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第3章 ニートと帝国動乱
第2話 領有宣言
しおりを挟む「本日をもって帝国領日本自治区の一部である沖縄本島を除く九州及び離島地域は、阿久津男爵家領となることをここに宣言する。帝国暦2754年9月1日 テルミナ帝国男爵 阿久津 光」
モンドレット子爵家を滅ぼしてから2週間ほどが経過した頃。
俺は桜島総督府ビルの会議室に設置した演台の前に立ち、テレビカメラの前で領有宣言を行なっていた。
当然公式な場なので俺の服装は帝国式の正装だ。
朝からティナとオリビアに髪を油まみれにされ、眉を整えられたうえに薄化粧までされた顔。そして黒いロングジャケットに白いヒラヒラのドレスシャツ……
この姿が日本だけではなく世界中に流れ、各領地の自治政府と帝国貴族の目にも触れることなる。
俺はモニターに映る自分の姿を見ながら、これはなんの罰ゲームだと顔をひくつかせながらも宣言を終えた。
そしてカメラの向こうで笑いを堪えているリズとシーナに今夜覚えてろよと思いつつ、あとはフォースターに任せるべく演台を後にした。
「阿久津男爵様により沖縄本島を与えられ、本日をもって領主に就任した阿久津男爵家外務担当のレナード・フォースター準男爵である。これより当領地に関する重要事項のみを通達する。一つ、本日をもって特別な技能を有する者以外の日本自治区からの移住は禁止する。また、本日時点で住民登録をしていない者は領外追放処分とする。以後、領民の住民カードの所持は義務とする。罰則に関しては厳しいものとなるので必ず所持するように」
俺と入れ替わりでフォースターが演台に立ち、その鋭い目をカメラに向け俺より堂々と重要事項の通達を行った。
さすが3年前までただのニートだった俺とは年季が違うよな。
カメラの後ろに移動した俺は、ティナたちの隣でフォースターのスピーチを見て感心していた。
それからフォースターは事前の打ち合わせ通り、次々と今後の新領地の施政方針に関して述べていった。
その内容は簡単にまとめると以下の通りだ。
○ 九州と離島地域に関しては、新たに総督府を設立し自治を認める。ただし、総督のみ男爵家が指定した者となる。それ以外に関しては領民による選挙で行うことを認める。
○ これまで公僕として勤めていた者は、引き続き総督府管轄の各局にて再雇用する。雇用条件は以前より良いものとなることを約束する。ただし、過去在職中に不正行為があった者は、全ての財産を没収した後に追放処分とする。
○ 徴兵制度は男爵領でも行うが、18歳から30歳までの健康な男子のみが対象となる。半年の訓練の後に2年間ダンジョンでの兵役を課すことになるが、特に自由を制限することはない。ノルマさえ果たせば好きな時にダンジョンに入ることが可能である。ただし、果たせなければ兵役は延びる。女性に関しては今後徴兵することはないと約束する。
○今後全ての学校に剣術及び槍術の授業を導入する。
○ 総督府所属の高位の役職に就く者の犯罪に関しては、通常の量刑より厳しいものとする。同じようにランクを得た者の傷害等の犯罪行為も厳しくするものとする。
○ 警察より上位の組織を設立し、高位に就く者に対して領民からの一定数の嘆願による捜査を行う。
○ 刑務所の予算は大幅に削減する。男爵家は罪人の更生など期待していない。
内政なんて面倒だから、総督府を設立して自治を任せる。桜島のみ俺が管理する。沖縄本島はフォースターにやったからフォースターが直接統治するだろう。
ただ、総督だけはうちから派遣する。そして総督の権限を強くする。総督府はあくまで領内のインフラや経済、治安維持や領民の管理を行うために存在する。
徴兵は別に魔石が欲しいわけじゃないから、対象年齢を限定して若い者たちを鍛えるために実施することにした。いざほかの貴族が攻めてきた時に、自分の家族くらいは守れるようになってもらわないと困る。ランク持ちを今後緊急徴用する可能性も無きにしろあらずだしな。
まあいざという時の保険要員だな。2年もやればEランクにはなるだろう。そういった存在だから女性は特に必要ない。
それに日本総督府と違い、教育訓練終了後もどこかの施設に押し込むつもりはない。宿泊施設は用意するが、通えるなら家から通ってもいい。強制的に2年半探索者になる感じかな。装備と衣食住は保証するが、基本無給だ。その代わりダンジョンで得た魔石や素材は正当に買い取る。結果的にかなりの高給になるだろう。期間終了後、何割かはギルドに加入すると思う。
高位の職に就く者へ厳しいのは、責任ある立場の者が一般人と同じ刑罰じゃ不正は無くならないと思ったからだ。そしてそういった地位にある者を専門で摘発する組織も作る。ネット社会だからな。その辺は領民の密告で捜査する形にすれば不満も出にくいだろう。
刑務所に関しては金の無駄だ。更生なんて期待してないし、刑務所は生活保護施設でも老人ホームでもない。本当なら執行猶予すら付かない懲役刑を受けるほどの犯罪者は、ダンジョンで働かせたい。でもダンジョンはそんなに無いから管理が大変だ。中で盗賊化されても面倒だしな。
だから食事を減らし個室を無くす。そのうえ毎日クタクタになるまで働かせる。二度と入りたくないと思えば再犯率も減ると思うんだ。そのうち死刑もダンジョンに放り込んで終わりにしようと思う。これなら執行する側も手を汚さなくていいしな。魔物に喰われたくないなら、重い罪を犯さなければいい。
罪を憎んで人を憎まずという言葉があるが、俺は罪も人も憎む。でなきゃ善良な被害者やその家族や遺族が報われない。
「最後に。領内にある人も物も金も全てが男爵家の財産である。それらを毀損せしめる者は重罪となることを肝に命じよ。以上だ」
フォースターはそう最後に言って演台から離れた。それと同時にテレビカメラの撮影も終了した。
「産恵テレビの皆さんお疲れ様。以上で男爵家からの宣言は終了よ。飛空艇まで案内させるから、カメラをしまって付いていってちょうだい。怪しい動きをしたらダンジョンのレポートもしてもらうから、真っ直ぐ前だけ見て帰ってね」
フォースターが演台から離れると、隣にいたティナが撮影陣に対して撤収するよう促した。
桜島には滅多に外の人間を入れないからな。盗聴器やらカメラとか設置されてもめんどくさいから、少し脅す感じの言い方になっている。まあそれだけ深夜にこの島に侵入しようとする者たちが多いということだ。
「は、はいっ! ほ、本日は当局をご、ご指名いただきありがとうございました! 」
「あなたのところの番組は男爵もよく見ていましたから。ニホンではまともな報道機関でしたので今回お呼びしたまでです。今後も何かあればお願いするかもしれません。その時はよろしくね」
「は、はい! 是非よろしくお願い申し上げます! 」
ティナが笑顔でそう言うと、産恵テレビのカメラマンとクルーたちは緊張した面持ちで警備隊に連れられ会議室を出ていった。
「さて、フォースターはお疲れ様。もう領地に戻っていいぞ。沖縄のことは頼んだ。あそこのダンジョンは今後軍の訓練用ダンジョンにするから定期的な収入になるはずだ」
俺はスピーチを終えて配下の者と壁際で待機していたフォースターに声を掛け、不人気ダンジョンのことは心配するなと伝えた。
軍の新人教育と訓練専用に使用すれば、素材も魔石もフォースターのところに定期的に集まるだろう。その代わりフォースター家には軍の宿泊地の用意などをしてもらうつもりだ。
「ハッ! お気遣いありがとうございます。蟲と植物系ダンジョンは素材の宝庫ですので、領内が潤うこと間違いないでしょう。いただいた領地を必ずや繁栄させてみせましょう」
「期待しているよ。それじゃあリズとシーナはギルドに戻ってくれ。加入希望者が増えて忙しいのに付き合ってくれてありがとう。また夜にな」
「彼氏の晴れ姿だからな、見守ってやるのはコウの女としての務めだ。カッコよかったぜコウ。プッ! 」
「コ、コウさんカッコよかったですぅ」
「くっ……夜に絶対お仕置きするからな」
「ケケケ! あたしが逆に骨抜きにしてやるよ! んじゃあな! シーナ、ニヤニヤしてないで行くぞ! 」
「ふえっ!? 兎は別に……コウさん夜を楽しみにしてますです! 」
「……誰かシーナが堪えるお仕置きの仕方教えてくれないかな」
俺は強がるリズに引っ張られて嬉しそうに会議室を出て行くシーナを見て、どうすればシーナにお仕置きをご褒美と認識されないか悩んでいた。
「ふふふ、お仕置きをしないことがお仕置きになるわよ。それより沖田さんとエルミアがもうすぐ来るわ。執務室に行きましょう」
「なるほど、放置するのも手か……ああ、そろそろ時間だな。執務室に行こう」
俺はティナの何もしないということがお仕置きになるという言葉に一理あると思い、今夜さっそく試そうと思った。
それからエレベーターで最上階の桜島総督兼男爵執務室へと戻り、沖田たちがやってくるのをティナと待つことにした。
※※※※※※※※※※
「九州総督に沖田 悦司。その補佐官としてエルミアを任命する」
俺はエルミアと共に執務室にやってきたスーツ姿の沖田に、総督任命書を手渡した。
