もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

文字の大きさ
157 / 207
第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~

第157話 理由

しおりを挟む
 ザヒを守るために身を挺してティトの一撃を受けたワイヒルトは、地面に横たわったまま苦しそうに息をしていた。

『オーロガロン、追撃はやめて』 
 
 ワイヒルトにとどめをさそうとしていたオーロガロンを、イーアはとめた。
 グリーチェを倒したところでエラスシオは帰還していて、テリトベラにからめとられたイヤナヒニ達も消え去った。
 さっきまでの激しい戦闘が嘘のように、あたりには静けさが漂っていた。

「召喚獣に情けをかけてどうする?」

 ザヒはそう言いながら回復薬をワイヒルトに投げかけた。

「その子、きっと死んでもあなたを守ろうとするもん。ザヒ、<白光>をやめてウェルグァンダルに戻って! そしたら、ザヒが次期塔主になってもいいから!」

 イーアは別に次期塔主になりたいわけではなかった。
 支配者の石板を守るために<白光>と戦ったり、ケイニス達の手伝いをしたりする方が今のイーアにとっては大事だから。
 もしもザヒが<白光>と決別してガリと仲直りしてくれるなら、ザヒが次期塔主になった方がいいと、イーアは本心で思っていた。

 ザヒは鼻で笑った。

「すでに勝ったつもりか? 次期塔主はこれから戦闘で決まるのだ。お楽しみはまだまだこれからだ」

 ザヒは魔力回復薬らしきものを飲み干した。普通の魔力回復薬ではなさそうだった。ザヒの魔力が一気に上がったことをイーアは感じた。

 会話をすることで、敵に回復の猶予を与えてしまっている。戦闘に勝つには一気に召喚して、かたをつけた方がいい。
 でも、話をするには今しかないように思えた。
 イーアはザヒに向かって叫んだ。

「ザヒはなんで<白光>に入ったの? ガリに負けて次期塔主になれなかったから? 悔しかったから?」

 会話にもっていくために、イーアはあえてザヒを挑発するつもりだった。
 ザヒは怒って強く否定すると思っていた。
 でも、ザヒはむしろ独り言のように言った。台地の上は静まりかえっていたから、かろうじてイーアにも声は聞こえたけれど。
 
「あの忌々しい竜の子め。あいつさえいなければ、今頃は俺が塔主だった。ウェルグァンダルの塔は俺が育った家だ。ギアラド人なんぞ俺は知らん。俺は物心ついた時から召喚術を学んできたウェルグァンダルの召喚士だ。同じ年頃の誰も召喚術で俺には勝てなかった。誰もが俺が次期塔主だと思っていた。なのに、突然、やつが来て……」

 赤ん坊の時からウェルグァンダルの塔で育ったザヒにとって、塔は「家」で、塔主や召喚士達が「家族」だった。
 小さな頃から召喚術に囲まれた環境で、召喚士となるために生きてきて、ザヒは子どもの頃からずっと、いずれは自分が塔を受け継ぐ、そう思っていたのだろう。
 だから、ザヒは自分の「家」をガリに奪われた気がしたのだろう。

「でも、ガリと兄弟だって、もう知ってるんでしょ? みんなで仲良くすればいいのに」

 これは、挑発ではなかった。
 ガリとザヒが昔から仲が悪かったという話は、リグナムから聞いて知っていた。
 ザヒがガリを恨んでいる理由も、ただの逆恨みだけど、心情を理解できなくはない。
 だけど、ふたりは他人ではなく兄弟なのだ。どうして敵対しないといけないのだろう。

