ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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第4話 黒竜

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  グゴォォォ

  グゴォォォ

  寝て……いる? 
  寝ているよな?

  俺は目の前で目を瞑り顎を地面につけて、この馬鹿みたいに広い部屋中に響き渡るイビキをかいているドラゴンを前に一歩も動けないでいた。
  それは俺から5mほど離れた場所にいるヴェロキラプトルも同様だった。

  こ、これがドラゴン……ファンタジーアニメに出てくるのと全く同じ姿じゃないか。
  
  怖い……こんなの相手に戦おうなんて微塵も思わない。
  こんな巨体……こんなの存在自体がチート過ぎだろ!

  体長40mはあろうかという巨体に分厚く黒光りした鱗。俺の身体ほどあるデカくて鋭い爪にイビキをかく度に鋭い牙が並ぶ口元から飛び出している炎。
  100m以上離れていても恐怖で身体が固まって動けない。なぜ俺はこんな死に一番近い所にいるんだ?
  なんでいきなりこんな所に……なぜだ?
  
  駄目だ落ち着け……ゴブリンとの戦いで冷静になることの大切さを学んだはずだ。冷静になれ。状況をまず把握しろ。とにかく落ち着いてここに来るまでのことを思い出せ。

  ふぅ……

  確か……俺はヴェロキラプトルと死闘……をする直前に何かを踏んだ。そういう感触と音がした。そのあと床が光って……

  転移トラップか? 小説やアニメに出てくる他の階層やモンスターハウスに強制的に転移させるあれか?
  でもあんな1階層の浅いところで?
  いや、このダンジョンは1階から強力な魔物が現れた。しかも待ち伏せまでするほど悪質なダンジョンだ。

  このダンジョンならありえる。それに転移トラップはランダム転移するものだって何かの小説に書いてあった。架空の話を根拠にするのもおかしいが、ダンジョンに魔法の存在に創作物そっくりのドラゴンがいるんだ。絶対過去に異世界に召喚されて帰ってきたやつが、それを隠して小説家になったに違いない。
  マジか……俺は今までノンフィクション作品を読んでいたのか。

  でもよりによって1階からドラゴンの前に転移させられるとは相当運がないな……まだ他の階層に転移させられた方が生存率が……変わらないか。

  地下5階層でもドラゴンの前でも、俺みたいな弱い奴には何も変わらない。まだドラゴンが寝てるだけこっちの方が数十分は生き残る可能性があるくらいだろう。


  ん? ヴェロキラプトルが壁沿いにドラゴンの正面方向に向かってゆっくりと歩き出したぞ?
  そっちにいったいなにが……

  俺はヴェロキラプトルの行動がわからず、ゆっくりと周囲を見渡した。
  周囲は淡く発光する壁とドラゴンの口から出る炎の明かりもあって割と明るい。
  俺とヴェロキラプトルはドラゴンのちょうど真横にいるな。
  それにちょっと部屋が広すぎて感覚がわからないが、ドラゴンの300mくらい後ろに少し開いて中の灯りがもれているデカイ扉がある。そしてドラゴンの500mくらいか? それくらい前には壁の切れ目のようなものが見える。
  天井は高すぎてどれくらいあるのかよくわからない。ただ、ドラゴンが飛べるくらいはあるのは確かだ。

  ヴェロキラプトルは壁の切れ目に向かって歩いているのか?
  あっ! あの切れ目がこの部屋の出口か! 
  しかしよりにもよってドラゴンの正面か……探索者たちが入ってきたらすぐ気付くように寝てるってわけか。
  でもそれならならなんで俺たちの存在に気付かないで寝てんだ?

  確か座学で魔物の探知能力のことを言ってたような……匂いと音となんだっけ?
  そうだ! 魔力だ。魔力やその魔力の動きで魔物は人間の動きを感知しているんだった。
  でもそれなら俺はともかくCランクはあるヴェロキラプトルに気付かないのはおかしい……

グオォォォ……

《ギュ…… 》

  俺がドラゴンがなぜ俺たちに気付かない理由を考察していると、出口に近付いたからか一気にヴェロキラプトルが駆け出した。しかしその瞬間ドラゴンの口から、人一人覆えそうなほどの大きな火の玉がヴェロキラプトルへ向けて放たれ消し炭にした。

  ぶっ! 起きてた!? いや無意識か!?

  ドラゴンはヴェロキラプトルを消し炭にしたあと、何事もなかったかのようにまたイビキをかいて眠っていた。

  考えろ考えろ……なぜヴェロキラプトルはゆっくり歩いていた時はブレス? みたいなもので焼かれなかった? 
  ……魔力は感知されていたけど、あまりに小さいから無視されていた? 
  でもそれが急に動いたから、目の前のハエを振り払うかのように処分したって感じか? 
  ヴェロキラプトルでハエなら俺は蚊か? 
  叩き潰されそうだな。

  どうする? 俺もゆっくり歩いて出口に向かうか? あのドラゴンの目の前を通って? 
  ……無理だ。こんな何も遮蔽物のないだだっ広い部屋じゃ怖すぎる。
  ならどうする? 出口がダメなら……
  後ろの扉に行ってみるか? ドラゴンがいるんだからラスボスの可能性がある。これがラスボスじゃないならあとは魔王がいるとしか思えない。
  ラスボスの背後にはたいてい外に繋がってる転移陣なんかがあったりするもんだ……あったらいいなぁ。

