ニートの逆襲〜俺がただのニートから魔王と呼ばれるまで〜

芝桜

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第4章 ニートと富国強兵

第7話 転移装置

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「ここに魔力を流せばいいんだな? 」

 俺は隣にいるカーラにそう確認した。

 今日の彼女は薄化粧をして髪も整えられており、黒のワンピースの上から白衣をまとっている。

「ええそうよ。私も一緒だし、テスト済みだから安心して」

「別に心配はしてないよ。それじゃあ起動する」

 俺はカーラにそう笑いかけて、目の前にあるミスリル製の柱の中心部にある魔石に魔力を流した。

 すると1mほどの三角柱の柱の表面に魔法が浮かび上がったあと、俺とカーラの足もとに魔法陣が展開された。

 それは柱を中心に半径2mほどに広がったと思ったら、強烈な光を発し俺とカーラを包み込んだ。

 そして一瞬の浮遊感を覚えた後に目を開けると、そこには驚きの表情を浮かべている恋人たちの姿があった。

 周囲を見渡すと、先ほどまでいた悪魔城の一階の部屋とは違う部屋であることもわかる。

「成功だな」

「当然でしょ。素材が違ってもこれくらい作るのはわけないわよ」

「す、すっげー! 転移した! これで安心してオリビアをこの領都に送り出せるぜ! 」

「ですです! この転移装置があれば毎日好きな時にこの大陸から帰って来れますです! 」

「よかった。これで安心して赴任できます。カーラありがとう」

「いいのよオリビア。でも間に合って良かったわ。コウももっと早く言ってくれれば製作を急いだのに」

「あはは、ごめんごめん。ゲートキーがあるからいいかなと思ってたんだ。でも確かにこれがあった方がオリビアも安心だよね」



 リリアたちの除霊騒動が終わり、9月も終わりに近づいてきた頃。

 とうとうカーラが転移装置を完成させた。

 この転移装置は2基で一対となって運用する物で、対となる装置が設置されている場所に転移することができる。

 まずは小型のものからということで、高さ1m、幅50cmのミスリル製の三角柱の装置を作ってもらった。これで10人まで一気に転移できるそうだ。この転移装置の大きさと、エネルギーとして使うCランク魔石だとこれくらいが限界だそうだ。

 別にゲートキーもあるし、ミスリルも有り余ってるわけじゃないから持ち運びと設置が楽なこの大きさの転移装置を量産してもらうつもりだ。

 ああ、もちろんセキュリティ面は万全だ。この転移装置は、あらかじめ登録しておいた魔力を持つ者しか使えないからな。その登録にも一時的なものと永続的なものがある。そして登録する権限を持っているのは、カーラと俺と恋人たちだけだ。

 まあこれで帝国本土にあるうちの領へ、安心してオリビアを領主代行として送り出すことができる。

 フォースターの息子のクラウスをいつまでも借りておくわけにはいかないからな。フォースターも子爵領の統治と、公爵軍の編成に忙しそうだから返してやることにしたんだ。

 そこで前々から頼んでいたオリビアに、帝国本土にある阿久津公爵領の領主代行になってもらった。もちろん情報局を辞めてもらい、阿久津公爵家の政務官としても就職してもらった。

 最初オリビアに頼む時は言いにくかったよ。何十年も努力してやっと情報局の支局長まで上り詰めたんだしな。でもオリビアは二つ返事で了承してくれた。というかもの凄い嬉しそうだった。

 まあ俺も俺への永久就職のつもりで言ったしな。それがちゃんと伝わったみたいだ。もう少し待っててくれ。必ずプロポーズするから。

 それでその話がさ、帝国から派遣されている情報局の部下に伝わってもう大騒ぎだった。前に貴族との結婚の橋渡しをした平民の子なんて、情報局を辞めてオリビアについていくって言い出す始末だ。

 ああ、彼女は一回寿退社したんだけど、旦那の実家は先日の反乱の際に日和見かましてさ。魔帝から領地没収されて爵位も降格されたらしい。それで跡取りの旦那の名誉回復のために、情報局に出戻ったそうだ。健気だよな。

 そんな子が複数いたから、じゃあ全員オリビアの部下として働いてもらおうと思って給料は倍で、5等級の停滞の指輪もあげると言って誘った。そしたら狙い通りオリビアの部下全員を引き抜くことに成功した。

