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十二・ローズマリーの決断③
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「レインには黙っていてほしい。今回の件がうまくいったら、俺も覚悟を決めるつもりだ」
「まあ……ついに……!」
「……知っていたのか?」
「当然よ。わかりやすすぎるもの。気づいていないのは、鈍いレインさんだけじゃない?」
どんな反応をされるのかは正直、リオールにも想像できない。だいたいのことは努力次第で解決可能だが、許嫁との婚約を解消しても、兄弟というしがらみは消えない。レインの求めるような、品行方正の弟にはなってやれない。
けれど、ローズマリーに本心を打ち明けられ、奮い立たされたのは事実だ。勝負に出ようと決意するきっかけをもらい、リオールは幼馴染みのラクセルとローズマリーに感謝した。
「誕生日の前夜に、仮装パーティーを開こうと思う。そうでもしない限り、ルーカスとは踊れないだろ?」
「……そうね。あなたという許婚ができて以来、誘っても、遠慮して断られるようになってしまったわ」
さすがに誕生日当日に、変わった催しを企画しても、却下されることは目に見えている。しかし、前日ならば十代最後という名目があるため、受け入れられやすいと提案した。
ダンスホールにて仮装パーティーを開催し、ローズマリーがルーカスと人目を気にせず、むかしのように踊る。夜景が綺麗だからとバルコニーに連れ出し、そこで一世一代の逆プロポーズをする。見事成功すれば、リオールが合図を出し、中庭にいるグウェンソードが盛大な花火を打ち上げる。ラクセルはリオールの補佐だ。これがリオールの立てた計画だ。
ローズマリーは、上手くいくかどうかと不安そうにしていたが、リオールは大丈夫だろうと確信していた。物陰に隠れたルーカスが、こちらの様子をこっそり窺っていることに気がついたからだ。脈がなければ覗かないだろう。
打ち合わせを何度か行い、花火や花火師の手配、打ち上げの合図を出す方法、どんな仮装をするか、ルーカスには当日に休暇を与えるため、グウェンソードが調整するなど、あっという間に一週間が過ぎようとしていた。
***
そうして迎えた仮装パーティー当日。
「ルーカス。私と一曲、踊ってくださる?」
長い赤毛の巻き髪を、うなじが見えるよう乱雑に編み上げ、頭部に巻きつけたアップスタイルに気合いの入れ具合が窺える。セットしたのは手先の器用なリグジェットだ。
華奢な身体には、床につくほど丈の長いワインレッドのイブニングドレスが、上品にも白い肌に映えている。ドレスの胸の下はきゅっと絞られ、そこには赤や白、黒、黄色、オレンジなどのバラの生花が彩られており、とても艶やかだ。彼女が、ここまで彩ることはあまりない。今夜にかけている意気込みが、女性のファッションに無頓着なリオールにも伝わってくる。
それを上手く着こなしたローズマリーは、両手でスカートを掴み小首を傾げた。目元は、ドレスコードに指定しているハーフマスクで隠れているのに、可憐だと注目を浴びている。堂々としており、まったく物怖じしていない。
相手のルーカスは、グウェンソードが仕立てた紺色のタキシードを着用している。仮装パーティーには出るつもりはなかったようだが、ローズマリーの護衛をする名目を与えると、すぐさま引き受けた。同じように会場の入り口で配っているハーフマスクをしている。
「よ、よろこんで」
いつもと雰囲気の違うローズマリーの申し出に、緊張した面持ちで返事をすると、手を差し出したのでホールの中央へと向かった。
招待客は六十人程度だ。老若男女が入り乱れているものの、ハーフマスクのおかげでリオールは誰にも捕まらずに済んでいる。指示した通りバルコニーに先回りすると、暗がりの方へと身を隠す。中庭では、グウェンソードが今か今かと待機している姿が見える。
ラクセルと合流し、肩を並べて物陰に潜んで待っていると、ローズマリーがルーカスと共に姿を現した。ハーフマスクは外している。いよいよ逆プロポーズがはじまるのだ。上手くいくようにと固唾を飲んで見守る。
「これで最後にするわ。拒絶されたら、もう二度とあなたの前には姿を現さない────だからルーカス、私と結婚してサウスメアに来てください!!」
「…………!」
ネックレスを外したローズマリーは、胸元を彩っていた指輪のうち一つを差し出した。指先は震え、ぎゅっと目を瞑っている。頑張れと応援しそうなラクセルを押さえ、ルーカスの返事を待つ。それから五分ほど沈黙が続き、先に口を開いたのは、プロポーズをしたローズマリーだった。
「ねえルーカス。もしかして……泣いてるの?」
「…………な、泣いてない」
「それとも、私のことが嫌い?」
「そんなことない!」
「じゃあ、どうして返事をしてくれない──」
ルーカスは、まだ返事をしないのだろうかと不思議に思っていると、ローズマリーの指摘で涙を流していることを知った。彼女は、泣いているルーカスの顔を不安そうに見上げながら、指先で拭おうとすると、ルーカスは彼女の手を引っ張り抱きしめた。ラクセルが隣で「あっ」と驚きの声をあげた。
「…………結婚してくれるの?」
「…………私でよければ、喜んで」
「う、嬉しい!! 嬉しいわ、ルーカス、愛してる!!」
リオールは、すぐさま松明を振って合図すると、グウェンソードの隣で待機していた花火師が、中庭に並べていた円筒に着火する。ほどなくしてひゅるるという音がして、やがて夜空には大輪の花火が弾けた。驚くルーカスにラクセルと共に近づき、拍手で祝福すると照れくさそうに頭を掻いた。
