ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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第23話 征服された世界

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「よし、電気が点いてる。おじさんおばさんはまだ仕事してんのかね」

  懐かしの自宅から出て10分。俺は隣駅の阿佐ヶ谷の商店街にある三井の自宅兼肉屋へとたどり着いた。

  ここに来る途中の街の様子としては、街灯は広い道だけ通常の3分の1程度の数が点いていて狭い路地なんかは全く点いていなかった。
  車もほとんど走っていなくて、ここに来るまでにはトラックくらいしか見かけなかった。
  人も探索者らしき革鎧を着た人とスーツ姿の人とまばらに歩いているくらいで、この阿佐ヶ谷の駅に来てやっとまとまった人を見かけた。でもこの街は若い人が多い街なのに、駅前も以前来た時のような活気は全くなくなっていた。駅前も公園もホームレスだらけだったしな。

  それにしても武器こそ手に持ってなかったが、革鎧を着て駅前にたむろしてる奴らは普通に怖いと思うんだよな。
  巡回中の警察っぽいのも剣とか腰からぶら下げてたし、なんとなく攻撃的な雰囲気を感じた。
  それとコンビニは全滅してた。まあ、ああいう商売は物流が命だからね。
  日本がどうなってるかはまだわからないけど、物資が余ってるってことはないだろう。資源やエネルギーはほとんど輸入に頼ってた国だからな。

  そんな変わってしまった街を横目に俺は普通の人から見たら全力疾走、俺からしたらゆっくりマラソンしている程度のスピードで街を駆け抜けていき目的地へと到着した。
  そして俺は店の入り口横にある玄関のチャイムを鳴らして応答を待った。

『はい』

  あ、おばさんだ。

「こんばんは。お久しぶりです阿久津です。みっちーいます? 」

『え……ええ!? 阿久津君!? ちょ、ちょっと待ってて! 今開けるから! 和樹ー! お父さん! 阿久津君! 生きてた! 生きてたわよ! 』

  え? 俺死んだと思われてたの? いや、死んでてもおかしくはない経験したけど。
  俺は普段は落ち着いた雰囲気のおばさんが本気で驚いて慌てているのを聞き、厚生労働省に連行されたあの時電話かメールの一本でも送っておけばよかったなと後悔した。

  あの時は突然のことで俺もテンパってたし、ニート特別雇用法を調べるので手一杯で携帯もすぐ没収されたからな。それでもメールくらいはできた。心配掛けちゃったなぁ。

「阿久津! お……お前! お前生きてたなら連絡くらいしろ! アホ! 」

「ようっ! みっちー久しぶり。色々あったんだよ。携帯も繋がらないとこでさ。心配掛けて悪かった。おじさんとおばさんもすみませんでした」

  少しして玄関の引き戸が開き、半べそをかいて怒鳴る三井が現れた。その背後には嬉しそうに笑っているおじさんと泣いているおばさんが立っている。
  俺は少し言い訳をして、素直に頭を下げて心配をかけたことを謝った。
  俺が20歳になる頃に立て続けに両親を亡くしてからは、なにかと心配してくれて気に掛けてくれた良い人たちなんだこの家族はさ。
 
「携帯もメールも返事がないし家に行っても一年以上留守なままだ。電気も止まったままだった。さすがに心配したぞ」

「阿久津君、色々あったんだろ? 男にはそういう時もあるさ。まあ上がれよ。飯は食ったのか? 不景気であんまり良いもん出せねえけどなにか食っていけよ」

「阿久津君良かったわ。心配したのよ? 日本も色々あったから……特警やどこかの貴族に捕まってるじゃないかって」

  ん? とくけいってなんだ? まあいいか。とりあえず積もる話だらけだからな。
  俺は再度すみませんと言いながら三井の家に上がり、畳敷きの居間に座った。
  食事は済ませてありますといって断ると、おばさんが麦茶を用意してくれた。

