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十二・ローズマリーの決断②
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「珍しいわね。リオールからお茶に誘ってくれるなんて……何年振りかしら?」
城内の中庭では、晴れるとテーブルとイスが並べられ、給仕に頼むとお茶をすることも可能だ。リオールはあまり利用しないが、ローズマリーがときどき一人で飲んでいるところを見かけたことがある。そこへ誘い出すと、なんの疑いもなく彼女はやって来た。
「…………さあな」
「ふふ。王妃様とうちの母が、私たちを婚約させようと張り切るようになってから、あなたは無愛想になったものね。ごめんなさいね」
「…………」
ローズマリーは紅茶にレモンを浮かべたものを飲みながら、レインが用意していたマドレーヌを美味しそうに味わっている。どうやって切り出そうかリオールが渋い顔つきになっていると、先に口を開いたのはローズマリーだった。
「私ね、ルーカスのことが好きなの」
「…………え?」
「驚いた? ルーカスは同い年だけど機転がよく利いて、活発で、一緒にいても嬉しいし、楽しいの。だけど、国家騎士団に入団してからは敬語で話されるようになって、なんだか線を引かれているようで悲しかったわ。どうして悲しいのか考えたら、あ、ルーカスのことが好きだったんだ――ってしっくりきたの」
好きだと自覚し、片想いを続けて五年になるという。気持ちを伝えたくて数回告白しているものの、平民出身で国家騎士団の隊員である自分と、港町を統括する公爵家の令嬢では身分が違い過ぎると、本気で取り合ってくれないようだ。ルーカスには今まで一度も恋人が存在していた形跡がないことは、ラザの部下ともありリオールでも知っている。相手の好意を感じるのに、踏み込んではもらえないとローズマリーは嘆いているようだ。
「おまけに許婚を勝手に決められて、ますますガードが固くなっちゃってね。だから私の誕生日パーティーのときに、護衛のうちの一人にルーカスを指名していたのよ。気づいてた?」
三か月以上も前に、ローズマリーが二十三歳の誕生日を迎えたときのことを思い浮かべる。バルコニーで誰かと話していたのを目撃していた。それに、今回の滞在中の護衛でも辻褄が合う。ルーカスは二番隊に所属しているため、ラザを指定すれば二番隊の誰かと交代されることもある。
「リオールも、許嫁の私ではなくて、レインさんのことが好きなんでしょう?」
「…………」
「でも私がいるからって、レインさんが本気にしてくれないこともわかっているわ」
図星を突かれてしまい、女の勘は侮れないなとリオールは驚愕した。だからラクセルは、ローズマリーを応援すると念押ししたのだとようやく把握する。ラクセルは、彼女の恋心を知っていたのだ。
「……ルーカスに告白した返事は?」
「そうね。妹としか思えない、だったかしら。だから炊きつけるのに吐き捨てたのよ。ルーカスは彼女を作らないの? ってね」
「それで?」
「うん。けどね、彼ってば酷いのよ。薄っすら笑みを浮かべながら『ローズマリーが結婚したら、作るよ」とか返したのよ!? 信じられる!?」
そこまで言われてしまえば、なにも言えなくなるのも無理はない。
好きな相手と両想いだと伝わってくるのに、身分や立場の違いで苦しんでいる姿が自分自身と重なった。少なからず、レインから想われているのはなんとなくだが感じている。義理の兄弟で血の繋がりはないとはいえ、何年も肉体関係を持っているからだ。
最初は、レインのヒートがきっかけだったので不可抗力だったが、ヒートではなくとも数えきれないほど身体を重ねているし、何年も貞操を守っていることには薄々気がついている。自惚れもある。
嫉妬深い弟が怒るという理由だけで、果たしてレインが大人しく従い続けるだろうか。レインはΩであり、引く手あまたの美人だ。それなのに、リオール以外とは肉体関係を持たないことに、別の感情はないのだろうか。
抑制剤の効きにくいヒートでもない限り、性欲に対して素直になれないレインの性格はよく理解しているつもりだ。遠征中にやむを得ず、より強力な薬を服用したこともあったが、近場にいる誰かで済ませることなく早急に任務を遂行し、記憶を失ってしまう前に帰還してくる。そして、そんなレインに誘われるまま身体を貫き、気を失うまで獣のような性行為に没頭するのだ。
