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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~
第141話 ケイニスの戦い
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群衆は大通りの終点にある王宮前広場へと流れこんでいった。
「すべての人に同じ権利を!」「俺たちはみんな同じ人間だ!」
固く閉ざされた王宮の巨大な鉄の扉の向こうへと群衆は全力で叫んでいた。
その巨大な門の前には警備兵が並び銃と剣を構えていた。
今日、国王は別の場所にいるため、比較的警備は手薄だったが、それでも帝国のシンボルとなる王宮が無防備になることはない。
しばらくの間、「広場から立ち退け!」と群衆に怒鳴りつける声と、「広場から出てください。マーケット出店者の皆さん、お客様はすみやかに広場から避難してください」と、繰り返し市民に避難を呼びかける声が入り混じっていた。
広場から逃げようとする人々と奥へ進もうとする人の流れがぶつかり広場には混乱の渦が広がっていた。
その様子を王宮広場を囲むように立ち並ぶ建物の屋根からケイニスは静かに観察していた。
ジャルバンの当初の計画では、デモ隊はこうやって広場で主張するだけだった。
だが、その計画を聞いた時、ケイニスは言った。
「もしも警備隊や警官隊が攻撃してきたら、俺にやらせてくれ」
「何をやるっていうんだ? 兄弟」
あの時ジャルバンはむしろ怪訝そうに尋ね返した。普段のケイニスはジャルバンに劣らず、流血を嫌う穏健派だった。
「王宮門を破壊する」
「王宮門?」
王宮の門を破壊したって、物理的には大した被害ではない。
だが、大きな意味を持っていた。
ケイニスは冷静な声で説明した。
「あの王宮門は帝国の歴史上、一度も破られていない。俺達の手で王宮門を打ち破れば、帝国全土に大きな衝撃を与えられる。平民の力を、俺達の怒りを、知らしめることができる。それが歴史の転換点になるかもしれない」
ジャルバンはうなずいた。
「わかった。兄弟。お前にまかせる。だが、王宮は強力な魔法で守られてると聞いたぜ?」
「ああ。王宮門には強力な結界が張られている。大砲を撃ち込んだところで、あの門はびくともしない。普通の魔法攻撃はきかない。だが、手はある。結界の強度以上の力を加えればいいだけだ」
王宮前広場では、ケイニスが予想していた事態が始まった。
王宮警備隊には銃剣を扱う兵士のほかに魔導士部隊が存在し、それなりの実力者が揃っている。
すでに門の向こう側、そして門の上空にその魔導士達の姿が見えていた。
ケイニスは屋根の上の煙突の影に伏せて、その様子を観察し続けた。
王宮門の上空で、何人もの王宮警備隊の魔導士達が同時に詠唱を始めた。
複数人の魔導士が協力することによって、ひとりで詠唱するより強力な魔法や大規模な魔法を放つことができる。軍に所属する魔導士はそういった協力攻撃を得意としていた。
魔導士部隊の全員が協力すれば、王宮前広場全体に攻撃することも、広場内の人間のほとんどを殺すことも可能だろう。
魔導士部隊の攻撃が始まる前に、作戦を開始した方がいい。
ケイニスは呪文の詠唱を始めた。
やがて王宮警備隊の魔導士部隊が放った魔法の魔法陣が広場に浮き上がった。
どういう魔法だったのかはわからない。
魔導士部隊の攻撃の直前、ケイニスが詠唱を終えていたからだ。
すぐに魔法陣を打ち消すように広場全体を光の壁が覆い、王宮警備隊が放った魔法は霧散して消えた。
ケイニスは仲間と協力して王宮前広場の各所にあらかじめこっそりと呪符と魔道具で作った装置を仕こんでおいた。
普段なら難しいが、冬至祭マーケットで広場中に色んな物が置かれている今は難しくなかった。
(第一段階、成功)
ケイニスが口に出さずにつぶやいた直後、警備兵の銃撃が始まった。
さっきケイニスが起動した結界は、あの位置からの銃撃は防げない。
最前列にいる人々は銃撃でばたばたと倒れていくだろう。
ケイニスのいる位置からは何が起こっているのか見えなかったが、スローガンを叫ぶ声の間に銃声と悲鳴が響いていた。
背の高い建物の屋根の上から、ケイニスは探していた。
黄色いローブを着た仲間の姿を。