「本当にすみません。悪いことはしてないんですけど、2年近く刑務所みたいなとこにいまして」

「そういうことか……今の日本ならそういうこともあるな。特警か? 貴族軍か? 」

「いや、厚生労働省だよ。2年前のニート狩りにあってさ」

  俺は恥ずかしかったけど、心配してくれた人たちに嘘を言うのも不誠実だと思い正直にニートだったことを打ち明けた。そしてあの悪法により狩られた人間であることを伝えた。

「……前の仕事で色々あったことは聞いていたが……そうか、あれの対象だったのか。連絡できなかったってことは探索者協会に当たっちまったのかよ……良く五体満足で生きてたな」

「阿久津君はダンジョンにいたのか!? よく生きて帰ってこれたな……」

「そんな……阿久津君がそんな……」

「何度も死に掛けたけどね。ダンジョンに置いていかれて出てくるのに2年近くかかったけど、まあ何とか出てくることができたよ。それで外の情報を全く知らないんだ」

「はあ!? ダンジョンに2年もいたのか!? 嘘だろおい……」

「俺も嘘だと思いたいけどね。ちょと色々やらなきゃならないことがあってさ、迷惑掛けたくないから詳しい話はできないんだ。とりあえず信じてくれよ。その上で突然夜に押し掛けてこんなこと頼むのも申し訳ないんだけど、この2年で何があったのか教えてほしい。ニート狩りの生き残りのことや帝国のことを」

「やらなきゃならないこと? お前がそういう言い方をするって事は……わかった。まずあの悪法だけど…………」

  俺はこれからやることにこの家族に迷惑を掛けたくないので、桜島のことは伏せた。
  どうやっても政府の人間が聞き込みにくるとは思うけど、知らなければそれほど親しくないと思ってもらえるはずだ。ただの高校の同級生と思ってもらえればそこまで迷惑はかからないだろう。あとはここへ二度と来なければ大丈夫だと思う。

  俺はそう思い地上にいれば誰でも知っていることを教えてもらえるよう頼んだ。
  
  
  三井が言うにはいわゆるニート特別雇用法で狩られたニートは1万人。
  その中で探索者協会に3000人が就職したとネットに書いてあったそうだ。テレビでは産恵サンケイ局だけが、ニート特別雇用法により働き始めた人たちという番組を5月にやったらしい。

  産恵は施設で見れなかったチャンネルだ。MHK以外は見せてもらえなかったからな。
  半国営放送局だからやらなかったのかもしれない。

  ただ、その産恵の番組でも製造工場などで単純労働をする人たちを映しているだけで、探索者協会のことは一言も触れていなかったらしい。
  ネットでは探索者協会に入った友人や子供と連絡が取れないとかなり炎上していたらしい。
  けど探索者協会からはダンジョンから脱走して行方不明という返答しかなかったそうだ。
  遺体は見つからないからな。完全犯罪もいいところだ。
  怪我を負って戻ってきた人もいるらしいが、みんな口をつぐんでいてなにが起こっているのかわからないそうだ。

  SNSで大騒ぎになっているのに、国会では一部の議員以外野党でさえダンマリで、質疑に関しても政府は雇用しているのは民間企業なので、まずは企業へ確認しますとのらりくらりと逃げ回る始末だったらしい。

  この話を聞いて、探索者協会には3000人しか行ってなかったことを初めて知り俺は動揺した。
  運なのか年齢なのか健康だからなのかわからないが、俺たちは30%の確率のハズレクジを引いてあんな目にあったのかとショックだった。
  
  そんな俺を三井は心配して話を止めようとしたけど、俺は考えるのは全部聞いてからだと思うようにして話を続けてもらった。

  そうこうしているうちに子供と連絡がつかない親たちが動き出した。政府と探索者協会に情報の開示を求める署名集めを始めた。同時に探索者協会に対して訴訟も起こす構えだった。

  だが、一昨年の10月。俺が桜島に入って間もない頃に突如太平洋のど真ん中に大陸が現れた。
  気象庁や自衛隊に米国の話では太平洋上の磁場が急に乱れたと思ったら、突然大陸が現れハワイほか太平洋上に浮かぶ島々を呑み込んだそうだ。
  これは4年前に突如世界各地にダンジョンが現れた時と酷似した現象らしい。

  その島は衛星画像だと何か薄い雲のような物が映っていて、内陸部の詳しい映像は撮れなかったらしい。
  前は衛星画像がネットで見れたけど、今は検閲が厳しくて掲載不可になってるそうだ。
  それで三井の記憶にあるものに近い画像が切り貼りされた画像だがあったようなので見せてもらった。