 今度は激しく挑発されたように、ザヒは吐き捨てるように怒鳴った。

「ガリが兄弟だと? あいつが兄なものか! あいつも俺を弟とは思っていないだろう」

「ガリは口ではそういうかもしれないけど、本心は違うよ。きっと、ザヒのことをずっと心配してるんだよ」

 そもそもガリがウェルグァンダルの塔に行ったのは、そこにザヒがいたからじゃないだろうか。
 だけど、ザヒは強い口調で言った。

「心配? そんな人並みの心があいつにあるものか。ガリは人の姿をしたドラゴンだ。あいつに人間の心なんてない」

「あるよ。ガリは本当はとても優しい人だもん」

 ザヒは鼻で笑った。

「お前にわかるものか。半エルフ。お前も人間ではない」

「わたしは……」

 イーアは自分は人間だと主張しようとしたけれど、ザヒはイーアに言う間を与えず、話し続けた。

「人間とはな。反吐へどが出るほど自分勝手で醜く汚い生き物のことをいうのだ。自分より優秀なものに嫉妬しっとし、道理もないのに恨む、俺のような人間のことをいうのだ。ガリにはそんな人間らしい心は欠片もない。ケンカを売ろうと、皆でいやがらせをしようと、あいつは俺を無視し続けた。何をされても、あいつは表情一つ変えない。無言であのドラゴンのような清く冷たい目で俺を見るだけだ」

「それは……」

 たしかに、いじめる人の心を理解なんてできなかったから、何も反論できなかったけれど、イーアはふと感じた。
 ザヒはずっと寂しかったのかもしれない。

 ザヒは、実はだいぶ前に、ガリが兄だということは知っていたのかもしれない。
 だけど、ドラゴンに育てられ、ろくに人語も話さないガリとは、簡単には理解しあえない。
 構ってほしくてちょっかいをかけても無視されて、腹いせにいじめても無反応。
 残るのは、圧倒的に優秀で孤高な兄に、嫉妬していじめようとする自分自身への失望と劣等感。

 ザヒの言葉からは、そんな二人の少年時代が浮かんでくる。
 ザヒが感じているのは、恨みというよりむしろ罪悪感のように聞こえた。
 ザヒは口ではガリを恨んでいるようなことばかり言っているけれど、本心はどうなのだろう。

「お前にはわからないだろう? 半エルフ。お前は人間がわかっていない。人間がどれだけ醜く汚く残虐な存在か、まるでわかっていない。お前やガリのような半精霊の無垢むくなる者どもは、とっとと人界を去って精霊の世界へ帰れ」

 ザヒはイーアに向かっていつものように見下したような口調でそう言った。
 でも、今は馬鹿にされているようには感じなかった。

 イーアは、なんとなくわかってきた。ザヒの口調も態度も、きっとザヒの本音をそのまま映してはいない。
 ガリが冷たい態度をとっていても、その心は決して冷たくないように。
 ものすごく面倒くさい兄弟だけど。たぶん、この二人は口で言うほど互いを嫌っているわけでも無関心なわけでもない。

「帰らないよ。ここがわたしの生きる世界だから。わたしはウェルグァンダルの召喚士だもん」

「ならば、決しようか。最終テストだ。俺が<白光>で手に入れた力を見せてやろう。『いでよ、亡国の亡霊巨兵軍』」
 
 巨大な兵士達が荒れ地に出現した。
 今までにもザヒが呼んだことのある、巨大な鎧の亡霊たちだ。
 だけど、今回は一体だけじゃなく、十体以上の兵士が、亡霊の軍隊のように集団で出現していた。
 一体ずつでも強いのに。単純に足しても十倍以上の戦力だ。さらに連携攻撃なんてされたら、とんでもない。

『なんか作戦あるか?』

 ティトは武者震いしながら、そうたずねた。イーアには特別な作戦なんてなかったけれど、迷いもなかった。レントンの大樹が投げ渡してくれた実にかじりつきながら、イーアは言った。

『こっちも呼びまくる! 火竜ウフェルプ! パラオーチ!』

 イーアが数か月前にギルフレイ侯爵領の山奥で契約を結んだ若い火竜と、その仲間の炎の鎖みたいな精霊パラオーチ達が姿を現した。

『ドズミリミル! パラオーチと一緒に鎧の兵士の足をとめて!』

 数には数で対抗だ。レントンの大樹達のおかげで、魔力はほぼ満タン状態だ。

『オーロガロン! ウフェルプと一緒に空から攻撃! なるべく敵を一か所に集めて』

 巨大な亡霊兵達をなるべく一か所に集めたところで、ティロモサをもう一度呼んで、一気に倒すつもりだった。
 ティロモサはさっきひとり倒されてしまったけれど、実は複数存在するから、まだ呼べる。
 敵は強い。だけど、勝機がないとは感じなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...