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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~
第189話 避難
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ヨルヴァ城内、アラムの部屋。
執事姿のほおのこけた男が苦々しい表情でアラムを説得していた。
「坊。わがまま言わずに従ってください。あの人の救援にはベレタが行ったでしょう。我々は先に逃げるべきです」
執事姿の男ガーランは、ベレタと同じくアンドルの元部下のひとりだ。
執事のふりをしているがガーランは執事としてはほぼ無能だ。
その代わり、実は歴戦の戦士だ。
アラムはガーランの経歴や能力を詳しく知らないが、ガーランは以前、「護衛は面倒くせぇ。俺は暗殺が一番得意なんですがね」とこぼしていたから、アンドルが生きていた頃は、そういう仕事をになっていたようだ。
アラムは、空を飛ぶ鳥から鳴り響く「不死者の王がヨルヴァ城にせまっています、すぐに避難してください」という警告を聞いてすぐ、ベレタにイーアの援護に向かうように頼んだ。
警告の声は、これまで侯爵領内でたまに響いていたゲオの声とはちがった。
イーアの声ではなかったが、イーアはきっと近くにいる、とアラムはその声を聞いた時に確信した。
「ベレタだけじゃたりないかもしれません。ガーランも姉さんの救援に」
ガーランは大きく舌打ちした。
公式な立場としては、アラムはガーラン達の上に立つが、実際の立場はそうでもない……というより、アンドルの死後、ガーラン達はアラムを厚意で助けている状態なので、むしろ力関係は逆だった。
そして、元々裏社会で生きていたガーランのような男は、特に柄が悪い。
「あーあ。めんどくせぇ。今頃、バルゴが地下牢から脱獄したころだ。あいつが向かうでしょうよ。さぁ、あんたはここにいても邪魔にしかならないんだ。とっとと避難しましょう」
ガーランは切れかけている。
アラムはこれ以上抵抗できないことを悟りながら言った。
「帝国軍の人達にも避難を……」
「んなことしたら、逃げようとしてるのがバレるでしょうが。これだから、世間知らずの坊ちゃんは。さ、早く行きましょう。俺があんたをぶん殴っちまう前に」
アラムは執事姿のガーランに引きずられるように避難を開始した。
・・・
イーアが林の中に隠れていると、しばらくして、オッペンがマーカスとベレタをつれてやってくるのが見えた。
イーアは藪のかげから出て声をかけた。
「みんな、無事だね。よかった」
「おう。おれは無敵の占術戦士だからな」
「オッペンより、その女性の方が強かったけどな」
マーカスはベレタのことを指して言った。
いつかアラムが「ベレタはあんな細身なのにバルゴより強いらしいんです」と言っていたのをイーアは思い出した。
「ベレタ、ありがとう。アラムに言われて助けにきてくれたんだよね?」
ベレタは無表情のまま早口に言った。
「はい。あの奇妙な鳥の警告はあなたによるものに違いない、姉さんはきっと近くで不死者の王と対峙しているはずだから助けなければ、そうでなければ避難しない、と、アラム様が幼児のような聞き分けのなさでかたくなに主張しましたので、仕方がなく助けに参りました」
「あ……うん。アラムってたまにすごくがんこだよね。アラムはちゃんと避難できたかな」
ベレタは無表情のまま言った。
「アラム様はすでに城から出たと仲間から連絡を受けました。我々も不死者の王から離れましょう。他にも<白光>の刺客がいそうなので、安全な場所に着くまで私が同行します」
「ありがとう」
今は不死者の王から離れるしかない。
魔力吸収や召喚無効の術を使われてしまっては、イーアには何もできない。
「でも、魔法無効攻撃があるなんてね」
イーアはつぶやいた。
不死者の王やその軍勢には光属性や治癒魔法は効く。
けれど、結局、あんな術を使われてしまったら、光属性の魔法を使える者も治癒師も、不死者の王の前では無力ということだ。
戦士の物理攻撃もきかないから、不死者の王には本当に打つ手がない。