  大陸の位置や大きさは概ねこんな感じらしい。

  この突如現れた大陸にそれがまるで現れるのを待ってたかのように、米国とイギリスの民間の調査船がいち早く上陸したらしい。中にはイスラエルの輸送機が上陸したという話もあったそうだ。
  でも、軍などの艦船や航空機はことごとく消息を絶ったらしい。

  現れた大陸は地図の通り日本は目と鼻の先で、国会もメディアも大パニックだったそうだ。
  突然現れた未知の大陸。通常なら驚きつつも新たなフロンティアの登場だし、前向きな話が出そうなものだが世界にはダンジョンがある。そしてその出現の仕方が酷似してるとなれば魔物がいるのではないかとか、魔物が日本に攻めてくるのではないかと考える者も多かった。
  実際報道ではそういうのが多かったそうだ。

  そして魔物ではなく人間であったがそれは現実のものとなった。
  
  大陸が現れてから2ヶ月後。米国が艦隊を組んで上陸を試みようとした時に、突如その大陸の国家を名乗るテルミナ帝国が軍事行動を開始した。
  真っ先に侵攻を受けたのはテルミナ大陸に隣接している日本・米国・オーストラリアだった。

  テルミナ軍は巨大な飛行空母と戦闘機で日本の上空を脅かした。
  船などは一切なかったそうだ。

  航空自衛隊は緊急出撃をしたが、テルミナ軍の航空機をただの一機も落とすことなく全滅した。
  テルミナ軍の兵器には全て魔力障壁というバリアが搭載されているそうだ。
  このバリアには現代兵器は全く通用しなかったらしい。空中空母にミサイルを撃ち込んだそうだが、こちらにも魔力障壁なるものが全方位に展開されていて傷一つ負わせることができなかったそうだ。

  さらにテルミナ軍の戦闘機は非常に小回りが利き、UFOのように突然進路を変えたり急降下したりとGを無視した動きをするらしく、航空自衛隊の戦闘機は為す術もなく落とされていった。

  そしてまるで日本の中枢部を最初から知っていたかのように、全国にある自衛隊及び米軍基地やミサイル基地を的確に爆撃していき、日本にある上級ダンジョンのある都市及び首都東京へと上陸して霞ヶ関を占領した。
  陸上自衛隊も頑張ったが、テルミナ兵の持つ魔銃と呼ばれる魔力を撃ち出す銃と、テルミナ兵自体に一切の攻撃が通用しなかったことで首都防衛部隊は全滅したそうだ。

  あらゆる防衛手段を失った日本は呆気なく降伏した。
  1週間で降伏したと聞いたが、実際は5日だった。
  テルミナ帝国の降伏文書の作成と締結を入れて1週間らしい。

  ティナたちに兵器の話は聞いていたが、あまりにも一方的かつ圧倒的な武力に俺は声も出なかった。
  戦闘機の機動はともかく、その動きに耐えることはランクを上げればできるだろう。それこそEランクもあれば身体強化スキルが無くてもいけると思う。
  自衛隊の銃が通用しなかったのも、Dランクもあれば小銃のダメージはカットできると思う。Cランクなら全く通用しないだろう。
   飛行空母から戦車や装甲車らしきものが出てきて、それにも魔力障壁が搭載されていたらしいから自衛隊の陸上兵器もお手上げだろう。なにより制空権を奪われてるんだ。ただの的になるだけだろうな。

  自衛隊のダンジョン攻略部隊が出てきたとしても、数が圧倒的に違う上に相手はランクも高く魔銃を持っている。
  恐らくその魔銃はCランク相手でも通用する威力があるんじゃないだろうか。

  そしてほぼ同時期にオーストラリアが、1ヶ月後に米国が降伏をした。
  米国は原子力潜水艦からテルミナ帝国本土に対して一度もミサイル攻撃をしなかったそうだ。日本に核を落としたあの米国が、追い詰められてもやられっぱなしでいた理由が日本の隣の大国がとった行動で理解できた。

