3 / 28
第1章 アラーテ立志編
第3話:死
しおりを挟む
ぼふっ、という鈍い音。
私の右の拳がリーフスライムの柔らかな感触を感じたその瞬間、「きゅるわあっ!!!」という叫び声とともにリーフスライムは後方に吹っ飛んでいった。
手応え的に、ダメージを与えたことは明白だった。
やった、剣と魔法のMSOの世界で、正拳突きでモンスターを倒せた……という私の喜びは、起き上がるリーフスライムを見て一瞬で吹き飛んだ。
一撃で倒せていない!? 最弱のリーフスライムを!? 嘘でしょ!?
そこで私は、先程リストがレベル1になっていたことを思い出した。
まだ自分のウィンドウを開いてステータスを確認していないが、恐らく私もレベル1になったと考えるべきだろう。そうか、だから一撃で倒せなかったんだ。
「きゅるうう……」
リーフスライムは柔らかな体を小刻みに震わせている。突進が来る合図だ。私が迎撃の体勢をとったその瞬間、案の定リーフスライムはジャンプした後に突っ込んできた。
最弱故に動きは単調。リーフスライムの突進はとっくに見切ってる。
「りゃあああああっっ!!!」
私は叫び声とともに全力の後ろ回し蹴りを放った。蹴りはクリーンヒットし、鈍い音がした後にリーフスライムはその場に落下し、消滅した。
「……かはっ……! はあ……はあ……」
リーフスライム撃破を確認した私は、その場に膝をついて息を吐いた。
MSOの世界での初めての格闘戦に、体がびっくりしている。
息が乱れている。緊張の糸が解け、全身でどっと疲労を感じた。
その時、でれでれーん、という馴染みのあるBGMが聞こえた。
レベルアップを知らせるBGMだ。
「アラーテ!」
リストの声が聞こえた。視線を向ける。がちゃがちゃ、という音ともにリストは私に駆け寄って膝をつき、私の肩にそっと左手を置いた。
「アラーテ、大丈夫!? ダメージは負ってない!?」
「う、うん、大丈夫……」
乱れた呼吸のまま私は言葉を返す。
「よかった……本当にありがとう、僕を助けてくれて。本当は僕がアラーテを守らなきゃいけないのに、逆に守られちゃった。……ごめん」
リストは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。「え、そんな、謝らないでよ」と私は言葉を返す。少しずつ呼吸が整ってきた。
「今までお互いに助け合ってきたじゃん。それをさっきやっただけだよ」
「そっか……ありがとう、そう言ってくれて。アラーテは本当に優しいね。アラーテのそういうところ、好きだよ」
「……そんな、私は別に……」
好き、がそういう好きじゃないとは分かっているものの、リストにはっきり言われるとついつい照れくさくなってしまう。
込み上げてくる恥ずかしさを振り払うように私は首を振り、立ち上がった。よし、乱れていた息はすっかり元に戻っている。
「あ、そうだ、ステータス……」
私は今のステータスを確認するべく、左手の人差し指を振ってウィンドウを開いた。
【LVアップ! LV1→LV2
LV2/1000
HP:105(+5)
MP:0 (+0)
SP:25 (+5)
物理攻撃力:15(+5)
魔法攻撃力:11(+1)
物理防御力:12(+2)
魔法防御力:12(+2)
素早さ :13(+4)
筋力 :15(+5)
運 :11(+1)
知力 :12(+2)
スキルポイント2 を獲得しました
スキルポイントを割り振りますか?
はい/いいえ 】
「うわあ……」
自分のステータスを確認し、私はがくっと肩を落とした。
弱い。あまりにも弱い。
ついさっきまで私のレベルは124だった。それが今ではレベル2になってる。データリセットが事実だということが分かり、私は深く溜め息をついた。
「アラーテ、大丈夫?」
「あ、うん、ちょっとショック受けちゃって……本当にデータがリセットされたんだなって」
「そうだよね……」
リストは苦々しい表情を浮かべている。
くそ……今までリストと一緒に何回モンスターと戦ってきたと思ってるの! さっきの謎の男め、経験値を返せ!
