眉目清秀な劇団座長は、宿屋の平凡娘になぜか弱い。

ゆずまめ鯉

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番外編・央央アタック大作戦

一.央央と晋高【2】

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 しかしながら、晋高は難攻不落のような男だ。手料理を振舞っても顔色は変わらず、それならばと食事の最中に肩を揉もうとしたところ、今度は握力がないので失敗した。さり気ない接触を試みても、態度は変わらない。北湖園で舟に乗ろうと誘ったこともあったが、楽しいのか楽しくないのか判然としなかった。
 必死に自分の魅力を伝えようとしているうちに、央央は十八歳、晋高は二十六歳になっていた。央央は、幼い頃から人の顔色ばかり観察していたので、人相占いが得意だ。そんな央央ですら、感情表現の乏しい、晋高の顔色を正確に読み取ることには苦戦していた。出会いから四年経った現在では、ちょっとした喜怒哀楽ならば、なんとなく把握できるようになっていたが。
 関係はなにも進展していないものの、晋高のおかげで一方的に絡まれる機会はだいぶ減り、その点は感謝している。楓流軒での手伝いは続けながら、手が空くと老婆の変装をして易者をしに行く。その時間帯は、晋高とは別行動しているので、彼がなにをしているか央央は把握していない。
 央央にとってよかったことといえば、長い間、離れ離れだった姉の春鶯が、昨年の八月、帝都に帰ってきたことだ。姉の妊娠を機に、劇団の座長を譲って「月影座」を退団した楚月と共に帝都へと戻り、師走という寒い時期に愛らしい女児を出産した。十七歳で姪が生まれ、ますます結婚したくなった。
 それから少し経った四月下旬。散歩に出かけていた春鶯は、生後四か月の愛娘をあやしながら、楓流軒にひょっこり顔を出した。

阿央アーヤン。琳公子が急遽、霜北府へ帰るって、知ってる?」
「え、知らないよ!?」

 まったくの初耳だ。一時辰前、食堂で朝餉を食べたというのになにも言っていなかった。というより、もともとが無口なので、央央が一方的に喋っていただけだったが。

「お爺様が体調を崩されたと、妹さんから書簡が届いたそうよ」
「……聞いてない」
「さっき報告していたから、後で教えてくれるはずよ」
「そうかな……」

 あまり自らのことを話したがらないので、打ち明けてもらえるか自信がない。

「それで、明日の朝に出発するって言っていたわ」
「どのくらいで帰るの?」
「それは行ってみないと、わからないんじゃないかしら……」

 霜北府は、馬車で五~七日とそこまで遠いわけではない。けれど、晋高の二十六歳という年齢と、長男という立場から、実家に寄りつけば、婚姻について指摘されることは目に見えている。帝都で暮らすようになり四年。何度か婦人から声をかけられている姿を目撃した。不愛想だけど、目を惹く外見をしているので、故郷に許嫁がいても不思議ではない。

「……私も琳哥哥について行っても、いいかな?」

 事前に本人に打ち明けてしまうと、十中八九、足手まといだと却下されるだろう。だから楓流軒を出発する朝に、央央も後を追うことにした。駿馬か、馬車か、どちらで向かうのかはわからないが、偶然を装ってついていく。暇だったら乗馬を教えてほしいと、事前に晋高に習っておいて助かった。こんなに早く役立つとは思わなかった。

「ええ、行きなさい! はっきり拒絶されたわけではないのだから、追いかけるべきよ!」
「……うん!」
「そうと決まれば、着替えや荷物の準備をしなくちゃ。霜北府は、帝都よりも北に位置して少し肌寒いから、上着は忘れずにね」
「わかった」

 霜北府に滞在したことのある姉から、注意事項について聞く。帝都より人口が少なく、物価も低いのでその点の心配はいらないという。ただ、寒さに気をつけるだけで比較的、過ごしやすい地域だと教えてくれた。

「阿央。お金は足りるの? いくらか渡そうか?」

 春鶯は、胸に抱いていた愛娘をそっと柜台に下ろしてから、懐に納めた財嚢を取り出そうとしたので、央央は慌てて首を振った。

「大丈夫、心配いらないよ。帳簿管理で少しもらっているし、易者での稼ぎもあるから」

 年々、央央を頼る客が増え、今では固定客もついている。毎週、銀一両は稼げているので随分と貯まった。

「困ったことがあれば、すぐに文を出すのよ? 今日は早めに寝てね」
「うん。そのつもりだよ」
「もう上がっていいからね」
「ありがとう!」

 あと二時辰(四時間)ほど仕事は残っていたが、姉の気遣いに甘えることにした。

***

 一夜明けた明朝。面紗で顔を隠した央央は、卯の初刻の五時に身支度を済ませ、楓流軒の一階で待機していた。準備万端だ。
 結局、晋高からはなにも聞かされることはなく、もやもやしたままだ。四年近くも毎日顔を合わせているのだから、弟妹に対する情の何分の一でもいいから分けてほしいのに、昨晩の晋高の態度は普段と変わらなかった。脈なしだと自覚している。
 今回の帰省は遊びではなく、体調が芳しくない家族の見舞いをするためだ。帰省する理由が理由なだけに、本当はついていくべきではないことくらい頭ではわかっている。
 けれど、このまま黙って見送り後悔してしまうくらいなら、ついて行きたかった。我慢できなかった。

(……出てきたわ!)

 央央の読みが当たり、晋高は朝餉を取らずに楓流軒から出発しようとした。央央は、迷うことなく晋高の背中を追いかけた。
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