  日本が降伏する前に日本の10倍はいたという別の帝国軍からの猛攻を受けていた隣国は、太平洋を航行させていた原子力潜水艦からテルミナ帝国本土へ核ミサイルを放った。
  窮鼠猫を噛むのつもりだったのだろう。しかしそのミサイルはテルミナ大陸に落ちることは無かった。
  そう、衛星に映っていたテルミナ大陸を覆う薄い雲は結界だったんだ。
  ティナたちの言っていた通りだった。
 
  結界はあらゆるミサイルを防ぎ、テルミナ帝国にダメージを与えることはできなかった。
  ここからは少し残酷な話になった。神聖なる帝国本土を狙われたテルミナ帝国軍は、それまで軍事施設などを中心にピンポイントで攻撃をしていたのを無差別攻撃に変えた。
  あらゆる都市を徹底的に爆撃し、首都に乗り込み虐殺の限りを尽くした。
  隣の大国は降伏などする機会を与えられないまま、多くの国民と降伏する権限のある者たちが殺された。
  テルミナ帝国が隣の大国の統治を諦めた瞬間だった。

  その惨状を目の当たりにしたロシア及び各国は、それ以降テルミナ大陸への直接攻撃をする事は無かったそうだ。
  ちなみに隣の半島は無視されていた。多分上級ダンジョンが無かったからじゃないかな。
  帝国は上級ダンジョンがある国を優先して侵略していっていたみたいだからな。
  やはり目的はダンジョンのようだ。

  ダンジョンは世界中で300ヶ所以上、そのうち上級ダンジョンは世界に60ヶ所以上あるらしい。日本には7ヶ所ある。日本の国土面積に対してダンジョンが全部で35ヶ所もあるのは異常らしいが、それは魔脈というものが太いのが原因らしい。古代ダンジョンがあるのはそのせいかと納得したよ。

  大国にはたいてい上級ダンジョンがあるので、世界は征服されたと言っても過言ではないということだ。
  侵攻していないのに小国は無条件降伏してたからね。隣の半島とか日本の占領軍のとこまで来て、降伏させてくださいとお願いしていたみたい。

  一応中級ダンジョンがあるから、日本占領軍の司令官であるモンドレット子爵って貴族は隣の大国を占領した公爵に口添えしてめでたく公爵の占領地になったそうだ。
  日本に対しては占領している貴族が爵位が上だからなにかと偉そうにしてるみたいだ。相変わらず虎の威を借り威張るのが得意な国だことで。

  そんなこんなで世界各国は次々と降伏していき、侵攻を受けていない小国もこのグローバル時代に単独で生きていけるはずもなく、帝国の支配下に自ら入っていった。

  帝国は従順な国には特になにもせず、反抗する国やその国の民には徹底的に弾圧をした。
  反抗した者たちだけではない。その者の住む街ごと滅ぼしたんだ。
  その映像と帝国の意思をテレビとネットを使って頻繁に全世界に流したそうだ。
  それからはデモすら同じ国の国民に未然に防がれ、誰も帝国に反発することはなくなった。

  日本は従順なのでそういったことは無かったそうだ。

  そして帝国の世界の統治方法なんだけど、その土地に総督府という統治する機関を作り現地の住民に統治させる間接統治の方式をとっているそうだ。

  傀儡政権と言った方がわかりやすいかな。
  日本の場合は日本総督という総理大臣より遥かに権力を持つ存在に、帝国人ではなく帝国が指定した日本人を就任させた。その下に副総督や総督官房、各官庁に行政議会がある。占領前なら総理大臣、副総理大臣、官房長官、財務省や国土交通省などの官公庁に国会てとこか。
  それの権力強化版だね。これも全部現地人だ。
  一応総督含め選挙で選ばれるから、そうそう無茶はできないようになってるそうだ。
  でもどうだかな。発足してまだ2年も経ってない組織だ。貴族の一言で永久に権力者になるかもしれないよな。

  そこまで聞いて夜も遅いので、三井の部屋に移動してインターネットを見ながら色々説明をしてもらった。
  ちなみにインターネットやSNSは指定された回線とプロバイダしか使えない。携帯も指定されたキャリアのみだ。まあつまり総督府に全て監視されているってことだな。
  着々と共産国家の道を歩んでるっぽいな。
  その証拠に反帝国的な発言をすると、すぐに削除され警察が玄関まで迎えに来るらしい。

