もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

文字の大きさ
141 / 207
第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~

第141話 ケイニスの戦い

しおりを挟む
 群衆は大通りの終点にある王宮前広場へと流れこんでいった。

「すべての人に同じ権利を!」「俺たちはみんな同じ人間だ!」

 固く閉ざされた王宮の巨大な鉄の扉の向こうへと群衆は全力で叫んでいた。
 その巨大な門の前には警備兵が並び銃と剣を構えていた。
 今日、国王は別の場所にいるため、比較的警備は手薄だったが、それでも帝国のシンボルとなる王宮が無防備になることはない。

 しばらくの間、「広場から立ち退け!」と群衆に怒鳴りつける声と、「広場から出てください。マーケット出店者の皆さん、お客様はすみやかに広場から避難してください」と、繰り返し市民に避難を呼びかける声が入り混じっていた。
 広場から逃げようとする人々と奥へ進もうとする人の流れがぶつかり広場には混乱の渦が広がっていた。

 その様子を王宮広場を囲むように立ち並ぶ建物の屋根からケイニスは静かに観察していた。


 ジャルバンの当初の計画では、デモ隊はこうやって広場で主張するだけだった。
 だが、その計画を聞いた時、ケイニスは言った。

「もしも警備隊や警官隊が攻撃してきたら、俺にやらせてくれ」

「何をやるっていうんだ? 兄弟」

 あの時ジャルバンはむしろ怪訝けげんそうに尋ね返した。普段のケイニスはジャルバンに劣らず、流血を嫌う穏健派だった。

「王宮門を破壊する」

「王宮門?」

 王宮の門を破壊したって、物理的には大した被害ではない。
 だが、大きな意味を持っていた。
 ケイニスは冷静な声で説明した。

「あの王宮門は帝国の歴史上、一度も破られていない。俺達の手で王宮門を打ち破れば、帝国全土に大きな衝撃を与えられる。平民の力を、俺達の怒りを、知らしめることができる。それが歴史の転換点になるかもしれない」

 ジャルバンはうなずいた。

「わかった。兄弟。お前にまかせる。だが、王宮は強力な魔法で守られてると聞いたぜ?」

「ああ。王宮門には強力な結界が張られている。大砲を撃ち込んだところで、あの門はびくともしない。普通の魔法攻撃はきかない。だが、手はある。結界の強度以上の力を加えればいいだけだ」


 王宮前広場では、ケイニスが予想していた事態が始まった。
 王宮警備隊には銃剣を扱う兵士のほかに魔導士部隊が存在し、それなりの実力者が揃っている。

 すでに門の向こう側、そして門の上空にその魔導士達の姿が見えていた。
 ケイニスは屋根の上の煙突の影に伏せて、その様子を観察し続けた。

 王宮門の上空で、何人もの王宮警備隊の魔導士達が同時に詠唱を始めた。
 複数人の魔導士が協力することによって、ひとりで詠唱するより強力な魔法や大規模な魔法を放つことができる。軍に所属する魔導士はそういった協力攻撃を得意としていた。
 魔導士部隊の全員が協力すれば、王宮前広場全体に攻撃することも、広場内の人間のほとんどを殺すことも可能だろう。

 魔導士部隊の攻撃が始まる前に、作戦を開始した方がいい。
 ケイニスは呪文の詠唱を始めた。

 やがて王宮警備隊の魔導士部隊が放った魔法の魔法陣が広場に浮き上がった。
 どういう魔法だったのかはわからない。
 魔導士部隊の攻撃の直前、ケイニスが詠唱を終えていたからだ。
 すぐに魔法陣を打ち消すように広場全体を光の壁が覆い、王宮警備隊が放った魔法は霧散して消えた。

 ケイニスは仲間と協力して王宮前広場の各所にあらかじめこっそりと呪符と魔道具で作った装置を仕こんでおいた。
 普段なら難しいが、冬至祭マーケットで広場中に色んな物が置かれている今は難しくなかった。

(第一段階、成功)

 ケイニスが口に出さずにつぶやいた直後、警備兵の銃撃が始まった。
 さっきケイニスが起動した結界は、あの位置からの銃撃は防げない。
 最前列にいる人々は銃撃でばたばたと倒れていくだろう。
 ケイニスのいる位置からは何が起こっているのか見えなかったが、スローガンを叫ぶ声の間に銃声と悲鳴が響いていた。

 背の高い建物の屋根の上から、ケイニスは探していた。
 黄色いローブを着た仲間の姿を。

 ケイニスが最初に起動した結界は準備段階にすぎない。本番はこれからだった。
 今日、ケイニス自身は魔導士であることを隠すために、覆面をかぶりボロボロの労働者の服を着ている。
 代わりに6人の仲間が黄色いローブを着ていて、彼らはあらかじめ用意した魔道具を持っている。

 結界内で道具をもった6人が六芒星を作った時、あの魔法の準備が完了する。
 その魔法は、グランドールの教師から学んだこと、師匠から学んだこと、裏で入手した魔導書や帝国図書館で盗み見た本、手に入り得るものすべてから、ケイニスが噛みつくように学んで独学で覚えた古代魔術の一種だった。

 王宮警備隊の魔導士達は広場上空を飛び交い魔法攻撃を始めた。
 空中に巨大な氷のツララが出現し、群衆に降り注いだ。
 最初にケイニスが張った結界は、範囲内からの魔法攻撃には効果がない。
 人々が上空から降ってくる氷魔法で倒れていくのが見えた。
 このままいけば王宮前広場はじきに血で染まるだろう。

(これ以上待てない……)

 まだ六芒星は完全な形になっていない。それに、魔法の威力をあげるために、まだ待ったほうがいい。
 だが、ケイニスは見ていられず呪文を唱え始めた。

<我が声を聞け。復讐と贖いを司る無慈悲な神よ>

 呪文を唱えはじめてすぐ、上空を飛び回る警備隊の魔導士が、ケイニスの視界に入った。
 そして、目があった。
 敵は屋根の上のケイニスに気が付いた。

 呪文の詠唱をやめて逃げなければ殺される。

 そう思った瞬間、群衆の間から、水柱のような激しい水流が天に向かって昇り、警備隊の魔導士を枯れ葉のようにいとも簡単に吹き飛ばした。

(なんだあの魔法は?)

 ケイニスの仲間に、あんな魔法を使えるものはいない。
 ほとんどがろくに学校に通う機会すらなかった労働者たちだ。
 一方、王宮警備隊の魔導士は、一流の魔導士だ。

 水柱が上がった場所、群衆の間に、小さな暗い闇の沼のようなものが見えたが、それが何かケイニスにはわからなかった。
 すぐに次の水流が噴射され別の魔導士が吹き飛ばされた。
 正体はわからないが、何者かが地表から魔導士部隊へ攻撃を続けていた。

(魔導士の誰かが俺達を助けようとしている?)

 帝国のエリートである魔導士に、革命主義に賛同する者なんてほぼいないはずだった。しかも、王宮警備隊の魔導士をたやすく倒してしまうほどの力を持つ魔導士なんて。

(いったい、誰が?)

 疑問に思いながら、ケイニスは呪文の詠唱をつづけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...