眉目清秀な劇団座長は、宿屋の平凡娘になぜか弱い。

ゆずまめ鯉

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三.継母の嫌がらせ【2】

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「なんでもない。それじゃあ、お言葉に甘えて、滞在期間中は毎晩、お願いしようかな」
「ええ、いいですよ」
「やった! お腹が空いているから、さっそく頼んでもいいかな」
「わかりました。お料理、温め直すのでちょっと待っててください」

 椅子を用意し腰かけて待ってもらうと、竈に火を熾して料理を温め直した。
 よく風邪を引いて寝込んだ央央に、春鶯は粥を食べさせていたので、楚月にやるとしても抵抗感はない。

「公子。口を開けてください」
「うん」

 箸先で器用に芋の煮つけを掴むと、落とさぬようそっと口元へと運ぶ。楚月は春鶯の言う通りに口を大きく開けるので、食べさせた。咀嚼をして、飲み込んだのを確認してから問いかけた。

「どうですか? 熱くないですか?」
「丁度いいよ」
「食べさせるのが早すぎたら、教えてくださいね。阿央によくやっていたんですけど、あの子ったら早食いなんです。食べさせるのが遅いって怒るんですよ」
「仲がいいんだね」
「あの子の母親代わりでもありますから」
「……そうだったのか」

 気を取り直して、包子を手に取り食べるのを待つ。やたらと顔を見られている気がするものの、まだ仮面をしており素顔が見えないので、そこまで緊張しなかった。
 器に盛りつけた料理を半分ほど食べさせたところで、晋高が戻ってきた。彼の分の料理も器に盛りつける。人前で食べさせるのは少々気が引けたものの、晋高は元々が無表情なので、春鶯が楚月に料理を食べさせていても顔色一つ変わらなかった。
 そんな三人の元へ、元気溌剌といった様子の十四歳が飛び込んでくる。

「姐姐! 遅いと思ったら、こんなところでなにやってるの!? 私も包子が食べたい!」
「阿央はさっき食べたでしょ?」
「足りないわよ! 成長期だもの!」

 春鶯を探していた央央に、食べさせている姿をばっちり見られてしまい、むすっとした表情で間に割り込まれた。妹としては、面白くないのも頷ける。初恋相手が、あろうことか自分の姉に料理を食べさせてもらっている姿を目撃してしまえば、衝撃を受けても無理はない。
 央央がいる手前、食事介助は止めるべきか、それとも央央に任せるべきか頭を悩ませた。一人でぐだぐだ考えるよりも、ここは本人に尋ねるのが一番だろう。

「それなら、央央が謝公子に食べさせる?」

 それを告げた途端、央央は眉間に皺を寄せて、春鶯があまり見たことのないくらい不快そうな表情をしてみせた。

「はあ? なんで私が?」
「そ、そう」

 まさか、央央からそんな反応が返ってくるとは想像しておらず、春鶯は唖然としてしまった。

(こういうことを、人前でするのは好まないのかしら。それとも、ただの照れ隠し?)

 不思議に思っていると、央央は不満げな表情のまま楚月に問いかけた。

「謝公子も、私じゃない方がいいでしょ?」
「当然だ」
「ほらね! 仕方ないから貸してあげるよ、一回だけだけどね!」
「ありがとう」

 妹公認になってしまった。とりあえず、目の前で食べさせてもいいのならば、料理が冷めてしまう前に完食してもらうことにした。
 そんな央央の前方に、晋高が包子を一つ差し出した。妹は大きな目をぱちぱちとさせている。

「ところで琳哥哥。私ってば、そんなに物欲しそうな顔、してる?」
「食いしん坊の弟妹と同じ顔をしている」
「また弟妹? まあいいわ」

 不満そうな声を出しながらも、央央は躊躇うことなく差し出された包子にぱくっとかぶりついた。晋高は、ただ腹を空かせていると思って気を遣って差し出してくれたのに、受け取ることなく齧りついたので春鶯はぎょっとした。

「阿央! 行儀が悪いわよ!」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。私たち姉妹と、仮面の男と、琳哥哥しかいないから」
「もう、失礼でしょ!」

 春鶯が何度咎めても、央央はやめることなく晋高に包子を食べさせてもらっていた。こんなことになるなら、気軽に引き受けない方がよかっただろうか。今更悩んでも、もう遅かった。
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