「レベルアップした? 僕はさっきレベルアップしたんだけど」
「うん、したよ」
「ちょっとウィンドウを見せてもらってもいい?」
私は頷きを返した。リストは私のウィンドウを覗き込み、「なるほど……」と呟いた。
「他のステータスと比べて、物理攻撃力と筋力、素早さの伸びが良いね。やっぱりアラーテのジョブ、11拳は、格闘戦でモンスターを倒すことに長けたジョブなのかも。恐らく、通常攻撃やスキル攻撃で戦いを組み立てる、【剣】に分類されるジョブと同じ立ち回りになるんじゃないかな」
「うーん……」
MSOの世界においては、全てのジョブが同じようにステータスが伸びる、というわけではなく、ジョブによってステータスの伸びが異なる。
例えば勇者は物理攻撃力や筋力の伸びが良く、反対に魔法使いは魔法攻撃力や知力の伸びがいいことで知られている。
「まだ混乱してるよ。リストを守れたのは嬉しいけど、正直意味が分からない。だって、今まではずっと魔法でモンスターを倒してきたんだもん。正拳突きと後ろ回し蹴りでモンスターを倒せるなんて思ってなかった」
「それでも瞬時に倒せたんだから、やっぱりアラーテはすごいよ。何でそんなに……ああ、思い出した。たしかアラーテは、カラテとアイキドーのブラックベルトだったよね。どうりで動きが素早いわけだ」
「まあね……それよりも、これからどうすればいいと思う?」
バトルの余韻が冷め、冷静になったところで私はリストに問いかけた。
「うーん……」
リストは腕を組み、思考を巡らせている。今や重戦士になったリストが纏う防具は、勇者だった時と比べてなんだかゴツくて見慣れない。
もっとも、重戦士はタンクの役割を担うことが非常に多いから、防具がゴツいのは当然と言えるけど。
「正直まだ状況は飲み込めていない。さっきの謎の男の話だって信じたくない。でも、ログアウト出来ないこと、僕とアラーテのデータがリセットされていてジョブが変わっていることから考えると、取り敢えず男の話は事実だと仮定して行動した方がいいのかもしれない」
「じゃあ、HPがゼロになったら、死んじゃうってのも本当ってこと……?」
「……分からないけど、事実だと仮定するならそういうことになるね」
背筋に冷たいものを感じ、私は思わず右手で口を押さえた。
「おーい!!」
その時見知らぬ声が聞こえ、私とリストは同時に声のする方へ視線を向けた。防具を身に纏った1人のプレイヤーが私たちの元へ駆け寄ってくるのが見える。
あの防具の見た目からして、恐らく戦士のジョブを授かった男性プレイヤーだろう。
「はあ……はあ……よかった、やっと他のプレイヤーが見つかった……俺、もう訳が分からなくて……」
男性は私たちの目の前で足を止めてそう言った。身長はリストより10センチ以上高く、やや面長の顔立ちは非常に整っている。
もっとも、キャラクタークリエイトが可能なこの世界において、顔立ちが整っていないプレイヤーを探す方が難しいけどね。
「……はじめまして、僕はリスト。重戦士のジョブを授かった者です。そしてこちらはアラーテ。治療士のジョブを先程授かりました」
え、私は治療士じゃないよ、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。恐らくリストは、謎のジョブである11拳の存在を秘匿することに決めたのだろう。
「丁寧に自己紹介ありがとう。俺はカマイだ。ついさっきまで魔導士だったのに、急に黒いウィンドウが現れて変な男が喋り出したと思ったら、経験値も何もかも全てリセットされていて、ジョブも戦士に変わってた。もう訳が分からん」
男性、ではなくカマイは困ったような表情を浮かべた。
「僕たちと同じ状況だったわけですね。他にもプレイヤーを見かけましたか?」
「いや、ずっと1人で、ようやくアンタ達を見つけたんだよ……そ、そうだ! パーティー! 俺とパーティーを組まないか! HPがゼロになったら死ぬってさっき謎の男が言ってたよな! 俺は絶対に死にたくないんだ! 頼むよ!」
「あ、いや、それは……」
リストは言葉を濁し、困ったような表情を浮かべた。当然の反応といえる。
MSOの世界では、最大4人のプレイヤーでパーティーを組むことが出来る。
4人でパーティーを組んだ場合、モンスターとバトルをする時は4人でバトルに臨めるわけで、リスクの分散や攻撃力の増加が見込めるため、一見するとパーティーを組むことにメリットしかないように見える。
しかし、実際にはデメリットもある。パーティーを組むとお互いの位置情報やステータス、アイテムの所持状況やスキルツリーの構成が丸わかりになってしまうのだ。
悪意を持ったプレイヤーがわざと他のプレイヤーとパーティーを組み、筒抜けの情報を活用して悪事を働く例をこれまで何百件と聞いたことがある。
故にパーティーを組む際は、プレイヤーの性格や態度、プレイスタイルやステータスなどをしっかり見定めることが定跡となっている。
しかし、目の前のカマイは初対面にも関わらずいきなりパーティーを組もうと言い出した。はっきり言って非常識!