ケイニスが最初に起動した結界は準備段階にすぎない。本番はこれからだった。
今日、ケイニス自身は魔導士であることを隠すために、覆面をかぶりボロボロの労働者の服を着ている。
代わりに6人の仲間が黄色いローブを着ていて、彼らはあらかじめ用意した魔道具を持っている。
結界内で道具をもった6人が六芒星を作った時、あの魔法の準備が完了する。
その魔法は、グランドールの教師から学んだこと、師匠から学んだこと、裏で入手した魔導書や帝国図書館で盗み見た本、手に入り得るものすべてから、ケイニスが噛みつくように学んで独学で覚えた古代魔術の一種だった。
王宮警備隊の魔導士達は広場上空を飛び交い魔法攻撃を始めた。
空中に巨大な氷のツララが出現し、群衆に降り注いだ。
最初にケイニスが張った結界は、範囲内からの魔法攻撃には効果がない。
人々が上空から降ってくる氷魔法で倒れていくのが見えた。
このままいけば王宮前広場はじきに血で染まるだろう。
(これ以上待てない……)
まだ六芒星は完全な形になっていない。それに、魔法の威力をあげるために、まだ待ったほうがいい。
だが、ケイニスは見ていられず呪文を唱え始めた。
<我が声を聞け。復讐と贖いを司る無慈悲な神よ>
呪文を唱えはじめてすぐ、上空を飛び回る警備隊の魔導士が、ケイニスの視界に入った。
そして、目があった。
敵は屋根の上のケイニスに気が付いた。
呪文の詠唱をやめて逃げなければ殺される。
そう思った瞬間、群衆の間から、水柱のような激しい水流が天に向かって昇り、警備隊の魔導士を枯れ葉のようにいとも簡単に吹き飛ばした。
(なんだあの魔法は?)
ケイニスの仲間に、あんな魔法を使えるものはいない。
ほとんどがろくに学校に通う機会すらなかった労働者たちだ。
一方、王宮警備隊の魔導士は、一流の魔導士だ。
水柱が上がった場所、群衆の間に、小さな暗い闇の沼のようなものが見えたが、それが何かケイニスにはわからなかった。
すぐに次の水流が噴射され別の魔導士が吹き飛ばされた。
正体はわからないが、何者かが地表から魔導士部隊へ攻撃を続けていた。
(魔導士の誰かが俺達を助けようとしている?)
帝国のエリートである魔導士に、革命主義に賛同する者なんてほぼいないはずだった。しかも、王宮警備隊の魔導士をたやすく倒してしまうほどの力を持つ魔導士なんて。
(いったい、誰が?)
疑問に思いながら、ケイニスは呪文の詠唱をつづけた。
「すべての人に同じ権利を!」「俺たちはみんな同じ人間だ!」
固く閉ざされた王宮の巨大な鉄の扉の向こうへと群衆は全力で叫んでいた。
その巨大な門の前には警備兵が並び銃と剣を構えていた。
今日、国王は別の場所にいるため、比較的警備は手薄だったが、それでも帝国のシンボルとなる王宮が無防備になることはない。
しばらくの間、「広場から立ち退け!」と群衆に怒鳴りつける声と、「広場から出てください。マーケット出店者の皆さん、お客様はすみやかに広場から避難してください」と、繰り返し市民に避難を呼びかける声が入り混じっていた。
広場から逃げようとする人々と奥へ進もうとする人の流れがぶつかり広場には混乱の渦が広がっていた。
その様子を王宮広場を囲むように立ち並ぶ建物の屋根からケイニスは静かに観察していた。
ジャルバンの当初の計画では、デモ隊はこうやって広場で主張するだけだった。
だが、その計画を聞いた時、ケイニスは言った。
「もしも警備隊や警官隊が攻撃してきたら、俺にやらせてくれ」
「何をやるっていうんだ? 兄弟」
あの時ジャルバンはむしろ怪訝そうに尋ね返した。普段のケイニスはジャルバンに劣らず、流血を嫌う穏健派だった。
「王宮門を破壊する」
「王宮門?」
王宮の門を破壊したって、物理的には大した被害ではない。
だが、大きな意味を持っていた。
ケイニスは冷静な声で説明した。
「あの王宮門は帝国の歴史上、一度も破られていない。俺達の手で王宮門を打ち破れば、帝国全土に大きな衝撃を与えられる。平民の力を、俺達の怒りを、知らしめることができる。それが歴史の転換点になるかもしれない」
ジャルバンはうなずいた。
「わかった。兄弟。お前にまかせる。だが、王宮は強力な魔法で守られてると聞いたぜ?」
「ああ。王宮門には強力な結界が張られている。大砲を撃ち込んだところで、あの門はびくともしない。普通の魔法攻撃はきかない。だが、手はある。結界の強度以上の力を加えればいいだけだ」
