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第54話 復讐の終焉
しおりを挟む「皆さん長旅ご苦労さまでした。俺はこの帝国領桜島総督府の総督をしている阿久津といいます。なぜここに連れてこられたのかは、これまでの取り調べで十分理解されていると思います。そうです。俺とここにいる3人の日本人は、あなた達の私欲によって立案可決し施行された、ニート特別雇用法により無理やりダンジョンに入れられた者たちの生き残りです」
俺は子爵の使いであるフォースター準男爵が飛空艇に乗り込み離陸するのを見送ってから、目の前で不安そうな顔をしている元権力者たちに挨拶をした。
「あ、あの法案は間違いでした。私は総理の職を辞してからも、予想外の結果を招いてしまったあの法の犠牲者のことを片時も忘れたことがありません。この2年間、私は被害者への償いの日々を送っていたのです。ちょうど来週には出家をする予定でした」
自分の考えを持たず、演説の面白さだけで総理大臣にまで上り詰めたことで有名な大泉元総理が何かを言っている。
俺は目も合わせず右から左に流した。
《 わ、私もだ! 私は天堂に弱みを握られて、無理やりあの法案を通させられたんだ 》
《 な、なにを言うか二瓶! 貴様も乗り気だったではないか! 私は日本経済の活性化のために提案したに過ぎん! 》
《 わ、私はただの役人です! 内閣府や大臣の命令には逆らえなかったのです! 》
《 財務次官! 私のせいにするな! 当時の日本は官僚が支配していたではないか! 在任中さんざん利用しておいて今さら罪のなすりつけか! 》
天堂を始め元大臣や役人たちが、揃って自分は悪くないと責任をなすりつけあっている。
俺は飛空艇が遠くに飛んで行き見えなくなるのを見ていた。
「あ、阿久津君だったな。久しぶりだね。木更津ダンジョンの元支店長の沼津だ。君たちをこのダンジョンに送り込むよう命令をしたのは、そこにいる阿部 新三郎理事長なんだ。私は須々田と最後まで抵抗したんだ。かわいい教え子たちをこんなところに送り込むつもりは無かったんだよ。本当にすまなかった。でも生きていてくれてありがとう。君たちが生きていてくれて少し救われたよ」
一番殺したかった沼津が須々田と同じことを言っている。耳が腐りそうだ。
俺は木更津ダンジョンでなんのフォローもせず、多くの犠牲者を出したうえに死んだ仲間を魔物に食わせたコイツだけは今すぐ殺したかった。しかし楽に死なせてやるものかと、ぐっと堪えて睨みつけるに留めた。
「ヒッ!? 」
《 ぬ、沼津君! なにを言うんだ君は! 私は天堂と財務省に資源庁からの激しい催促にやむを得ず…… 》
今度は沼津の言葉に反応して、探索者協会理事長の阿部が役人に責任を押し付け始めた。
コイツが受け入れられないと突っぱねれば、誰もダンジョンに入らなくて済んだんだけどな。
ここの古代ダンジョンに俺たちを来させたのもコイツの命令だ。それをここに来て責任転嫁とか……やっぱあれだけの非人道的な行為は、マトモな神経を持ってる奴じゃできないんだろうな。
《 財務省は死傷者を出してまで、ダンジョンでの資源集めしろなどと指示しておりません! 》
《 資源庁はこのような非人道的な行いを終始一貫して反対しておりました! 》
《 経産省も現場があそこまでずさんな管理をしていたなど…… 》
ああ、もういいや。
「うるせえ! 屑どもが! 命令だ! 今すぐその腐臭を放つその臭え口を閉じろ! 」
《 ぐっ……ぐぅぅ 》
予想はしていたが取り調べの時に洗いざらい吐かされたってのに、まだ言い訳と責任のなすりつけあいをするとはな。舐められたもんだな。
