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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第179話 ユウリ、<星読みの塔>に
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<星読みの塔>塔主の部屋。
不機嫌そうな塔主アスカルの前に、端正な顔だちの少年が立ち、挨拶をした。
「<星読みの塔>の警備のために派遣されました。エルツ・クローです。よろしくお願いします」
「ああ。バルトルから話は聞いている。まぁ、適当にやってくれ。といっても、うちは機密情報が多いから、塔の内部はあまりうろつかれると困るが」
「わかりました。塔の外の見回りをします」
「そうしてくれ」
ユウリが去った後、占術士リリファはアスカルにたずねた。
「なぜ、<白光>は彼をここに? 我々への監視のためでしょうか? 何か<白光>に疑いをもたれるようなことがあったでしょうか? 我々ほど帝国に忠実な門派はないはずですが」
一般的には、<星読みの塔>はもっとも王家と帝国に忠実な魔導士組織だと知られている。
帝国のためにはどんな犠牲も厭わない。
<星読みの塔>は、かつては特にそういう組織だった。
そして、その犠牲になってきたのが、<星読み>エレイをはじめとした占術士達だった。
アスカルは<星読みの塔>を大きく変える改革を行ってきた。
非人道的な行いを禁止し、占術士の自由を拡大する改革は、犠牲にされてきた若い占術士達から支持されたが、かつて塔の中で権力を握っていた守旧派の反発は大きかった。
時には敵対するものを力で捻じ伏せ黙らせながら、アスカルは改革を行ってきた。
だが、どんな改革を行ってもアスカルや<星読みの塔>が王家への忠誠を疑われたことはなかった。
それはアスカルと国王の関係による。
アスカルの父は大魔導士カーラルと称えられた魔導士だが、カーラルは平民と結婚するために王位継承権を放棄した元王子であり、今の国王の弟にあたる。
カーラルは幼少時から非常に優秀で、末弟であるカーラルを次期国王にという声もあったほどだが、そのためにあえてカーラルは王位継承権を放棄したともいわれる。
現国王と他の兄弟の間には熾烈な争いがあったが、自ら早くに王位継承争いから離脱したカーラルと現国王の関係は決して悪くなかった。
ちなみに、アスカルの母がただの平民ではなく、帝国内で差別を受けている少数民族ラナ人であることは、国家機密扱いの秘密だが、型破りなアスカルの父はそういうことに無頓着だったため、アスカル自身はラナの文化にも触れて育ち、おそらく母親の家系ゆずりの占術の才能を開花させた。
カーラルと現国王の仲がよかったため、アスカルは幼い頃から王家に出入りしていた。男児ばかり生まれて娘のいなかった国王は、姪のアスカルを娘のようにかわいがってきた。
その国王の後ろ盾あって初めて、アスカルによる<星読みの塔>の改革は可能になったのだ。
そのため、<星読みの塔>は今も最も王家に忠実な組織だと思われている。
アスカルは投げやりにリリファに答えた。
「いーや。これは、あの坊やが何かしでかした時、我々に責任を押し付けるためさ。あのかわいいクローの坊やは反乱勢力の少女とつながっているんでね」
「はぁ。また、クローらしい話ですね。お父上似の見目麗しい少年ですから、何も許されぬ恋に走らずとも、彼と恋に落ちる少女は無数にいるでしょうに。本当にロマンチックな一族」
リリファは、どこかうっとりとした様子で、ため息をついた。
「厄介なのは、あの坊やは顔がいいだけじゃないんだ。クロー本家に生まれた男子としてここ数百年で最高の才能を持つといわれている」
「ホスルッド様を超えるのですか。ホスルッド様がホーヘンハインの城主になられた時は、あの若さで城主になった方は、ホーヘンハインの城主を輩出してきたクロー家の中でも珍しいと話題でしたよね」
「ホスルッドは、ああみえて努力で伸びた人間だからね。少年時代はクロー本家の無才の問題児といわれていたもんさ。<白光>のクロー派としては、将来有望な跡取りを守りたいが、あの坊やが何かしでかした時に自分達が責任を取らされるのも嫌だ。つまり、我々はバルトルに、大事な爆弾のお守りを押し付けられたってわけだ」