計画を立ててから五日と準備期間は短かったが、予想通り大成功だった。ローズマリーとルーカスが幸せそうで羨ましくなった。次は自分が頑張る番だと、打ち上がる花火を見上げながら考えていた。
「まあ……ついに……!」
「……知っていたのか?」
「当然よ。わかりやすすぎるもの。気づいていないのは、鈍いレインさんだけじゃない?」
どんな反応をされるのかは正直、リオールにも想像できない。だいたいのことは努力次第で解決可能だが、許嫁との婚約を解消しても、兄弟というしがらみは消えない。レインの求めるような、品行方正の弟にはなってやれない。
けれど、ローズマリーに本心を打ち明けられ、奮い立たされたのは事実だ。勝負に出ようと決意するきっかけをもらい、リオールは幼馴染みのラクセルとローズマリーに感謝した。
「誕生日の前夜に、仮装パーティーを開こうと思う。そうでもしない限り、ルーカスとは踊れないだろ?」
「……そうね。あなたという許婚ができて以来、誘っても、遠慮して断られるようになってしまったわ」
さすがに誕生日当日に、変わった催しを企画しても、却下されることは目に見えている。しかし、前日ならば十代最後という名目があるため、受け入れられやすいと提案した。
ダンスホールにて仮装パーティーを開催し、ローズマリーがルーカスと人目を気にせず、むかしのように踊る。夜景が綺麗だからとバルコニーに連れ出し、そこで一世一代の逆プロポーズをする。見事成功すれば、リオールが合図を出し、中庭にいるグウェンソードが盛大な花火を打ち上げる。ラクセルはリオールの補佐だ。これがリオールの立てた計画だ。
ローズマリーは、上手くいくかどうかと不安そうにしていたが、リオールは大丈夫だろうと確信していた。物陰に隠れたルーカスが、こちらの様子をこっそり窺っていることに気がついたからだ。脈がなければ覗かないだろう。
打ち合わせを何度か行い、花火や花火師の手配、打ち上げの合図を出す方法、どんな仮装をするか、ルーカスには当日に休暇を与えるため、グウェンソードが調整するなど、あっという間に一週間が過ぎようとしていた。
***
そうして迎えた仮装パーティー当日。
「ルーカス。私と一曲、踊ってくださる?」
長い赤毛の巻き髪を、うなじが見えるよう乱雑に編み上げ、頭部に巻きつけたアップスタイルに気合いの入れ具合が窺える。セットしたのは手先の器用なリグジェットだ。
華奢な身体には、床につくほど丈の長いワインレッドのイブニングドレスが、上品にも白い肌に映えている。ドレスの胸の下はきゅっと絞られ、そこには赤や白、黒、黄色、オレンジなどのバラの生花が彩られており、とても艶やかだ。彼女が、ここまで彩ることはあまりない。今夜にかけている意気込みが、女性のファッションに無頓着なリオールにも伝わってくる。
それを上手く着こなしたローズマリーは、両手でスカートを掴み小首を傾げた。目元は、ドレスコードに指定しているハーフマスクで隠れているのに、可憐だと注目を浴びている。堂々としており、まったく物怖じしていない。
相手のルーカスは、グウェンソードが仕立てた紺色のタキシードを着用している。仮装パーティーには出るつもりはなかったようだが、ローズマリーの護衛をする名目を与えると、すぐさま引き受けた。同じように会場の入り口で配っているハーフマスクをしている。
「よ、よろこんで」
いつもと雰囲気の違うローズマリーの申し出に、緊張した面持ちで返事をすると、手を差し出したのでホールの中央へと向かった。
招待客は六十人程度だ。老若男女が入り乱れているものの、ハーフマスクのおかげでリオールは誰にも捕まらずに済んでいる。指示した通りバルコニーに先回りすると、暗がりの方へと身を隠す。中庭では、グウェンソードが今か今かと待機している姿が見える。
ラクセルと合流し、肩を並べて物陰に潜んで待っていると、ローズマリーがルーカスと共に姿を現した。ハーフマスクは外している。いよいよ逆プロポーズがはじまるのだ。上手くいくようにと固唾を飲んで見守る。
「これで最後にするわ。拒絶されたら、もう二度とあなたの前には姿を現さない────だからルーカス、私と結婚してサウスメアに来てください!!」
「…………!」
ネックレスを外したローズマリーは、胸元を彩っていた指輪のうち一つを差し出した。指先は震え、ぎゅっと目を瞑っている。頑張れと応援しそうなラクセルを押さえ、ルーカスの返事を待つ。それから五分ほど沈黙が続き、先に口を開いたのは、プロポーズをしたローズマリーだった。
「ねえルーカス。もしかして……泣いてるの?」
「…………な、泣いてない」
「それとも、私のことが嫌い?」
「そんなことない!」
「じゃあ、どうして返事をしてくれない──」
ルーカスは、まだ返事をしないのだろうかと不思議に思っていると、ローズマリーの指摘で涙を流していることを知った。彼女は、泣いているルーカスの顔を不安そうに見上げながら、指先で拭おうとすると、ルーカスは彼女の手を引っ張り抱きしめた。ラクセルが隣で「あっ」と驚きの声をあげた。
「…………結婚してくれるの?」
「…………私でよければ、喜んで」
「う、嬉しい!! 嬉しいわ、ルーカス、愛してる!!」
リオールは、すぐさま松明を振って合図すると、グウェンソードの隣で待機していた花火師が、中庭に並べていた円筒に着火する。ほどなくしてひゅるるという音がして、やがて夜空には大輪の花火が弾けた。驚くルーカスにラクセルと共に近づき、拍手で祝福すると照れくさそうに頭を掻いた。
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