「お前らが私欲のためにあの法案を通し悪用したことは、子爵からの報告書で全部知ってんだよ。今さら責任逃れできると思ってんのか? 俺たちがお前らを許すとか本気で思ってんのか? いいか? これだけは言っておく。帝国を動かすほどの力を付けたのはお前らに復讐するためだ! お前らから受けた国家権力という理不尽で死んだ仲間たちの! 俺の復讐を成し遂げるために2年掛けてここまで力を付けたんだ! それが今やっと実現しようとしてんだよ! お前らを許すなんて万に一つもねえ! 希望を持つな! 絶望していろ! 」
《 ……………… 》
「これは俺の私的な私刑だ! 権力を使って理不尽に俺たちをダンジョンに突っ込んで、多くの仲間たちを殺したお前たちに対する俺の個人的な私刑だ! 帝国を使い帝国の許可を得て行う私刑だ! どうだ? より強力な権力によって理不尽な目にあう気持ちは? 怖いだろ? 悔しいだろ? 逃げたいだろ? それはお前たちが殺した1400人の、お前たちが勝手に定義したニートに分類される者たちが感じていたものだ」
《 ……………… 》
こんなことを言ってもコイツらの心には響かないのはわかってる。これは撮影用だ。
一生懸命働いて心を壊して療養している者や、家族に不幸があって絶望している者をニート扱いしやがって。あげくにはダンジョンに無理やり放り込んで殺しやがって……コイツらは鬼畜だ。人間じゃねえ。魔物と同等だ。
今は俺の話を聞いて悲痛な顔をしているが、コイツらの内心は手に取るようにわかる。
口八丁で切り抜けてきたコイツらが言葉を封じられ次に取る行動は……
ズザザッ!
ほらな? 政治家と役人の見事な土下座だ。
もうね、惚れ惚れするくらい綺麗な土下座だよ。教科書に載せたいくらいだ。
まあなんとも思わないけど。むしろその頭を踏みつけてさらなる絶望を与えたくらいだ。
俺は遅れて土下座を始める探索者協会幹部どもから目をそらし、その横でずっと青ざめた顔をしていた刃鬼たちに目を向けた。
「よう武藤。久しぶりだな。ん? Bランクになったのか?他の奴らもB-ランクか。おめでとう。どうだ? 俺や仲間たちを犠牲にして手に入れた強さは? ずいぶん羽振りが良かったらしいじゃねえか。そういえば1人足らないな? またダンジョンで囮にしたのか? 」
「あ、阿久津……あ、あの時はああするしかなかったんだ。俺はパーティリーダーだ。仲間を死なせたくなかった。仕方なかったんだ」
「うんうん、わかるよ。俺も同じ状況でもしも大事なパーティ仲間が全滅する恐れがあるなら、リーダーとして他人を見捨てでも仲間を逃がすかもしれない。優先順位ってやつだろ? 」
俺も知らないパーティと組んで強敵に出会ったら、ティナたちを逃がすためにほかの奴らのことは考えず彼女たちを逃がすだろう。大切な仲間を、恋人を死なせるくらいなら恨まれたっていい。
「そ、そうだ! 俺だって力があればお前たちを見捨てたりしなかった。あの火蜥蜴の群れはどうしようもなかったんだ。あの後もヴェロキラプトルに襲われ、大怪我を負ってこっちもギリギリだったんだよ」
「そうだな。逃げるのは仕方なかったな。でもそれは護衛の依頼を受けていない場合の話だけどな。それでも仲間のために依頼を放棄するのだったら、ギリギリまで戦ってからやるべきだった。そしてアンタだけは残るべきだった。そうすれば俺たちも恨みやしなかったよ。でもアンタたちはあの時余裕があった。5人全員が脱出できるほどにな。そして見捨てられた俺たちは壊滅した。俺は転移トラップに掛かり下層まで飛ばされた。痛かったぜ? 苦しかったぜ? でもお前らに復讐するために! 仲間たちの無念を晴らすためにこの地獄のダンジョンから這い上がってきたんだ! 」
そう、護衛の依頼を受けていたならギリギリまで戦うべきだ。それでもどうしようもなかったら、俺も大切な仲間を逃がす。そして俺だけは残って残された者たちと戦う。それが護衛をすると約束したことへの責任だ。
