27 / 32
十三・二十回目の誕生日①
しおりを挟む
とうとうこの日を迎えてしまった。リオールとラクセルの二十歳の誕生日、当日──。
レインは、普段より一時間も早く目が覚めてしまった。おかげで眠いが、二度寝をして寝坊してしまうと困るので、隣で眠るリオールを起こさないように慎重にベッドから抜け出す。
ここ最近はリオールの様子がおかしかった。なにか自分にだけ内緒にしていることがあるのか、ラクセルやグウェンソードと会話をしているときに近づいても、急に黙るようになってしまった。なにか怒らせるようなことでもしただろうかと、いつにもなくリオールの様子を観察してみても、最低限の会話はしてくれるので違うらしい。
つい先日。リオールとローズマリーが仲睦まじく、中庭でお茶をしていたらしく、グウェンソード以外の護衛を下がらせたと耳にした。人払いだ。立ち話することが増え、二十歳の誕生日に正式に結婚するのではないかと噂されていた。許婚でもあるので不思議ではない。いずれ結婚する日が必ず訪れるので、今更、動揺することはない。ないのだが……。
「あ、兄さんだ、おはよう。どうしたの、朝早いね~?」
「おはよう。早めに目が覚めちゃったから、今のうちに調理場を借りようかなって。ラクセルは?」
「僕は日課の散歩だよ」
朝六時だというのに、半袖のシャツと短パンというラフな格好のラクセルと鉢合わせし、レインは立ち止まった。肩にはタオルを引っかけているので、これから走りに行くのだろう。
「今日はリオールが重要な発表をするそうだし、色々楽しみだよね」
「じゅう、よう……?」
「あれ、反応が薄いな。もしかして、聞いてない? 城内はその話題で持ちきりだよ」
重要と言われてしまえば、やはり一つしか考えられない。正式に入籍を発表するつもりなのだろう。父親である国王も早いうちに結婚を決めたため、いよいよ信憑性が増してくる。
(…………仕方ないよね)
そう、仕方がないのだ。次期王位継承者でもあるため、結婚して父親になり、子孫を繁栄させなければならない。仕方がないのだ。
それなのに、わけもわからず胸がつかえて苦しくなる。胸の辺りが、ちりちりと焼かれたような痛みに襲われ、どうしようもなくなる。
リオールは、一人の女性とこれから幸せになろうとしているのに、笑顔で喜んでやらなければならないのに、素直に応援できない。三歳の頃から、傍で見守ってきた兄としては嬉しいはずなのに、二人の前で上手く笑えるかどうか自信がない。
落ち込みそうになったところ、背後から声をかけられた。
「レインくん、ラクセルくん、きみたちは随分早起きなんだね」
「え……アルフォンス国王ですか? どうしているんですか?」
今年、二度目の訪問に戸惑っていると、愉快そうに経緯を説明してくれた。
「今日は誕生日じゃないか、リオールくんの。だから一昨日から滞在していてね。それより、リオールくんは、公爵令嬢との婚姻が決まってるんだってね?」
「え……ええ」
「ついに弟君が結婚するなら、一人身のレインくんは、ぜひ我が国へ来なさい!」
レインが苦笑していてもお構いなしに、モスローズを一本差し出した。アルス王子いわく、アルフォンス国王が誰かを口説くときは、必ずバラを渡すらしい。独身でいることの方が不思議なくらい、アルフォンスは国王だと言うのにいつでもどこでも身軽だ。自由奔放で、何者にも縛られずに生きているように見える。
「うちの兄は嫁ぎません!」
「おやおや。金髪に戻ってくれるならリカルド──いや、ラクセルでもいいぞ?」
「ありえません! 金髪なら誰でもいいとか、お断りです!」
「むむっ、誰でもいいわけではない。私は、金髪かつ美形じゃないと、嫁にする気はないからな!」
「はいはい。国王は偉いけど、でも、偉そうに言わないでください。ほら、あっちに金髪美人がいますから、そちらを口説いたらどうですか?」
ラクセルが適当な方角を指差すと、からかうのに飽きたらしいアルフォンス国王は立ち去った。盛大な溜め息を吐き出してから、今度はレインに話しかけた。
「いい? 兄さん。噂話はあくまで噂、なんだからね」
そうしつこいくらいに繰り返してくるので、なにかあったのか尋ねるも、僕からはなにも言えないと断れるだけだった。