なんでその能力を今まで隠していたのか、あるいは、むしろ、なんでその能力をイーアが戦士達に遭遇したあのタイミングで使ってきたのか、が気になるけれど。
ティトは低くうなるように言った。
『やっかいだぞ。おれも力を吸い取られて何もできなくなる』
『うん。キャシーがくれた魔力回復薬のおかげで、わたしは大丈夫だけど』
以前、キャシーはこっそりと魔法薬学研究所で作っている最新の魔力回復薬をイーアにくれた。
その魔力回復薬は、回復量は小さいけれど徐々に魔力を回復し続けるもので、それがあれば不死者の王に吸収されてしまった魔力分くらいを常に回復できるから、不死者の王の霊力吸収を実質無効にできる。
ただし、その薬は人間用なので、ティト達、完全な精霊には効果がなかった。
『でも、不死者の王の動きは遅いから、避難することはできるね』
木々の上に見える不死者の王の頭の位置を確認しながらイーアは言った。
この調子なら、きっと、ヨルヴァ城にいる帝国軍兵士たちも無事に避難できるはずだ。
だが、ヨルヴァ城が見下ろせる峠までたどりついたところで、イーアは気が付いた。
城の周辺には今も沢山の兵士がいる。
「おい。あいつら、何をのんびりしてるんだ? 馬鹿なのか?」
マーカスが信じられないというように言った。
帝国軍の兵士たちは全く避難をしていなかった。
不死者の王はもうすぐ近くまで迫っているのに。
きっと、城の見張りも巨大な不死者の王が歩いてくる姿がもう視界に入っているはずだ。
だけど、アレが何か、理解できていないのかもしれない。
イーアは『友契の書』にたずねた。
『ルヴィ、召喚はまだダメ?』
『不死者の王とやらによる妨害効果は弱まってきました。召喚は可能ですが、弱まったとはいえ妨害と霊力吸収が続いているので、大きな霊力を持つ精霊の召喚には精霊側からの霊力提供が必要です。また、呼び出せても精霊の弱体化が避けられません』
『わかった。魔法無効の効果は弱まっているんだね。ルヴィ、支配者の石板を使ってる敵と戦うから力を貸してって、みんなに声をかけといて』
魔法無効攻撃は永遠に続くわけではなさそうだ。
イーアの魔力が足りなくても、『支配者の石板』の欠片を守ることを使命としてきたヤゴンリルやエラスシオ達は自分の魔力を使ってでも進んで協力してくれるだろう。
呼んでも精霊達がどれだけの力をだせるかはわからないけれど、どうにか召喚術は使えそうだ。
再び、不死者の王が魔法無効の攻撃をするまでは。
だけど、ティトは吠えるように言った。
『おい。イーア。あの人間達を助けにいくとか言う気じゃないだろうな』
精霊語はわからないはずだけど、気配で察したのだろう。マーカスがティトと同じようなことを言った。
「まさか、あいつらを助けに行くとか言うんじゃないだろうな?」
ベレタが即座に言った。
「彼らは敵です。気にせず進みましょう」
イーアは頭を横に振った。
「帝国軍の兵士だって、ひとりひとりはみんなただの人間だもん。わたしは新しい国を作りたいだけだから、敵なんていないんだよ。新しい国はアグラシアに生きる人達みんなでつくるものだから」
ベレタはきっぱり言った。
「いいえ、彼らは敵です。そして、敵をできるだけ多く殺すのが戦争です」
マーカスはベレタの言葉にうなずいたけれど、イーアは言った。
「わたしは戦争には加わらないよ。わたしは召喚士の仕事をするだけ。人でも精霊でも、できるだけたくさん助けるのが召喚士の仕事。それに、あの人達全員が、不死者の軍勢に加わったら、大変なことになるよ?」
ベレタは黙った。
いつも通り楽観的であまり考えていないオッペンは、「さすがイーアだぜ。よっしゃ。やろうぜ!」と言った。
でも、ティトは何も知らない人が見たらイーアを殺しそうだと思いそうなくらいに怖い顔でうなった。
『無謀すぎる! 誰を呼び出しても、不死者の王は倒せないぞ。イーランはまだ見つかってないんだ。しかも、あの兵士達はきっとイーアを攻撃する。死にに行くだけだ。絶対にダメだ!』
『でも、あの人達が不死者の王に殺されるのを見殺しになんて、できないよ』
不死者の王は城のすぐ近くに迫っていた。
不死者の王は突然立ち止まり、王笏を高く掲げた。
「おい、不死者の王は何をやってるんだ?」
