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第9話 経験値
しおりを挟む黒いドラゴン、日本風に黒竜とでもいうべきなのだろうか?
その黒竜を倒した俺は極度の緊張状態から解放されたせいか腰が抜け、その場にヘタり込んでいた。
「はは……ざまーみろ……うっ! ぐっ……ぐああああ! 」
すると突然魔力とはまた別のものが俺の胸に一気に入り込んできた。
これは身に覚えがあるものだった。だけどこんなに濃厚なものが大量に入ってくる経験なんてしたことがなく、俺はあまりの体の変化に耐えきれずその場で胸を押さえてのたうち回った。
「ぐおおおお……かはっ! ちょ、待っ……あがががが……まだ……今きたのがまだ……お……押すな……少しずつおねがイイイイイイイ! 」
次々に俺の身体に入り込んでくる膨大な経験値に俺は無駄だと思いながら、少しずつ入ってくれと叫ぶことしかできなかった。
その姿はまるでコミケの開催時、会場の入口で解き放たれた歴戦の勇者たちを押し留めようとする警備員の姿に酷似していた。
それは無駄な努力だった。
それから俺は永遠ともいえる時を苦しみながら過ごすことになった。実際は5分くらいだが。
「ハァハァハァハァ……そりゃそうだな……Fランクの雑魚がジャイアントキリング……すりゃこうなる……わな……ハァハァ……しかしこんなに長い時間経験値……正確には魔物の魂だっけ? なんか乗っ取られそうで怖いから経験値でいいか。その経験値をこんなに身に受けたのは初めてだ……ランクどれくらい上がったんだ? ちょっと怖いけど見てみるか……まさか呪われてねえだろうな……『鑑定』 」
俺は黒竜を倒したら呪われたという小説を思い出し、まさかとは思いながら恐る恐る自分を鑑定してみた。
阿久津 光 (あくつ こう)
種族:人族
体力:S-
魔力:S+
力:S-
素早さ:S-
器用さ:S+
取得ユニークスキル: 【滅魔】.【結界】
取得スキル: 【鑑定 Ⅰ 】. 【探知 Ⅰ 】. 【暗視 Ⅰ 】. 【身体強化 Ⅰ 】. 【スモールヒール Ⅰ 】
【錬金 Ⅰ 】.【調合 Ⅰ 】.【風刃 Ⅰ 】. 【硬化 Ⅰ 】 .【炎槍 Ⅰ 】 .【氷槍 Ⅰ 】
【ミドルヒール Ⅰ 】 【氷河期 Ⅰ 】 .【圧壊 Ⅰ 】.【地形操作 Ⅰ 】
ぶっ! 上がり過ぎだろ! いきなり世界最強じゃねえか! このドラゴンどんだけだよ!
俺は世界最強の兵士の平均ステータスがA-ランクだったことを思い出し、それを軽く超えていることにビックリしていた。上がっていてもBランクくらいだと予想していたのを大きく上回っていたからだ。
「マジか~まあ強い分にはいいのか? そうだな。物理的に復讐したい奴もいるしな。これだけのステータスならCランク6人相手でも勝てるだろうし。お? 使用制限外れてる! これで俺も魔法使いか! 」
俺は使用制限が掛かっていて使えなかった、強力そうなスキルが使えるようになっていることに喜びつつ、ステータスに違和感を感じていた。
「あれ? 滅魔? 吸魔と魔力譲渡はどこいった? まさか……試してみるか……吸収……おお! すげっ! 同時にできる! 2つのスキルが進化か合体したってことか? 」
俺はユニークスキルに吸魔と魔力譲渡のスキルが消え滅魔というスキルが増えていたことに違和感を覚え、試しに空間収納の腕輪から魔石を取り出し吸収してみた。
すると感覚的なものだが、今まで譲渡をかなり意識しないといけなかったものが、吸収と同時にできるようになっていた。
これはたくさん使ったからなのか、ステータスが上がったからなのかどちらが原因かわからないが、上位スキルに変化したかスキルが合体したかしたのだろうと理解することにした。
なんにせよ魔力吸収と譲渡を一瞬でできるようになったのは良いことだ。あとは広範囲の物を吸収する練習をすれば完璧だな。
「しかし疲れた……このドラゴンマジやばかった……いったいどれくらい強かったんだ? 見たらショック受けそうだ。でも今後のために能力は知っておきたい……確か死んですぐなら鑑定できたよな……やるなら今か…………『鑑定』 」
俺は戦闘前や戦闘中に見たら心が折れると思い、鑑定していなかったこのドラゴンを鑑定することにした。
今後もし万が一にこのドラゴンクラスが現れた時に、その能力を比較して逃げるかどうかの判断材料にするためだ。
ヴリトラ
種族:竜種
体力:SS+
魔力:SSS-
力:SS-
素早さ:SS-
器用さ:SSS-
種族魔法:竜魔法(****)
備考: ******
ハイ! 名付きいただきましたー!
ただのドラゴンじゃありませんでしたー! キングオブドラゴンでしたー!
ステータスもヤバ過ぎ! もうどんくらいヤバイのかわかんないくらいヤバイわ!
