もふもふ精霊に愛された召喚士、実はエルフだった!? ~精霊の森の生き残りはやがて英雄となる~

しゃぼてん

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第4部 帝国の終焉 ~滅亡をもたらすダークエルフ~

第191話 連隊長トートフ

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 ギルフレイ侯爵領の反乱軍掃討そうとう作戦は連隊長トートフが指揮しきしていた。
 下級貴族出身のトートフは士官学校を出てから戦場を渡り歩いてここまで成り上がってきた実力ある軍人だ。

 かろうじて貴族の出とはいえ、たたき上げタイプの軍人だったトートフは、貴族的ではない価値観を持ち実力でその地位を奪い取ったかつてのギルフレイ卿アンドル・ラウヴィルを英雄視していた。
 そのため、ギルフレイ侯爵アラム・ラウヴィルの保護と侯爵領内の反乱軍掃討という任務を命じられた時、トートフはとても喜んだ。

 この手で侯爵領に蔓延はびこる反乱軍どもを殲滅せんめつしてやると、戦意高く意気揚々いきようようとトートフは侯爵領に乗り込んだのだ。

 ハザリア平原の戦闘で敗北した反乱軍の戦意は低く、ひたすら逃走にてっしていた。
 それを不思議に思うこともなく、トートフとその指揮下の部隊は無傷でヨルヴァ城まで着いた。
 ヨルヴァ城は敵の手に落ちているという情報もあったため、トートフは慎重に城を包囲したが、実際に中にいたのはギルフレイ侯爵アラム・ラウヴィルとその部下だけだった。

 無事、トートフは若き侯爵を保護できたが、若干13歳の時に父を亡くしギルフレイ侯爵となったアラム・ラウヴィルは、可哀そうなことに反乱軍の残虐な行為によってすでに心を病んでしまっていた。
 同じような年頃の子どもがいるトートフは、幼い領主に心底同情し、反乱軍掃討の決意をあらたにした……のだが。


 トートフの部下が直立敬礼し、一枚の紙をさしだした。

「連隊長、侯爵閣下の姿が見えません。このようなものが閣下のお部屋のテーブルに残されていました」

 部下に渡されたのは、アラムが書き置いた手紙だった。
 
 そこには、「不死者の王が城にせまっています。不死者の王に殺害されたものは不死者の王の兵士にされてしまいます。早く部隊を撤退させてください」と書かれていた。

 それを読んだトートフは胸を痛めた。

「おかわいそうに。侯爵殿は錯乱され部屋を出てしまわれたようだ。早く保護せねば」

「連隊長、いなくなったのは侯爵閣下だけではなく、その召使い達も皆、城内から消えています。また、脱獄の報告もあります」

「召使いたちは侯爵閣下を探しているのかもしれないな」

 トートフがそう言った時だった。
 突然の轟音ごうおんと揺れと目のくらむ激しい光がトートフ達を襲った。
 そして、それが収まった時には、ヨルヴァ城内にいたはずのトートフの頭上に空が広がっていた。

「な、なにが……」

 最初の一撃で消え失せなかった壁材がゆっくりと崩れ落ちていく中、兵士が駆け込んできた。

「バケモノです! 巨大なバケモノが城を砲撃? とにかく、攻撃されています!」

「バケモノの攻撃……? 何を……」

 馬鹿なことを、と言いたかったが、トートフは空を見上げた。
 城の上部を消し去るほどの威力を持つ攻撃を、反乱軍が持ち合わせているとは思えなかった。
 反乱軍側に寝返ったというウェルグァンダルの召喚士達なら不可能ではないかもしれないが。
 いずれにせよ、異常事態が起きていることに、間違いはない。

 トートフは外へ、中庭へ走り出て、胸壁にあけられた細長いスリットのような銃眼に駆け寄った。
 草木を踏み倒しながら歩いてくる不気味な死神のような巨人の姿が目に入った。

「侯爵殿が恐れていたものは幻ではなかったのか。これが……不死者の王……」

 トートフは敵国チュラナム共和国の機械兵や大型兵器のことはよく知っている。自軍の魔導士部隊が使う魔術のことも当然知っている。
 だが、今、目の前に存在しているのは、そのどれとも違った。
 まるで冥界から出てきたような、見るも恐ろしい巨大なバケモノとしかいいようがない存在だった。

 そして、不死者の王の周りを大勢の死者達が歩いている。
 ある者は顔の半分がなく、ある者ははらわたがとび出た状態で。
 帝国軍の軍服を着ている者もいれば、反乱軍の貧民もいるが、彼らが生者ではないことだけはたしかだった。