「な、何だよその目は!」
私とリストのそっけない態度が気に入らなかったのか、カマイは声を張り上げた。
「パーティーを組む際はしっかりプレイヤーを見定める必要があることは承知のはずです。申し訳ありませんが、いきなり貴方とパーティーを組むことは出来ません」
リストは冷静な口調で言った。そういう言いにくいところをさらっと言えるあたり、リストは本当にすごいんだよなぁ。
「いやいやいや! それはそうだけどさ! 今は非常事態だろ! 取り敢えずパーティーを組んで、お互いの生存確率を上げた方が絶対いいって!」
「ですからそれは……」
「危ないっっ!!!」
殺気を感じ、私は叫んだ。それと同時に勢いよくリストを突き飛ばした。
先程と比べて殺気が濃く、力強かった。リストを突き飛ばさないと危ない、と本能が叫んだ故の行動だった。
「ぐるあああああああっっ!!!」
「うわあああああああっっ!!!」
モンスターの叫び声、そしてカマイの悲鳴が轟いた。慌てて私は上体を起こす。銀色の巨大な虎がカマイに猛攻を仕掛けているのが見えた。
Cランクモンスター【シルバータイガー】だ。奇襲を仕掛けてきたのだろう。データリセットを喰らった直後のプレイヤーが戦っていいモンスターではない。
「やめろおおおっ!! やめろおおおおおおおっ!!!!!」
カマイは叫びながらなんとか盾で攻撃を捌こうとしていたが、シルバータイガーの攻撃の威力が高すぎて捌ききれていない。
カマイの頭上に表示されているHPのバーがぐんぐん減少し、あっという間にレッドゾーンに突入した。あと少しでHPが尽きる合図だ。
「やめてっっ!!!!!」
私が立ち上がり、絶叫したその瞬間。シルバータイガーの鋭利な爪がカマイの胴を切り裂いた。カマイの頭上のHPのバーが瞬時に消え失せる。
カマイは全てを悟ったのか、私たちに憎悪の視線を向け、「お前たちのせいだ!!」と叫んだ。
「お前たちがすぐにパーティーを組んでくれなかったから! ふざけるな! ふざ」
ぱしゅん、という淡い音とともに、カマイは消滅した。
……嫌だ。
そんな、嘘だ。
こんなのひどい。ひどすぎる。
私は、カマイがMSOの世界で死に、さらに現実世界においても死んだことを悟った。散り際のカマイの表情がその事実を雄弁に物語っていた。
驚愕、混乱、悲しみ。様々な感情がまるで洪水のように押し寄せてくる。
リストに激しく肩を揺さぶられ、「アラーテ、しっかりして!」と叫ばれてなければ私の精神はすぐに崩壊していたかもしれない。
「リスト……」
「気を確かに持つんだ! 僕がタンクになって攻撃を受け止める! その隙にアラーテはシルバータイガーを倒してくれ!」
「そんな、経験値がリセットされた直後にシルバータイガーを倒すなんて……」
無理、と言いかけたその瞬間。ぱちん、と乾いた音が響いた。痛みを感じるとともに、リストに頬を平手打ちされたのだと気付く。
「ふざけるな! ここでおとなしく殺されるつもりか! 僕は死にたくない! 大切なアラーテにも死んでほしくない! 今のステータスじゃシルバータイガーからは逃げられない! さっきアイテムボックスを見たけどワープアイテムは無かった! そして僕1人じゃシルバータイガーは倒せない! 一緒に戦って倒すしかないんだよっ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お気に入りの追加やいいねで応援していただけると泣いて喜びます!