「なるほど。我々が彼をしっかり監視しないといけない、ということですね?」
だが、アスカルは言った。
「いや。放っておけ。何がどう転がるか、すでに我々ですらわからないんだ。若い奴らには好きにやらせればいいさ」
「アスカル様。それでは、王家を守護するという我々の役目を果たせません」
リリファがたしなめると、アスカルは深く考えこむような表情をうかべてつぶやいた。
「我々の役目、か」
・・・
<白光>の任務として<星読みの塔>に派遣されたものの、ユウリは特に仕事を与えられるわけではなかった。
しかも、<星読みの塔>は入門者以外は立ち入り禁止の場所が多く、塔の内部はほとんど見て回ることができない。
そのため、ユウリは毎日<星読みの塔>の周囲を警備のために散歩してまわるだけの日々を送った。
塔の周囲には何もなかった。
<星読みの塔>は山の上にあり、その山にはこの塔の他には何もないのだ。
ただ、山頂にある塔からの眺めはよく、低い丘の上に建てられた白亜の城と、その城の前に広がる湖の光景が美しかった。
あの城は今は離宮として使われていて、風光明媚なこの場所を気に入っている国王は、よくあの城に滞在していた。
そのため、帝都からは離れた場所だが、ここはここで帝国の中枢ともいえる場所だった。
だからこそ、不思議だった。
バルトルがここにユウリを派遣したのは、イーア達に協力させないためだろう。
だが、バルトルのやり口は徹底していなかった。
ユウリは今でもイーアと手紙のやり取りができる。
手紙の内容を盗み見られている可能性はあるため、お互い重要なことは伝えない。それでも、ユウリは最近反乱軍が「不死者の王」に苦戦していることをイーアからの報せで知っていた。
(バルトルさんは、何を考えているのだろう)
本気でユウリの動きを封じたいならば、どこかに幽閉してしまえばいい。どこか、もっと辺鄙な場所に。だが、そうしない。
<星読みの塔>の占術士達なら、ユウリが何か行動をとろうとすれば、占術で事前に察知することができるから、彼らの力に期待しているのだろうか。
だが、仮に裏切りを察知したとしても、<星読みの塔>の占術士達は、いざ戦闘になればユウリにかなわないはずだ。
自然魔法は初等魔学校で最初にならう魔法のひとつだが、達人の扱う自然魔法の攻撃力は数ある魔術の中でも最上級だ。
ホーヘンハインに入門して数年、ユウリはすでに一流の自然魔法使いになっていた。
戦闘に使える魔術を習得しない占術士達は、何人いようとユウリに瞬殺される。
この処遇は、すべてが中途半端なのだ。
むしろバルトルはユウリを本気でとめる気はない。
そう思えてくる。
ユウリがそんなことを考えながら、<星読みの塔>の中庭に座っていると、音がした。
車輪がきしみながら草を踏み、ゆっくりと車いすの少年が進んできていた。
「今日はいい天気だね」
「はい……」
落ち着いた声や雰囲気は年上のようだったが、外見や声は同じ年頃か、むしろ少し年下の少年のように思えた。
車椅子の少年は<星読みの塔>の占術士に違いないだろう。
だが、<星読みの塔>の占術士は、塔主以外は姿をあまり知られていない。
ここにきてから紹介されることもなかったので、ユウリは相手が誰だかわからなかった。
「僕はエレイ。君に届け物を頼まれたんだ」
「届け物?」
「うん。ほら、これだよ」
車椅子に座るエレイの膝の上に小箱がのせられていた。
ユウリはその小箱をとりあげた。開けてみると、中には、とても強い魔力が秘められた球が入っていた。
「これは?」
「<生命の霊玉>。死に瀕した者の命を救ってくれる」
見たのは初めてだったが、名前は知っていた。
生命の霊薬よりも効果が強い蘇生アイテムだ。
即座に使えば死んだ者すら蘇らせるといわれる、とても強力で、とても貴重なものだ。
「なんでそんな高価なものを? 誰が?」
「箱の中を見てごらん。なぜあの人が君にそれを送るのかは、僕にはわからない。でも、あの人が送るなら、きっと君にはそれが必要になるんだろうね。それじゃ、僕は戻らないと」
そう言うと、少年はまたゆっくりと塔の中へと戻っていった。
ユウリは手中の箱の中をもう一度よく見た。
紙が一枚入っていて、そこにはこう書かれていた。
ユウリへ
後悔しないように。
一度失われた命はもう戻らず、二度と死者とは話せない。
今はもうユウリをその名で呼ぶ者は限られている。
そしてその字には見覚えがあった。
(ナミン先生……?)
不機嫌そうな塔主アスカルの前に、端正な顔だちの少年が立ち、挨拶をした。
「<星読みの塔>の警備のために派遣されました。エルツ・クローです。よろしくお願いします」
「ああ。バルトルから話は聞いている。まぁ、適当にやってくれ。といっても、うちは機密情報が多いから、塔の内部はあまりうろつかれると困るが」
「わかりました。塔の外の見回りをします」
「そうしてくれ」
ユウリが去った後、占術士リリファはアスカルにたずねた。
「なぜ、<白光>は彼をここに? 我々への監視のためでしょうか? 何か<白光>に疑いをもたれるようなことがあったでしょうか? 我々ほど帝国に忠実な門派はないはずですが」
一般的には、<星読みの塔>はもっとも王家と帝国に忠実な魔導士組織だと知られている。
帝国のためにはどんな犠牲も厭わない。
<星読みの塔>は、かつては特にそういう組織だった。
そして、その犠牲になってきたのが、<星読み>エレイをはじめとした占術士達だった。
アスカルは<星読みの塔>を大きく変える改革を行ってきた。
非人道的な行いを禁止し、占術士の自由を拡大する改革は、犠牲にされてきた若い占術士達から支持されたが、かつて塔の中で権力を握っていた守旧派の反発は大きかった。
時には敵対するものを力で捻じ伏せ黙らせながら、アスカルは改革を行ってきた。
だが、どんな改革を行ってもアスカルや<星読みの塔>が王家への忠誠を疑われたことはなかった。
それはアスカルと国王の関係による。
アスカルの父は大魔導士カーラルと称えられた魔導士だが、カーラルは平民と結婚するために王位継承権を放棄した元王子であり、今の国王の弟にあたる。
カーラルは幼少時から非常に優秀で、末弟であるカーラルを次期国王にという声もあったほどだが、そのためにあえてカーラルは王位継承権を放棄したともいわれる。
現国王と他の兄弟の間には熾烈な争いがあったが、自ら早くに王位継承争いから離脱したカーラルと現国王の関係は決して悪くなかった。
ちなみに、アスカルの母がただの平民ではなく、帝国内で差別を受けている少数民族ラナ人であることは、国家機密扱いの秘密だが、型破りなアスカルの父はそういうことに無頓着だったため、アスカル自身はラナの文化にも触れて育ち、おそらく母親の家系ゆずりの占術の才能を開花させた。
カーラルと現国王の仲がよかったため、アスカルは幼い頃から王家に出入りしていた。男児ばかり生まれて娘のいなかった国王は、姪のアスカルを娘のようにかわいがってきた。
その国王の後ろ盾あって初めて、アスカルによる<星読みの塔>の改革は可能になったのだ。
そのため、<星読みの塔>は今も最も王家に忠実な組織だと思われている。
アスカルは投げやりにリリファに答えた。
「いーや。これは、あの坊やが何かしでかした時、我々に責任を押し付けるためさ。あのかわいいクローの坊やは反乱勢力の少女とつながっているんでね」
「はぁ。また、クローらしい話ですね。お父上似の見目麗しい少年ですから、何も許されぬ恋に走らずとも、彼と恋に落ちる少女は無数にいるでしょうに。本当にロマンチックな一族」
リリファは、どこかうっとりとした様子で、ため息をついた。
「厄介なのは、あの坊やは顔がいいだけじゃないんだ。クロー本家に生まれた男子としてここ数百年で最高の才能を持つといわれている」
「ホスルッド様を超えるのですか。ホスルッド様がホーヘンハインの城主になられた時は、あの若さで城主になった方は、ホーヘンハインの城主を輩出してきたクロー家の中でも珍しいと話題でしたよね」
「ホスルッドは、ああみえて努力で伸びた人間だからね。少年時代はクロー本家の無才の問題児といわれていたもんさ。<白光>のクロー派としては、将来有望な跡取りを守りたいが、あの坊やが何かしでかした時に自分達が責任を取らされるのも嫌だ。つまり、我々はバルトルに、大事な爆弾のお守りを押し付けられたってわけだ」
「なるほど。我々が彼をしっかり監視しないといけない、ということですね?」
だが、アスカルは言った。
「いや。放っておけ。何がどう転がるか、すでに我々ですらわからないんだ。若い奴らには好きにやらせればいいさ」
「アスカル様。それでは、王家を守護するという我々の役目を果たせません」
