ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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第4章 ニートと富国強兵

第6話 浄化

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 ――東日本横浜地区 紫音学園武道場 探索者養成学科 3年A組 佐藤 大輝《だいき》 ――





「ハッ! 」

「おりゃっ! 」

 俺は迫り来る木刀をブリッジで避け、そのまま倒れ込みながら奈津美の腕をカニばさみにして身体を捻った。

「なっ!? 」

 奈津美は思いもしなかった反撃に身体が流れ、体制を崩した。

 チャンスだと思った俺は奈津美の腕を挟んでいる足に力を入れ、上半身を起こし手に持っていた木刀を奈津美の首へと突き出した。

「ま、参った……そんな……身体強化も覚え、ランクもE +になったというのに」

「ハァハァハァ……俺も夏休みに武者修行してたからな」

 俺は寸止めしていた木刀を引き、挟んでいた足を解いて起き上がりながらショックを隠せない奈津美にそう答えた。

 危ねえ……今日は絶対負けるかと思った。

 奈津美め、夏休みの間に釈放されたあの狂人集団とダンジョンに入ってランク上げやがって。

 俺も去年ダンジョン実習の時に護衛してくれた、トレジャーハンターの人たちに頼んでダンジョンに入っていたけどやっとE-ランクになった所だってのに上がりすぎだろ。

 それなのに授業初日に勝負を挑んで来やがって。身体強化のスキルを覚えていなかったらマジでやばかった。

 あ~だめだ、もう身体が動かねえ。

「まさかあんな手を打ってくるとはな……強い人たちに囲まれ安全にダンジョンに潜っていた私と、常に命の危険に身をさらしていた大輝との差か」

 奈津美は武道場の真ん中で大の字に寝転がる俺の隣に正座し、膝を叩きながらそう言った。

「あの狂人たちと一緒にダンジョンに入る時点で命の危険はあると思うぞ」

 俺は奈津美の膝に頭を乗せながら、俺だったらあの狂人たちと一緒にダンジョンなんて入らないと思っていた。初級ダンジョンしか入れないはずなのに、奈津美がF+ランクからE+ランクに短期間で上がったことがその証左だ。

 俺たち探索者養成学科の生徒は、2年の時にランクを得るためのダンジョン実習を行う。

 その後数回クラスごとにダンジョンでの実習を行い、3年の夏休み以降は初級ダンジョンに限り、現役のトレジャーハンターの同行を条件にダンジョンに挑むことができる。

 俺は実習の際に知り合った護衛のハンターに頼みパーティに入れてもらい、夏休みの間中ダンジョンに挑み続けていた。みんな俺の腕を認めてくれて、一人前のハンターといして扱ってくれた。おかげで結構稼げてお袋に少しは楽をさせてあげることができた。お袋は無理をするなって俺の体の心配ばかりしてたけどさ

 なんかその間、日本は阿久津公爵軍のエリート部隊のニート軍が出動して、九州から逃れて関東で巨大化した非合法組織の大捕物を行なっていたみたいだけどな。

 連日元ニートに狩られるランク持ちの暴力団を放送していたから、知らない奴はいないと思う。東日本総督府でさえ手を出すのをためらうほど巨大化した暴力団が、元ニートたちに一方的に狩られていく姿は爽快だった。狩られたアイツらどんな気持ちなんだろうな。

 まあ外の世界は大騒ぎだったけど、俺はダンジョンに潜って武者修行をしていたわけだ。

 なんでそんなに頑張ってるのかって? そりゃ夏休み前に阿久津公爵家がBランクになったら、ハーレムを作るのを許可するって発表したからだ。あの時は日本中の男たちが熱狂した。俺なんか初めて愛国心が芽生えたよ。俺の部屋には阿久津公爵家の旗が飾ってあるくらいだ。

 エルフにダークエルフにケモミミハーレムが堂々と作れる。

 よくぞ認めてくれた! 愛してる! 阿久津公爵!


