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番外編・央央アタック大作戦
四.央央は決意する【2】
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そんな折。美味しそうな串焼きや、好物の包子などを手土産に琳家へと戻ると、央央に占ってほしいという婦人が訪れていた。帝都から凄腕の易者が来ていると、噂になっているらしい。
噂の出どころは突き止めなくてもわかる。霜北府の町中ではまだ占っていないため、琳有しかいない。琳家の宴に招かれ、余興として得意の人相占いを披露した後、祖父を亡くしたばかりの琳有を励ますため、今度は手相を見た。もうすぐいい出会いがあると伝えた次の日。片思いしていた幼馴染みと再会を果たし、向こうも琳有のことをずっと好きだったと想いを伝えられ、恋人になったという。さすがの央央も、まさか翌日に的中するとは予想外だ。もう少し先のつもりだった。そのことがきっかけだろうとすぐに察した。
有名な易者になることが夢なだけあり、人から自分の占いを頼りにしてもらえるのはなによりも嬉しい。老婆に変装して人々の悩みに耳を傾け、人相や手相、生年月日を駆使して適切に助言すると、央央に打ち明けた人々は「ありがとう、ありがとう」とみな目元を潤ませ、晴れ晴れとした表情で帰っていく。霜北府では老婆の姿ではなく面紗をしていたが、外見について指摘してくる人は一人もいなかった。
わざわざ訪ねてくれたので、時間の許す限り婦人のことを占った。彼女は誇らしげな表情で帰ったために安堵する。
初めて訪れた霜北府は、少し肌寒いくらいで、姉のいう通り過ごしやすい町だった。すでに一週間も琳家には世話になっている。自称「嫁」でも、このまま滞在するのはさすがに図々しい。
晋高の母親を探したところ、台所で夕餉の支度をしていた。先ほど買ったばかりの手土産を渡しながらお礼を告げると、またいつでも来て頂戴と言ってもらえて笑顔になった。
次に挨拶に向かったのは母屋だ。そこにいるのは琳有と弟と伯父だ。近場の宿屋へ移ると伝えた途端、なぜか大反対されてしまった。晋高の未来の嫁なんだから、遠慮せずに泊まってくれと言うのだ。そうやって引き留められている最中、運がいいのか悪いのか、張本人が帰宅してしまった。
「嫁候補の阿央が、宿屋に泊まるってよ。引き留めなくていいのか?」
「そうよ、兄さん!」
目を細めた伯父は、肘で晋高の体を突き、琳有はというと興奮気味に詰め寄る。弟はそんな二人に圧倒されている。
「……ただの知り合いだ」
帝都にいた頃は、晋高との間にそこまで距離を感じなかった。哥哥と呼ぶことを咎められなかった。それなのに、なかば強引に故郷まで足を運んだ結果、ただの知り合いだと言われてしまった。晋高の返事に肩を落としながらも、央央は気丈に振る舞う。
「琳哥哥いわく、私はただの知り合いですけど、お嫁さんにしてもらえるまでは頑張ります!」
そう宣言すると、琳有や弟、伯父の三人は拍手してくれた。
「ところで、お兄ちゃん。霜北府にはいつまでいられるの?」
「……知らん」
「えっ!?」
知りたかったことを琳有が聞いてくれたというのに、返答を耳にした央央は唖然とした。その返しは想定外だ。
「久々の休暇だから、長居していいと言われている」
「あー、そうなんだ」
帝都にいる楚月から書簡が届き、二年ぶりの長期休暇を満喫するようにと指示があったようだ。明確な日時はなく、楓流軒が繁忙期を迎える夏までに戻れ、という曖昧なものだった。央央が帝都に戻ったら、晋高にそんな曖昧な文は出さないでほしいと、楚月に文句を言うつもりだ。
本格的な夏を迎えるまでは、一か月以上ある。最長でも五日のつもりでいた央央は、さすがにそこまで長居することはできない。せっかく帝都に姉夫婦が戻っているというのに、そんなに離れられない。