間違っても自分の命かわいさに見捨てて逃げたりなんかしない。
「ぐっ……」
「お前らは護衛の任務を放棄し、俺たちを見捨てただけじゃなく囮にした。そしてこの2年間のうのうと生きていた。俺はその間2年掛けてこのダンジョンから這い上がり、帝国を動かしお前らを呼び付けれるほどの力を手に入れた。武藤、お前らは恨みを買ったんだ。それを跳ね除ける力がないのなら、おとなしく裏切られた者たちの恨みをその身に受けろ! 」
恨みを買うようなことをして、恨みを買った相手が自分たちより強くなって目の前に現れたんだ。
それを跳ね除ける力が無いのなら、黙って恨みを晴らされるしかないよな。
「ま、待ってくれ! あ、謝る! あの時の被害者たちに償いをする! だからその機会を! 俺たちに償いをする時間を……」
「なに言ってんだお前? 2年も放置しておいて償いだ? 頭湧いてんのか? 見捨てたことを本当に後悔しているなら、あの後すぐにでも遺族のとこに詫びに行ってんだろ。それなら俺も許す気にもなったさ。それを今さら償いをするだ? 命乞いならもっとマシなことを言うんだな。もういい、お前と話しているとヘドが出る! もう喋るな。命令だ」
「うぐっ……」
今さら償いだ? 本当に良心の呵責を感じていたならとっくに遺族のとこに行ってんだろ。コイツら今回の件で帝国に捕まる時さ、乱交パーティ中だったんだぜ? そんな奴が償いとか口にするのを聞くだけでもヘドが出る。
もうコイツらは必要なこと以外もう喋らせない方がいい。口を開けば腐臭を撒き散らすだけだ。
三田や鈴木も鬼の形相だ。田辺もカメラを持つ手が震えている。この3人は刃鬼の裏切りによってあの場所で火蜥蜴に焼かれ腕や足を失ったんだ。武藤は三田たちのことは忘れているみたいだけど、三田たちはあの時の刃鬼の裏切りを鮮明に覚えてる。
本当は三田たちに殺させてやりたいが、それじゃあ生ぬるい。コイツらにはこのダンジョンで死んで馬場さんたちのところへ直接詫びに行ってもらわないと困るんだ。
「それじゃあこれから俺たちが体験したことを追体験してもらう。そこに俺たちが探索者協会より支給された装備よりずっと良い装備と、各リュックに2日分の食糧と水が入っている。あと包帯とかだな。紙とペンはサービスだ。今から20分以内に装備を付けろ。命令だ」
《 ま、待っ……ぐうぅぅぅ! 》
《 そ、そん……ぐぅあ! 》
「喋るな動け! 首輪が締まるだけだぞ? レオン! 手荒に扱っていい。隊員を使って装備を付けるのを手伝ってやってくれ」
「おうっ! わかった! 」
「レオン、信じられるか? 俺はこんな奴らの命令に逆らえなくて、Fランクなのにこのダンジョンに入ったんだぜ? 」
「Fで古代ダンジョンにか!? 処刑じゃねえか! 」
「そうだな……」
そうだ、俺たちは社会に死刑宣告されたんだ。
自分たちを守ってくれると思っていた日本に、普段人権侵害だと大騒ぎしている団体や議員にすらいらない物として処分されたんだ。
なんだったんだろうな日本て、人権てなんなんだろうな。
そんなもの最初からなかったんだろうな。民主主義国家だと思っていた日本は、個を犠牲にして社会を守る社会主義国家だったんだろう。最初から個人の人権なんてなかったんだ。隣の大国と同じだったんだ。
そういえばマスコミがそうだったな。放火で多くの人が亡くなったのに、遺族が公表しないで欲しいと言っていたのに、警察に圧力を掛け犠牲者の名前を公表させた。そして遺族の家に押し入り、国民の知る権利を盾に家族を失い悲しむ遺族に鞭を振るっていたな。その親戚や故人の友人にも。
そんなもの誰が知りたいと言った? 誰が遺族を苦しめろと言った?