マーカスがそう言った時、イーアは再び魔力を吸い取られるのを感じた。
「魔力を、あの杖に溜めてる……」
不死者の王はヨルヴァ城に向かって王笏を振った。
王笏から激しい光が放たれ、そして、城の上部が消えた。
執事姿のほおのこけた男が苦々しい表情でアラムを説得していた。
「坊。わがまま言わずに従ってください。あの人の救援にはベレタが行ったでしょう。我々は先に逃げるべきです」
執事姿の男ガーランは、ベレタと同じくアンドルの元部下のひとりだ。
執事のふりをしているがガーランは執事としてはほぼ無能だ。
その代わり、実は歴戦の戦士だ。
アラムはガーランの経歴や能力を詳しく知らないが、ガーランは以前、「護衛は面倒くせぇ。俺は暗殺が一番得意なんですがね」とこぼしていたから、アンドルが生きていた頃は、そういう仕事をになっていたようだ。
アラムは、空を飛ぶ鳥から鳴り響く「不死者の王がヨルヴァ城にせまっています、すぐに避難してください」という警告を聞いてすぐ、ベレタにイーアの援護に向かうように頼んだ。
警告の声は、これまで侯爵領内でたまに響いていたゲオの声とはちがった。
イーアの声ではなかったが、イーアはきっと近くにいる、とアラムはその声を聞いた時に確信した。
「ベレタだけじゃたりないかもしれません。ガーランも姉さんの救援に」
ガーランは大きく舌打ちした。
公式な立場としては、アラムはガーラン達の上に立つが、実際の立場はそうでもない……というより、アンドルの死後、ガーラン達はアラムを厚意で助けている状態なので、むしろ力関係は逆だった。
そして、元々裏社会で生きていたガーランのような男は、特に柄が悪い。
「あーあ。めんどくせぇ。今頃、バルゴが地下牢から脱獄したころだ。あいつが向かうでしょうよ。さぁ、あんたはここにいても邪魔にしかならないんだ。とっとと避難しましょう」
ガーランは切れかけている。
アラムはこれ以上抵抗できないことを悟りながら言った。
「帝国軍の人達にも避難を……」
「んなことしたら、逃げようとしてるのがバレるでしょうが。これだから、世間知らずの坊ちゃんは。さ、早く行きましょう。俺があんたをぶん殴っちまう前に」
アラムは執事姿のガーランに引きずられるように避難を開始した。
・・・
イーアが林の中に隠れていると、しばらくして、オッペンがマーカスとベレタをつれてやってくるのが見えた。
イーアは藪のかげから出て声をかけた。
「みんな、無事だね。よかった」
「おう。おれは無敵の占術戦士だからな」
「オッペンより、その女性の方が強かったけどな」
マーカスはベレタのことを指して言った。
いつかアラムが「ベレタはあんな細身なのにバルゴより強いらしいんです」と言っていたのをイーアは思い出した。
「ベレタ、ありがとう。アラムに言われて助けにきてくれたんだよね?」
ベレタは無表情のまま早口に言った。
「はい。あの奇妙な鳥の警告はあなたによるものに違いない、姉さんはきっと近くで不死者の王と対峙しているはずだから助けなければ、そうでなければ避難しない、と、アラム様が幼児のような聞き分けのなさでかたくなに主張しましたので、仕方がなく助けに参りました」
「あ……うん。アラムってたまにすごくがんこだよね。アラムはちゃんと避難できたかな」
ベレタは無表情のまま言った。
「アラム様はすでに城から出たと仲間から連絡を受けました。我々も不死者の王から離れましょう。他にも<白光>の刺客がいそうなので、安全な場所に着くまで私が同行します」
「ありがとう」
今は不死者の王から離れるしかない。
魔力吸収や召喚無効の術を使われてしまっては、イーアには何もできない。
「でも、魔法無効攻撃があるなんてね」
イーアはつぶやいた。
不死者の王やその軍勢には光属性や治癒魔法は効く。
けれど、結局、あんな術を使われてしまったら、光属性の魔法を使える者も治癒師も、不死者の王の前では無力ということだ。
戦士の物理攻撃もきかないから、不死者の王には本当に打つ手がない。
なんでその能力を今まで隠していたのか、あるいは、むしろ、なんでその能力をイーアが戦士達に遭遇したあのタイミングで使ってきたのか、が気になるけれど。
ティトは低くうなるように言った。
『やっかいだぞ。おれも力を吸い取られて何もできなくなる』
