ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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第3話 死の脱出

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  俺たちを見捨てた刃鬼のいなくなった通路を見て俺は絶望していた。
  しかしそれと同時に沸々と怒りが湧いてきた。

  ちきしょう……死んでたまるか……こんなところで死んでたまるか!

「馬場さん行こう! 今なら刃鬼の通った道は火蜥蜴が少ない! 」

「あ、ああ……そうだ! 今なら! 浜田! 皆! 生きて帰るぞ! 」

「は、はい! い、行こう! みんな振り返るな! ひたすら走れ! 」

  俺たちは刃鬼たちが開けた道に向かってがむしゃらに走った。
  側面から一斉に飛んでくる火の玉を避け、剣の腹で打ち払い、後ろから聞き覚えのある仲間の絶叫を聞きながら無我夢中で20mを走り抜けた。

  そしてなんとか出口に繋がる通路に辿り着き、追いかけてくる火蜥蜴から距離を置いた時には50人ほどしか残っていなかった。

  20人近くやられたか……田辺に鈴木に三田もいない……足を焼かれて動けないのかもしれない。
  今戻れば助けられるかもしれない。でもあの火蜥蜴の群れに飛び込んで俺は生き残れるのか? いや、そんなことができたら最初から俺が盾になって皆を逃している。
  俺に力があれば……俺が弱いから仲間を犠牲にして生き延びることしか……俺が……

「阿久津、仕方ないんだ。弱い俺たちが生き延びるにはこれしか方法がないんだ」

「ええ……わかってます」

  馬場さんも辛そうだな。俺だけじゃない。みんな半年近く一緒に戦ってきた仲間を失って辛いんだ。



  生き残りを確認した俺たちは息を整え、火傷を負った者たちに歩けるか確認したのちに出口へと進んだ。
  顔が痛い……火の玉を剣で受けた時に火傷をしたようだ。プロテクターからも溶けた臭いがする。
  腕も火傷したみたいだけど動かないほどじゃないな。

「阿久津、この先は確か横道が多い道だったはずだ」

「ええ、一気に駆け抜けるしかないですね。警戒して進んでも戦って勝てませんし」

  くそっ!レベル10くらいでなんでレベル50の魔物が彷徨いているエリアを歩ないといけないんだよ! 適正レベル無視かよ!
 
  そして俺たちは横道の多い道に辿り着き、俺と馬場さんを先頭に縦に2列に並び一気に走り抜けた。

「ぎゃっ! 」

「がっ! 」

「ひっ! た、たすけ……」

「走れ走れ走れ! 振り向くな! みんなスマン! 」

  案の定、俺たちが走り抜けると横道からヴェロキラプトルが飛び出してきて、次々と仲間たちに襲い掛かった。
  俺にも右側からヴェロキラプトルが襲い掛かってきたが、咄嗟にしゃがみ足を斬りつけ転倒させることに成功した。硬い!

「ぎゃっ! 」

「浜田! 」

「阿久津! 振り向くな! 」

「阿久津さん! 先に! 先……グボッ 」

「浜田ーーーー! 」

「阿久津!前だ! 」

  俺は斜め後ろにいた浜田がヴェロキラプトルに引き倒され、首を噛み砕かるのを見て絶叫した。
  あまりの出来事にショックを受け足を止めたところに、馬場さんが前からもヴェロキラプトルが来ていることを知らせてきた。

「クソクソクソクソクソ! よくも浜田を!  アイツは! アイツは! オラッ!こっちだ! かかって来いよ恐竜モドキ! 」

  俺は正面からくるヴェロキラプトルに向かって叫びながら剣を構えた。

  浜田は俺なんかよりよっぽど真面目なやつなんだ。アイツは会社で上司にいじめられて、仕事でミスをすれば執拗に責められ、アイツは真面目だから自分を責め続けて、そして自信を失い働くのが怖くなって仕事をするのが怖くなって……浜田は俺みたいに嫌なことから逃げ続けてきた人間とは違うんだ。
  また働こうと、働く恐怖を必死に乗り越えようとしてたんだ。乗り越えるのにたった3年掛かったってだけじゃねえか! それだけ酷い目にあってきたってことだろうが!

  なあ、ニートでなにが悪いんだ? 浜田がニートで誰かに迷惑掛けたか? 一生懸命働いてさ、失敗を責められて自分のせいだと思いつめてさ、人のせいにする奴らより万倍マシじゃねえか!
  真面目に働いて心が折れて、ちょっと休んでただけだろうが! 

  馬場さんだってそうだ。結婚したばかりで奥さんと産まれたばかりの子供を事故で亡くして、その悲しみを乗り越えるのに3年掛かったってだけだろ! 大切な人を失ったんだ! 愛していたから失った時の悲しみが大きいんだ! 人として当然だろ! いったいニートのなにが悪いってんだ! 

  俺は確かに働けるのに働かなかった! 毎日毎日好きな時に寝て好きな時に起きて、好きな小説を読んで好きなアニメを見て、好きな時に風俗に行って。ああ幸せだったさ! でもそんなの一生できるわけねーだろ! いつか金が尽きてまた働くんだ! いいじゃねえか! 社畜でいた時にできなかったからやってんだ! そんくらいいいじゃねえか! 40年働かなきゃならないうちのたった4年だ。それが悪だってんなら死ぬべきなのは浜田や馬場さんじゃくて俺だ!
  