「命の危険は感じなかったさ。母がほとんど倒してしまったからな。私はスキルをもらいランクだけ上がっただけだ。それがこの差なのだろうな」

 奈津美は俺の汗を手拭いで拭きながら力のない声でそう語った。

「一気にランクが上がったから力に振り回されてるだけだろ。身体に馴染んだらもう俺じゃ敵わねえよ。それだけランクってのは絶対的な力の差があるんだ」

 最後の一撃は大振りになってたからな。急激に上がった身体能力と、それプラス身体強化のスキルで力に振り回されていただけだろう。

「それだけではないさ。なんというのか、追い込まれた時の発想というか諦めない心の強さで大輝には敵わないと思った。それは昔からそうだ」

「死にたくないからな。夢を叶えるまでは」

 ハーレムという夢を!

「夢……か。確か強くなってお母様に楽をさせてあげたいと言っていたな……うん、決めたぞ大輝。私は卒業したらお祖父様のパーティには入らず、大輝とパーティを組む! 二人で強くなってデビルバスターズギルドに入ろう! 」

「は? え、ええーー!? ちょ、それは……」

 なに言ってんだ奈津美! お前がいたらハーレム作れねえじゃねえか! 駄目だ! 絶対に駄目だ!

「いいのだ大輝。実はずっとこのことは悩んでいたのだ。しかし今日決心がついた。私はお祖父様とより、大輝と強くなる。そしてこの日本をいつか帝国から取り戻してみせる! 」

「そんな大それたことに俺を巻き込むんじゃねえよ! 」

 俺は奈津美の膝から起き上がり抗議しようとした。が、奈津美に頭を抑えられ膝に戻された。

 ぐっ……いつまで身体強化掛けてんだよ。

 というか俺を国家反逆のメンバーにしようとしてんじゃねえよ! 俺は忠実なる帝国の臣民としてハーレムを満喫したいんだ!

「大輝……わ、私は実家よりお前と共にいたいと言ったのだ……その……気付いてくれないのか? 私は幼き頃からずっと大輝が……」

「え? 」

 ま、まさか告白だったのか今の!? あの奈津美が!? 俺のことを好き?

 俺は初めて見る奈津美の真っ赤になった顔と、潤んだ目を見て動揺していた。 

 奈津美が俺のことを……

 ど、どうする……奈津美は美人だ。見た目だけなら超好みだ。でも脳筋だ。それに奈津美と付き合えばもれなくあの狂人一族が付いてくる。何よりハーレムを作れなくなる。

 でも奈津美はいい女だ。脳筋だけど優しくて男に尽くすし、芯が強い女だ。スタイルもかなり良い。道場にまだ通っていた頃、サラシ姿の奈津美を何度夜のオカズにしたか数えきれない。でも脳筋だ。だからと言って断れるのか? 長年一緒にいた幼馴染の奈津美を……

 俺は人生最大のチャンスにして、最大の窮地を迎え悩んでいた。

「わ、私じゃ……駄目か? 」

「だ、駄目じゃない。その……俺も奈津美のこと……」

 俺が奈津美の泣きそうな顔にほだされ、うっかり受け入れようとした時。

 突然入り口の扉が勢いよく開く音が武道場中に響き渡った。

「お姉さま! 奈津美お姉さま! やっぱりここにいました! 」

「燐《りん》……何の用だ? 」

「ゲッ! 皇《すめらぎ》!? 」

 俺は入り口に立つブロンドの巨乳娘を見て、苦虫を噛み潰した表情をした。

 奈津美はいいところを邪魔されたからか少し怒っている。

「ああーー!? また佐藤先輩に膝枕を!? そんなパッとしない男より私の方がお姉さまを愛してるのに! 」

「ぐっ……パッとしない……」

 俺は相変わらずズケズケと物を言う皇の言葉に傷ついた。

 この皇 燐という子は、ダンジョンの装備を開発販売している皇グループの令嬢だ。

 確か母親が日本人で、父親がロシア人だったと思う。帝国侵攻の影響でやむなく離婚して、父親はロシアに帰ったとかなんとか。まあハーフなだけあって美少女だ。胸もデカくてスタイルもいい。性格は強気で同性が好きみたいだけどな。そのせいで告白した男は全員撃沈したようだ。

