眉目清秀な劇団座長は、宿屋の平凡娘になぜか弱い。

ゆずまめ鯉

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番外編・央央アタック大作戦

二.央央、勝手についていく【2】

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 今晩泊まる宿屋を先に確保したいところだが、すぐにでも実家に向かうという晋高について行く。幼馴染みや許嫁の有無を確認するためだ。
 大きな門扉を潜ると、増築に増築を重ねた立派な家屋と、広々とした庭園に央央は目を奪われた。庭先の至るところに、真っ赤な椿が咲きほこっているのだ。楓流軒の庭にも椿はあるが、一面を埋め尽くすほどではない。思わず見とれていると、晋高に置いて行かれそうだったので慌てて後を追った。
 琳家の母屋に足を踏み入れた央央は、目から下を覆っていた面紗を外して懐に納めた。晋高の家族に会うのだから、外さないと失礼だろう。部屋の中央にて卓を取り囲み、寛いでいた白髪交じりの男たちに向かって拱手する。胸元の前で、自分の片手をもう片方の手で包む挨拶だ。

「お邪魔します」

 央央が笑みを浮かべた途端、茶を啜っていた初老を過ぎた男たちは、目を見開き驚愕したような表情を見せる。二度見どころか三度見している。よっぽど珍しかったようだ。

「あの阿高も、ついに嫁を連れて来たんか!?」
「こりゃまたべっぴんさんじゃないか!」
「一大事じゃねえか!」

 三人とも口々に驚いている。

「どれ、もっと顔をよく見せておくれ!」
「俺も俺も!」

 その場に立ち上がると、さすが晋高の一族だからか、それなりに大きいので圧倒された。そのまま一斉に詰め寄られそうになったところ、晋高が一歩前に出て背後に隠してくれた。

「距離が近い」

 また守ってくれた。この四年余り。こうした、さり気ない行動で好感度が積もりに積もり、ついには溢れてしまっているというのに、当の本人は気づいていない。

「阿高。ちょっと観察しようとしただけなのに、心が狭すぎないか?」
「そうだそうだ!」

 三人から口々に責められても、晋高は真顔のままだ。そんな場の雰囲気を改善させたい央央は、笑顔を浮かべておどけることにした。

「こんにちは。晋高さんのお嫁さんになる予定の李央央です♡」

 そう冗談で自己紹介すると、わっと湧いた男たちは、勢いよく晋高を取り囲み、大いに盛り上がった。家僕を呼び、無礼講だといいながら真昼間から酒盛りしようとする。

「伯父さん。揶揄するなら今度にしてくれ」
 どうやら白髪交じりの男たちは、晋高の伯父にあたる人物だったらしい。保鏢をしている一族なので、依頼が入るまでは待機しているのだろう。

「それより祖父は?」
「父上は離れにおる」
「わかった」

 晋高は母屋を出ようとしたため、央央はお辞儀をしてから後を追った。
 母屋を出てから左手に向かって少し歩くと、そこには立派な平屋があった。戸を二、三回叩き、中から声が返ってくるのを待ってから、晋高は足を踏み入れる。
 縁側に向かって設置された椅子に、白髪の男が腰かけていた。

「爺様」
「うむ」

 体調を崩したと一報が入り、帝都から会いに来たのだが、祖父の顔色は悪くなかった。

「勝手に文を出しおって、大袈裟なんじゃ」

 容態を心配した晋高の弟妹が、帝都にいる兄に手紙を出したことは把握しているのだろう。ここ四年は一度も帰省していなかったので、そんな兄を気遣ったのかもしれない。

「そちらのお嬢さんは?」
「初めまして。晋高さんにお世話になっている、李央央と申します」

 自己紹介しながら、央央は本日二度目の拱手をした。晋高が長年仕える、謝楚月と結婚したのは姉で、自分はその妹だと簡潔に説明した。どうして、央央が晋高に付き添い帰省したのか、伝えるべきか迷っていたところ、晋高の祖父はぽつりとつぶやいた。

「いい娘さんに好かれたのう」

 帰省することを聞きつけ、勝手についてきただけなのだが、祖父はなにかを察したようだ。

「……私が一方的に好きで、晋高さんにつきまとっているだけなんです」

 あくまで好いているのは自分だけだと正直に打ち明けた。四年余り生活を共にしても、保鏢と依頼人の身内という、近いようで遠い関係から脱することは叶わなかった。先ほどの伯父たちには誤解されても支障は来さないが、せめて彼の祖父には正確に伝えようと訂正した。

「果たして、本当に一方的かな?」

 ところが祖父は、そう一言漏らして、晋高に視線を向けた。聞いていたのかいないのか、晋高は視線を逸らしたままなにも言わなかった。
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