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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第157話 理由
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ザヒを守るために身を挺してティトの一撃を受けたワイヒルトは、地面に横たわったまま苦しそうに息をしていた。
『オーロガロン、追撃はやめて』
ワイヒルトにとどめをさそうとしていたオーロガロンを、イーアはとめた。
グリーチェを倒したところでエラスシオは帰還していて、テリトベラにからめとられたイヤナヒニ達も消え去った。
さっきまでの激しい戦闘が嘘のように、あたりには静けさが漂っていた。
「召喚獣に情けをかけてどうする?」
ザヒはそう言いながら回復薬をワイヒルトに投げかけた。
「その子、きっと死んでもあなたを守ろうとするもん。ザヒ、<白光>をやめてウェルグァンダルに戻って! そしたら、ザヒが次期塔主になってもいいから!」
イーアは別に次期塔主になりたいわけではなかった。
支配者の石板を守るために<白光>と戦ったり、ケイニス達の手伝いをしたりする方が今のイーアにとっては大事だから。
もしもザヒが<白光>と決別してガリと仲直りしてくれるなら、ザヒが次期塔主になった方がいいと、イーアは本心で思っていた。
ザヒは鼻で笑った。
「すでに勝ったつもりか? 次期塔主はこれから戦闘で決まるのだ。お楽しみはまだまだこれからだ」
ザヒは魔力回復薬らしきものを飲み干した。普通の魔力回復薬ではなさそうだった。ザヒの魔力が一気に上がったことをイーアは感じた。
会話をすることで、敵に回復の猶予を与えてしまっている。戦闘に勝つには一気に召喚して、かたをつけた方がいい。
でも、話をするには今しかないように思えた。
イーアはザヒに向かって叫んだ。
「ザヒはなんで<白光>に入ったの? ガリに負けて次期塔主になれなかったから? 悔しかったから?」
会話にもっていくために、イーアはあえてザヒを挑発するつもりだった。
ザヒは怒って強く否定すると思っていた。
でも、ザヒはむしろ独り言のように言った。台地の上は静まりかえっていたから、かろうじてイーアにも声は聞こえたけれど。
「あの忌々しい竜の子め。あいつさえいなければ、今頃は俺が塔主だった。ウェルグァンダルの塔は俺が育った家だ。ギアラド人なんぞ俺は知らん。俺は物心ついた時から召喚術を学んできたウェルグァンダルの召喚士だ。同じ年頃の誰も召喚術で俺には勝てなかった。誰もが俺が次期塔主だと思っていた。なのに、突然、やつが来て……」
赤ん坊の時からウェルグァンダルの塔で育ったザヒにとって、塔は「家」で、塔主や召喚士達が「家族」だった。
小さな頃から召喚術に囲まれた環境で、召喚士となるために生きてきて、ザヒは子どもの頃からずっと、いずれは自分が塔を受け継ぐ、そう思っていたのだろう。
だから、ザヒは自分の「家」をガリに奪われた気がしたのだろう。
「でも、ガリと兄弟だって、もう知ってるんでしょ? みんなで仲良くすればいいのに」
これは、挑発ではなかった。
ガリとザヒが昔から仲が悪かったという話は、リグナムから聞いて知っていた。
ザヒがガリを恨んでいる理由も、ただの逆恨みだけど、心情を理解できなくはない。
だけど、ふたりは他人ではなく兄弟なのだ。どうして敵対しないといけないのだろう。
今度は激しく挑発されたように、ザヒは吐き捨てるように怒鳴った。
「ガリが兄弟だと? あいつが兄なものか! あいつも俺を弟とは思っていないだろう」
「ガリは口ではそういうかもしれないけど、本心は違うよ。きっと、ザヒのことをずっと心配してるんだよ」
そもそもガリがウェルグァンダルの塔に行ったのは、そこにザヒがいたからじゃないだろうか。
だけど、ザヒは強い口調で言った。
「心配? そんな人並みの心があいつにあるものか。ガリは人の姿をしたドラゴンだ。あいつに人間の心なんてない」
「あるよ。ガリは本当はとても優しい人だもん」
ザヒは鼻で笑った。
「お前にわかるものか。半エルフ。お前も人間ではない」
「わたしは……」
イーアは自分は人間だと主張しようとしたけれど、ザヒはイーアに言う間を与えず、話し続けた。
「人間とはな。反吐が出るほど自分勝手で醜く汚い生き物のことをいうのだ。自分より優秀なものに嫉妬し、道理もないのに恨む、俺のような人間のことをいうのだ。ガリにはそんな人間らしい心は欠片もない。ケンカを売ろうと、皆でいやがらせをしようと、あいつは俺を無視し続けた。何をされても、あいつは表情一つ変えない。無言であのドラゴンのような清く冷たい目で俺を見るだけだ」
「それは……」
たしかに、いじめる人の心を理解なんてできなかったから、何も反論できなかったけれど、イーアはふと感じた。
ザヒはずっと寂しかったのかもしれない。
ザヒは、実はだいぶ前に、ガリが兄だということは知っていたのかもしれない。
だけど、ドラゴンに育てられ、ろくに人語も話さないガリとは、簡単には理解しあえない。
構ってほしくてちょっかいをかけても無視されて、腹いせにいじめても無反応。
残るのは、圧倒的に優秀で孤高な兄に、嫉妬していじめようとする自分自身への失望と劣等感。
ザヒの言葉からは、そんな二人の少年時代が浮かんでくる。
ザヒが感じているのは、恨みというよりむしろ罪悪感のように聞こえた。
ザヒは口ではガリを恨んでいるようなことばかり言っているけれど、本心はどうなのだろう。
「お前にはわからないだろう? 半エルフ。お前は人間がわかっていない。人間がどれだけ醜く汚く残虐な存在か、まるでわかっていない。お前やガリのような半精霊の無垢なる者どもは、とっとと人界を去って精霊の世界へ帰れ」
ザヒはイーアに向かっていつものように見下したような口調でそう言った。
でも、今は馬鹿にされているようには感じなかった。
イーアは、なんとなくわかってきた。ザヒの口調も態度も、きっとザヒの本音をそのまま映してはいない。
ガリが冷たい態度をとっていても、その心は決して冷たくないように。
ものすごく面倒くさい兄弟だけど。たぶん、この二人は口で言うほど互いを嫌っているわけでも無関心なわけでもない。
「帰らないよ。ここがわたしの生きる世界だから。わたしはウェルグァンダルの召喚士だもん」
「ならば、決しようか。最終テストだ。俺が<白光>で手に入れた力を見せてやろう。『いでよ、亡国の亡霊巨兵軍』」
巨大な兵士達が荒れ地に出現した。
今までにもザヒが呼んだことのある、巨大な鎧の亡霊たちだ。
だけど、今回は一体だけじゃなく、十体以上の兵士が、亡霊の軍隊のように集団で出現していた。
一体ずつでも強いのに。単純に足しても十倍以上の戦力だ。さらに連携攻撃なんてされたら、とんでもない。
『なんか作戦あるか?』
ティトは武者震いしながら、そうたずねた。イーアには特別な作戦なんてなかったけれど、迷いもなかった。レントンの大樹が投げ渡してくれた実にかじりつきながら、イーアは言った。
『こっちも呼びまくる! 火竜ウフェルプ! パラオーチ!』
イーアが数か月前にギルフレイ侯爵領の山奥で契約を結んだ若い火竜と、その仲間の炎の鎖みたいな精霊パラオーチ達が姿を現した。
『ドズミリミル! パラオーチと一緒に鎧の兵士の足をとめて!』
数には数で対抗だ。レントンの大樹達のおかげで、魔力はほぼ満タン状態だ。
