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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第180話 雪山
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辺り一面真っ白だ。
アグラシア北部にある高山エルブロン。この山の上の方は夏でも雪が解けない、一年中雪に閉ざされた地だ。
一歩足を踏み外せばどこまでも転がり落ちていきそうな険しい雪山を、イーアは歩いていた。
イーアは、靴裏に滑らないようにトゲトゲがついていて、かつ、魔力で雪の中に沈まない雪山用の浮遊靴を履いているけれど、それでも雪山を歩くのは大変だ。
歩いているうちに仲良くなった小さな雪の精霊ピリラル達がキラキラと光りながらイーアの周辺を漂っている。
ティトは、たまに出てくるけど、数秒で『うー。寒い』と唸って、いなくなってしまう。
太陽の霊獣と呼ばれるラシュトは、寒さには弱いらしい。
イーアはひとりだとさみしいから、たまにウェルグァンダルの塔のキッチンで食べ物を冷やしている白くてふわふわなヒューラックを呼び出していっしょに歩いていた。
ザヒはこの山のどこかにトイネリアへの入り口があるとは教えてくれたけれど、それがどこなのかは教えてくれなかった。
ザヒもわからないのかもしれない。
ここには道も目印になるような建物もないのだ。
イーアはもう自分がどこを歩いているのか、さっぱりわからない。
空から探した方が簡単だろうけれど、熱帯地域に住むオーロガロンや火山に住む火竜は寒いところが苦手なのでここには呼べない。
他にイーアがいても空を飛べそうなのはガネンの森にすむ『風船鳥ププップ』だけだから、呼んでみたけれど、ププップは浮かぶことしかしない鳥だから移動はできない。
イーアはププップの足につかまって空に浮かんで、上空から探してみたけれど、それらしきものは見つからなかった。
でも、途中で会った、きれいな女の人のような精霊ピリラレルカによると、この雪山の中に、たしかに異界へ続く場所があるらしい。
イーアは目的地への道を聞きたかったけれど、雪山には道も何もないから、ピリラレルカに方角を教えてもらって、あとは歩けるところを歩くだけだった。
今はもう、正しい方向に進んでいるのかもよくわからない。
何も見つからないまま日が暮れようとしていた。
(服はいっぱい着こんできたけど、この雪山でただ野宿したら凍死しちゃうよね。急がないと)
イーアは風船鳥ププップを呼んで、もう一度上空から周囲を見渡した。
すると、近くに何か丸い建物みたいなものが見えた。
『建物? 人が住んでいるのかな』
『ヒュー?』
イーアの頭の上で一緒に空に浮かんでいるヒューラックがそんな声をだしたけど、ヒューラックは精霊語を話さないから何を言っているのかはよくわからない。
『ププップ、ありがとう。下に降りて』
空に上がった時と同じようにゆーっくり、風船鳥は下降した。
地面に降りるとイーアはその建物みたいなものがあった窪地に向かって進んだ。
そこには、雪でできたドーム型の家のようなものが建っていた。
『これ、やっぱり誰かの家だよね?』
イーアは「こんにちはー」と言いながら、ドーム状の建物の中に入ってみた。
『らっしゃーい!』
イーア達は元気のいい声に迎え入れられた。
『クーちゃん!?』
そこにいたのは、『料理鳥ククックー』だった。
『あんだぁ? おりゃ、クックググだ』
イーアの横にあらわれたティトが身震いしながら、あきれたような声で言った。
『こんなとこにもククックーがいるのか。こいつら、どこにでもいるんだな』
カンラビの密林でも、誰も来ないような変なところでククックーのククディがレストランを開いていたけれど。
『すごいね。ククックーって。じゃあ、ここは、クックググのお店なの?』
『おう。ドフラックの家を借りて店を開いたんだ』
『ドフラック?』