 美少女だけど初対面の時に、なんであんたがお姉さまと一緒にいるのよっていきなりボロクソ言われたからな。俺はこの子が苦手だ。

「大輝の悪口を言うな。確かに見た目が良いとは言えないが、私より強くそして優しい男なのだ」

「ぐはっ! 」

 俺は二人の心ない言葉に、奈津美の膝に顔を埋めて泣いた。俺はブサイクじゃない。フツメンなだけなのに……

「佐藤先輩がお姉さまより強いなんてありえないわ。ちょっと! いつまでお姉さまの膝に顔を埋めてるのよ! いくら幼馴染でも許せないわ! 」

「はいはい。退きますよ」

 俺はうるさい皇にそう言って奈津美の膝から退いた。

 いつものことだ。この2年生は奈津美のファンクラブの会長だからな。おかげで俺は目の敵にされ、女の子が近寄ってこない。


「まったく、それで何の用だ? 何か用があって来たのだろう? 」

「はいお姉さま。来月の初のダンジョン実習で、私のクラスの上級生の護衛がお姉さま……とそこの先輩に決まりました。なのでそのことをお知らせに来ました」

「そうだったのか。まあ初級ダンジョンの一階層でランクを得るためだけの実習だ。力まず訓練通りにやればいい」

「ゲッ! マジかよ……」

 俺が皇のクラスの護衛をすんのかよ……男女ともにファンクラブの会員が一番多いあのクラスを。

 憂鬱だ……絶対に針の筵だろ。

「教員の推薦により一人想定外の方がいますが、お姉さまと一緒にダンジョンに入れるなんて夢のようで……私がんばります! ランクを獲れば火矢のスキル書をお祖父様から頂けるので、覚えた暁には炎の魔女と呼ばれるような大魔法使いになります! 」

「ふふっ、無理はしないようにな」

「はいっ! お姉さま、守ってくださいね! 」

「憂鬱だ……」

 俺は二人の会話を遠くで聞きながら、来月行われる2年生の実習の護衛やりたくねえと思っていた。








 ーー阿久津公爵領 南日本地域 桜島 飛空艦発着場 リズ ーー






「あれ? シーナじゃねえか? 」

 ギルドを抜け出し立ち乗り式のホークⅡに乗って空の散歩をしていると、飛空艦発着場でシーナが大きな荷物を受け取っているのが見えた。

 あたしはその荷物が何なのか気になりホークⅡを降下させ、シーナの元に向かった。

「ふんふんふ~ん♪ 」

「シーナ、ゴキゲンじゃねえか。欲しい物でも届いたのか? 」

 あたしは荷物を前に耳を振りニコニコしているシーナに話しかけた。

「あっ! リズさん! 聞いてください! ニホンの企業に開発と製造を頼んでいた『アイアンメイデンEX』がやっと届いたんです! 」

「あ、アイアンメイデンって確か棺桶みたいなやつの内側に何十本もの刃が設置されていて、蓋を閉じると中にいるやつに刺さるっていう処刑道具だよな? 」

 あたしは満面の笑顔で言ったシーナの言葉に、なんかの映画で見た道具を思い出した。

「ですです! それの刃を細く硬い針にして、しかもセンサーで急所を外して刺さるように作られた物がこの『アイアンメイデンEX』です。これなら死にませんし、長く苦しむことができますです! 」