『オーロガロン! ウフェルプと一緒に空から攻撃! なるべく敵を一か所に集めて』
巨大な亡霊兵達をなるべく一か所に集めたところで、ティロモサをもう一度呼んで、一気に倒すつもりだった。
ティロモサはさっきひとり倒されてしまったけれど、実は複数存在するから、まだ呼べる。
敵は強い。だけど、勝機がないとは感じなかった。
『オーロガロン、追撃はやめて』
ワイヒルトにとどめをさそうとしていたオーロガロンを、イーアはとめた。
グリーチェを倒したところでエラスシオは帰還していて、テリトベラにからめとられたイヤナヒニ達も消え去った。
さっきまでの激しい戦闘が嘘のように、あたりには静けさが漂っていた。
「召喚獣に情けをかけてどうする?」
ザヒはそう言いながら回復薬をワイヒルトに投げかけた。
「その子、きっと死んでもあなたを守ろうとするもん。ザヒ、<白光>をやめてウェルグァンダルに戻って! そしたら、ザヒが次期塔主になってもいいから!」
イーアは別に次期塔主になりたいわけではなかった。
支配者の石板を守るために<白光>と戦ったり、ケイニス達の手伝いをしたりする方が今のイーアにとっては大事だから。
もしもザヒが<白光>と決別してガリと仲直りしてくれるなら、ザヒが次期塔主になった方がいいと、イーアは本心で思っていた。
ザヒは鼻で笑った。
「すでに勝ったつもりか? 次期塔主はこれから戦闘で決まるのだ。お楽しみはまだまだこれからだ」
ザヒは魔力回復薬らしきものを飲み干した。普通の魔力回復薬ではなさそうだった。ザヒの魔力が一気に上がったことをイーアは感じた。
会話をすることで、敵に回復の猶予を与えてしまっている。戦闘に勝つには一気に召喚して、かたをつけた方がいい。
でも、話をするには今しかないように思えた。
イーアはザヒに向かって叫んだ。
「ザヒはなんで<白光>に入ったの? ガリに負けて次期塔主になれなかったから? 悔しかったから?」
会話にもっていくために、イーアはあえてザヒを挑発するつもりだった。
ザヒは怒って強く否定すると思っていた。
でも、ザヒはむしろ独り言のように言った。台地の上は静まりかえっていたから、かろうじてイーアにも声は聞こえたけれど。
「あの忌々しい竜の子め。あいつさえいなければ、今頃は俺が塔主だった。ウェルグァンダルの塔は俺が育った家だ。ギアラド人なんぞ俺は知らん。俺は物心ついた時から召喚術を学んできたウェルグァンダルの召喚士だ。同じ年頃の誰も召喚術で俺には勝てなかった。誰もが俺が次期塔主だと思っていた。なのに、突然、やつが来て……」
赤ん坊の時からウェルグァンダルの塔で育ったザヒにとって、塔は「家」で、塔主や召喚士達が「家族」だった。
小さな頃から召喚術に囲まれた環境で、召喚士となるために生きてきて、ザヒは子どもの頃からずっと、いずれは自分が塔を受け継ぐ、そう思っていたのだろう。
だから、ザヒは自分の「家」をガリに奪われた気がしたのだろう。
「でも、ガリと兄弟だって、もう知ってるんでしょ? みんなで仲良くすればいいのに」
これは、挑発ではなかった。
ガリとザヒが昔から仲が悪かったという話は、リグナムから聞いて知っていた。
ザヒがガリを恨んでいる理由も、ただの逆恨みだけど、心情を理解できなくはない。
だけど、ふたりは他人ではなく兄弟なのだ。どうして敵対しないといけないのだろう。
今度は激しく挑発されたように、ザヒは吐き捨てるように怒鳴った。
「ガリが兄弟だと? あいつが兄なものか! あいつも俺を弟とは思っていないだろう」
「ガリは口ではそういうかもしれないけど、本心は違うよ。きっと、ザヒのことをずっと心配してるんだよ」
そもそもガリがウェルグァンダルの塔に行ったのは、そこにザヒがいたからじゃないだろうか。
だけど、ザヒは強い口調で言った。