リオールも、レインの本心が知りたかった。そのために自から動く決意をようやく固めた。
「わかった、ローズマリーに協力する」
「ほ、本当!? 嬉しいわ。王妃様をがっかりさせてしまうかもって、悩んでいたの。今までよくしてもらっていたから……」
ローズマリーにつくということは、王妃と対立するということだ。レインと前に進むためには、婚約を解消して王妃と決別しなければならない。そのタイミングが今なんだとリオールは悟った。
「あの人は自分の利益が最優先だ。だから気にしなくていい」
「ええ、わかったわ。それで、具体的にはどうするの?」
「ラクセルとグウェンソードにも協力させる。まだ明確な案は浮かんでいないが、なんとかする。ルーカスがグランハリストから出やすいようにみんなで考えよう」
ルーカスの両親は現役を退いているとはいえ、国家騎士団に所属していた経歴がある。その親の背中を見て育った息子を、港町サウスメアの公爵令嬢と結婚させるとなると、すんなりとはいかないだろう。それでも、なんとかしてやりたかった。好き合っている幼馴染みをどうにかできなければ、王位継承権など単なるお飾りになってしまう。幼馴染みを幸せにできなければ、自国民には誇れない。
リオールは、有言実行とばかりに早速行動に移した。ローズマリーといったん別れてラクセルとグウェンソードを探しに奔走する。ラクセルは国家騎士団の宿舎にてアキの手伝いをしていたのですぐ捕まり、グウェンソードは丁度、街の偵察から帰還したところだった。休む間もなく中庭で待つローズマリーの元まで連れて行くと、手短に事情と経緯を説明した。
「俺は小さいときから可愛がってきたお嬢ちゃんや、後輩のためになら喜んで協力するけど、でも、レインはのけ者でいいのか?」
「うーん、いいんじゃないかな、兄さんには内緒にしてても。だってさ、兄さんが知らなければ、ルーカスも騙されるんじゃない?」
この場にいるのは四人。リオールが信用している顔ぶればかりだ。護衛も数名いたが、グウェンソードがいるので平気だと本部で待機させている。どこから洩れるかわからないので、細心の注意を払う必要がある。うっかり王妃の一派や、双子を支持する者たちに知られてしまえば邪魔されかねないだろう。
城内の中庭では、晴れるとテーブルとイスが並べられ、給仕に頼むとお茶をすることも可能だ。リオールはあまり利用しないが、ローズマリーがときどき一人で飲んでいるところを見かけたことがある。そこへ誘い出すと、なんの疑いもなく彼女はやって来た。
「…………さあな」
「ふふ。王妃様とうちの母が、私たちを婚約させようと張り切るようになってから、あなたは無愛想になったものね。ごめんなさいね」
「…………」
ローズマリーは紅茶にレモンを浮かべたものを飲みながら、レインが用意していたマドレーヌを美味しそうに味わっている。どうやって切り出そうかリオールが渋い顔つきになっていると、先に口を開いたのはローズマリーだった。
「私ね、ルーカスのことが好きなの」
「…………え?」
「驚いた? ルーカスは同い年だけど機転がよく利いて、活発で、一緒にいても嬉しいし、楽しいの。だけど、国家騎士団に入団してからは敬語で話されるようになって、なんだか線を引かれているようで悲しかったわ。どうして悲しいのか考えたら、あ、ルーカスのことが好きだったんだ――ってしっくりきたの」
好きだと自覚し、片想いを続けて五年になるという。気持ちを伝えたくて数回告白しているものの、平民出身で国家騎士団の隊員である自分と、港町を統括する公爵家の令嬢では身分が違い過ぎると、本気で取り合ってくれないようだ。ルーカスには今まで一度も恋人が存在していた形跡がないことは、ラザの部下ともありリオールでも知っている。相手の好意を感じるのに、踏み込んではもらえないとローズマリーは嘆いているようだ。
「おまけに許婚を勝手に決められて、ますますガードが固くなっちゃってね。だから私の誕生日パーティーのときに、護衛のうちの一人にルーカスを指名していたのよ。気づいてた?」
三か月以上も前に、ローズマリーが二十三歳の誕生日を迎えたときのことを思い浮かべる。バルコニーで誰かと話していたのを目撃していた。それに、今回の滞在中の護衛でも辻褄が合う。ルーカスは二番隊に所属しているため、ラザを指定すれば二番隊の誰かと交代されることもある。