「うげっ! 何だそりゃ……」

 あたしは嬉しそうに言うシーナにいつも以上にドン引きした。

 すると発着場にいた作業員たちの声が聞こえてきた。

《お、おい! 聞いたか? また新しい拷問用具が魔王城に届いたみたいだぞ? 》

《この間は確か座ると尻に鉄の槍が飛び出してくるやつだったな》

《さ、酒場のみんなに知らせてくる! 借金を滞納してる奴はすぐダンジョンに潜れって言ってくる! 》

《針で刺されてずっと苦しみ続けるなんて……やっぱりボスは魔王だ》


 あーあ、知らねっと。またコウのイメージが悪くなるな。まあそのおかげで治安がいいんだけどよ。

「ふふふのふです。今夜さっそくコウさんに使ってもらうです」

「またコウが泣くぞ? 」

 またシーナに土下座してこんなの使えないよ~って泣く姿が目に浮かぶぜ。

「泣かれたらやめますです。それだけで兎は愛を感じるです。満たされるです」

「ドSじゃねえか! 」

 コウが泣きながらシーナを痛めつけることなんてできないと言うのを期待して、こんなエグいもん作らせたのかよ。しかもコウがやると言ったら言ったで、喜んでこのドM兎はアイアンメイデンの中に入るからな。もう最強のSM娘だろ。

「ハァハァ……早くコウさんの反応を見たいですぅ。愛を感じたいですぅ」

「相変わらず気持ち悪い親友だぜ。でもそのコウだけどよ? 最近おかしくねえか? 」

 あたしは帝国の反乱以降、気になっていたことをシーナに話してみた。

「ふえ? なにがです? いつも通り夜は兎を激しく愛してくれてますです。この間もリズさんが盛大に漏らすま……」

「だあぁぁぁ! 夜のことじゃねえよ! 【魔】の古代ダンジョンへ頻繁に行ってるってことだよ! 」

 このバカ兎! 夜のことを外で話すなってあれほど言っただろうが! ぜってぇ今夜いじめてやる。あたしがアイアンメイデン EXの中にシーナを放り込んでやる!

「それは旧友のお墓参りだから、ティナさんがそっとしておくように言っていたです。でも確かに最近行く回数が増えたです」

「だろ? 前は大きな出来事があった後とか月に一度くらいだったのが、今じゃ週に1回は行ってる。墓参りってそんなに頻繁にするか? 何かあるんじゃねえか? 」

 ティナも御庭番衆も、旧友に会いに行っているだけだから心配ないって言うばかり何だよな。何か隠してる気がする。

「何かって何があるんです? 一階層でコウさんに傷を付けれる魔物なんていませんです」

「それはそうだけどよ。そうだな……たとえば霊だ。昔の仲間に化けた霊なら、コウも気を許すんじゃねえか? それで取り憑かれているとか」

 ゴーストより弱い霊なんかコウの敵じゃない。でも何も抵抗しなければ取り憑かれるかもしれない。あの意地の悪いダンジョンの意思か何かで、コウが利用されようとしているのかも。

 その証拠に帝国の反乱以降、どんどん古代ダンジョンに行く回数が増えてる。このまま放置したら完全にダンジョンに取り込まれ、生きたままカーラみたいにボスにされるかも。

 あたしはそんな憶測をシーナに説明した。

「ふえええ!? そんなことになったら大変ですぅ! コウさんがダンジョンに取り込まれてしまいますですぅ! 」

「だろ? だからまずはあたしたちで確認して、もしもコウが取り憑かれていたら助け出さなきゃ」

 まずは隠者のマントを羽織ってコウのあとをつける。そしてダンジョンで何をしてるのか確認する。

 ああそうだ! あたしとシーナには人の霊は見えねえから、リリアを連れて行くか。あのお化け嫌いは嫌がるだろうけど、コウの為だと言えば来るだろう。リリアもコウにベタ惚れだしな。