「心配? そんな人並みの心があいつにあるものか。ガリは人の姿をしたドラゴンだ。あいつに人間の心なんてない」
「あるよ。ガリは本当はとても優しい人だもん」
ザヒは鼻で笑った。
「お前にわかるものか。半エルフ。お前も人間ではない」
「わたしは……」
イーアは自分は人間だと主張しようとしたけれど、ザヒはイーアに言う間を与えず、話し続けた。
「人間とはな。反吐が出るほど自分勝手で醜く汚い生き物のことをいうのだ。自分より優秀なものに嫉妬し、道理もないのに恨む、俺のような人間のことをいうのだ。ガリにはそんな人間らしい心は欠片もない。ケンカを売ろうと、皆でいやがらせをしようと、あいつは俺を無視し続けた。何をされても、あいつは表情一つ変えない。無言であのドラゴンのような清く冷たい目で俺を見るだけだ」
「それは……」
たしかに、いじめる人の心を理解なんてできなかったから、何も反論できなかったけれど、イーアはふと感じた。
ザヒはずっと寂しかったのかもしれない。
ザヒは、実はだいぶ前に、ガリが兄だということは知っていたのかもしれない。
だけど、ドラゴンに育てられ、ろくに人語も話さないガリとは、簡単には理解しあえない。
構ってほしくてちょっかいをかけても無視されて、腹いせにいじめても無反応。
残るのは、圧倒的に優秀で孤高な兄に、嫉妬していじめようとする自分自身への失望と劣等感。
ザヒの言葉からは、そんな二人の少年時代が浮かんでくる。
ザヒが感じているのは、恨みというよりむしろ罪悪感のように聞こえた。
ザヒは口ではガリを恨んでいるようなことばかり言っているけれど、本心はどうなのだろう。
「お前にはわからないだろう? 半エルフ。お前は人間がわかっていない。人間がどれだけ醜く汚く残虐な存在か、まるでわかっていない。お前やガリのような半精霊の無垢なる者どもは、とっとと人界を去って精霊の世界へ帰れ」
ザヒはイーアに向かっていつものように見下したような口調でそう言った。
でも、今は馬鹿にされているようには感じなかった。
イーアは、なんとなくわかってきた。ザヒの口調も態度も、きっとザヒの本音をそのまま映してはいない。
ガリが冷たい態度をとっていても、その心は決して冷たくないように。
ものすごく面倒くさい兄弟だけど。たぶん、この二人は口で言うほど互いを嫌っているわけでも無関心なわけでもない。
「帰らないよ。ここがわたしの生きる世界だから。わたしはウェルグァンダルの召喚士だもん」
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今までにもザヒが呼んだことのある、巨大な鎧の亡霊たちだ。
だけど、今回は一体だけじゃなく、十体以上の兵士が、亡霊の軍隊のように集団で出現していた。
一体ずつでも強いのに。単純に足しても十倍以上の戦力だ。さらに連携攻撃なんてされたら、とんでもない。
『なんか作戦あるか?』
ティトは武者震いしながら、そうたずねた。イーアには特別な作戦なんてなかったけれど、迷いもなかった。レントンの大樹が投げ渡してくれた実にかじりつきながら、イーアは言った。
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『ドズミリミル! パラオーチと一緒に鎧の兵士の足をとめて!』
数には数で対抗だ。レントンの大樹達のおかげで、魔力はほぼ満タン状態だ。
『オーロガロン! ウフェルプと一緒に空から攻撃! なるべく敵を一か所に集めて』
巨大な亡霊兵達をなるべく一か所に集めたところで、ティロモサをもう一度呼んで、一気に倒すつもりだった。
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