堂々と『友契の書』に頼んで、ガネンの森にむかった。
 いつもと同じように、イーアはティトのいる場所、『イーランの来訪所』についた。
 最近、ティトはたいていここで昼寝をするようにしてくれている。
 イーアがすぐにお母さんのところ、カゲの眠る石棺のところへ行けるように。

 イーアが地下へ入り石棺をあけると、すぐに人型の影がでてきた。
 メラフィスの大魔術士フーシャヘカとお母さんが融合した肉体のない人影。
 見る人によっては、変わり果てた姿、と言うかもしれない。
 だけど、イーアは、そんなことはどうでもよかった。
 お母さんはお母さんだ。

 石棺を開けてからこの日までずっとお母さんと話をしてきたけれど、イーアはアンドルの話は一度もしなかった。 
 だけどその日、イーアはためらいながらたずねた。

「お母さん、ガネンの村を襲った、あの黒い呪いの炎を使った人のこと、どう思う……?」

 数秒してから、お母さんの返事が聞こえた。

「イーア。私は、あなたを何よりも愛している。それにウーパ、あなたのお父さんを愛していた。だけど、私は私の母と兄のことも愛していた」

 イーアが聞きたくなかった、思った通りの返事だった。イーアはたしかめたくないと思いながら、たずねた。

「お母さんは、あの人のことを愛しているから、ゆるしてるってこと?」

「私はあなたにアンドルをゆるせとはいえない。でも私がアンドルを恨むことはできない。罪は私にもあるから。私が行った選択しだいで、ガネンの人々は死なずにすんだはず。私がガネンの森に行かずに、アンドルの傍にいれば」

「そしたら、わたしが生まれてないよ」

 イーアがそう言うと、お母さんがほほ笑んだ気がした。黒い影は表情がわからないけど。

「そうね。けれど、私はアンドルを支えることよりも、とめることよりも、ラムノスが見た未来を選んでしまった」

「ラムノス?」

 お母さんの話は意外な方向に向かっていた。
 たしか、ラムノスは<滅亡の予言者>と呼ばれている、帝国の滅亡を予言した人だ。

「ラムノス。賢く、善良で、そして冷たい人。あなたはラムノスを恨むかもしれない。裏切られたと感じるかもしれない。でも、あの人はただ未来が見えすぎているだけ」

 ひとり言のようにそうつぶやいた後、お母さんは言った。

「ラムノスは言った。この先、私が産む子が世界を変える。悲惨な未来を回避し、アグラシアに私たちが夢見た未来を作る、と。その代わり、私は我が子が大人になるのを見ることなく死ぬ。私が愛した者も同じく死ぬ。それでもよければ、ともに新しい世界を創ろうと。そして、私はラムノスの描いた道を選んだ」

 お母さんは、イーアが思いもしなかった話をしていた。
 お母さんは<滅亡の予言者>ラムノスに未来を教えてもらい、あえてこの悲劇的だとしか思えない、夫も自分もみんな殺される道を選んだのだという。
 イーアには理解できなかった。

「なんで? お母さんも殺されるのに、なんで。その新しい世界って、夢見た未来って何?」

「生まれに関係なく、性別も人種も関係なく、誰もが好きに学び自分の力を発揮できる世界。それが、私が夢見た未来」

「その世界を、わたしがつくるの……? そんなこと、わたしには、できないよ」

 とまどうイーアに、お母さんは力強い声で言った。

「あなただけではできない。でも、あなたはひとりじゃない。あなたは人をつなぐかぎとなる。あなたがいなければ道なかばで倒れていた人たちをあなたは未来へとつなぐ。あなたがいなければ選ばれなかった選択をあなたがいるから選ぶ人がいて、あなたがいなければ出会わなかった人達があなたがいるから出会う。そして、あなたがつないだ人達が、やがて世界を変える。それが、ラムノスの見た未来」

「人? 精霊じゃなくて? わたしの使命は<白光>から支配者の石板を守ることじゃないの?」

「それはたしかに悲惨な未来を回避するために必要な戦い。ガネンの民が受け継いできた使命。ラムノスが見たいくつもの遠い未来の中には、支配者の石板の力によって人界の精霊が死滅し人間の文明も衰退しきった世界がある。それを防ぐためには、支配者の石板を使わせてはいけない。防がなければ、未来はない。でも、ラムノスはその先、世界が滅亡から救われたその先の、アグラシアの未来も見ていた」

「その先の未来……?」

「イーア。あなたはあなたの未来を選んで。私は私の選択をしただけ。私はあなたに何を選ぶかしいることはできない。誰にもあなたにしいることはできない。ラムノスにも。あなたは自分で未来を選びなさい。精霊と生きる最後のガネンの民としての道、新しい国をつくるアグラシア人としての道、あるいは、ほかの無数の道の中から。自分が望む未来を」

 お母さんは優しい声でそう言った。
 でも、今のイーアには遠い未来の話なんて何もわからなかった。
 今イーアにわかるのは、お母さんとずっと一緒にいたい、という願いだけだった。
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