 まあほとんどが平民か領地なしの下級貴族の次男三男だからな。これ以上の出世は望めないし、オリビアがいなくなれば桜島の支局は閉鎖れるだろうしな。

 そうなれば彼らは帝国各地にまた飛ばされる。本土ではなく、アフリカやオーストラリアの可能性もある。だったら公爵家に就職して、帝国本土で働けた方が良いに決まってる。収入も倍になる上に、平民では手に入れることができない停滞の指輪までもらえるとなれば悩む必要もないだろう。

 おかげでオリビアの手足となって働いてくれる、数十名のベテランの情報員が苦もなく手に入ったわけだ。

 オリビアには帝国公爵領の軍事以外の統治と、帝国政府と貴族に対しての外交をしてもらう予定だ。これでフォースターの負担は一気に減ると思う。その分軍事に専念できるだろう。

 ただ、公爵家令嬢とはいえ、夜会とかからは数十年離れていたオリビアは貴族同士の付き合いに自信がないそうなんだ。だからそういったことに詳しい女性を雇いたいって俺に頼んできた。俺はもちろん構わないよと言ったら、翌日にオリビアと静音に連れられてきた女性たちを見てびっくりしたよ。

 執務室に現れたのはセレスティナと、オズボードの元妻や愛人だった人たちだったからだ。

 彼女たちはオズボードの宮殿から救い出したあと、桜島にある旅館で療養してもらっていた。その際に傷付いた身体の治療は、ラージヒールを覚えているティナにしてもらった。俺は男だから近付いても怖がるだけだろうしな。

 あんな酷い目に遭ったんだ。心が死んでる子もいたし、治療には時間が掛かると思った。だから旅館には一切男は近寄らせずに、女性のメイドを付けてくノ一とオリビアに世話を任せていたんだ。

 そんな女性たちがまさか半年程度で俺の前に現れるなんてさ、そりゃびっくりするよ。

 彼女たちはずっと言えなかったという感謝の言葉を俺に伝えたあと、オリビアの下で働きたいと言った。理由を聞くとあの地獄から救ってくれたうえに復讐までしてくれて、なんの見返りも求めずにこの島で心も身体も癒してくれた俺に恩返しをしたいと皆が答えた。

 セレスティナは、初対面の時に俺とエルフや獣人たちを侮辱したことを泣きながら謝っててさ。俺も彼女がまさかあんなゲス野郎の所に行かされてたと知らなかったとはいえ、さすがに罪悪感を感じて謝罪を受け入れたよ。

 まだ男を見ると顔が青ざめる子もいたけど、俺は実家を優遇しないことと、俺と契約スキルで契約を交わすことで彼女たちを受け入れることにした。今は彼女たちの気持ちを信じているけど、今後どう変わるかはわからないからな。大切な恋人の側に置くんだ、そこは心を鬼にさせてもらう。

 まあ外交といっても、うちの敵になりそうな貴族を調べてくれればいいだけだ。たとえマルスやハマールの寄子だとしても、貴族と仲良くやるつもりはない。どうせいい関係を作っても、有事の際には裏切るんだしな。帝国の貴族は皇帝ですら裏切るんだ。地球人の俺を裏切らない訳がない。信じられるのはマルスとラウラと宰相くらいだな。

 そんなこんなでオリビアと元情報局の部下。そしてセレスティナたち貴族の女性を、帝国本土の公爵領に送ることが決まったわけだ。

 そしてそのタイミングでカーラから転移装置ができたと連絡があり、ティナたちにゲートキーを渡して大規模改装中の旧オズボード宮殿の小部屋に設置してもらうことにした。

 んでティナから設置完了の念話が届いたから、カーラと共に転移装置を発動して見事宮殿に転移してきたってわけだ。

 確かにゲートキーよりは、こっちの方がいつでも何度でも使えるからオリビアは安心だよな。

「それはそうよコウ。オリビアを迎えに行ったら、ゲートキーを再使用できるまで6時間は戻って来れないんだもの。それが毎日だとコウの執務が滞るからって、オリビアは三日に一度帰るつもりでいたのよ? 」

