もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~

第151話 ガリとラムノスの会話

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 時はさかのぼり、イーアが自分の体に戻る前。
 ガリはまだイーアの体を修復することを決めていなかった。

 林の中の小路の先に一軒の平屋が見えていた。
 ガリがその家へ向かって歩いていくと、小路こみちで遊んでいた小さな子どもがうれしそうに叫んで家に向かって走っていった。

「ナミン先生、お客さんだよー」

 ドアの前で「ナミン」と呼ばれた男が、来訪者の訪れを知っていたかのように立っていた。
 かけよってきた子どもに二言三言話しかけ、ナミンと呼ばれた男は、ガリの方へと歩いてきた。

 その男はエレイも有する達観たっかんしたような奇妙な穏やかさをたたえていた。未来が見えるもの特有の気配なのかもしれない。

「よく来てくれました。歩きながら話しましょうか」

 そう言って、ナミンと呼ばれた男、ラムノスは、裏山に続く道を先立って歩きだした。

(驚いた。帝国が血眼《ちまなこ》になって探し続けてきたはずの<滅亡の予言者>が、本当にグランドールに届け出ている住所で生活しているとは。複雑な結界が張ってあるとはいえ、よく今まで見つからなかったものだ)

 ガリが心の中でそうつぶやくと、ラムノスはその声を聞いたかのように言った。

「来客者の予定はわかっていますから。私は会いたくない相手の前にはあらわれません」

「心を読むのか?」

「いえ。私はあなたの思考を推測しているだけです」

「そうか」

(こいつがエレイのように心を読めたら、人語で会話せずにすんだものを)とガリが思った瞬間にラムノスは言った。

「私が心を読めれば話が早いのにと?」

「本当に心を読めないのか?」

 ラムノスは細い道のわきの美しい花を眺めながら言った。

「あなたは稀有けうな人だ。心を読んでほしいと思えるのは、本当に心がきれいな人だけです。大人の人間にはまずいない」

「俺は人間じゃない」

「ガディオン。たしかにあなたはドラゴンのように気高く汚れない心を持つ。でも、今日、あなたは人間の王としてここに来た。ギアラドの民が戦争に巻きこまれるのを避けるため。あなたが彼らを率いて戦う運命に導かれるのを嫌って」

 ガリは苛つきながら、ぶっきらぼうに言った。

「俺は王なんかではない。ここに来たのは、運命を操ろうとする、いけ好かない奴の顔を見に来ただけだ」

「残念ながら、私が貴方の運命を操っているわけではありません」

 ラムノスは涼しい声で言った。

「ギアラド人の動きは貴方の行いの帰結にすぎません。死にひんするギアラドの囚人兵達を、流刑地るけいち惨憺さんたんたる生活を送るギアラド人達を、日夜助け続ける黒衣の魔導士。彼がギアラドの逆王として処刑された男の息子だと知れば、人々はその男、新たなギアラドの王のために勝手に動きます。貴方は、自分だけ逃げたという罪の意識から、彼らを今日まで助け続けてきた。これは、その結果です。あなたのやさしさがもたらしたごうです」

「俺は人界の政治にかかわる気はない。王になどならない」

「それは貴方の選択です。私が口を出すことではないでしょう」

 ラムノスはまるでガリの行動には関心がないようにそう言った。

「本当に関心がないのか? 帝国を滅亡に追い込むには、バララセ人と革命主義者だけでは足りない。帝国を滅亡させるためにギアラド人を動かしたいのだろう?」

「それは誤解です。私の目的は帝国を滅亡させることわけではありません。私はアグラシアを最善と思われる未来に誘導しようとしてきただけです。その結果、帝国は滅亡するかもしれませんが、それは私にとって重要なことではありません」