  いずれにしろドラゴンが起きた時にここにいたら一瞬で喰われる。
  動くなら早い方がいい。ていうかいつまでもここにいたら俺は漏らす。
  いやそれはもう手遅れだけど。ドラゴン見た瞬間に速攻漏らしてたけど。

  とにかく壁沿いにドラゴンの背後に……あれ? 動けよ足! まさか骨折していた? そんなはずはない。俺は立ってるし、足はところどころ出血してるけどそこまで深い傷はない。ヴェロキラプトルに噛みちぎられた肩の方がやばいくらいだ。痛え……

  駄目だ、足が動かないってか震えてた。漏らして足が震えて動けないだけだったよこのチキン野郎!
  俺は四つん這いになり、痛む肩を庇いつつ歪なハイハイをしながら壁沿いをドラゴンの後ろの扉に向かって歩き出した。
  きっと俺だけじゃない。みんなこうなる。29歳で漏らしても別に普通だ。大丈夫だ、誰も見ていない。

  俺は自分を慰めながら、息を殺してゆっくりとゆっくりと前に進んでいった。ハイハイで。

  げっ! 人骨……

  しばらくハイハイで進んでいると、俺は壁にもたれかっている2体の骸に遭遇した。
  このドラゴンに挑んだ探索者? いや、このダンジョンがあった世界の冒険者か? 
  ずいぶん変な服着てるな……中世っぽい? もしかして異世界人か?
  この剣折れてるけどすげえ高そうだし強そうだ。こっちは女性か? 2体ともネックレスや指輪や腕輪を複数付けてるな。マジックアイテム的なものか?

  折れた剣を持っていた骸は防具的なものは身に付けておらず、かなり時間が経過しているのかボロボロの中世のヨーロッパの騎士が着ているような服を身に付けていた。
  その隣には寄りかかるかのように女性の服らしき物を身に付けた骸があり、指輪やネックレスに腕輪、そして鞄を抱きかかえていた。
  不思議なことにその鞄やアクセサリーは衣服のように経年劣化した形跡がなく、薄暗い部屋の中でもわかるくらいに最近買った物のように見えた。

  やっぱりマジックアイテムぽいな。確かダンジョンで発見されたアイテムにマジックポーチってのがあったな。見た目の10倍は容量があるんだったか? もしかしたらそれのバッグ版かもしれないな。
  俺は四つん這いの状態で痛む左肩に顔をしかめながら左手で仏様に拝み、ゆっくりと骸からバッグとアクセサリー類を取り出した。
  腕輪を外す途中で骨を砕いてしまって、心の中で必死にごめんなさいごめんなさいの連呼したりもした。

  10分ほどかけて骸からアイテム類を抜き出した俺は、指輪4つと腕輪2つにネックレス2つを自分の腕と指にはめていった。すると不思議なことにそれらのアクセサリーは俺の指輪や腕にスッポリとはまった。
  まるで自動でサイズ調整をしたかのような感覚に俺は少し驚き、やはりマジックアイテムだったんだなと納得した。

  1年前に色々調べてた時に、サイズを自動調整してくれるアクセサリーがダンジョンで見つかったというのを見たことがあったからだ。
  だが、俺には鑑定のスキルはない。だからこのアクセサリーがなんの効果があるかはわからない。
  まあドラゴンに挑むくらいの人の持ち物だし、良いものに違いないだろ。

  次にバッグを漁ると中の空間が見た目より広く、ネットで調べた通りにポーション出てこいと念じた。
  すると手に瓶の感触があり、取り出してみると真っ黒な液体の入った小瓶が手の中にあった。

  あ~そりゃそうか。そりゃ劣化しますよね~。
  俺は飲んだら回復どころか即死しそうだと思い、バッグに入っているポーション類を全て取り出して骸の隣に置いた。そして四つん這いでその場を後にするのだった。

  そして途中でまた骸と出会い、同じようにアイテムを回収しつつ俺はなんとか巨大な扉まであと少しというところまで来た。

  ふぅ……途中から肩の痛みが麻痺したのかペースを上げれたのが助かったな。
  あれ? なんか顔の火傷の痛みやわき腹や足の痛みも引いてるような……
  俺は不思議に思い火傷した右頬を触った。すると痛みはやはり無くなっており、なんだかツルツルしていた。
  え? 爛れていた皮膚が……顔の火傷が治ってるのか?

  まさかこのアクセサリーに回復とか再生の効果があるものが?
  いや、今はいい。今はこの扉の中に入ることが最優先だ。ドラゴンからとにかく隠れないと。頼むから外への出口があってくれよ?

  俺はそのままヴェロキラプトルのようなミスをしないよう、ゆっくりゆっくりと少し開いている扉の前までやってきた。
  中はかなり明るそうだ。魔物とかいないだろうな……

  俺は人が3人は並んで入れそうな隙間から、恐らく部屋であろうその中を覗いたのだった。




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