「ええ!? そんなの気にしなくてもいいのに! 俺は片道を飛んででも毎日迎えにいくつもりだったよ」

 俺はティナの言葉に驚き、毎日迎えにいくつもりだったとオリビアに伝えた。

「そういうわけにはいきません。コウさんに負担をかけたくないですし、エスティナの負担も増やすわけにもいきません。何よりコウさんが島にいないとメレス様もリリアも寂しがりますから」

「わ、私は寂しがったりなんてしないわ。光が忙しい時にわがままなんて言ったりしないわ」

 オリビアの言葉に隣にいたメレスが頬を染めながらそう言った。

 相変わらず照れながら強がる姿は可愛いな。でも夜は素直なんだよな。基本受け身だけど、一生懸命気持ちいい子づくりの仕方を学ぼうとしてる。

「私もメレス様と同じです。寂しくても恋人の負担になるなら我慢できます」

 リリアは熱っぽい眼差しを俺に向けてそう言った。

 ああ、こんな可愛い子に惚れられてるなんて嬉しいな。リリアは昼もそうだけど、夜はとことこん俺に尽くしてくれるし。ティナといいオリビアといいリリアといい、こんなに尽くしてくれる恋人がいて幸せだなぁ。

「ちょっと、リリア。私は寂しいなんて言っていないわ」

「では光殿がいなくても平気なんですか? 」

「へ、平気ではないわ……」

「ふふふ、メレスは可愛いわね。そういうことよコウ。でもこの転移装置ができて良かったわ。本当に助かったわカーラ」

「あ~俺の考えが甘かったよ。改めて助かったよカーラ」

 ちょっと考えが甘かったな。メレスたちがこんなに寂しがってくれてるとは思わなかった。ティナとリズはそういうのを表に出さないし、シーナはお仕置きの時にまとめて甘えてくるって感じだもんな。

「お役に立てて良かったわ。あれほど大量のミスリルやオリハルコンや魔鉄。それに見たこともないほどの高ランクの魔石を用意してもらったのだもの。今後は大型のも順次作っていくし、結界の塔も製作に取り掛かっているから楽しみにしていてちょうだい」

「力仕事があったら呼んでくれ。力だけは有り余ってるのをいっぱい連れて行くから」

 最近ギルドの獣人も軍の獣人たちもやたら働き者なんだよな。借金がある奴はダンジョンから帰ってきても飲みに行かず、何か仕事がないかって港で飛空艦からの荷物降ろしの仕事をしてるし。

 シーナとティナが返済遅れのギルド員や兵士がいなくなったって喜んでたよ。

 あいつらにもやっとお金の有り難みが分かったみたいで俺も嬉しい。

「ええ、その時はお願いするわ。そうはいっても加工や変形に融合は私の錬金魔法で全部やるから、組み立ての時だけになるのだけどね」

「すげーよな錬金魔法って。ミスリルがこうフニャって曲がって平べったくなってよ、設計図通りの形になるんだぜ? 」

「ですです。この装置もあっという間に出来上がっていたです」

「そんなに簡単に作れるのか。今度見せてもらおうかな」

 俺がカーラを迎えに行く時は作ってなかったからな。この間なんて床で寝てるとこに遭遇してさ、白衣もまくれて黒い下着姿で無防備に寝てたよ。そんなカーラを前に俺は数分くらいフリーズした。まあ目に焼き付けていたんだけどな。

 あとは相変わらず机にかじりついてるとこばかりだったからな。

「いいわよ。錬金魔法でも……下着姿でもね。ふふふ」

「な、なに言ってんだよカーラ。冗談はやめてくれよ、あはは」

 バレてた!

「なんだ? カーラにも手を出したのか? 」

「出してないよ! たまたま下着姿を見ちゃっただけだよ! 」

 ほぼ毎日だけど。

 というかカーラは下着だけは毎日変えてるんだよな。俺が呼びに行くまで風呂にも入らないのにさ。いつ替えてんだろ? しかもだんだん過激なのになっていってるし。どうもリズに頼んで買ってきてもらってるらしい。まあ俺は役得だから嬉しいけど。