  まあそれでも色々話を聞きながら調べてその結果思ったのは、帝国は中級以下のダンジョンの魔石や素材の回収を地球人にやらせようとしている。
  その一方で日本や米国など先進国の技術力を認めている。より良い物を作らせて帝国国民の生活を裕福にするために、経済活動などを極力阻害しないような占領政策をとっている。

  なによりも世界の大企業や財閥が率先してそれに協力している。世界の金融を牛耳るロンチャイルド一族や、オールドマンサックス一族やその他俺でも知っている大財閥やその一族なんて米国が降伏したことに大きく絡んでいるらしい。

  これは陰謀論なんだけど、ロンチャイルド一族の総帥は常にサングラスを掛けていて有名なんだ。
  それが帝国が現れてからたまに外したりするようになったらしいんだけど、帝国人のように目が薄っすらと赤いそうなんだよね。
  最近になって大財閥の御曹司も、カラコンをコロコロ変えてるよねって話題になっているそうだ。

  こういった話が芋づる式に多く出てきたのを知り、俺は前に想像していたことが現実で起こってたんだなと思った。

  つまりはこっちから異世界に行くことがあるんだから異世界から地球に来た人もいて、そういう人はダンジョンのある世界出身なので、身体能力が高くスキルまで持ってるから地球で活躍しやすいってことだ。

  日本にも鬼の伝説や戦国時代に金髪の偉丈夫が活躍したり、中国でも三国志時代に呂布という金髪の最強の武将がいたりね。疑えばキリがないほどに特殊な能力を持った人間が過去に世界中にいた。吸血鬼は傷が自然に治るとか、雪女が周囲を凍らせたとか身体能力が異常に高い狼男とかさ、それスキルじゃね? って思えるよね。

  んで、割と近代になって来た人は同胞を集めて財閥を作り、その後地球に現れた同胞を保護していってさらに力を付けていったと。それならばテルミナ大陸が現れた時に民間の船舶がいち早く向かったことや、日本の軍事拠点を知っていたことも、あの米国があっさり降伏したのも納得できる。
  世界の銀行を押さえている一族に逆らえるわけがない。
  地球にいる愛国心溢れる帝国人の末裔のおかげで、帝国はスムーズに侵略と統治ができたんだなと思ったよ。



閑話休題



  これまでの帝国の統治から、帝国が日本に求めていることは、要約するとだいたい以下の通りみたいだ。


  ○ダンジョンの魔石と指定された素材の上納。毎年ノルマを課すので必ず達成すること。未達成の場合翌年のノルマは1.5倍とする。

  ○家具や家電などあらゆる生活を豊かにする製品及びインフラ設備の開発に力を注ぐこと。
     そして加工食品や嗜好品を帝国のために作ること。そういった技術を維持または向上させるために、今まで通り他国との貿易は好きにしていい。

  ○総督府は帝国の指示に従うこと。国民の反発は総督府に行くようにして、帝国に対して反発が起きないようにすること。

  ○司法は総督府にてそれまでのものを使用して良いが、帝国の法がなによりも優先することを国民に周知すること。

  ○魔石及び魔力に関するあらゆる研究開発の禁止。

  ○小火器以外の兵器の所持または製造及び開発の禁止。

  ○軍の解体。治安維持以外の武力の行使の禁止。

  ○テルミナ帝国領日本占領区出身の民は、帝国の三等国民とする。


  こんなところだと思う。

  まあ正直言ってヌルい。国民の財産には手を付けないし、なにより経済活動を活発にさせようとしている。
  ダンジョンの魔石のノルマはかなり多いらしいが、言ってしまえばそれだけだ。
  ティナたちの言っていたように、ダンジョンの魔石と素材が目的で侵攻したというのは本当みたいだ。

  ダンジョンが世界各地にある以上、いちいち反乱の対応をして魔石や素材の獲得に支障が出てはたまらないから間接統治という統治方法をとったんだろう。
   国民の不満は現地人を総督にした総督府にいくようにし、反乱分子の弾圧も総督府にやらせる。