昨夜の仮装パーティーは入り口の警備を任されていたので、ホール内でなにが行われていたのかレインは知らない。リオールやラクセルを問い詰めても、「今度話すから」とはぐらかされるだけだ。またもや胸の辺りがもやもやしてくる。
このままでは、護衛任務に支障を来たしそうだったので、首を振って脳内を切り替えて国家騎士団本部にある調理場へ向かった。
(……結婚しても、おれが作ったものを食べてくれるだろうか……)
食材を洗ったり刻んだり準備している間、ずっと考えていたのはそれだ。ローズマリーも菓子作りが趣味で、レインが作らないようなアップルパイやラズベリーパイを得意としている。甘いものが苦手でも口にできるようにと、ほうれん草、にんじんなどの野菜を中心としたレシピも得意としている。相手の好みに合わせて作り分けているそうだ。
レインも、お裾分けしてもらったことは何度もあるため、自分の中途半端なものではもう喜んでくれないかもしれないと、焼成を待ちながら勝手に落ち込んでいた。
とりあえず、生誕パーティーで並べられる料理やデザートは、シェフが腕によりをかけて作成するのでレインは、三歳のリオールに初めて振る舞ったときと同じレシピでクッキーを用意していた。数えきれないほど作った。もう失敗することはほぼない。
出来立ての焼き菓子をバスケットに詰めていると、宿舎で提供する朝食作りのために現れた恰幅の良い夫人がぞろぞろやってくる。
元通り片付けたレインは、顔馴染みの夫人と挨拶を交わしてから、一旦部屋に戻ってバスケットを置きに行き、今日も会場の護衛を任されているので、朝の打ち合わせに遅れないように向かうことにした。
リオールはといえば、七時を回ってもまだベッドで眠っていた。寝坊したら困るので、扉の前にいるルーンに、八時になっても出て来なければ起こしてほしいと頼んだ。
レインは、普段より一時間も早く目が覚めてしまった。おかげで眠いが、二度寝をして寝坊してしまうと困るので、隣で眠るリオールを起こさないように慎重にベッドから抜け出す。
ここ最近はリオールの様子がおかしかった。なにか自分にだけ内緒にしていることがあるのか、ラクセルやグウェンソードと会話をしているときに近づいても、急に黙るようになってしまった。なにか怒らせるようなことでもしただろうかと、いつにもなくリオールの様子を観察してみても、最低限の会話はしてくれるので違うらしい。
つい先日。リオールとローズマリーが仲睦まじく、中庭でお茶をしていたらしく、グウェンソード以外の護衛を下がらせたと耳にした。人払いだ。立ち話することが増え、二十歳の誕生日に正式に結婚するのではないかと噂されていた。許婚でもあるので不思議ではない。いずれ結婚する日が必ず訪れるので、今更、動揺することはない。ないのだが……。
「あ、兄さんだ、おはよう。どうしたの、朝早いね~?」
「おはよう。早めに目が覚めちゃったから、今のうちに調理場を借りようかなって。ラクセルは?」
「僕は日課の散歩だよ」
朝六時だというのに、半袖のシャツと短パンというラフな格好のラクセルと鉢合わせし、レインは立ち止まった。肩にはタオルを引っかけているので、これから走りに行くのだろう。
「今日はリオールが重要な発表をするそうだし、色々楽しみだよね」
「じゅう、よう……?」
「あれ、反応が薄いな。もしかして、聞いてない? 城内はその話題で持ちきりだよ」
重要と言われてしまえば、やはり一つしか考えられない。正式に入籍を発表するつもりなのだろう。父親である国王も早いうちに結婚を決めたため、いよいよ信憑性が増してくる。
(…………仕方ないよね)
そう、仕方がないのだ。次期王位継承者でもあるため、結婚して父親になり、子孫を繁栄させなければならない。仕方がないのだ。
それなのに、わけもわからず胸がつかえて苦しくなる。胸の辺りが、ちりちりと焼かれたような痛みに襲われ、どうしようもなくなる。
リオールは、一人の女性とこれから幸せになろうとしているのに、笑顔で喜んでやらなければならないのに、素直に応援できない。三歳の頃から、傍で見守ってきた兄としては嬉しいはずなのに、二人の前で上手く笑えるかどうか自信がない。
落ち込みそうになったところ、背後から声をかけられた。
「レインくん、ラクセルくん、きみたちは随分早起きなんだね」
「え……アルフォンス国王ですか? どうしているんですか?」