「カーラさんもお家に来るのは大歓迎です! 古代王国のなかなか死ねない処刑道具とか作ってくださいです! 」

「え? いえそれはちょっと……」

「またシーナは……カーラが困ってるでしょ。それじゃ転移装置のテストも終わったし、私たちは領都を観光してから帰るわ。コウはこれからメレスたちとお墓参りでしょ? 」

「ああ、午後から行ってくる。みんなは楽しんでおいで」

 今日は午後からアルディス湖へ、メレスのお母さんのお墓参りに付き合うことになっていたんだ。母親に恋人を紹介したいんだってさ。こういうのって嬉しいよな。

 だからいったん悪魔城に戻り、雪華騎士たちを連れてゲートキーで行くつもりだ。

「カーラ、いつまで転移装置の前にいるのよ。やっと研究室から出てきたあなたを逃すわけないでしょ。買い物行くわよ買い物」

「え? でもまだやらなきゃいけない研究が……」

 俺とメレスたちと一緒に装置の前にいたカーラは、ティナに買い物に誘われて申し訳なさそうにそう言った。

「そんなのいつでもできるでしょ。今日はみんなでカーラの服を買いに行くのよ。コウからもカーラに言ってちょうだい」

「カーラ。俺たちは友達だろ? ご飯やお風呂の時だけじゃなく、たまには外で親交を深めたいんだよ。だからさ、今日くらいティナたちと買い物に行っておいで。みんな転移装置を作ってくれたカーラにお礼がしたいんだよ」

「……わかったわ。行ってくる」

 俺の言葉にカーラは一瞬何か言おうとしてやめ、素直にティナの隣へと移動した。

「ほんと、コウの言うことは素直に聞くんだから」

「コウの言葉には逆らえないのよ。ほんと不思議だわ」

 確かに俺が何か言った時に逆らったりしたことがないよな。今もそうだし。毎回最初はいつも逆らおうとはするんだけど、そのすぐ後に必ず言うことを聞く。初めは衣食住を面倒見てもらってるから、申し訳ない気持ちで言うことを聞いているのかと思った。でもどうもそうじゃないみたいなんだよなぁ。カーラ自身も不思議そうにしてるし……うーん、わからん。

「んじゃあアタシも貴族御用達の高級店でよ、コウ好みの帝国製の下着を買うかな! コウがいつもダメにしちまうから、いくらあっても足らないぜ」

「それはリズさんが毎回お漏ら……」

「だああぁぁ! だから外でそういうことを言うんじゃねえって言ってんだろ! またアイアンメイデンEXにぶち込むぞ馬鹿兎! 」

 あ、始まった……

「ぶぅぅ! せっかくコウさんの愛を感じていた時に、いきなり兎を放り込んで蓋を閉めようとして邪魔したのは許せないです! 少し刺さったです! コウさんが止めてくれていなかったら、兎はハリセンボンでしたです! 」

「シーナが約束破って事あるごとに外で夜のことを吹聴するからだろうが! ニホンじゃ嘘つきには針千本飲ますんだよ! 」

「そんなの死んでしまいますです! でもコウさんが飲めと言うなら目の前で飲んでみせますです」

「ええ!? 言わないよそんなこと! というかあのアイアンメイデンとかいう物騒なもん片付けてくれよ! 」

 やっぱり流れ弾が来た! 

「わ、私も光が望むなら……でも最初はお尻を叩かれることからにして欲しいわ」

「私も光殿が望まれるなら……針を……針を飲んでも……飲みます! 」

「しなくていい! シーナは特別だから! メレスとリリアは真似しなくていいから! 」

 メレスとリリアまで誤解してる! というか受け入れようとしてるし!

「うふふです。兎はコウさんの特別ですぅ♪ 」

「シーナ、なに喜んでんだよ。特別な変態って意味だからな? 」

「特別……光……私もそのアイアンメイデンというのに入るわ! 」

「わ、私もハリセンボンになります! 光殿の特別になれるなら! 」

「だぁぁぁぁ! 違う! そいういう意味じゃない! やめろ! そんなことしなくても二人は特別だから! 大好きだから! 」

 なんで対抗心燃やしてんだよ! ティナ! 助けてくれ!

