もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~

第150話 復活

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 ガリに導かれ、イーアはウェルグァンダルの塔の地下へと続く螺旋らせん階段を下りて行った。薄暗く狭い階段だった。
 階段を下りながら、ガリは言った。

『ここで見たことは口外こうがいするな。本来、この先に入れるのは塔主と次期塔主だけだ』

『じゃ、本当はわたしが入っちゃまずいんだね』

 あいかわらずガリはむちゃくちゃだとイーアは思ったけれど、ガリはぼそりと言った。

『問題あるまい。どうせ次はお前かザヒのどちらかだ』

『次?』

『次の塔主は現塔主より若い者がなるのが慣習だ。ウェルグァンダルは塔主が頻繁ひんぱんに代わるのを嫌がる。嫌がられようが何だろうが、俺はとっととやめるつもりだが』

 階段が終わった。その先で最初にイーアの目にとびこんできたのは、天井まで続く透明な壁、あるいは巨大な氷みたいなものだった。
 その中に、人が見えた。
 何人もの人が、氷のようなものの中で静止している。

『人が、氷漬けになってる……?』

 イーアがつぶやくと、ガリは言った。

『氷ではない。この向こうでは時間自体が凍結されている。ここにいるのは塔にその身をささげたいにしえの召喚士たちだ』

『古の召喚士? なんで召喚士が?』

『彼らの魂で友契の書は動いている』

 イーアははっとして、『友契の書』を見た。
 ずっとふしぎだったのだ。精霊との契約を勝手に行ってくれる、しゃべる本。その仕組みが。

『じゃあ、わたしの友契の書は、この中の誰か?』

『そこにいる、ルヴィシェスカだ』

 ガリが指さしたのは、凍結されている八人の召喚士の中のひとり、女性召喚士だった。
 イーアは召喚士ルヴィシェスカに向かって、『いつもありがとう』とお礼を言った。『どういたしまして』という冷静な声が、ポケットの中の『友契の書』から聞こえた。

『彼らは一人で複数の友契の書を担当している。だから、あまり迷惑をかけるな。お前の体はこっちだ』

 ガリはさらに奥へと進んでいった。八人の召喚士が凍結されていたのと同じような装置の中に、イーアの体が横たわっていた。

『エルフの治癒師と取引をしてお前の体の修復は済ませた。今は、介護をする人手がないから凍結しているだけだ』

 ガリはそう言って、装置に手を当て、『ウェルグァンダル。イーアの凍結を解除してくれ』と言った。
 氷のように見えていたものが消えた。ガリはイーアの体を浮かせて床の上に移動した。

『ここから先は、俺には何もできない』

『うん。大丈夫』

 そう答えるイーアの横に、心配そうな表情でティトが現れた。
 イーアは『友契の書』を手に取った。

『友契の書、ううん、ルヴィシェスカ。カゲを呼んで』

 呼んでから数秒で、カゲが出現した。
 その人型の影がフーシャヘカなのかお母さんなのかは見た目ではわからない。
 カゲは床に寝ているイーアの体に近づき手で触れるようなしぐさをし、カゲからお母さんの声が聞こえた。

「イーア……こんなに大きくなっていたのね」

 とたんに耐えられなくなって、固い決意も吹き飛んで、イーアは思わず叫んだ。

「お母さん……やっぱりやだよ! お母さんが消えちゃうのはやだ!」

 お母さんのカゲはふりかえるように動いて、アラムの姿のイーアの頬に手をのばした。

「イーア。大きくなったあなたと話せて、本当によかった。肉体はいずれ滅び、人は必ず死ぬ。だけど、私はずっとあなたと一緒にいる。私はあなたの中に、これまでもこれからもずっといる。そうでしょ?」

「……うん」

 優しい声でそう言われたら、他に何も言えなくてイーアはうなずくしかなかった。お母さんのカゲは部屋の隅にいるガリの方を向いた。

『ガディオン。イーアをお願いします』

 ガリは壁にもたれかかり、下を向いたまま言った。

『俺はラムノスの計画に乗る気はないが、弟子の面倒はみる。竜の誉にかけて』

『ありがとう。では、フーシャヘカ、お願いします』

 お母さんがそう言うと、同じカゲから今度はフーシャヘカの声が聞こえた。

『はい。イーアさん、倒れてしまっては危ないのでそこに横になってください』

 イーアは自分の体の横に横たわった。
 フーシャヘカが呪文を唱える声が聞こえ、イーアはしだいに意識が遠のいていくのを感じた。
 じきに何も見えなくなり、フーシャヘカの呪文の声のほかは何も聞こえなくなった。
 やがて呪文が終わり、最後にメラフィスの大魔術師の声が聞こえた。

『これで私の仕事は終わりです。イーアさん。この先の世界はあなたがたにかかっています。期待していますよ。あなた方がつくる世界に』

 フーシャヘカの気配が消えた。そして、その後で、光が見えた。
 光の中、イーアの記憶の中にある、生きていた頃のお母さんの姿が見えた。
 お母さんは微笑んだ。

「イーア。あなたに会えてよかった」

「お母さん!」

 イーアは叫んで、光の中に消えるお母さんの姿を追いかけようとした。
 だけど、走り出そうとしたその時、ティトの声が聞こえた。

『イーア!』

 ティトの声が聞こえた時には、お母さんの姿はすでに消えていた。

 イーアは目を開いた。
 ティトの大きな顔がすぐそばにあって、ティトの息が顔にかかっていた。

『大丈夫そうか?』

 ティトが心配そうにこっちをのぞきこんでいる。
 イーアは自分の手を動かしてみた。

『うん……。ふつうに動けそう。アラムの体に入った時と違って、苦しくないよ』

 イーアは体を起こし、自分の手を足をまじまじと見た。
 間違いなく、自分の体だ。
 だけど自分の体を動かしていることが、今は奇妙に感じられた。ずいぶんと長くアラムの体の中にいたから。

 イーアの横には魂の抜けたアラムの体が横たわっていた。
 そばを青いチルランが漂っている。
 イーアは、さっきまで自分のものだったアラムの服のポケットから『友契の書』と支配者の石板の欠片を取り出した。

『ティト、先にガネンの森の祭壇のところへ行って。今度はアラムをもとに戻さなくちゃ』

『わかった』

 ティトはすぐに姿を消した。
 少ししてから、イーアは『友契の書』ルヴィシェスカに頼んで、ガネンの森に向かった。
 イーアが到着したのは、祭壇のある洞窟の入り口だった。そこでティトが待っていた。

 無数のオレンジ色のチルランが飛び交う洞窟の中を、イーアはアラムの青い光といっしょに進んでいった。
 やがて祭壇の前についた。
 かつてガネンの森が襲われたあの日、アンドルとミリアが立っていた場所。

 イーアは祭壇のラシュトの石像の口の中に、あの日奪われた支配者の石板の欠片をいれた。
 いれた瞬間、傍にいた青いチルランの光が消えた。

『これで、アラムは元に戻れたかな。ティト、このままじゃ危ないから、この石板の欠片をどこかに隠しておいて』

『わかってる』

 支配者の石板の欠片のことは守護精霊であるティトにまかせ、イーアはウェルグァンダルの塔に戻った。
 イーア達がガネンの森に行っている間に、ガリが『友契の書』とアラムの体を塔の上階の部屋に移動していた。
 だから、イーアが塔に戻った時、そこは塔の中のイーアの部屋に似ている小部屋で、アラムは質素なベッドの上でまだ眠っていた。

「アラム?」

 イーアが声をかけると、アラムがゆっくりと目を開いた。そして、13才にしては幼い、6才の子どもみたいなよわよわしい声が返ってきた。

「イーアねえさん……?」





 第三部 終
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