「オラッ! 殺してみろ! ニートはこの国に必要無いってんなら殺してみろよ! 」

「阿久津ー! 」

《 キー! 》

「馬場さん! 」

  俺が前を塞ぐヴェロキラプトルを挑発しているとその背後からもう一頭のヴェロキラプトルが現れ、俺に襲い掛かろうとした。そこへ馬場さんが大剣を盾に体当たりをして壁に押さえ付けた。

「阿久津! 死に急ぐな! グッ……逃げろ……横道へ……逃げろ」

《 キュキー! 》

「馬場さん今そっちに! おわっ! くそっ!  」

  俺が馬場さんを助けに行こうと動くと、俺の正面にいたヴェロキラプトルが突進してきた。
  それをギリギリで俺は横に飛びかわした。

「自分のことだけを考えろ! ほかの皆は横道に逃げた! グッ……ここでお別れだ! 生き残ったら必ず仇を! 皆の仇を! がああああ! 」

「馬場さん! ぐあっ! があぁぁ……痛え……痛えなこの野郎! 」

  馬場さんの腹には押さえつけていたヴェロキラプトルの爪が深々と突き刺さっていた。
  それに気を取られた俺は先ほど避けたヴェロキラプトルの突進をかわし損ね、左肩を噛み千切られて吹き飛ばされ通路に転がった。
  俺の肩を噛み千切ったヴェロキラプトルはそのまま壁にぶつかり頭を振っている。
  猪突猛進か……俺たちを罠にかけた知能があるとは到底思えねえんだけどな。ダンジョンが操ってるのか?
 
  俺は肩の激痛に耐えすぐさま起き上がり、頭を振っているヴェロキラプトルの側面に移動して剣を突き出した体勢で突進してそのわき腹に突き刺した。
  だがヴェロキラプトルの硬い皮膚を貫通させることができず、そのまま体当たりをすることになった。
  俺とヴェロキラプトルはバランスを崩しそのまま横道へと倒れ込んだ。
  チャンスだ!

《 キュキー 》

《 キュキュキー 》

  俺は直ぐに起き上がり剣を拾って倒れたヴェロキラプトルを剣で再度攻撃しようとすると、背後からこっちを覗いている二頭のヴェロキラプトルが視界に入った。
  それを見た俺は目の前のヴェロキラプトルを諦め、そのまま横道の奥へ一目散に駆け出した。

  背後では覗いていたヴェロキラプトルが追いかけてこようとして、そのタイミングで倒れていたヴェロキラプトルが起き上がり、それが壁となって足を止めていた。
  それでもこの横道はヴェロキラプトル二頭が並んで通れるほど広い。俺は必死に奥へ奥へと走るのだった。

  途中少しでも狭い横道を見つけてはそこに入りを繰り返し、三頭のヴェロキラプトルのうち二頭はなんとか撒くことができた。
  しかし俺が転倒させたヴェロキラプトルは執拗に追いかけてきて、なかなか撒くことができなかった。

「ちっ……ここまでか」

《 キュキー! 》

  最後に入った横道の先は行き止まりだった。
  道は狭い。幅はヴェロキラプトル一頭分で、突撃されたら横に逃げる事はできない。
  一か八かギリギリでしゃがんで喉元を突くしかないか……

  俺は観念してもうボロボロの剣を構え、ヴェロキラプトルと一騎討ちをすることにした。
  まあ勝てねぇだろうな。懐に入った瞬間にあの鋭い腕の爪でぶっ刺されそうだ。

「おいっ! しつこい蜥蜴野郎! 仕方ねえから一騎打ちしてやる! だが、ただじゃやられねえ! 国から見捨てられたニートの生き様を見せてやるよ! 」

  浜田、馬場さん、田辺、鈴木、三田、仁科、和田……みんな仇を討てなくてすまん。 もしも生き残ったやつがいたならあとは頼んだぞ! いつかでいい、俺たちの仇をとってくれ!
  
《 キュキー! 》

  俺は壁を背に立ち、その長い口を突き出しおれを食い千切ろうと向かってくるヴェロキラプトルをギリギリでしゃがんで避け、剣をヴェロキラプトルの首に突き出そうとして踏ん張った時に何かを踏んだ。

カチッ!

  その瞬間俺とヴェロキラプトルの立つ床が光り、内臓がぐちゃぐちゃになるほどの揺れと浮遊感の後に床へと叩き付けられた。

「がっ! がはっ! ぐっ……痛え……な、なにが……うっ……オエエッ……ハァハァ……気持ち悪りぃ……ハッ!? 蜥蜴は!? 」

《 キュ…… 》

  俺は叩きつけられて痛む背中に顔をしかめ、気持ち悪さから少し吐いてしまった。そしてヴェロキラプトルの存在を思い出し顔を上げると、5mほど離れた場所で俺と同じように倒れこみ起き上がろうとしているヴェロキラプトルがいた……が……

「なっ!? ど、どこだここ……なんでこんなにデカイ広場に……そ、それに鱗? ま、まさか……」

《 キ………… 》

  この途轍もなく広い広場の中央には、壁から注ぐ光に照らされて黒光りする鱗を身にまとったドラゴンが鎮座していた。
  そのドラゴンは身体を丸め、鋭い牙が並ぶその巨大な口を床に付けて眠っていた。

  その圧倒的な強者の姿を目にした俺とヴェロキラプトルは、蛇に睨まれた蛙のようにただ固まっていることしかできなかった。


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