 その後あたしたちは、涙目になりながらも協力を約束したリリアと密かに計画を練り、コウが古代ダンジョンに行く日を待った。

 そして数日後。その時がやってきた。

「よし、もういいだろう。行くぞシーナ、リリア」

「はいです! コウさんを悪霊から救いますです! 」

「わ、私も愛する人を……す、救います」

「そんな気合い入れなくても大丈夫だって。ゴーストにもなれねえ霊なんて、シーナとリリアの持っている浄化のスキルで一瞬で昇天するって。あたしも聖属性のこの破邪の双剣で切り刻んでやるしな」

 あたしは巫女服とかいう白い服を着た二人にそう言いながら、腰に差した破邪の双剣の柄を叩いた。

 コウは上手く騙されてるみてえだけど、あたしたちはそうはいかねえ。

 ドッペルゲンガーみてえにコウの戦友に化けやがって。残らず浄化してやるぜ!

「ですです。余裕です」

「は、はい! 浄化します! 」

「よし、それじゃあ行くぜ? 」

 あたしは二人が隠者のマントを羽織るのを確認したあと、自らもマントを羽織りダンジョンの中へと入って行った。

 待ってろよコウ。今助けてやるからな。




※※※※※※




『『『ぎゃっはははは! ウケる! 』』』

『ククク、災難だったな阿久津』

『ぷっ……阿久津さん、僕はそんな趣味ないですからね? やめてくださいよ? 』

『いやあ阿久津にそんな趣味があったとはな。おっと、尻がむず痒いぜ』

『ははは、仁科やめてやれよ。俺たちは安全だ。なんたって霊魂だからな』

『あっさんもう男のハーレム作れよ。それなら俺も応援するぜ? プッ、アハハハ! 』

「くっ……お前ら人ごとだと思って……」

 俺は馬場さんに浜田。そして仁科や飯塚に元自衛隊員など呼び出した20人近くに笑われ、話すんじゃなかったと後悔していた。

 最近ダークエルフの成人したての美少年がさ、日替わりで執務室によくやって来て困ってたんだ。それでみんなにどうすればいいか相談した流れから、つい呪いの紋章を削ろうとした時の一連の出来事を話しちまった。

 だっていやいや来させられてるような少年や、目をきらきらさせてる奴やいきなり脱ぎだす奴とかが毎日のように執務室に来るんだ。俺も追い詰められてたんだよ。

 静音のやつ、何度言っても送ってきやがって! 何がお気に召しませんでしたかだ。そうじゃねえよ! そもそも俺にBL的な展開を期待すんじゃねえよ!

 床や天井を完全に埋めたら埋めたで、よけい怪しまれるし。もう親衛隊のライガンでさえ執務室に寄り付かなくなっちまった。くっ……なにげにこれが一番ムカつく。なんで俺があのガチムチに手を出すと思ったんだ? ぜってえ許せねえ!

 くそっ! だいたい何が秘密にしておきますだ! 全然秘密にしてねえじゃねえか! って違う! 俺にそんな趣味は最初からねえ!

 なのに静音とその周囲のくノ一たちは、『魔王城の午後~禁断の愛~』とかいうBL本まで出しやがって! 名前は確かに伏せてあったけど、主人公は俺にそっくりだし敵の命を一瞬で奪う魔王城の主とかバレバレじゃねえか! しかも同人販売ランキング急上昇中とか!

 もう駄目だ。完全に日本中に広まってる。フォースターですらティナがいる時以外は執務室に寄り付かなくなった。男色魔王とか呼ばれるのも時間の問題だ。

 それなのに、俺がこんなに悩んでるのにコイツら大爆笑しやがって。


『まあ相変わらず平和そうでなによりだ』

『いいなぁ。楽しそうだなぁ』

『まあハーレム作って毎日いちゃついてんだ。こんくらい言わせろよ』

『そうだぜあっさん。この間なんか恋人との海水浴の動画を見せつけやがってよ。クソッ! 何が宮古島のプライベートビーチだ! 爆ぜろ! もげろ! 』

『『『そうだそうだ! 』』』

「うっ……見たいって言ったのお前らじゃんか」

 確かに先月恋人たちとだけで宮古島に作ったプライベートビーチへ行った。雪華騎士には恋人同士の特別な時間だからと言って、ホテルは一緒だけどビーチは別の所にいてもらった。