王宮前広場では、ケイニスが予想していた事態が始まった。
王宮警備隊には銃剣を扱う兵士のほかに魔導士部隊が存在し、それなりの実力者が揃っている。
すでに門の向こう側、そして門の上空にその魔導士達の姿が見えていた。
ケイニスは屋根の上の煙突の影に伏せて、その様子を観察し続けた。
王宮門の上空で、何人もの王宮警備隊の魔導士達が同時に詠唱を始めた。
複数人の魔導士が協力することによって、ひとりで詠唱するより強力な魔法や大規模な魔法を放つことができる。軍に所属する魔導士はそういった協力攻撃を得意としていた。
魔導士部隊の全員が協力すれば、王宮前広場全体に攻撃することも、広場内の人間のほとんどを殺すことも可能だろう。
魔導士部隊の攻撃が始まる前に、作戦を開始した方がいい。
ケイニスは呪文の詠唱を始めた。
やがて王宮警備隊の魔導士部隊が放った魔法の魔法陣が広場に浮き上がった。
どういう魔法だったのかはわからない。
魔導士部隊の攻撃の直前、ケイニスが詠唱を終えていたからだ。
すぐに魔法陣を打ち消すように広場全体を光の壁が覆い、王宮警備隊が放った魔法は霧散して消えた。
ケイニスは仲間と協力して王宮前広場の各所にあらかじめこっそりと呪符と魔道具で作った装置を仕こんでおいた。
普段なら難しいが、冬至祭マーケットで広場中に色んな物が置かれている今は難しくなかった。
(第一段階、成功)
ケイニスが口に出さずにつぶやいた直後、警備兵の銃撃が始まった。
さっきケイニスが起動した結界は、あの位置からの銃撃は防げない。
最前列にいる人々は銃撃でばたばたと倒れていくだろう。
ケイニスのいる位置からは何が起こっているのか見えなかったが、スローガンを叫ぶ声の間に銃声と悲鳴が響いていた。
背の高い建物の屋根の上から、ケイニスは探していた。
黄色いローブを着た仲間の姿を。
ケイニスが最初に起動した結界は準備段階にすぎない。本番はこれからだった。
今日、ケイニス自身は魔導士であることを隠すために、覆面をかぶりボロボロの労働者の服を着ている。
代わりに6人の仲間が黄色いローブを着ていて、彼らはあらかじめ用意した魔道具を持っている。
結界内で道具をもった6人が六芒星を作った時、あの魔法の準備が完了する。
その魔法は、グランドールの教師から学んだこと、師匠から学んだこと、裏で入手した魔導書や帝国図書館で盗み見た本、手に入り得るものすべてから、ケイニスが噛みつくように学んで独学で覚えた古代魔術の一種だった。
王宮警備隊の魔導士達は広場上空を飛び交い魔法攻撃を始めた。
空中に巨大な氷のツララが出現し、群衆に降り注いだ。
最初にケイニスが張った結界は、範囲内からの魔法攻撃には効果がない。
人々が上空から降ってくる氷魔法で倒れていくのが見えた。
このままいけば王宮前広場はじきに血で染まるだろう。
(これ以上待てない……)
まだ六芒星は完全な形になっていない。それに、魔法の威力をあげるために、まだ待ったほうがいい。
だが、ケイニスは見ていられず呪文を唱え始めた。
<我が声を聞け。復讐と贖いを司る無慈悲な神よ>
呪文を唱えはじめてすぐ、上空を飛び回る警備隊の魔導士が、ケイニスの視界に入った。
そして、目があった。
敵は屋根の上のケイニスに気が付いた。
呪文の詠唱をやめて逃げなければ殺される。
そう思った瞬間、群衆の間から、水柱のような激しい水流が天に向かって昇り、警備隊の魔導士を枯れ葉のようにいとも簡単に吹き飛ばした。
(なんだあの魔法は?)
ケイニスの仲間に、あんな魔法を使えるものはいない。
ほとんどがろくに学校に通う機会すらなかった労働者たちだ。
一方、王宮警備隊の魔導士は、一流の魔導士だ。
水柱が上がった場所、群衆の間に、小さな暗い闇の沼のようなものが見えたが、それが何かケイニスにはわからなかった。
すぐに次の水流が噴射され別の魔導士が吹き飛ばされた。
正体はわからないが、何者かが地表から魔導士部隊へ攻撃を続けていた。
(魔導士の誰かが俺達を助けようとしている?)
帝国のエリートである魔導士に、革命主義に賛同する者なんてほぼいないはずだった。しかも、王宮警備隊の魔導士をたやすく倒してしまうほどの力を持つ魔導士なんて。
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