執筆のモチベーションに繋がりますので、どうかよろしくお願いします!
私の右の拳がリーフスライムの柔らかな感触を感じたその瞬間、「きゅるわあっ!!!」という叫び声とともにリーフスライムは後方に吹っ飛んでいった。
手応え的に、ダメージを与えたことは明白だった。
やった、剣と魔法のMSOの世界で、正拳突きでモンスターを倒せた……という私の喜びは、起き上がるリーフスライムを見て一瞬で吹き飛んだ。
一撃で倒せていない!? 最弱のリーフスライムを!? 嘘でしょ!?
そこで私は、先程リストがレベル1になっていたことを思い出した。
まだ自分のウィンドウを開いてステータスを確認していないが、恐らく私もレベル1になったと考えるべきだろう。そうか、だから一撃で倒せなかったんだ。
「きゅるうう……」
リーフスライムは柔らかな体を小刻みに震わせている。突進が来る合図だ。私が迎撃の体勢をとったその瞬間、案の定リーフスライムはジャンプした後に突っ込んできた。
最弱故に動きは単調。リーフスライムの突進はとっくに見切ってる。
「りゃあああああっっ!!!」
私は叫び声とともに全力の後ろ回し蹴りを放った。蹴りはクリーンヒットし、鈍い音がした後にリーフスライムはその場に落下し、消滅した。
「……かはっ……! はあ……はあ……」
リーフスライム撃破を確認した私は、その場に膝をついて息を吐いた。
MSOの世界での初めての格闘戦に、体がびっくりしている。
息が乱れている。緊張の糸が解け、全身でどっと疲労を感じた。
その時、でれでれーん、という馴染みのあるBGMが聞こえた。
レベルアップを知らせるBGMだ。
「アラーテ!」
リストの声が聞こえた。視線を向ける。がちゃがちゃ、という音ともにリストは私に駆け寄って膝をつき、私の肩にそっと左手を置いた。
「アラーテ、大丈夫!? ダメージは負ってない!?」
「う、うん、大丈夫……」
乱れた呼吸のまま私は言葉を返す。
「よかった……本当にありがとう、僕を助けてくれて。本当は僕がアラーテを守らなきゃいけないのに、逆に守られちゃった。……ごめん」
リストは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。「え、そんな、謝らないでよ」と私は言葉を返す。少しずつ呼吸が整ってきた。
「今までお互いに助け合ってきたじゃん。それをさっきやっただけだよ」
「そっか……ありがとう、そう言ってくれて。アラーテは本当に優しいね。アラーテのそういうところ、好きだよ」
「……そんな、私は別に……」
好き、がそういう好きじゃないとは分かっているものの、リストにはっきり言われるとついつい照れくさくなってしまう。
込み上げてくる恥ずかしさを振り払うように私は首を振り、立ち上がった。よし、乱れていた息はすっかり元に戻っている。
「あ、そうだ、ステータス……」
私は今のステータスを確認するべく、左手の人差し指を振ってウィンドウを開いた。
【LVアップ! LV1→LV2
LV2/1000
HP:105(+5)
MP:0 (+0)
SP:25 (+5)
物理攻撃力:15(+5)
魔法攻撃力:11(+1)
物理防御力:12(+2)
魔法防御力:12(+2)
素早さ :13(+4)
筋力 :15(+5)
運 :11(+1)
知力 :12(+2)
スキルポイント2 を獲得しました
スキルポイントを割り振りますか?