「ありえない。なんだこれは……まるで地獄、まるで冥府の王じゃないか。これは幻か? 私は気が狂ったのか?」

 トートフの横で、胸壁の上から外の様子を確認していた副官があえぐように言った。

「私の目にも、あの恐ろしい化け物の姿が見えます」

「つまり、これは現実……」

 いくつもの戦場を渡り歩き数多あまたの死者を目にしてきたトートフは、もはや大抵のことには動じないと自負していた。だが、トートフは今、自分の足が震えているのを感じた。

 ヨルヴァ城を震わすほどの大砲の音が鳴り響いた。
 帝国軍砲兵部隊が、不死者の王への攻撃を開始したのだ。
 一部の砲撃は外れたが、いくつかは不死者の王の腹部に当たった。少なくとも、トートフの目にははっきりと命中したのが見えた。
 だが、まるで効いていないように、不死者の王は前進を続けている。

「撃てぃ撃てー!」

 砲兵部隊長の必死の叫びと砲撃の音は続くが、不死者の王はひるむことすらなく前進を続けていた。
 城の前の坂を下りた先の平坦地では訓練中だった銃剣部隊が隊列を組んでいた。
 トートフの部下たちは、この異常事態にも決して無能ではなかった。不気味な巨人相手に、勇敢に戦おうとしている。

「連隊長、いかがしますか?」

 傍で副官の声が聞こえた。凍り付いたようになっていたトートフはその声で我に返った。
 だが、答えがみつからなかった。
 トートフはつぶやいた。

「どうする……?」

「応戦しますか? 城を放棄して撤退しますか?」

「我らが帝国軍が敵前で逃げるものか。だが、あれと戦う……?」

 帝国軍指揮官として勇敢に戦う部下達を鼓舞しこの戦いの指揮をとるべきだった。
 だが、トートフにはあのバケモノとどう戦うべきなのか、皆目かいもく見当がつかなかった。
 砲撃がまったくきかないようなバケモノ相手に、何ができるだろう。
 いつも優秀な副官がこの状況にも動じず冷静な声で言った。

「おっしゃる通り、作戦目標は反乱軍の掃討です。正体不明の巨人を倒すことではありません。この崩壊した城にもすでに守る価値はありません」

 トートフが探していた逃走の言い訳を見つけてくれた副官に、トートフは深くうなずいた。
 犠牲を生むだけで得るもののない戦いに突入するべきではない。
 この副官がいてくれたことにトートフは心の中で感謝しながら言った。

「その通りだ。撤退だ」

「撤退戦の配置は?」

 トートフはすみやかに撤退のための指示を出し、連絡係の兵士が連絡用水晶にむかって叫びながら、各地に走った。
 

 トートフが城外に出た時、その時には不死者の王はすでに城のすぐ近くに迫っていた。
 不死者の王が巨大な王笏を地面にたたきつけた。とたんに地面が激しく、立っていられないほどに揺れた。その揺れのせいで撤退はすみやかには進まなかった。

 じきに不死者の王とその死せる兵の軍勢はしんがりを務める部隊のところに到達した。
 兵士の数はこちらの方が多い。だが、不気味な死せる敵兵は撃っても斬っても死なない。
 兵士達の中には絶望と恐怖に駆られて、戦闘を放棄して逃げだすものもいたが、逃げようとしても逃げ切れなかった。

 トートフが後方の部隊の様子をみるために振りかえったその時、不死者の王は巨大な剣で兵士達をなぎ払おうと、王笏と反対がわの手に持っている巨大な剣を横に振ろうとしていた。
 必死に走って逃げても、その巨大な剣のリーチからは逃れられない。何十という数の兵士が不死者の王の一振りに切り捨てられようとしていた。
 その時、突然、縦に巨大な扇を広げるように現われた光が、剣を持つ不死者の王の腕を斬り落とした。

「なんだあれは!?」
「ドラゴン!?」

 どよめく兵士達が見ていたのは、トートフ達が後にしたヨルヴァ城の方だった。
 オーロラ色に光る美しいドラゴンが城の胸壁の上に姿をのぞかせていた。
 そして、城壁の上には不死者の王を見すえる人影があった。
 トートフはうめくようにつぶやいた。

「あれは、ドラゴンと……ダークエルフ?」

 噂で聞くような銀色の髪ではなく、ただのバララセ人の少女にしかみえなかった。
 だが、あれが噂に聞く「精霊の女王ダークエルフ」だと、トートフは見た瞬間に確信していた。
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