「……はい」
「はい、しっかりサポートいたします」
「悪いな沖田。俺の代わりに統治を頼むよ。デビルマスクは貸しておくからさ」
「その……私に政治なんてできるでしょうか……」
「エツジ! シャキッとしなさい! アクツさんに信頼されてるのよ? 応えるのが男でしょ! 」
「うっ……そ、そうだね。阿久津さん任せてください! 私がしっかり領内をまとめてみせます! 」
「ははは、頼むよ。鹿児島市長の大谷さんに外務局長を頼んでおいたからさ。ほかにも知事や市長たちが議員になるからやりやすいと思う。汚職だけは厳しく処罰してな? エルミアも沖田が取り込まれないように監視しててくれ」
俺はエルミアに背中を叩かれて気合いを入れられて背筋を伸ばす沖田に、周囲は顔見知りばかりだからと安心させた。
とりあえず議員やら局長は現在の知事や市区町村長辺りを使う。落ち着いたら選挙をすればいいだろう。
「はい。エツジは優しいですからね。私とウンディーネでしっかり見ておきます」
「ええ!? 私は取り込まれたりなんてしませんよ。阿久津さんに恩返しをするどころか裏切るなんてあり得ません! 」
「あはは、信じてるよ。まあでもハニートラップとかあるからさ。念のためだよ」
「大丈夫ですよ。私はエルミアしか興味がないですから」
「また顔に似合わないキザなこと言ってるわね。いいから行くわよ。やることがたくさんあるんだから」
「うっ……わかったよ」
沖田はアンデンティティを全否定されたかのような顔をしつつ、エルミアに腕を引っ張られ執務室を出ていった。
俺から見ればイケメンなんだけどな。エルフの美的感覚って残酷だよな。
「ふふっ、沖田さんは見た目はイマイチだけど、エルミアを本気で好きなのが伝わってくるわ。エルミアもまんざらでもないみたいだし、あの二人お似合いかもしれないわね」
「男は顔じゃないさ。心意気だと思うよ」
「見た目も良くて完璧人間のコウが言っても嫌味に聞こえるわね。ふふっ」
「え? 嫌味? そ、そう? そう思う人も中にはいるかな? あはは」
少なくともニート軍の奴らは思わないだろうな。
「ふふっ、照れちゃって可愛いわ。そういう自惚れないところも素敵よ」
「そ、そうかな。買いかぶりすぎだよ……」
そんな潤んだ目で見つめられて言われてもなぁ……俺のどこに自惚れることができる要素があるのか逆に問いたいよ。
「そんなことないわよ。アイナもグローリーもダークエルフの皆も、みんなコウの恋人になれた私を羨ましがってるわ。エルミアだって最初はコウのことが好きだって言ってたんだから。恋人として鼻が高いわ」
「え!? そうなの!? ま、まあエルフもダークエルフも義理堅いからね。そういった気持ちもあるんだと思うよ」
「もうっ! ほんとに鈍感ね! ふふっ……そういうところも好きなんだけどね♪ 」
まさかの鈍感男認定されちゃったよ……別に鈍感じゃなと思うんだけどなぁ。
エルフに限らず獣人たちからも好意を持たれてるのは気付いてる。でもいくらなんでもそこまでモテるとか思わないよね普通。やっぱり恩を感じてってのを一番最初に考えると思うんだよ。メレスなんかもその部類だと思う。そういう恩を感じてる気持ちを勘違いして、俺に惚れてるとか思うのはカッコ悪過ぎだろ。
多分ティナは好きになったら全肯定の女の子だからそう思ってるだけなんだ。着替えからご飯食べさせるとこまで全部したがる男を駄目にするタイプの子だからな。もう着替えがどこにあるか俺にはわかんない。多分ティナの部屋のクローゼットに全部あると思う。
「そ、それより飛空宮殿がそろそろ届くと思うんだけど、新しいメイドの選定は進んでる? 」
俺はこのままじゃ勘違いしそうだったので、話題を変えるべく納品間近となった飛空宮殿で働くメイド募集の進捗をティナに聞いた。
飛空宮殿は乗組員も親衛隊も全員女性にするつもりだ。乗組員は軍から引き抜いてくるとしても、メイドは新規に雇わないといけないからな。
「ええ、レミアがもう何人か選んでいたわ。でも6人から一気に100人まで増やすからもう少し時間が掛かるわよ? 」
「しばらくは住み込みの御庭番衆と親衛隊の女の子たちに手伝ってもらうから大丈夫だよ。ほぼ城みたいなもんみたいだし、住むところはいっぱいあるんだろ? 」
確か全長1kmに幅が500mはある甲板が平らな船だったかな。その平らな部分に宮殿が建ってるんだよな。戦闘機とかの駐機場もあると聞いた。まさに天空の城って感じだよな。名前をラピタにして、主砲を発射するときはバヌスとか言うようにしようかな?