結局マスコミの金儲けのための方便なんだろう。けど、長年それが許されてきた。政治家は法律を作るのが仕事なのにマスコミを恐れ、奴らを規制する法を作らなかった。
警察もそうだ。あいつらは決して市民の味方なんかじゃない。隣の大国の国民が日本で暴動を起こしたのに、逮捕されたのはそれらに襲われている人を助けようとした日本人ばかりだ。長野のオリンピックの時だったな。政治的判断て奴だろう。警察は政治家に言われれば市民相手でもその武力を行使する。
そしてこの国の政治家は平気で自国民を犠牲にする奴らばかりだった。
でもその政治家を選んだのは国民だ。つまりはそれが社会の意思なんだろう。
社会や企業のために個人なんてずっと昔から犠牲にされていたんだ。
ニート特別雇用法も同じだ。どういう人がニートに区分されているかもよく知らず、働いていないからと社会のゴミ呼ばわりをしてあの法案が通る下地を社会が作った。
そして法律ができ施行されても、マスコミの報道が無ければ真実を知ることができない。
しまいにはそんな法律できたっけくらいの認識だ。
その裏で1400人もの人間が命を失っているのにだ。
俺を含め自分のこと以外は無関心で無責任な社会だった。それを利用した腐った権力者によってみんなは殺されたんだ。
自業自得と言えばそうなのかもな。自分の身に降りかかって初めて気付いたよ。
社会を変えなければいけない。でも社会を変えるには国民の一人一人が変わらないといけない。
いつの時代も民衆は追い込まれるまで変わらないものだ。それは歴史が証明している。
ならば暴力にも誘惑にも負けない強くて清廉潔白な指導者を選べばいい。
自分で言っておいてなんだが、そんな人間が政治家にいるとは思えない。
だったら自分の身は自分で守るしかない。
もう二度と社会に殺されないように。
もう二度と権力者による理不尽には屈しないように。
そして理不尽な暴力に屈しないように、俺たちは強くならなければいけないんだ。
「アクツさん、装備させたぜ! 」
「ああ、ありがとう。プッ……それじゃあ今からお前らのやってきたことを1人ずつ読み上げる。ああ、返事はイエスかノーかだけだ。口を開けば言い訳しかしないだろうから、時間の無駄だ。正直に答えろ、これは命令だ。では最初は諸悪の根源であり大罪人の天堂からだ。お前は停滞の指輪を得るために……」
俺は政治家たちが太っていてサイズが合わず、無理やり着けさせられた革鎧姿に一瞬笑いそうになったがグッと堪え、報告書を手に一人一人罪状を読み上げた。
そして全員が無駄な抵抗をして苦しみながらも内容に間違いがないことを認めた。
それから俺は政治家たちを2列に並ばせ、ダンジョンへと移動するように命令した。
全員が命令に逆らい首をイヤイヤと振っていたが、首輪が締まるに連れて苦しくなり歩き出した。
これが隷属の首輪の効果か……命令していてこれほど気分が悪くなるものはないな。正直恨みがある相手以外に使う気にならない。こんなものを平然とエルフたちに使っていた帝国の奴らはやっぱり魔族だわ。
それでも刃鬼だけは生き残る可能性があるからか、暗い顔をしつつも素直にダンジョンへと歩いていってた。さすがBランクパーティだ。
装備も一番良い物を選んで身に付けている。まあ刃鬼用に用意したやつなんだけどな。
なんたって刃鬼には特別メニューを用意しているからな。
そしてダンジョンの入口に全員がたどり着いたところで、俺はお別れの挨拶をした。
「それでは遅くなりましたが、法案を作成し通すことに尽力された皆さんにはその身をもって見本を見せてもらいます。指揮官先頭というやつですね。まあ誰も後に続かないので、全くの無駄な行為ですけど。それでも死んだ仲間のために、貴方達にはダンジョンを経験してもらいます。これは死刑ではないので、2階層へ続く階段を見つけた者から戻ってきていいです。無事戻ってこれたなら家に帰すことを約束します。皆さんはダンジョンに入り、1時間は奥へ進んでください。そして2階層に続く階段を見つけるまでダンジョンから出ることを禁じます。これは命令です。ああ、命令に逆らってここで窒息死されても迷惑なので、中に入らない人は放り込みます。死ぬならダンジョンで死んでください。では刃鬼以外は中に入ってください。ランクを得られるといいですね。さようなら」