「あ~戦闘前に見なくてよかった~! 見てたらその場で裸になって塩を振りかけてこの身を差し出してたわ。あーヤバイわこいつ、めっちゃヤバイやつだったわ~ 」
俺はドラゴンのステータスを見た瞬間、死んでるにも関わらず逃げたくなった。それはこのドラゴンの圧倒的なステータスもそうだが、なにより名付きと呼ばれる魔物だったからだ。
ステータスの強さがイメージできなくても名付きがヤバイってのだけは理解できる。
これまで名前がある魔物は、鬼系上級ダンジョンの30階層にいるボスだけしか確認されていない。そのボスは10階層毎に現れるほかのボスはもとより、同じランクの同種族の魔物と強さがまったく違うらしい。
人類が上級ダンジョンと呼ばれる高難易度のダンジョンで到達した階層は、座学で最近30階層まで到達したと言っていた。海外のAランクとBランクしかいない36名のレイドで挑み到達したそうだ。
だがダンジョンが現れてから2年でたった30階層だ。どれだけ上級ダンジョンが難易度が高いのかがわかる。そして人類の上級ダンジョンアタックを止めたのが、この30階層にいる名付きだ。
それがドラゴンの名付き……コイツは相当ヤバイやつだった。そしてこの上の階には普通のドラゴンがいるってことだ。このヴリトラより弱くてもドラゴンだ。
それでも俺はこんなヤバイ奴を倒した。相手が魔力満タンでいきなり現れたら厳しいが、先手さえ取れればこの厨二っぽい名前のスキルで倒せるだろう。巨体であればあるほど、魔力に依存していればいるほどこの滅魔のスキルとの相性は良い。
それになんか強そうなスキルも使えるようになったし、今の魔力なら結界も相当強力なのが張れるだろうから多分大丈夫だろう。
まあその前にボスを倒したんだから、お約束の外に出る魔法陣とか現れてるはずだ。地下への階段……は無いと信じたい。
俺はここを魔法陣で出て二度と来ることはなくなる。うん、魔法陣はある。それがテンプレというものだ。
俺はとりあえずスプラッター状態になっているヴリトラに恐る恐る触れ、収納と念じた。
死体の匂いで魔物が集まったら怖いから、これは早くしまった方がいい。
俺がヴリトラに触れ念じると、ヴリトラの巨体が一瞬で消えた。
俺はなんとなく入るとは思っていたが、いざ40m級の巨体が目の前から一瞬で消えるのを目の当たりにして驚かざるを得なかった。
「すげー、この腕輪すげー。これはいい物を拾った。さっきはイラネーとか言って悪かった。今は超いる! お前がいない生活なんて考えらない! 」
俺は女性に対してだったらなかなかにゲスなことを言いつつ、宝物庫の中へ歩いて向かった。
そして宝物庫に着くとそこは……特に何も変わっていなかった。
「おいっ! ボスを倒したんだぞ! 脱出の魔法陣があるのは常識だろうが! 魔法陣プリーズ! 」
俺は割と自信があったテンプレをスルーされたことに、結構ショックを受けていた。
これで地上に出るにはまたドラゴンと戦わなければならないことが確定したからだ。
「ドラゴンとの戦い方を考えちゃったのがフラグになったか……ネットで見たボスを倒すと現れる下層への階段が現れなかったからここが最下層か……俺は知らずにダンジョンを攻略したってことかよ。普通ダンジョンを攻略したら強制的に外に出されるもんじゃないのか? このダンジョンハードモード過ぎだろ……しかしやべえな……ここから地上に階段でかよ……この異常に広いダンジョンで階段を見つけて地上とか……上級ダンジョンて何階層まであるんだ? やる気でねー 」
俺は宝物庫の装備や金貨や宝石類を空間収納の腕輪に入れつつ愚痴っていた。
いや、これはもう俺のものだし。
しかし本当に参った。確か上級ダンジョンてマップ無しだと、1つの階層を踏破するのに丸2日とか3日かかるんじゃ無かったっけ? 上層でその日数だ。それをこの最下層から、しかも強力な魔物を相手にしながらで俺は外に出るのに何ヶ月掛かるんだ? そもそも1対1じゃなくて10対1とかで俺は戦えるのか? ソロじゃ無理じゃね?
俺は名付きのドラゴンを倒した。けどそれは事前に魔力を時間を掛けて吸い取ったからだ。ヴリトラのステータスを見るにこのドラゴンは魔力依存が高かった。恐らくブレスやほかの魔力を使った攻撃や防御なんかがあったはずだ。 ラノベなんかだと魔力障壁的な物を持ってるドラゴンは普通にいた。きっとここのドラゴンもそんな感じだと思う。俺はそれらを封じることができたからなんとか勝てたわけだ。
この部屋を出て地上へ向かうなら、探知のスキルを爆上げして慎重に進んで常に先手を取らないと複数の魔物が現れたら死ぬ。
それなら……ダンジョンのボスがどれくらいで復活するのかは知らないが、ヴリトラ1体ならこの宝物庫にいれば勝てる。次は余裕でいける。だけど知らない竜種が複数で来たらヤバイ。
まずはここを拠点にして探知と鑑定の練習だ。いけそうなら滅魔のスキルを広範囲で掛ける練習と、ほかのスキルの熟練度も上げたい。
「でも今日はもう無理……マジックバッグにテントくらいあんだろ。とりあえず疲れたわ。もう休みたい……」
俺は1日に色々なことがあり過ぎて疲れきっていた。
ダンジョンを出ることは明日考えることにして、バッグの中身を漁り野営の準備をするのだった。
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