 水着を着てたのは最初だけで、その時に撮影した動画をみんなには見せた。その後はティナやメレスたちはずっと全裸だったからな。俺もあっちこっちで恋人たちに襲い掛かっていたし。

 楽しかったなぁ。6人の美女が俺の魔王棒を舐める姿とか、家じゃなかなか頼めないことを頼めた。全員のお尻を並べてした味比べもここは天国かって思えた。

 やっぱ口はティナで、尻はオリビアがダントツだったよ。腰の動きはリズが一番激しくて、メレスは肌の触り心地が良くしかも中が最高に気持ち良いんだ。肉感は文句なしにシーナとリリアの爆乳コンビが一番だったな。そんな美女たちと毎日海でもホテルでも発情期DXを飲んでハッスルしまくった。まあ控えめに言って最高の三日間だった。

 さすがにそんな話はコイツらにできないけどな。動画を見せただけで呪い殺されそうだったし。

『見たいなんて言わなきゃよかったぜ』

『そうそう、くそっ! みんないい身体してたなぁ』

『あの猫耳のリズちゃんはいいスタイルだったよな』

『俺は兎耳のシーナちゃんのわがままボディに興奮したぜ』

『俺はあの小柄なのに爆乳のリリアちゃんだな』

『でもあの身体は全部……』

『『『爆ぜろ! 』』』

「うおっ! 呪うんじゃねえ! って、え? 」

 俺が嫉妬の表情で変な念を送ってくるみんなから飛び退くと、背後から突然よく知る魔力が現れた。

 俺が振り向くと、そこにはリズとシーナとリリアが隠者のマントを手に立っていた。

「やっぱりだ! コウが呪われてるぞ! リリア! どこにいる!? 」

「コ、光殿の正面です! 爆発しろみたいなことを言ってました! 」

「コウさんを呪う現行犯ですぅ! 成仏してくださいですぅ! 『浄化』! 」

「私の光殿を返してください! 『浄化』! 」

「コウ! いま呪いから解放してやるからな! おりゃあああ! 」

「ええ!? なんでリズたちがここに!? って何を!? 」

 俺はあまりの突然の出来事に、リズたちがなんで必死な顔をしているのか理解できなかった。

 しかしシーナとリリアが巫女服姿で浄化のスキルを放ったことで、何か重大な勘違いしているのではないかと二人を止めようと駆け寄った。

『ああ……気持ちいい……』

『気持ちいい……身体が……消えていく……』

『ぎゃあああ! 痛え! あっさん! 腕を斬られた! 全然気持ちよくねえ! 』

 が、時すでに遅く二人の浄化のスキルは発動し仁科と和田の半身を包み込み、俺の頭上を越えて行ったリズの双剣が飯塚の腕を切り裂いた。

「『滅魔』! やめてくれリズ! シーナ! リリア! 俺の大切な仲間なんだ! 呪われてるわけじゃない! 死者蘇生の効果なんだよ! 魂だけ蘇生して話せるようになっただけなんだ! 」