「ま、待ってくれ! 頼……ぐうぅぅ! 」
「た、助け……ぐえっ! 」
「やだっ!嫌だ! 入りたく……ぐっ……」
「レオン、そこの死にそうな天堂とチンタラ歩いてる奴らを放り込んでいってくれ」
「わかった。ったく、往生際が悪い奴らだな。オラッ! 飛べっ! 」
「ぎゃっ! 」
「怪我をしたら生存率が下がりますよー! 早く入って! 入って! 」
俺はよほど入りたくないのか入口で首輪が締まるのを耐えている天堂をレオンに蹴りばさせ、手を叩いてほかの者たちを急かした。それまで政治家お得意の牛歩でダンジョン入口に向かっていった者たちは、観念したのか普通に歩き出した。まあ恐らく中でも牛歩をするつもりだろう。
「追加命令です。5分以内に200m進んでください。そのあとは牛歩でもいいですよ。まあ死にたければですけど」
俺はダンジョンの中に向かってそう追加命令を出した。それを聞いた入口にいた役人や探索者協会の奴らは、恨み言と悲鳴をあげながら奥へ奥へと歩いていった。
「さて、次は刃鬼だな。武藤、付いて来い」
「ど、どうするつも……ぐっ! 」
「お前らには特別コースを用意してある。まさかあのランク無しの奴らと同じ扱いだなんて思ってないよな? それは考えが甘過ぎなんじゃないか? ああ、田辺たちはここで残っていてくれ。ちょっと行ってくる」
俺はカメラを構える田辺たちにそう言ってダンジョンの中に入り、すぐ左を曲がって突き当たりの壁へと向かった。刃鬼たちは俺の後を恐る恐る付いてきている。特に俺を襲わないよう命令していないが、襲い掛かってきたら難易度が上がるだけだ。好きにさせるさ。
そして突き当たりにたどり着くと、その壁には青い魔法陣が描かれていた。
そう、ここは階層転移室の入口だ。
ここはこのダンジョンを出る時に見つけた物で、ここからはボスを倒した者だけがその先の階層へ転移できる。
10階層のボスである飛竜を倒したことがある者は11階層へ、20階層のバジリスクを倒したことがある者は21階層へ直接移動できるわけだ。ボスを倒した時にいたパーティメンバーにもその権利はある。
ただ、最大で81階層までしかここからは行けない。90階層は飛び越せられないようだ。転移トラップでは行けるのにな。
刃鬼の奴らは当然この存在を知っているようで、顔を一気に青ざめさせていった。
中級ダンジョンにもあるからな。青木ヶ原ダンジョンにもあったし。
俺はまた何か言いたげな武藤を無視し、壁に描かれている魔法陣に手を当て魔力を流した。すると壁がスライドしていき、人が3人は並んで通れるほど開いたところで俺は魔力を流すのを止めた。
「入れ。命令だ」
「「「…………」」」
転移室の中は広く、重装備の騎士が200人くらいは入れそうな広さがある。そして天井には照明がぶら下がり明るい。81階層の転移室は、今後何かあった時の避難所にしようと思う。帝国に到達者はいないしな。
そして部屋の中央の床には大きな魔法陣が描かれている。
俺はそこに移動し、刃鬼に付いてくるように言い魔法陣の上に立たせた。
悲痛な表情を浮かべて中に入る武藤たちを横目に、俺は階層転移陣に魔力を流し発動させた。
「階層転移、31階層へ」
「「「なっ!? 」」」
俺が転移陣を発動させると、刃鬼は全員が信じられないと言わんばかりの表情で俺を見た。
その瞬間転移陣が光り、部屋中を光で埋め尽くした後に一瞬の浮遊感を感じた。
そして光が収まると、目の前の壁に31という文字が書かれている同じ広さの部屋へと移動していた。恐らくこれは過去にテルミナ人が書いたものなのだろう。
「何を驚いてるんだ? 俺はFランクでこのダンジョンの最下層に転移トラップで飛ばされて、生きて出てきたんだ。出てきた頃にはSSランクになってたよ。それに比べてお前らはBランクだろ? 31階層っていってもたかがBランクの飛竜がモブ敵として出て、Aランクの地竜がこのすぐ上の階にいるボス程度だ。余裕だろ? 途中の宝箱で良い装備があるといいな」
「地竜!? む、無理だ……ぐっ! 」
「飛竜相手だってこんな装……うぐっ! 」