「はいはい。また馬鹿なこと言ってないの。メレスもリリアもシーナの言葉を真に受けるんじゃないの。シーナの真似したらコウに避けられるわよ? 変態は一人だけでいいのよ」 

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「フフフ、わかったわ。でも毎度エスティナも大変ね」

「いつものことよ。これでこの二人はものすごく仲がいいんだから。じゃあコウにメレスにリリアも。あの精霊がたくさんいる湖でゆっくりしてらっしゃい」

「ああ、ティナたちも楽しんでおいで」

 俺は部屋を出ていくティナたちに、メレスとリリアと共に手を振って送り出した。

「ふふふ、あの二人を収めるなんて相変わらずエスティナは凄いわね」

「そうですね。さすが正妻と呼ばれるだけはありますね」

「ティナにはずっと苦労をかけていて申し訳ないよ。さて、それじゃ一旦戻ろうか」

 俺はメレスとリリアの腰に手を回し転移装置の前に連れてきた。それから空間収納の腕輪からCランクの魔石を取り出し、転移装置へとはめ込んだ。

 そして転移装置を発動し、悪魔城の一階へと戻るのだった。

 さて、この後はメレスのお母さんのお墓参りか。

 すぐ終わるだろうし、お墓参りの後はあのメレスの部屋で人払いをして夜まで二人としっぽりずっぽり楽しもうかな。







 ーーテルミナ帝国 謁見の間 皇帝 ゼオルム・テルミナ ーー



「……以上がアメリカ領の統治の報告になります。陛下? 聞いておられましたか? 」

「む? うむ。聞いておったぞ。ちょこちょこ魔王のところに遊びに行っておった割にはよく統治しておるの。犯罪者用のダンジョンが多すぎる気がするが、まあ反乱を起こした地域じゃ。落ち着くまでは仕方ないじゃろ。じゃがやりすぎると魔王がうるさいからの。しっかり飴も用意しておくのじゃぞ」

 余はハマールの定期報告に頷いたあと、歯向かう者を全てダンジョン送りにしている様子のハマールへ釘を刺した。

「あら、ご存知でしたか。実は裏切り者のキシリアは処分しましたが、あそこの一族は優秀な政務官が多いので兵に殺さないよう命令しておりました。今は助命を条件に馬車馬の如く働いていますわ。人族の統治に関しては、アクツ様にお伺いをたてながら実行していますので問題ありません。とは言ってもあまりアメリカの統治のことは関心がないようで、映画や音楽をたくさん作らせるように言われています。今はアクツ様と観るための恋愛映画を大量に作らせているんです」

「むう、映画か……そういえばメレスも最近映画をよく観ると言っておったの」

 若返りより美しくなったハマールが魔王のことを嬉しそうに報告する姿を見て、余は先日幻身のネックレスで姿を変え、メレスと帝都で親子デートをした時のことを思い出していた。

 あの時もメレスは嬉しそうな顔をして、こんな面白い映画がありましたとか話しておったの。激しい戦闘シーンがある映画ばかりだったのが少し心配じゃが、そこはアルディスの血が濃いんじゃろう。

 しかし誰と観に行ったのかと聞くと、リリアと一緒にと答えたあと言葉を濁しておったの。

 まさか魔王とではあるまいな……

「陛下? 何か悩み事でもおありですか? メレス様にまたアルディス湖に戻るのを断られたましたか? 」

「うぐっ……」

 ハマールめ。魔王の前では借りてきた猫のようにおとなしくなるというのに、余には相変わらずマルス同様ズケズケと言う女じゃの。

「いい加減諦めてはいかがですか? メレス様はとっくに成人しています。いつまでもあの湖に閉じ込めていては、アルディス姉さんに怒られますよ? 」

「別に閉じ込める気などないわ。メレスが湖を出たいというのであれば、別塔でも帝都でも好きな所に住まわせ自由に過ごさせてやるつもりじゃ」

 フラウを制御できるようになり、ロンドメルなど反乱者は一人残らず滅ぼした。もうメレスの身に危険はないじゃろう。じゃから今まで不自由な思いをさせた分、自由に過ごさせてやるつもりなのじゃが……メレスはもう少しニホンを観光したいと言って毎回帰ることを拒むんじゃ。

「ではもう少しお待ちになればいいではないですか。湖にはアルディス姉さんのお墓もあります。メレス様が、姉さんのいるあの湖からいつまでも離れているとは思えません」

「それはそうなのじゃろう。魔王の所におらねば余もここまで心配はしておらぬ。何より最近メレスが妙に色っぽくなった気がしての……まさか魔王の毒牙にかかったのではないかと心配なんじゃ」

 この間の帝都のデートでもそうじゃが、毎日しておる夜の魔道通信でもメレスが妙に色っぽく感じるようになった。まさか魔王の手に掛かったのではと心配になり、雪華騎士に問いただしたがメレスの身は綺麗なままだと言っておった。

 言っておったのじゃが……どうも信じられぬ。あの騎士たちはアルディス湖を出てからというもの、おしゃれやショッピングに夜遊びなどにハマっていると実家から報告を受けておる。

 よもやあの何もないアルディス湖に戻りたくないから、問題ないと報告しておるのではなかろうか?