「宮殿と併設された建物だけで3000人は居住できるわ。艦内にも居住区があるから5000人はいけるんじゃないかしら? 宮殿には東西に二つの塔があって、一つは艦橋になってるって聞いたわ。もう一つは遊戯施設やバーやらが入ってるらしいの。今回プールにボーリング場や映画館も新設してくれたのよ? もう早く住みたくて仕方ないわ」
「そんなに住めるのか……俺も宮殿の大浴場と露天風呂がどうなってるか楽しみだよ。毎日ティナたちと入るとこだしね」
なんかオリビアを通して注文してると思ったら、プールや映画館とか頼んでたのか。
まあ白亜の宮殿とかいってずっと楽しみにしてたしな。置き場所が無かったから後回しになったけど、結局家の側に作ったし。しかし地ならしやら地面を硬化のスキルで固めていくのは大変だったなぁ。我ながら頑張ったと思うよ。これも愛する恋人のためってね。
「ふふふ、広いお風呂で私が隅から隅まで洗ってあげる♪ 」
「超楽しみだなぁ。全員で入ってもゆったりできるしね」
恋人たち4人とレミアも背中を流しにくるだろうから、みんなで大浴場で大欲情しまくりだな。
「私も楽しみだわ。憧れの飛空宮殿に住めるなんて夢見たいよ」
「頑張ってメレスを治療した甲斐があったよね」
あの変態女公爵に負けずに治療して良かった。そういえばモンドレットとの戦争以降、連絡が来なくなったってオリビアが言ってたな。戦後処理で忙しいだろうと気を使ってる? いや、ストーカーばりにしつこく連絡してきたあの女が? 何か企んでるんじゃないだろうな……
「メレスといえば渡した魔力水がそろそろ無くなる頃よね? 明日にでも行ってみる? ウンディーネもフラウと遊びたいって言ってるし」
「ん? ああ、そうだね。リリアから連絡が無いから忘れてたよ」
リリアとはたまに連絡を取り合ってるんだけど、メレスとは話す機会があまりない。魔帝はメレスに魔導携帯を持たせてないからな。戦争前に話した時は魔力水はまだあると言ってたけど、メレスはフラウに甘いからもうそろそろ無くなってそうだ。
しかしもう二週間連絡無いな。どうしたんだろ?
そろそろ俺もメレスとリリアに会いたくなってきたし、明日にでも行くか。
メレスのあの透き通るような白い肌にムチムチの身体と、リリアの小柄なのに大きなあの胸を拝みに行かなきゃ。
「戦後処理で忙しいと思って気を使ってるのよ。リリアもメレスも気が利く子だもの。メレスは素直じゃないけど、本当は優しい子よ」
「確かに素直じゃないよね。でもそれがミエミエで可愛いんだよね」
頬を染めながら強がるあの姿がたまんないよな。デレるとことか見てみたい。
「ふふふ、確かにわかりやすい子よね。でもメレスが強がるのは照れ隠しで、それはコウのことが好……」
プルルッ
プルルッ
「ん? オリビアからだ」
「あら? 何か報告かしら? 」
ティナが話しているとその言葉を遮るように執務室の魔導通信機が鳴った。
画面にはオリビアの執務室からの着信と表示されており、俺は何か報告の予定とかあったかなと思いながら受話器を取った。
「オリビアどうした? 」
《ア、アクツさん! 陛下を乗せた皇軍艦隊が桜島に向かってきていると連絡が! 》
「はあ? なんで魔帝がここに? 」
しかも皇軍!?
おいおい、このクソ忙しい時にいったいなんの用だってんだよ。
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