「攻撃スキルを使えるのが2人もいるだろ? 氷壁に氷槍、火球に探知まで持ってるな。武器も武藤が持ってるのは黒鉄混じりの剣だ。鱗を避けて急所を突けば倒せる。やっぱ41階層にしておくべきだったかな? まあいいや、転移室を開けるから出ろ。ああ、もう喋っていいぞ。喋れないと探索に差し支えるからな」
俺はそう言って転移陣から出て、刃鬼に背を向けて正面の壁に描かれている魔法陣に魔力を通そうとしたその時。
「動きを封じろ! 阿久津の口をふさげ! オラッ! 」
「開けさせません!『氷槍』」
「燃えろ! 『炎球』 」
「シッ! 」
「プッ! 予想通り『結界』 」
俺は予想通りの展開に思わず笑ってしまいつつも結界を発動した。
俺は隷属の首輪の主たる登録者ではない。フォースターから間接的に権限を委譲させられているだけだ。コイツらの首輪の主はフォースターのままだ。
つまり刃鬼が俺に攻撃をしても、首輪は主人に対しての攻撃として認識しない。首輪が認識しているのは、俺の命令に逆らわないようにするということだけだ。そして俺は敢えて刃鬼に俺への攻撃を禁止していない。
だから必ずコイツらは俺が警備隊から離れ1人になったことで、31階層へ繋がるこの壁を開ける時に攻撃してくると思っていた。
恐らく隷属の首輪のことは帝国の奴らにでも聞いたんだろうな。何やら手でコソコソサインを出し合ってたし。でもここに来てすぐに攻撃スキルを持つ2人が、スキルをいつでも発動できるようにしていたのを感じていたからわかりやすかったよ。俺は魔力に敏感なんだ。
パシーン パシーン
キンッ! キンッ!
「なっ!? 」
「は、弾かれた!? 」
「ぐあっ! け、結界!? 」
「自ら生存率を下げるそのスタイル。愚か過ぎて笑える。でも、嫌いじゃないぜそのテンプレ。『滅魔』 」
俺は結界に阻まれて剣を取り落す武藤と、もう1人の細く幽霊みたいな顔をしている剣士。そして氷槍を放った優男に、火球を放った人相の悪い男に向かって滅魔を放ち体内の魔力を全て抜き取った。
「え? 」
「な、なんだ? 」
「うおっ! か、身体が急に……重く……」
やはり地球人は帝国人とは違い基礎筋力があるから、身体強化が解除された程度の効果しかないようだ。
まあそれでも攻撃魔法みたいなスキルはもう撃てないだろう。
俺は自分の身に何が起こったか理解していない4人を放置し、壁の魔法陣に魔力を流し壁をスライドさせた。
「さあ全員外に出ろ! 急げ! 命令だ! 」
「うぐっ……くっ……身体が……『身体強化』……なっ!? 『身体強化』! 」
「おいっ! 冗談だろ? 『身体強化』……そんな……『身体強化』! 『身体強化』! 」
「ま、まさか! 『氷矢』……『氷矢』! 」
俺が転移室から出るように命令すると、刃鬼の4人は外へと向かいながら身体強化やその他のスキルを試していた。そしてそれらが発動しないことに絶望していた。
「ククク……ざまぁ! お前らの魔力は全て抜き取ったんだよ! お前らはギリギリ生き残れるかもしれない可能性を自ら0にしたんだ! ほんと笑えるわ! 攻撃スキルも身体強化も無しで飛竜と戦うとか無理ゲーだろ! なに? 縛りプレイが好きなタイプ? 実戦でそれをやるとかさすがはBランクパーティだな。せいぜい魔力が回復するまで逃げ回ってろ」
俺はスキルを使えないことを呆然としている武藤たちにそう言った。
「ま、待て! 待ってくれ! わ、悪かった! もう逆らわない! 一生アンタの奴隷でいる! ダンジョンで稼いだ物は全て渡す! だから置いていかないでくれ! 頼む! 」
「い、妹がいるんです! 私の帰りを待つ家族が! ど、どうかチャンスを! 」
「俺にはまだ小さい子供がいるんだ! 俺がいなくなったら野たれ死んでしまう! アンタも人の子なら頼む! 最後にチャンスをくれ! 」
「ま、毎日女を連れてくる! 好きにしていい! 美人ばかりだ! テクニックも凄えんだ! な? だから俺だけでも連れて帰ってくれよ! 」
「え? なんだって? よく聞こえなかった。ああ、魔寄せの鈴を鳴らして欲しいって? マジで? 勇者だわ~それじゃあ全力で鳴らしてやるよ」
リーーーン
リーーーン
俺はついさっき俺に攻撃してきたくせに見苦しくも命乞いをし始めた刃鬼たちに、鈍感主人公になりきって聞き間違いをし魔寄せの鈴を取り出した。そして魔力を大量に込めて鳴らした。
