その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉

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十三・二十回目の誕生日①

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 とうとうこの日を迎えてしまった。リオールとラクセルの二十歳の誕生日、当日──。
 レインは、普段より一時間も早く目が覚めてしまった。おかげで眠いが、二度寝をして寝坊してしまうと困るので、隣で眠るリオールを起こさないように慎重にベッドから抜け出す。
 ここ最近はリオールの様子がおかしかった。なにか自分にだけ内緒にしていることがあるのか、ラクセルやグウェンソードと会話をしているときに近づいても、急に黙るようになってしまった。なにか怒らせるようなことでもしただろうかと、いつにもなくリオールの様子を観察してみても、最低限の会話はしてくれるので違うらしい。
 つい先日。リオールとローズマリーが仲睦まじく、中庭でお茶をしていたらしく、グウェンソード以外の護衛を下がらせたと耳にした。人払いだ。立ち話することが増え、二十歳の誕生日に正式に結婚するのではないかと噂されていた。許婚でもあるので不思議ではない。いずれ結婚する日が必ず訪れるので、今更、動揺することはない。ないのだが……。

「あ、兄さんだ、おはよう。どうしたの、朝早いね~?」
「おはよう。早めに目が覚めちゃったから、今のうちに調理場を借りようかなって。ラクセルは?」
「僕は日課の散歩だよ」

 朝六時だというのに、半袖のシャツと短パンというラフな格好のラクセルと鉢合わせし、レインは立ち止まった。肩にはタオルを引っかけているので、これから走りに行くのだろう。

「今日はリオールが重要な発表をするそうだし、色々楽しみだよね」
「じゅう、よう……?」
「あれ、反応が薄いな。もしかして、聞いてない? 城内はその話題で持ちきりだよ」

 重要と言われてしまえば、やはり一つしか考えられない。正式に入籍を発表するつもりなのだろう。父親である国王も早いうちに結婚を決めたため、いよいよ信憑性が増してくる。

(…………仕方ないよね)

 そう、仕方がないのだ。次期王位継承者でもあるため、結婚して父親になり、子孫を繁栄させなければならない。仕方がないのだ。
 それなのに、わけもわからず胸がつかえて苦しくなる。胸の辺りが、ちりちりと焼かれたような痛みに襲われ、どうしようもなくなる。
 リオールは、一人の女性とこれから幸せになろうとしているのに、笑顔で喜んでやらなければならないのに、素直に応援できない。三歳の頃から、傍で見守ってきた兄としては嬉しいはずなのに、二人の前で上手く笑えるかどうか自信がない。
 落ち込みそうになったところ、背後から声をかけられた。

「レインくん、ラクセルくん、きみたちは随分早起きなんだね」
「え……アルフォンス国王ですか? どうしているんですか?」

 今年、二度目の訪問に戸惑っていると、愉快そうに経緯を説明してくれた。

「今日は誕生日じゃないか、リオールくんの。だから一昨日から滞在していてね。それより、リオールくんは、公爵令嬢との婚姻が決まってるんだってね?」
「え……ええ」
「ついに弟君が結婚するなら、一人身のレインくんは、ぜひ我が国へ来なさい!」

 レインが苦笑していてもお構いなしに、モスローズを一本差し出した。アルス王子いわく、アルフォンス国王が誰かを口説くときは、必ずバラを渡すらしい。独身でいることの方が不思議なくらい、アルフォンスは国王だと言うのにいつでもどこでも身軽だ。自由奔放で、何者にも縛られずに生きているように見える。

「うちの兄は嫁ぎません!」
「おやおや。金髪に戻ってくれるならリカルド──いや、ラクセルでもいいぞ?」
「ありえません! 金髪なら誰でもいいとか、お断りです!」
「むむっ、誰でもいいわけではない。私は、金髪かつ美形じゃないと、嫁にする気はないからな!」
「はいはい。国王は偉いけど、でも、偉そうに言わないでください。ほら、あっちに金髪美人がいますから、そちらを口説いたらどうですか?」

 ラクセルが適当な方角を指差すと、からかうのに飽きたらしいアルフォンス国王は立ち去った。盛大な溜め息を吐き出してから、今度はレインに話しかけた。

「いい? 兄さん。噂話はあくまで噂、なんだからね」

 そうしつこいくらいに繰り返してくるので、なにかあったのか尋ねるも、僕からはなにも言えないと断れるだけだった。
 昨夜の仮装パーティーは入り口の警備を任されていたので、ホール内でなにが行われていたのかレインは知らない。リオールやラクセルを問い詰めても、「今度話すから」とはぐらかされるだけだ。またもや胸の辺りがもやもやしてくる。
 このままでは、護衛任務に支障を来たしそうだったので、首を振って脳内を切り替えて国家騎士団本部にある調理場へ向かった。

(……結婚しても、おれが作ったものを食べてくれるだろうか……)

 食材を洗ったり刻んだり準備している間、ずっと考えていたのはそれだ。ローズマリーも菓子作りが趣味で、レインが作らないようなアップルパイやラズベリーパイを得意としている。甘いものが苦手でも口にできるようにと、ほうれん草、にんじんなどの野菜を中心としたレシピも得意としている。相手の好みに合わせて作り分けているそうだ。
 レインも、お裾分けしてもらったことは何度もあるため、自分の中途半端なものではもう喜んでくれないかもしれないと、焼成を待ちながら勝手に落ち込んでいた。
 とりあえず、生誕パーティーで並べられる料理やデザートは、シェフが腕によりをかけて作成するのでレインは、三歳のリオールに初めて振る舞ったときと同じレシピでクッキーを用意していた。数えきれないほど作った。もう失敗することはほぼない。
 出来立ての焼き菓子をバスケットに詰めていると、宿舎で提供する朝食作りのために現れた恰幅の良い夫人がぞろぞろやってくる。
 元通り片付けたレインは、顔馴染みの夫人と挨拶を交わしてから、一旦部屋に戻ってバスケットを置きに行き、今日も会場の護衛を任されているので、朝の打ち合わせに遅れないように向かうことにした。
 リオールはといえば、七時を回ってもまだベッドで眠っていた。寝坊したら困るので、扉の前にいるルーンに、八時になっても出て来なければ起こしてほしいと頼んだ。
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