「リオールも、許嫁の私ではなくて、レインさんのことが好きなんでしょう?」
「…………」
「でも私がいるからって、レインさんが本気にしてくれないこともわかっているわ」
図星を突かれてしまい、女の勘は侮れないなとリオールは驚愕した。だからラクセルは、ローズマリーを応援すると念押ししたのだとようやく把握する。ラクセルは、彼女の恋心を知っていたのだ。
「……ルーカスに告白した返事は?」
「そうね。妹としか思えない、だったかしら。だから炊きつけるのに吐き捨てたのよ。ルーカスは彼女を作らないの? ってね」
「それで?」
「うん。けどね、彼ってば酷いのよ。薄っすら笑みを浮かべながら『ローズマリーが結婚したら、作るよ」とか返したのよ!? 信じられる!?」
そこまで言われてしまえば、なにも言えなくなるのも無理はない。
好きな相手と両想いだと伝わってくるのに、身分や立場の違いで苦しんでいる姿が自分自身と重なった。少なからず、レインから想われているのはなんとなくだが感じている。義理の兄弟で血の繋がりはないとはいえ、何年も肉体関係を持っているからだ。
最初は、レインのヒートがきっかけだったので不可抗力だったが、ヒートではなくとも数えきれないほど身体を重ねているし、何年も貞操を守っていることには薄々気がついている。自惚れもある。
嫉妬深い弟が怒るという理由だけで、果たしてレインが大人しく従い続けるだろうか。レインはΩであり、引く手あまたの美人だ。それなのに、リオール以外とは肉体関係を持たないことに、別の感情はないのだろうか。
抑制剤の効きにくいヒートでもない限り、性欲に対して素直になれないレインの性格はよく理解しているつもりだ。遠征中にやむを得ず、より強力な薬を服用したこともあったが、近場にいる誰かで済ませることなく早急に任務を遂行し、記憶を失ってしまう前に帰還してくる。そして、そんなレインに誘われるまま身体を貫き、気を失うまで獣のような性行為に没頭するのだ。
リオールも、レインの本心が知りたかった。そのために自から動く決意をようやく固めた。
「わかった、ローズマリーに協力する」
「ほ、本当!? 嬉しいわ。王妃様をがっかりさせてしまうかもって、悩んでいたの。今までよくしてもらっていたから……」
ローズマリーにつくということは、王妃と対立するということだ。レインと前に進むためには、婚約を解消して王妃と決別しなければならない。そのタイミングが今なんだとリオールは悟った。
「あの人は自分の利益が最優先だ。だから気にしなくていい」
「ええ、わかったわ。それで、具体的にはどうするの?」
「ラクセルとグウェンソードにも協力させる。まだ明確な案は浮かんでいないが、なんとかする。ルーカスがグランハリストから出やすいようにみんなで考えよう」
ルーカスの両親は現役を退いているとはいえ、国家騎士団に所属していた経歴がある。その親の背中を見て育った息子を、港町サウスメアの公爵令嬢と結婚させるとなると、すんなりとはいかないだろう。それでも、なんとかしてやりたかった。好き合っている幼馴染みをどうにかできなければ、王位継承権など単なるお飾りになってしまう。幼馴染みを幸せにできなければ、自国民には誇れない。
リオールは、有言実行とばかりに早速行動に移した。ローズマリーといったん別れてラクセルとグウェンソードを探しに奔走する。ラクセルは国家騎士団の宿舎にてアキの手伝いをしていたのですぐ捕まり、グウェンソードは丁度、街の偵察から帰還したところだった。休む間もなく中庭で待つローズマリーの元まで連れて行くと、手短に事情と経緯を説明した。
「俺は小さいときから可愛がってきたお嬢ちゃんや、後輩のためになら喜んで協力するけど、でも、レインはのけ者でいいのか?」
「うーん、いいんじゃないかな、兄さんには内緒にしてても。だってさ、兄さんが知らなければ、ルーカスも騙されるんじゃない?」
この場にいるのは四人。リオールが信用している顔ぶればかりだ。護衛も数名いたが、グウェンソードがいるので平気だと本部で待機させている。どこから洩れるかわからないので、細心の注意を払う必要がある。うっかり王妃の一派や、双子を支持する者たちに知られてしまえば邪魔されかねないだろう。
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