「陛下? そうだとして何か問題でも? メレス様とアクツ様が相思相愛なことは既にご存知のはず。ほんと羨ましい……あ、いえ。好き合っている二人が愛し合ったとして何の問題があると言うのです? アルディス姉さんもアクツ様がメレス様のお相手なら認めてくれるでしょう。身分もアクツ様は公爵です。皇女の相手としては申し分ないのではないでしょうか? 」

「す、好きあってなどおらぬ! それにあんなスケベで不細工な男をアルディスが認めるわけがなかろうが! よいかハマール! 魔王が一方的にメレスに言い寄っておるだけじゃ! 雪のように純粋で真っ白なメレスは騙されておるのじゃ! 手遅れになる前に魔王のところからメレスを救い出さねばならぬ! もうメレスを狙う者がおらぬ以上、あそこにいる理由はないんじゃ! 」

 そうじゃ! 200年も男と接したことがなかったメレスは騙されておるだけじゃ。

 余の純真なメレスをだまくらかしおって! 魔王め許せぬ! 

「呆れた。アルディス姉さんがここにいたら水のハンマーで吹き飛ばされた上に、顔が変形するまで殴られてますわよ? 」

「ぐっ……嫌なことを思い出させるでない……アルディスもあんな年中発情しておる猿に、愛する娘を渡したくないと思うはずじゃ。例え死んでも精霊となってアルディス湖でメレスを見守ると言っておったほどじゃからの。ここはアルディスのためにも余が心を鬼にせねばなるまい。うむ、そうじゃ! 今まではメレスに嫌われることを恐れできなんだが、例え一時的に嫌われようともメレスをあの魔王城から救い出すべきなんじゃ! 衛兵! リヒテンを呼べ! 皇軍を出動させるのじゃ! 余が自らメレスを救いに行く! 」

 余はアルディスのために、愛娘に嫌われてでも魔王の元から救い出すことを決意した。そして余の代わりに執務室で書類仕事をしているリヒテンを呼んだ。

「また勝手にアルディス姉さんをダシにして……姉さんがいたら四肢を折られてたんじゃないかしら? 」

「うぐっ……そんなことはない! いちいち余のトラウマを思い出させるでないハマール! リヒテンはまだか! 」

 リーン リーン 

「こ、これは鈴の音!? 」

「この音はまさか共鳴の鈴!? 」

 余がハマールの毒舌にトラウマを刺激されるのに耐えておると、遠くから鈴の音が謁見の間へと聞こえてきた。

 余とハマールがこの帝城で初めて響き渡るその音に耳を澄ましながらまさかと思っておると、謁見の間の入口にリヒテンが慌てた様子で現れた。

「へ、陛下! お預かりしていた共鳴の鈴の音が! 魔導センサーにも複数の反応が! し、侵入者です! 」

「なんじゃと!? ハマール! 行くぞ! 」

 余はリヒテンが手に持つ装飾された共鳴の鈴の音が確かに鳴っているのを目の当たりにし、予想していたことが現実に起こった事を理解した。

 そしてすぐさま剣を手に玉座から立ち上がり、ハマールへ共に来るように言いながら出口へと走った。

「はいっ! よくもあの場所を! 皆殺しにしてあげますわ! 」

 ハマールはそれまでの美しい顔から一変。憤怒の表情を浮かべ銀扇を取り出し余の後に続いた。

 おのれよくも余の大切な場所を! あの場所に侵入した者だけは余の手で八つ裂きにし、一族郎党皆殺しにしてくれる!

 余はハマールと共に帝城の屋上から高速飛空艇に乗り込み、帝都の北へと急ぎ向かったのだった。



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