仮に央央が、近日中に帝都に戻ると伝えたとする。けれど、晋高が一緒に帰ってくれるかどうかの保証はどこにもない。
琳有は、央央の顔をちらちら窺っているので、先ほど決めたことを打ち明けた。
「馬車を手配しに行ったら、端午節が終わるまでは借りられないって断られたわ。だから、それまでは霜北府にいるつもりよ」
「ということは、あと五日くらい?」
「うん。だから、五日で落とす!」
晋高を残り五日で落とすと宣言すると、琳有や伯父は頑張ってと応援してくれた。晋高はというと、一切、こちらを見ようとはしなかった。
噂の出どころは突き止めなくてもわかる。霜北府の町中ではまだ占っていないため、琳有しかいない。琳家の宴に招かれ、余興として得意の人相占いを披露した後、祖父を亡くしたばかりの琳有を励ますため、今度は手相を見た。もうすぐいい出会いがあると伝えた次の日。片思いしていた幼馴染みと再会を果たし、向こうも琳有のことをずっと好きだったと想いを伝えられ、恋人になったという。さすがの央央も、まさか翌日に的中するとは予想外だ。もう少し先のつもりだった。そのことがきっかけだろうとすぐに察した。
有名な易者になることが夢なだけあり、人から自分の占いを頼りにしてもらえるのはなによりも嬉しい。老婆に変装して人々の悩みに耳を傾け、人相や手相、生年月日を駆使して適切に助言すると、央央に打ち明けた人々は「ありがとう、ありがとう」とみな目元を潤ませ、晴れ晴れとした表情で帰っていく。霜北府では老婆の姿ではなく面紗をしていたが、外見について指摘してくる人は一人もいなかった。
わざわざ訪ねてくれたので、時間の許す限り婦人のことを占った。彼女は誇らしげな表情で帰ったために安堵する。
初めて訪れた霜北府は、少し肌寒いくらいで、姉のいう通り過ごしやすい町だった。すでに一週間も琳家には世話になっている。自称「嫁」でも、このまま滞在するのはさすがに図々しい。
晋高の母親を探したところ、台所で夕餉の支度をしていた。先ほど買ったばかりの手土産を渡しながらお礼を告げると、またいつでも来て頂戴と言ってもらえて笑顔になった。
次に挨拶に向かったのは母屋だ。そこにいるのは琳有と弟と伯父だ。近場の宿屋へ移ると伝えた途端、なぜか大反対されてしまった。晋高の未来の嫁なんだから、遠慮せずに泊まってくれと言うのだ。そうやって引き留められている最中、運がいいのか悪いのか、張本人が帰宅してしまった。
「嫁候補の阿央が、宿屋に泊まるってよ。引き留めなくていいのか?」
「そうよ、兄さん!」
目を細めた伯父は、肘で晋高の体を突き、琳有はというと興奮気味に詰め寄る。弟はそんな二人に圧倒されている。
「……ただの知り合いだ」
帝都にいた頃は、晋高との間にそこまで距離を感じなかった。哥哥と呼ぶことを咎められなかった。それなのに、なかば強引に故郷まで足を運んだ結果、ただの知り合いだと言われてしまった。晋高の返事に肩を落としながらも、央央は気丈に振る舞う。
「琳哥哥いわく、私はただの知り合いですけど、お嫁さんにしてもらえるまでは頑張ります!」
そう宣言すると、琳有や弟、伯父の三人は拍手してくれた。
「ところで、お兄ちゃん。霜北府にはいつまでいられるの?」
「……知らん」
「えっ!?」
知りたかったことを琳有が聞いてくれたというのに、返答を耳にした央央は唖然とした。その返しは想定外だ。
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「あー、そうなんだ」
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「馬車を手配しに行ったら、端午節が終わるまでは借りられないって断られたわ。だから、それまでは霜北府にいるつもりよ」
「ということは、あと五日くらい?」
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