イーアが聞き返すと部屋の奥から、『ヴォー』という低い声が聞こえた。白い毛むくじゃらの巨人みたいな精霊ドフラックが奥にいた。
この雪で出来たドーム状の建物はドフラックの家らしい。
イーアが連れてきたヒューラックが『ヒュー』と小さな手をあげてドフラックにあいさつをした。
ドフラックも『ヴォー』と返事をした。
ヒューラックはイーアから降りて、ドフラックのところに移動していった。
ふたりはちゃんと意思疎通できているみたいだった。
大きさも形も全然違うけど、ヒューラックとドフラックは近い種族の精霊なのかもしれない。
『クックググはどんな料理を作るの? この雪山、植物はほとんどないよね』
『鍋料理だ。今あたためるから、待ってな』
そう言って、クックググは鍋を火にかけた。
イーアはつぶやいた。
『お代は、食材だよね、きっと。そうだ。クーちゃんとククディを呼んじゃおうかな』
『あいつらを呼んだら、ケンカするだろ』
ティトにそう言われてみれば、たしかにククディは料理バトルをしかけそうだったので呼ぶのをやめて、イーアは『クーちゃん、食材を持ってきて』とクーちゃんだけ呼んだ。
数分後、クーちゃんが食材の入ったバスケットを持って、文句を言いながらでてきた。
『おい、何が食べたいんだ。食べたい物をはっきり言わねぇと、何の食材もってくりゃいいかわからねぇ』
『クックググへのお礼だから、何でもいいよ』
そう言った瞬間、イーアは自分が料理鳥ククックーに対して言ってはいけないことを言ったと悟った。
『あぁ? 何でもいいだとぉ!? おれの料理をくわないだとぉ!?』
普段は気のいい霊鳥のクーちゃんが、怒って翼をバサバサいわせている。
ティトがあくびをしながら言った。
『食うぞ。おれは食いまくるぞ』
『うん。食べる! クーちゃんの料理食べたい! でも、クーちゃんが料理を作る場所がないね』
クックググが使っているかまどのほかには、火が使える場所はない。
『なんてこった。これじゃサラダしか作れねぇ』
そう言いながら、クーちゃんはさっそく生野菜でサラダを作り出した。
クーちゃんの機嫌はなおったので、イーアはほっとした。
そこで、クックググがふりかえった。
『はい、おまち。3名さ……4名様になってらぁ!』
クーちゃんに気が付いていなかったクックググはそう言いながら、追加の食器を出して、鍋から料理をよそった。
その時には、クーちゃんも『ほらよ。爆裂トマトと爆乳牛チーズのサラダ、できあがり!』と言って、サラダののった大皿を出していた。
『おいしそう!』
ドフラックとヒューラックも加わり、みんなでご飯を食べた。
クーちゃんのサラダはいつも通りとてもおいしくて、クックググの鍋料理はとても体が温まっておいしかった。
クックググは発酵食品を沢山つかっているみたいで、クーちゃんの料理ともククディの料理とも違った種類の、体によさそうな料理だった。
『おいしー。あたたまるー』
『ここのククックーもやるな』
イーアとティトがそう言っている横で、クックググはクーちゃんが持ってきた食材の残りを喜んでもらっていた。
『こりゃいい。この辺りじゃ手に入らないもんだらけだ』
『食材がほしけりゃ塔に取りにくりゃいい。ほら、あいつが持ってる本とひょひょいと契約すると一瞬で移動できるようになるんだ』
そうクーちゃんが言って、クックググが勝手に召喚契約している気配がしていたけれど、イーアはそんなことより料理に夢中だった。
その夜は、ドフラックの家に泊めてもらった。
イーアがトイネリアの入り口を知らないかたずねると、ドフラックは何か知っている様子だったので、案内を頼み、翌朝、出発した。
朝日が降り注ぐ中、ドフラックはイーアを肩にのせて雪山の中を進んでいった。
やがて、ドフラックは腕をあげた。
大きな毛むくじゃらなドフラックの手の指し示す先に、獣のような形の岩があった。
『ありがとう!』
イーアは礼を言い、ドフラックから降り、雪に半分うずもれた岩に近づいた。
ザヒにもらった骨と牙でできた獣の形の魔道具を近づけると、岩から深く低い吠え声が聞こえた。