「最善の未来? その過程に帝国の滅亡があっただけだと?」

「そうです。どんなに強大な帝国もいずれは滅びます。滅亡の時は人々が信じているよりも近くにあった、それだけのことです。ですが、たしかに、遠くない未来、ギアラドの人々は動くでしょう。すでに運命の分岐点は過ぎています。鍵となるあの子があなたと出会った時に」

 イーアの姿が、ガリの脳裏に浮かんだ。
 イーアと最初に会った時。それは、グランドールの奨学生試験の時だった。

「あの時に? ありえん」

「運命の糸は奇妙なものです。最初にあの分岐点を見つけた時は、私も驚きました。あの日ある少女があなたと出会いグランドールに入学する。それだけで、未来が大きく変わってしまう。ですが、未来とはそういうものです」

「俺があいつを生き返らせなかったらどうなる? 今のままの状態が続けば」

 ギルフレイ卿に殺されたイーアはまだアラムの体の中にいる。
 イーアの体を修復しなければ、イーアはイーアとして生きることはできない。
 ただ、それはそれで、アラム・ラウヴィルになりおおせたイーアは、大きな影響力を持つ魔導士になりそうだった。
 ラムノスは穏やかな声で言った。

「元の体に戻る時期が遅れるだけで大差はありません。あの子は自分でどうにかします。それに、やさしいあなたはいずれにせよあの子を守るでしょう」

 ガリは認めたくなかったが、しぶしぶ認めた。

「……師として庇護ひごする。誓いをたてたからには守る。だが、だまされた気分だ」

 あの日、ガリがグランドールの奨学生試験に行ったのは、ゲオが弟子をとれとうるさかったのに加えて、エレイがすすめたからだった。そこに行けば才能のある若者に出会えそうだと。
 まさかラムノスの企みに一枚かんでしまうとは、エレイですら予想していなかっただろう。
 ガリとしては、素質のある子どもを自分で見つけ覚悟をもって弟子にした、はずが、すべてラムノスの手の上で踊らされていた。そんな気がしてならない。
 ラムノスは穏やかに微笑んだ。

「貴方の心痛を和らげるために、かつて私が見た多くの未来のひとつ、あの子が生まれなかった世界の話を話しましょう。その世界では、貴方が<白光>と戦い支配者の石板を破壊しました。信じられないという表情ですね、ガディオン。ですが、貴方が人界を救ったのです。しかし、その過程で多くの人と精霊が死に、戦いの先の未来は暗澹あんたんたるものでした。あなたは失意の中に生を終えました」

「だからお前に感謝しろと?」

「そうは言いません。私は私が望む未来のために動いているだけです」

「お前の望みはなんだ?」

「あの子が望む世界と同じです」

「そうなるようにお前があいつを育てた。そうだろう?」

 育ての親として、他でもないラムノス自身がイーアとユウリを育てたのだ。
 ラムノスは微笑ほほえんだ。

「否定はしません。あの子達が帝国の偏見に染まらぬよう、細心の注意を払いましたから。でも、私にはあの子たちを操ることなんてできません。私の手には負えませんよ。あなたには彼女が誰かに操られるような子に思えますか?」

「……ないな」

 ガリは舌打ちし、きびすを返した。
 場合によっては、イーアの体の修復をやめようと考えていた。
 だが、実際にラムノスと話してみてガリの迷いはなくなった。
 全てを見透みすかしたようなこの男は、気に食わないが、邪悪な人間には見えなかった。
 ラムノスはおそらく真実しか語っていない。

 未来がイーア次第だというなら、その未来に賭けてみてもいい。
 そう思える程度に、ガリは弟子を信頼していた。

 心が決まれば、ガリはこの足でイーアの体を修復できるエルフの治癒師を見つけに行くつもりだった。
 別れの言葉もなしに一方的に立ち去るガリの背に、まるですべて知っているかのようにラムノスは穏やかに声をかけた。

「気をつけてください。ガディオン。あの集落のエルフはドラゴンを嫌っていますから。貴方といえど、苦戦するでしょう」
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