 俺は仁科たちを包む浄化のスキルだけを打ち消し、リズの剣を止めそう訴えた。

「ええ!? 死者蘇生のスキルで!? じゃ、じゃあ偽物とかじゃないのか? 」

「ふえっ!? 呪われてないです? 」

「で、でも幽霊……」

「大丈夫だから。ここにいるみんなは俺の魂に吸収された昔の仲間と恩人なんだ。俺に危害を加えるようなことはしないよ。だから頼むから攻撃しないでくれ」

 俺はそう言って3人を抱きしめ、一人づつキスをした。

「んあっ……わかったよ。コウがそう言うなら」

「んっ……コウさんが無事ならそれでいいです」

「ん……光殿……私は光殿が心配で」

「わかってる。お化けが苦手なのに心配して来てくれたんだよな。ありがとう」

 俺は泣きそうな顔のリリアにもう一度キスをして抱きしめた。

『くっ……俺たちの目の前でいちゃつきやがって』

『爆ぜろ! 』

『よせ! 飯塚! また消されるぞ!  』

『くっ……もげろ……』

『ふう……どうなることかと思ったが助かったようだな』

『ほんとびっくりしました。僕も成仏させられるのかと思いましたよ。でも実物を見るとほんとに綺麗な女性たちですね』

『ああ、阿久津が羨ましいな』


「コウ、なんか嫌な念みたいなのを感じるんだけどよ。本当に大丈夫なんだよな? 」

「ああ、みんなリズたちみたいな美女を恋人に持った俺に嫉妬してるんだ。幽霊のくせして欲深い奴らだよ」


『この野郎……』

『阿久津の野郎、さっき笑ったことをここぞとばかりに仕返ししてきやがった』

『ああいうところは昔のまんまだよな』

『昔あっさんをからかった時に、ゴブリンの内臓を顔に塗られたりしたしなぁ』

『あれは阿久津をカンチョーした飯塚の自業自得だろ』


「美女? あたしのことを美女って言ってんのか? なんだ、見る目あんじゃねえか。あ、でもあたしはコウ一筋だからよ、惚れても無駄だぜ? 」

「兎もです。コウさん以外はお断りですぅ」

「私も光殿しか愛することはありませんので。幽霊は嫌いですし」

『『『『『グハッ! 』』』』』

「ははは、悪いなみんな。俺の恋人が早とちりしちゃったみたいでさ。まあ改めて紹介するよ。俺の恋人のリズとシーナとリリアだ。みんなかわいいだろ? 」

 俺はリズたちを抱き寄せて、馬場さんと浜田以外血涙を流しているみんなに紹介した。

 本当に血の涙を流せるとかコイツら霊魂のくせに器用だよな。

『『『爆ぜろ! 死んでしまえ! 』』』

「ヒッ!? 『浄……」

「待て待てリリア! 醜い男の嫉妬だって。ほんとに呪ったりしないから」

 俺は仁科たちの声が聞こえるリリアが、反射的に浄化のスキルを発動しようとしたのを慌てて止めた。

『くっ……きたねえ……』

『成仏するのを人質に取られた』

『俺は負けねえ。この身と引き換えにしてでもあっさんを呪ってやる』

『リリアさんだったね。初めまして。私は馬場といいます。阿久津とは生前は仲間でして、死んでからも心配でこうして彼を見守っているんです。決して悪い霊ではないので浄化はしないでもらえると助かります。阿久津にはまだ私たちが必要なようなのでね』

『僕も阿久津さんに生前お世話になったんです。今はそのお礼に阿久津さんの中から応援してるんですよ。でも本当に綺麗な女性で羨ましいです。だからみんな悔しがってるんだと思います。大丈夫です。みんな阿久津さんに感謝してますし、なんだかんだ言って好きなので危害を加えたりしませんから』

「そう……ですか。光殿を……分かりました。信じます」

「何か話したのか? まあリリアがそういうならあたしも信じるぜ」

「兎も信じますです」

「わかってもらえて良かったよ。それじゃあ残り時間までみんなで少し話そうか」

 俺はそういって収納の腕輪からソファーを出し、リズたちを座らせた。

 リリアが霊感があって良かったな。俺が言ってもどこまで信じてくれるかわからなかったしな。

 しかし焦った。いきなり仁科たちとお別れするんじゃないかって焦りまくった。でも結果的に恋人を紹介するキッカケになったな。今度はティナとメレスとオリビアも連れてこようかな。ティナとメレスは霊が見えるみたいだし、リズとシーナとオリビアの通訳になるだろう。

 それから数分だったけど、馬場さんたちみんなと恋人たちと楽しく話したのだった。





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