イーアは明るい雪山が突如、闇に包まれたように感じた。
トイネリアへの入り口が開いたのだ。
イーアはその闇の中へと足を踏み入れた。
アグラシア北部にある高山エルブロン。この山の上の方は夏でも雪が解けない、一年中雪に閉ざされた地だ。
一歩足を踏み外せばどこまでも転がり落ちていきそうな険しい雪山を、イーアは歩いていた。
イーアは、靴裏に滑らないようにトゲトゲがついていて、かつ、魔力で雪の中に沈まない雪山用の浮遊靴を履いているけれど、それでも雪山を歩くのは大変だ。
歩いているうちに仲良くなった小さな雪の精霊ピリラル達がキラキラと光りながらイーアの周辺を漂っている。
ティトは、たまに出てくるけど、数秒で『うー。寒い』と唸って、いなくなってしまう。
太陽の霊獣と呼ばれるラシュトは、寒さには弱いらしい。
イーアはひとりだとさみしいから、たまにウェルグァンダルの塔のキッチンで食べ物を冷やしている白くてふわふわなヒューラックを呼び出していっしょに歩いていた。
ザヒはこの山のどこかにトイネリアへの入り口があるとは教えてくれたけれど、それがどこなのかは教えてくれなかった。
ザヒもわからないのかもしれない。
ここには道も目印になるような建物もないのだ。
イーアはもう自分がどこを歩いているのか、さっぱりわからない。
空から探した方が簡単だろうけれど、熱帯地域に住むオーロガロンや火山に住む火竜は寒いところが苦手なのでここには呼べない。
他にイーアがいても空を飛べそうなのはガネンの森にすむ『風船鳥ププップ』だけだから、呼んでみたけれど、ププップは浮かぶことしかしない鳥だから移動はできない。
イーアはププップの足につかまって空に浮かんで、上空から探してみたけれど、それらしきものは見つからなかった。
でも、途中で会った、きれいな女の人のような精霊ピリラレルカによると、この雪山の中に、たしかに異界へ続く場所があるらしい。
イーアは目的地への道を聞きたかったけれど、雪山には道も何もないから、ピリラレルカに方角を教えてもらって、あとは歩けるところを歩くだけだった。
今はもう、正しい方向に進んでいるのかもよくわからない。
何も見つからないまま日が暮れようとしていた。
(服はいっぱい着こんできたけど、この雪山でただ野宿したら凍死しちゃうよね。急がないと)
イーアは風船鳥ププップを呼んで、もう一度上空から周囲を見渡した。
すると、近くに何か丸い建物みたいなものが見えた。
『建物? 人が住んでいるのかな』
『ヒュー?』
イーアの頭の上で一緒に空に浮かんでいるヒューラックがそんな声をだしたけど、ヒューラックは精霊語を話さないから何を言っているのかはよくわからない。
『ププップ、ありがとう。下に降りて』
空に上がった時と同じようにゆーっくり、風船鳥は下降した。
地面に降りるとイーアはその建物みたいなものがあった窪地に向かって進んだ。
そこには、雪でできたドーム型の家のようなものが建っていた。
『これ、やっぱり誰かの家だよね?』
イーアは「こんにちはー」と言いながら、ドーム状の建物の中に入ってみた。
『らっしゃーい!』
イーア達は元気のいい声に迎え入れられた。
『クーちゃん!?』
そこにいたのは、『料理鳥ククックー』だった。
『あんだぁ? おりゃ、クックググだ』
イーアの横にあらわれたティトが身震いしながら、あきれたような声で言った。
『こんなとこにもククックーがいるのか。こいつら、どこにでもいるんだな』
カンラビの密林でも、誰も来ないような変なところでククックーのククディがレストランを開いていたけれど。
『すごいね。ククックーって。じゃあ、ここは、クックググのお店なの?』
『おう。ドフラックの家を借りて店を開いたんだ』
『ドフラック?』
イーアが聞き返すと部屋の奥から、『ヴォー』という低い声が聞こえた。白い毛むくじゃらの巨人みたいな精霊ドフラックが奥にいた。
この雪で出来たドーム状の建物はドフラックの家らしい。
イーアが連れてきたヒューラックが『ヒュー』と小さな手をあげてドフラックにあいさつをした。