今年、二度目の訪問に戸惑っていると、愉快そうに経緯を説明してくれた。
「今日は誕生日じゃないか、リオールくんの。だから一昨日から滞在していてね。それより、リオールくんは、公爵令嬢との婚姻が決まってるんだってね?」
「え……ええ」
「ついに弟君が結婚するなら、一人身のレインくんは、ぜひ我が国へ来なさい!」
レインが苦笑していてもお構いなしに、モスローズを一本差し出した。アルス王子いわく、アルフォンス国王が誰かを口説くときは、必ずバラを渡すらしい。独身でいることの方が不思議なくらい、アルフォンスは国王だと言うのにいつでもどこでも身軽だ。自由奔放で、何者にも縛られずに生きているように見える。
「うちの兄は嫁ぎません!」
「おやおや。金髪に戻ってくれるならリカルド──いや、ラクセルでもいいぞ?」
「ありえません! 金髪なら誰でもいいとか、お断りです!」
「むむっ、誰でもいいわけではない。私は、金髪かつ美形じゃないと、嫁にする気はないからな!」
「はいはい。国王は偉いけど、でも、偉そうに言わないでください。ほら、あっちに金髪美人がいますから、そちらを口説いたらどうですか?」
ラクセルが適当な方角を指差すと、からかうのに飽きたらしいアルフォンス国王は立ち去った。盛大な溜め息を吐き出してから、今度はレインに話しかけた。
「いい? 兄さん。噂話はあくまで噂、なんだからね」
そうしつこいくらいに繰り返してくるので、なにかあったのか尋ねるも、僕からはなにも言えないと断れるだけだった。
昨夜の仮装パーティーは入り口の警備を任されていたので、ホール内でなにが行われていたのかレインは知らない。リオールやラクセルを問い詰めても、「今度話すから」とはぐらかされるだけだ。またもや胸の辺りがもやもやしてくる。
このままでは、護衛任務に支障を来たしそうだったので、首を振って脳内を切り替えて国家騎士団本部にある調理場へ向かった。
(……結婚しても、おれが作ったものを食べてくれるだろうか……)
食材を洗ったり刻んだり準備している間、ずっと考えていたのはそれだ。ローズマリーも菓子作りが趣味で、レインが作らないようなアップルパイやラズベリーパイを得意としている。甘いものが苦手でも口にできるようにと、ほうれん草、にんじんなどの野菜を中心としたレシピも得意としている。相手の好みに合わせて作り分けているそうだ。
レインも、お裾分けしてもらったことは何度もあるため、自分の中途半端なものではもう喜んでくれないかもしれないと、焼成を待ちながら勝手に落ち込んでいた。
とりあえず、生誕パーティーで並べられる料理やデザートは、シェフが腕によりをかけて作成するのでレインは、三歳のリオールに初めて振る舞ったときと同じレシピでクッキーを用意していた。数えきれないほど作った。もう失敗することはほぼない。
出来立ての焼き菓子をバスケットに詰めていると、宿舎で提供する朝食作りのために現れた恰幅の良い夫人がぞろぞろやってくる。
元通り片付けたレインは、顔馴染みの夫人と挨拶を交わしてから、一旦部屋に戻ってバスケットを置きに行き、今日も会場の護衛を任されているので、朝の打ち合わせに遅れないように向かうことにした。
リオールはといえば、七時を回ってもまだベッドで眠っていた。寝坊したら困るので、扉の前にいるルーンに、八時になっても出て来なければ起こしてほしいと頼んだ。
10
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない
こたま 療養中
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
出戻り王子が幸せになるまで
あきたいぬ大好き(深凪雪花)
BL
初恋の相手と政略結婚した主人公セフィラだが、相手には愛人ながら本命がいたことを知る。追及した結果、離縁されることになり、母国に出戻ることに。けれど、バツイチになったせいか父王に厄介払いされ、後宮から追い出されてしまう。王都の下町で暮らし始めるが、ふと訪れた先の母校で幼馴染であるフレンシスと再会。事情を話すと、突然求婚される。
一途な幼馴染×強がり出戻り王子のお話です。
※他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる