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三.継母の嫌がらせ【3】
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翌日の卯の初刻、五時。有言実行せんばかりに劇団員五名が、楓流軒の勝手口の前で待機していた。羊肉に豚肉、牛肉、鶏肉、青菜に人参、玉葱などの野菜に林檎や枇杷もあった。大量の食材を携えている。劇団への差し入れだけあり、どの品も上質だ。その辺の露店で買えるようなものではない。
「腕によりをかけて朝食を準備するので、みなさん食べて行ってください。出来るまでは、食堂か、三階のお部屋で休んでもらってもかまいません」
「いいんですか? それなら、あっしらはここで待ちますよ」
なにを作ろうか迷いながらも、具だくさんの饅頭の他に、お粥、昨夜途中までこしらえていた麺、餃子、青菜湯、骨湯に挑戦することにした。
「春鶯。俺に、手伝えることがあればなんでも──」
「はいはーい! 私が手伝うよ!」
「阿央、ありがとう」
楚月が言い切る前に、妹の央央が割り込んでくる。餃子の皮作りを頼むと、慣れた手つきで捏ね始めた。春鶯はそんな妹に苦笑しながらも、急いで野菜を刻み、楚月や晋高には餃子を包んでもらうことにした。
手伝ってもらったおかげで、こうして、六十人前の朝餉が、卯の正刻を少し過ぎた六時半に完成した。
「みなさん。どうぞ、召し上がってください」
他の宿泊客より一足先に、出来立ての料理を堪能してほしかったので、楚月や晋高、食材を運んでくれた劇団員に振る舞う。
「春鶯。きみは将来、いいお嫁さんになれるよ」
青菜湯を一口飲んだ楚月にそう褒められ、春鶯は瞬時に頬を赤らめた。照れてしまうのは、年齢の近い異性から褒められた経験があまりないからだ。
(……こういうとき、なんて返せばいいんだろう)
素直に受け取りお礼をいうべきか、それともお世辞としてとらえるべきか。どう反応すればいいのか困っている春鶯を察したのか、ちゃっかり晋高の隣で、彼の饅頭に手を伸ばそうとしていた央央が口を開く。
「私の姉なんだから、当然よ!」
自慢げに言い放ちながら、晋高の饅頭を一つ奪った。悪びれもなく齧りついている。
「もう、阿央ったら! 謝公子、それから琳公子。妹が何度も失礼をして、ごめんなさい」
「謝る必要はない。食べたいのなら、もっと食べるといい」
「わーい、ありがとう♪ 琳哥哥♡」
「もう。饅頭、すぐに追加しますね」
央央には、協力してくれた劇団員らをもてなした後で、ゆっくり食べさせるつもりだった。どうやら一緒に食べたいようだ。
「面白い妹さんだね。俺には兄しかいないから新鮮だよ」
「そうなんですね」
「ねえ、私たちも一緒に食べようよ。そうしたら片付けも一度で済むし」
「でも……」
妹の言い分も一理ある。しかし、食材をもらっただけでなく、食卓を囲むのは宿屋の従業員としてどうなんだろうと、春鶯は躊躇ってしまう。
「春鶯の分は俺がよそってくるよ」
「謝公子は座っててください!」
「いいからいいから。このくらい任せてほしい」
「そうよ、座って座って!」
半ば強引に座らされると、楚月が器に盛りつけ運んでくれた、骨湯や餃子、饅頭を口にした。普段は、宿泊客に提供する前に急いで済ませるため、久しぶりにゆっくりと朝餉を堪能できた。
食器類を片付け、宿場に戻るという劇団員らを見送り、もうひと眠りするという楚月と晋高も三階の部屋へ向かったところで、ばっちり化粧を施した趙嬌がいそいそと現れる。予想とは違い、料理がいくつも完成している現状に、しかめっ面になった。
(……やっぱり趙夫人の仕業だったのね)
蔵の食材がなくなっていたはずなのに、肉や野菜や果物があるので、悔しそうにしている。それから少し遅れて、趙眠と趙美もやってくる。さすがに三人で空にできる量ではないので、味が濃いだの見た目が悪いだの、ぶつくさ文句を言いながらも口にしている趙一家を尻目に、宿泊客に提供するための朝餉を盛りつけた。
「腕によりをかけて朝食を準備するので、みなさん食べて行ってください。出来るまでは、食堂か、三階のお部屋で休んでもらってもかまいません」
「いいんですか? それなら、あっしらはここで待ちますよ」
なにを作ろうか迷いながらも、具だくさんの饅頭の他に、お粥、昨夜途中までこしらえていた麺、餃子、青菜湯、骨湯に挑戦することにした。
「春鶯。俺に、手伝えることがあればなんでも──」
「はいはーい! 私が手伝うよ!」
「阿央、ありがとう」
楚月が言い切る前に、妹の央央が割り込んでくる。餃子の皮作りを頼むと、慣れた手つきで捏ね始めた。春鶯はそんな妹に苦笑しながらも、急いで野菜を刻み、楚月や晋高には餃子を包んでもらうことにした。
手伝ってもらったおかげで、こうして、六十人前の朝餉が、卯の正刻を少し過ぎた六時半に完成した。
「みなさん。どうぞ、召し上がってください」
他の宿泊客より一足先に、出来立ての料理を堪能してほしかったので、楚月や晋高、食材を運んでくれた劇団員に振る舞う。
「春鶯。きみは将来、いいお嫁さんになれるよ」
青菜湯を一口飲んだ楚月にそう褒められ、春鶯は瞬時に頬を赤らめた。照れてしまうのは、年齢の近い異性から褒められた経験があまりないからだ。
(……こういうとき、なんて返せばいいんだろう)
素直に受け取りお礼をいうべきか、それともお世辞としてとらえるべきか。どう反応すればいいのか困っている春鶯を察したのか、ちゃっかり晋高の隣で、彼の饅頭に手を伸ばそうとしていた央央が口を開く。
「私の姉なんだから、当然よ!」
自慢げに言い放ちながら、晋高の饅頭を一つ奪った。悪びれもなく齧りついている。
「もう、阿央ったら! 謝公子、それから琳公子。妹が何度も失礼をして、ごめんなさい」
「謝る必要はない。食べたいのなら、もっと食べるといい」
「わーい、ありがとう♪ 琳哥哥♡」
「もう。饅頭、すぐに追加しますね」
央央には、協力してくれた劇団員らをもてなした後で、ゆっくり食べさせるつもりだった。どうやら一緒に食べたいようだ。
「面白い妹さんだね。俺には兄しかいないから新鮮だよ」
「そうなんですね」
「ねえ、私たちも一緒に食べようよ。そうしたら片付けも一度で済むし」
「でも……」
妹の言い分も一理ある。しかし、食材をもらっただけでなく、食卓を囲むのは宿屋の従業員としてどうなんだろうと、春鶯は躊躇ってしまう。
「春鶯の分は俺がよそってくるよ」
「謝公子は座っててください!」
「いいからいいから。このくらい任せてほしい」
「そうよ、座って座って!」
半ば強引に座らされると、楚月が器に盛りつけ運んでくれた、骨湯や餃子、饅頭を口にした。普段は、宿泊客に提供する前に急いで済ませるため、久しぶりにゆっくりと朝餉を堪能できた。
食器類を片付け、宿場に戻るという劇団員らを見送り、もうひと眠りするという楚月と晋高も三階の部屋へ向かったところで、ばっちり化粧を施した趙嬌がいそいそと現れる。予想とは違い、料理がいくつも完成している現状に、しかめっ面になった。
(……やっぱり趙夫人の仕業だったのね)
蔵の食材がなくなっていたはずなのに、肉や野菜や果物があるので、悔しそうにしている。それから少し遅れて、趙眠と趙美もやってくる。さすがに三人で空にできる量ではないので、味が濃いだの見た目が悪いだの、ぶつくさ文句を言いながらも口にしている趙一家を尻目に、宿泊客に提供するための朝餉を盛りつけた。
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