ドフラックも『ヴォー』と返事をした。
ヒューラックはイーアから降りて、ドフラックのところに移動していった。
ふたりはちゃんと意思疎通できているみたいだった。
大きさも形も全然違うけど、ヒューラックとドフラックは近い種族の精霊なのかもしれない。
『クックググはどんな料理を作るの? この雪山、植物はほとんどないよね』
『鍋料理だ。今あたためるから、待ってな』
そう言って、クックググは鍋を火にかけた。
イーアはつぶやいた。
『お代は、食材だよね、きっと。そうだ。クーちゃんとククディを呼んじゃおうかな』
『あいつらを呼んだら、ケンカするだろ』
ティトにそう言われてみれば、たしかにククディは料理バトルをしかけそうだったので呼ぶのをやめて、イーアは『クーちゃん、食材を持ってきて』とクーちゃんだけ呼んだ。
数分後、クーちゃんが食材の入ったバスケットを持って、文句を言いながらでてきた。
『おい、何が食べたいんだ。食べたい物をはっきり言わねぇと、何の食材もってくりゃいいかわからねぇ』
『クックググへのお礼だから、何でもいいよ』
そう言った瞬間、イーアは自分が料理鳥ククックーに対して言ってはいけないことを言ったと悟った。
『あぁ? 何でもいいだとぉ!? おれの料理をくわないだとぉ!?』
普段は気のいい霊鳥のクーちゃんが、怒って翼をバサバサいわせている。
ティトがあくびをしながら言った。
『食うぞ。おれは食いまくるぞ』
『うん。食べる! クーちゃんの料理食べたい! でも、クーちゃんが料理を作る場所がないね』
クックググが使っているかまどのほかには、火が使える場所はない。
『なんてこった。これじゃサラダしか作れねぇ』
そう言いながら、クーちゃんはさっそく生野菜でサラダを作り出した。
クーちゃんの機嫌はなおったので、イーアはほっとした。
そこで、クックググがふりかえった。
『はい、おまち。3名さ……4名様になってらぁ!』
クーちゃんに気が付いていなかったクックググはそう言いながら、追加の食器を出して、鍋から料理をよそった。
その時には、クーちゃんも『ほらよ。爆裂トマトと爆乳牛チーズのサラダ、できあがり!』と言って、サラダののった大皿を出していた。
『おいしそう!』
ドフラックとヒューラックも加わり、みんなでご飯を食べた。
クーちゃんのサラダはいつも通りとてもおいしくて、クックググの鍋料理はとても体が温まっておいしかった。
クックググは発酵食品を沢山つかっているみたいで、クーちゃんの料理ともククディの料理とも違った種類の、体によさそうな料理だった。
『おいしー。あたたまるー』
『ここのククックーもやるな』
イーアとティトがそう言っている横で、クックググはクーちゃんが持ってきた食材の残りを喜んでもらっていた。
『こりゃいい。この辺りじゃ手に入らないもんだらけだ』
『食材がほしけりゃ塔に取りにくりゃいい。ほら、あいつが持ってる本とひょひょいと契約すると一瞬で移動できるようになるんだ』
そうクーちゃんが言って、クックググが勝手に召喚契約している気配がしていたけれど、イーアはそんなことより料理に夢中だった。
その夜は、ドフラックの家に泊めてもらった。
イーアがトイネリアの入り口を知らないかたずねると、ドフラックは何か知っている様子だったので、案内を頼み、翌朝、出発した。
朝日が降り注ぐ中、ドフラックはイーアを肩にのせて雪山の中を進んでいった。
やがて、ドフラックは腕をあげた。
大きな毛むくじゃらなドフラックの手の指し示す先に、獣のような形の岩があった。
『ありがとう!』
イーアは礼を言い、ドフラックから降り、雪に半分うずもれた岩に近づいた。
ザヒにもらった骨と牙でできた獣の形の魔道具を近づけると、岩から深く低い吠え声が聞こえた。
イーアは明るい雪山が突如、闇に包まれたように感じた。
トイネリアへの入り口が開いたのだ。
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