リリファがたしなめると、アスカルは深く考えこむような表情をうかべてつぶやいた。
「我々の役目、か」
・・・
<白光>の任務として<星読みの塔>に派遣されたものの、ユウリは特に仕事を与えられるわけではなかった。
しかも、<星読みの塔>は入門者以外は立ち入り禁止の場所が多く、塔の内部はほとんど見て回ることができない。
そのため、ユウリは毎日<星読みの塔>の周囲を警備のために散歩してまわるだけの日々を送った。
塔の周囲には何もなかった。
<星読みの塔>は山の上にあり、その山にはこの塔の他には何もないのだ。
ただ、山頂にある塔からの眺めはよく、低い丘の上に建てられた白亜の城と、その城の前に広がる湖の光景が美しかった。
あの城は今は離宮として使われていて、風光明媚なこの場所を気に入っている国王は、よくあの城に滞在していた。
そのため、帝都からは離れた場所だが、ここはここで帝国の中枢ともいえる場所だった。
だからこそ、不思議だった。
バルトルがここにユウリを派遣したのは、イーア達に協力させないためだろう。
だが、バルトルのやり口は徹底していなかった。
ユウリは今でもイーアと手紙のやり取りができる。
手紙の内容を盗み見られている可能性はあるため、お互い重要なことは伝えない。それでも、ユウリは最近反乱軍が「不死者の王」に苦戦していることをイーアからの報せで知っていた。
(バルトルさんは、何を考えているのだろう)
本気でユウリの動きを封じたいならば、どこかに幽閉してしまえばいい。どこか、もっと辺鄙な場所に。だが、そうしない。
<星読みの塔>の占術士達なら、ユウリが何か行動をとろうとすれば、占術で事前に察知することができるから、彼らの力に期待しているのだろうか。
だが、仮に裏切りを察知したとしても、<星読みの塔>の占術士達は、いざ戦闘になればユウリにかなわないはずだ。
自然魔法は初等魔学校で最初にならう魔法のひとつだが、達人の扱う自然魔法の攻撃力は数ある魔術の中でも最上級だ。
ホーヘンハインに入門して数年、ユウリはすでに一流の自然魔法使いになっていた。
戦闘に使える魔術を習得しない占術士達は、何人いようとユウリに瞬殺される。
この処遇は、すべてが中途半端なのだ。
むしろバルトルはユウリを本気でとめる気はない。
そう思えてくる。
ユウリがそんなことを考えながら、<星読みの塔>の中庭に座っていると、音がした。
車輪がきしみながら草を踏み、ゆっくりと車いすの少年が進んできていた。
「今日はいい天気だね」
「はい……」
落ち着いた声や雰囲気は年上のようだったが、外見や声は同じ年頃か、むしろ少し年下の少年のように思えた。
車椅子の少年は<星読みの塔>の占術士に違いないだろう。
だが、<星読みの塔>の占術士は、塔主以外は姿をあまり知られていない。
ここにきてから紹介されることもなかったので、ユウリは相手が誰だかわからなかった。
「僕はエレイ。君に届け物を頼まれたんだ」
「届け物?」
「うん。ほら、これだよ」
車椅子に座るエレイの膝の上に小箱がのせられていた。
ユウリはその小箱をとりあげた。開けてみると、中には、とても強い魔力が秘められた球が入っていた。
「これは?」
「<生命の霊玉>。死に瀕した者の命を救ってくれる」
見たのは初めてだったが、名前は知っていた。
生命の霊薬よりも効果が強い蘇生アイテムだ。
即座に使えば死んだ者すら蘇らせるといわれる、とても強力で、とても貴重なものだ。
「なんでそんな高価なものを? 誰が?」
「箱の中を見てごらん。なぜあの人が君にそれを送るのかは、僕にはわからない。でも、あの人が送るなら、きっと君にはそれが必要になるんだろうね。それじゃ、僕は戻らないと」
そう言うと、少年はまたゆっくりと塔の中へと戻っていった。
ユウリは手中の箱の中をもう一度よく見た。
紙が一枚入っていて、そこにはこう書かれていた。
ユウリへ
後悔しないように。
一度失われた命はもう戻らず、二度と死者とは話せない。
今はもうユウリをその名で呼ぶ者は限られている。
そしてその字には見覚えがあった。
(ナミン先生……?)
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