  日本は米国に太平洋戦争で負けた時に経験しているから受け入れやすいかもしれない。

  帝国は中級以下のダンジョン素材を自国民を使わなくてもこれまでより大量に手に入れることができる。
  地球の便利な製品や美味しい食材も得られる。そして地球の技術を吸収してより強国になり世界の支配、いやダンジョンの支配をより強固な物にするってとこか。

  思ってたよりマシな統治で驚いた。戦争で負けたのにな。これが隣の大国や半島に占領されてたら、毎日女性は襲われ男は殺され民族浄化されていたかもしれない。あの国にはそれをやりそうだと思えるほどの実績がある。


  それでも。

  それでも敗戦直後から数ヶ月間は日本はハイパーインフレに食糧難、エネルギー不足で多くの死者が出たそうだ。
  食糧にエネルギーと国民の生命線である資源はその殆どを輸入に頼っていたからね。
  戦時中から買い占めが始まり大変だったらしい。
  さすがにバリアを張れる戦闘機は反則だよな。頼りの在日米軍も早々に殲滅されたら、俺も負けるかもと思って食糧確保に動くわ。

  都心部はともかく、地方の車社会の地域ほどダメージが多かったそうだ。総督府も配給等やろうにも燃料の備蓄が2ヶ月ほどしかない。電力も原発を減らして火力発電の比重が大きかったから、供給が間に合わなかったそうだ。
  総督府は強権を発動して、休止中の全ての原発を2ヶ月で再稼働させやっと一息ついたらしい。
  そうしているうちに中東や米国との貿易が再開し、混乱は1年ほどで収束したそうだ。

  日本ですら暴動が起こったそうだから相当なものだったんだろうな。
  武力鎮圧されたようだけど。そういうの聞くと変わっちゃったよね日本。
  当然ニート特別雇用法のことなんてうやむやだよ。それどころじゃないもんな。

  そして大量の失業者の発生に、収まったとはいえ以前に比べればかなりインフレをしているそうだ。
  それは現在も進行中で、総督府は日本救済軍への入隊と探索者協会への加入を率先して国民、いや領民か? まあいいや民衆に勧めているそうだ。

  日本救済軍は自衛隊が解体され、ダンジョンでの資源採取に特化した組織に改編された元自衛隊だ。
  給料が良く装備から衣食住から何から何まで総督府が面倒を見てくれる。一番死亡率が低くて人気の職業だそうだ。
  人気とか……給料以外は戦前と変わらない待遇な気がするが、環境が変われば生きていくためにハードルが下がるもんなんだろうな。餓死するよりはマシか。
  ただ、誰でも入隊できるわけではなく、結構厳しい基準があるらしい。

  そして誰でも入れて一攫千金を狙えるのが探索者だ。
  その待遇は税の免除から始まり、報酬は高額で衣食住の格安の提供に教育指導付き。
  一定のランクになれば公共機関の利用も無料で、探索者協会カードでキャッシュレス決済が可能になる。
  装備の無償貸し出しに、無担保無保証人で借金もできるそうだ。

  俺は顔が引き攣るのを止めることができなかった。
  ふざけんなよ? 俺には30万以上のローンを組ませて剣を買わせたくせに。

  まあここまではいい。ここまでは許容範囲だ。
  次にネットに書かれていたことに俺は怒りを抑えられなかった。

『3年間のうち功績がより高かった者は、獣人奴隷を買う権利を得ることができる』

  潰そうと思った。
  こんなものを許容するこの国の総督府の連中も探索者協会の連中も。
  リズやシーナが奴隷としてどれだけ苦しんできたのか知っている俺は、あんなにいい子たちが無理やり命令に従わされているのを知っている俺は、奴隷制度を容認するどころかそれを餌に探索者を集めようとしている協会とそれに群がる奴らを全員潰してやろうと思った。

  幸い隣で見ていた三井はこのことを知らなかったみたいで、苦い顔をしていた。
  さすが俺の友人だ。奴隷だなんだは物語の世界だけの架空の話だからそういう世界なんだなと受けれられるんだ。現実に人が人を虐げる行為に魅力を感じる奴なんて人間じゃない。


  それから深夜まで三井と一緒に情報収集をした俺は、翌日から死んだ仲間のための復讐をするための行動を開始した。



  
  
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