『うん。キャシーがくれた魔力回復薬のおかげで、わたしは大丈夫だけど』
以前、キャシーはこっそりと魔法薬学研究所で作っている最新の魔力回復薬をイーアにくれた。
その魔力回復薬は、回復量は小さいけれど徐々に魔力を回復し続けるもので、それがあれば不死者の王に吸収されてしまった魔力分くらいを常に回復できるから、不死者の王の霊力吸収を実質無効にできる。
ただし、その薬は人間用なので、ティト達、完全な精霊には効果がなかった。
『でも、不死者の王の動きは遅いから、避難することはできるね』
木々の上に見える不死者の王の頭の位置を確認しながらイーアは言った。
この調子なら、きっと、ヨルヴァ城にいる帝国軍兵士たちも無事に避難できるはずだ。
だが、ヨルヴァ城が見下ろせる峠までたどりついたところで、イーアは気が付いた。
城の周辺には今も沢山の兵士がいる。
「おい。あいつら、何をのんびりしてるんだ? 馬鹿なのか?」
マーカスが信じられないというように言った。
帝国軍の兵士たちは全く避難をしていなかった。
不死者の王はもうすぐ近くまで迫っているのに。
きっと、城の見張りも巨大な不死者の王が歩いてくる姿がもう視界に入っているはずだ。
だけど、アレが何か、理解できていないのかもしれない。
イーアは『友契の書』にたずねた。
『ルヴィ、召喚はまだダメ?』
『不死者の王とやらによる妨害効果は弱まってきました。召喚は可能ですが、弱まったとはいえ妨害と霊力吸収が続いているので、大きな霊力を持つ精霊の召喚には精霊側からの霊力提供が必要です。また、呼び出せても精霊の弱体化が避けられません』
『わかった。魔法無効の効果は弱まっているんだね。ルヴィ、支配者の石板を使ってる敵と戦うから力を貸してって、みんなに声をかけといて』
魔法無効攻撃は永遠に続くわけではなさそうだ。
イーアの魔力が足りなくても、『支配者の石板』の欠片を守ることを使命としてきたヤゴンリルやエラスシオ達は自分の魔力を使ってでも進んで協力してくれるだろう。
呼んでも精霊達がどれだけの力をだせるかはわからないけれど、どうにか召喚術は使えそうだ。
再び、不死者の王が魔法無効の攻撃をするまでは。
だけど、ティトは吠えるように言った。
『おい。イーア。あの人間達を助けにいくとか言う気じゃないだろうな』
精霊語はわからないはずだけど、気配で察したのだろう。マーカスがティトと同じようなことを言った。
「まさか、あいつらを助けに行くとか言うんじゃないだろうな?」
ベレタが即座に言った。
「彼らは敵です。気にせず進みましょう」
イーアは頭を横に振った。
「帝国軍の兵士だって、ひとりひとりはみんなただの人間だもん。わたしは新しい国を作りたいだけだから、敵なんていないんだよ。新しい国はアグラシアに生きる人達みんなでつくるものだから」
ベレタはきっぱり言った。
「いいえ、彼らは敵です。そして、敵をできるだけ多く殺すのが戦争です」
マーカスはベレタの言葉にうなずいたけれど、イーアは言った。
「わたしは戦争には加わらないよ。わたしは召喚士の仕事をするだけ。人でも精霊でも、できるだけたくさん助けるのが召喚士の仕事。それに、あの人達全員が、不死者の軍勢に加わったら、大変なことになるよ?」
ベレタは黙った。
いつも通り楽観的であまり考えていないオッペンは、「さすがイーアだぜ。よっしゃ。やろうぜ!」と言った。
でも、ティトは何も知らない人が見たらイーアを殺しそうだと思いそうなくらいに怖い顔でうなった。
『無謀すぎる! 誰を呼び出しても、不死者の王は倒せないぞ。イーランはまだ見つかってないんだ。しかも、あの兵士達はきっとイーアを攻撃する。死にに行くだけだ。絶対にダメだ!』
『でも、あの人達が不死者の王に殺されるのを見殺しになんて、できないよ』
不死者の王は城のすぐ近くに迫っていた。
不死者の王は突然立ち止まり、王笏を高く掲げた。
「おい、不死者の王は何をやってるんだ?」
マーカスがそう言った時、イーアは再び魔力を吸い取られるのを感じた。
「魔力を、あの杖に溜めてる……」
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