とりあえず呼び寄せさえすればいいだろう。鈴を持った俺がいなくなれば刃鬼に向かう。
「な、なんだそれは! 魔寄せ? ま、まさか……まさか……」
「もうすぐ飛竜の群れがやってくる。がんばれ! じゃあな……魔物に喰われて死ね! 」
俺は剣を重そうに構え、全身を震わせ怯える武藤に別れの挨拶をして転移室の壁を閉じた。
まあ、万が一にも生きて出てくることはないだろう。一応明日にでもこの階層を確認しとくか。
さて、地上に出るか。
俺は転移陣を発動し1階へと戻った。
そしてダンジョン出口にいる三田たちに全てが終わったと伝えた。
「そうですか。やっと……やっと……」
「馬場さん……浜田……畑山……」
「自分が殺したかったですが、魔物の餌の方が奴らにはお似合いですね」
「最後は自爆して笑えたよ。今夜ゆっくり話してやる。さて、政治家どもが出てこないかもう少しここで見張ってから帰るか。明日から三田たちには動画の編集やら郵送やらやってもらわないといけないからな。悪いが頼むよ」
「いえ、みんなのためですから。そしてこれからの僕たちのためでもありますし」
「俺も鈴木とがんばってやりますよ先輩! とりあえず今日は祝杯をあげましょう! 」
「自分も今日は飲みたいですね! このダンジョンの前で」
「お? いいね。ならこのままここにいるか。レオンも飲むか? 今日はここにテントを張って宴会でもするか? 」
「うおっ! 阿久津さんいいのか! なら非番の奴らも夜呼んでくらあ! ニホンの酒は美味いから楽しみだぜ! 」
「ああいいよ。みんな呼んでいい。今日は皆でここで騒いで飲んで死んだ者たちを送りだそう」
まあ、死ねば仏だ。政治家連中もついでに送り出してやるさ。
それから誰も出てこないのを確認したのちに、夜に200人ほど集まり夜を徹して宴会が行われた。
ティナやニーナやレミアたちも料理をたくさん作って持ってきてくれた。
俺と三田たちはただただ騒いで飲んだ。
今日ここでやったことが何の意味があるかと言われれば意味はないのだろう。
刃鬼が死のうが政治家や経済界のドンが死のうが、馬場さんたちが生き返るわけじゃない。
復讐は意味がない。虚しいだけだと言う者もいるだろう。
確かにその通りだった。終わってしまえばこんなに虚しいものなのかと驚くほどに、心にぽっかりと穴が空いていた。俺たちはそれを飲んで騒いで埋めていただけなんだろう。
それでも、それでも俺たちにとってはこれは必要なことだった。
生き残った1600人の元ニートたちにも、亡くなった1400人の遺族たちにもだ。
災厄を起こした元凶はもうこの世にはいない。ならば、もう過去に囚われず前に進むことができる。
そう、俺たちは前に進むことができるんだ。
不幸を乗り越え、幸せになるために明日から前に進むことができるんだ。
こうして俺は馬場さんや仲間たちを死へと追いやった者たちへの復讐を終えたのだった。
そしてこれが俺たち元ニートたちによるこの世界への逆襲の始まりだった。
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せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
この世界にダンジョンが現れたようです ~チートな武器とスキルと魔法と従魔と仲間達と共に世界最強となる~
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謎の怪物が現れて人を襲っているなどの目撃例が出ているようだ。
謎の黒い穴に入った若者が行方不明になったなどの事例も出ている。
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様々な登場人物が織りなす群像劇です。
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その後、七星家の七星ナナナと虹咲家の虹咲ナナカとの出会いが拓朗を成長させるきっかけになる。
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