はい/いいえ 】
「うわあ……」
自分のステータスを確認し、私はがくっと肩を落とした。
弱い。あまりにも弱い。
ついさっきまで私のレベルは124だった。それが今ではレベル2になってる。データリセットが事実だということが分かり、私は深く溜め息をついた。
「アラーテ、大丈夫?」
「あ、うん、ちょっとショック受けちゃって……本当にデータがリセットされたんだなって」
「そうだよね……」
リストは苦々しい表情を浮かべている。
くそ……今までリストと一緒に何回モンスターと戦ってきたと思ってるの! さっきの謎の男め、経験値を返せ!
「レベルアップした? 僕はさっきレベルアップしたんだけど」
「うん、したよ」
「ちょっとウィンドウを見せてもらってもいい?」
私は頷きを返した。リストは私のウィンドウを覗き込み、「なるほど……」と呟いた。
「他のステータスと比べて、物理攻撃力と筋力、素早さの伸びが良いね。やっぱりアラーテのジョブ、11拳は、格闘戦でモンスターを倒すことに長けたジョブなのかも。恐らく、通常攻撃やスキル攻撃で戦いを組み立てる、【剣】に分類されるジョブと同じ立ち回りになるんじゃないかな」
「うーん……」
MSOの世界においては、全てのジョブが同じようにステータスが伸びる、というわけではなく、ジョブによってステータスの伸びが異なる。
例えば勇者は物理攻撃力や筋力の伸びが良く、反対に魔法使いは魔法攻撃力や知力の伸びがいいことで知られている。
「まだ混乱してるよ。リストを守れたのは嬉しいけど、正直意味が分からない。だって、今まではずっと魔法でモンスターを倒してきたんだもん。正拳突きと後ろ回し蹴りでモンスターを倒せるなんて思ってなかった」
「それでも瞬時に倒せたんだから、やっぱりアラーテはすごいよ。何でそんなに……ああ、思い出した。たしかアラーテは、カラテとアイキドーのブラックベルトだったよね。どうりで動きが素早いわけだ」
「まあね……それよりも、これからどうすればいいと思う?」
バトルの余韻が冷め、冷静になったところで私はリストに問いかけた。
「うーん……」
リストは腕を組み、思考を巡らせている。今や重戦士になったリストが纏う防具は、勇者だった時と比べてなんだかゴツくて見慣れない。
もっとも、重戦士はタンクの役割を担うことが非常に多いから、防具がゴツいのは当然と言えるけど。
「正直まだ状況は飲み込めていない。さっきの謎の男の話だって信じたくない。でも、ログアウト出来ないこと、僕とアラーテのデータがリセットされていてジョブが変わっていることから考えると、取り敢えず男の話は事実だと仮定して行動した方がいいのかもしれない」
「じゃあ、HPがゼロになったら、死んじゃうってのも本当ってこと……?」
「……分からないけど、事実だと仮定するならそういうことになるね」
背筋に冷たいものを感じ、私は思わず右手で口を押さえた。
「おーい!!」
その時見知らぬ声が聞こえ、私とリストは同時に声のする方へ視線を向けた。防具を身に纏った1人のプレイヤーが私たちの元へ駆け寄ってくるのが見える。
あの防具の見た目からして、恐らく戦士のジョブを授かった男性プレイヤーだろう。
「はあ……はあ……よかった、やっと他のプレイヤーが見つかった……俺、もう訳が分からなくて……」
男性は私たちの目の前で足を止めてそう言った。身長はリストより10センチ以上高く、やや面長の顔立ちは非常に整っている。
もっとも、キャラクタークリエイトが可能なこの世界において、顔立ちが整っていないプレイヤーを探す方が難しいけどね。
「……はじめまして、僕はリスト。重戦士のジョブを授かった者です。そしてこちらはアラーテ。治療士のジョブを先程授かりました」
え、私は治療士じゃないよ、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。恐らくリストは、謎のジョブである11拳の存在を秘匿することに決めたのだろう。
「丁寧に自己紹介ありがとう。俺はカマイだ。ついさっきまで魔導士だったのに、急に黒いウィンドウが現れて変な男が喋り出したと思ったら、経験値も何もかも全てリセットされていて、ジョブも戦士に変わってた。もう訳が分からん」
男性、ではなくカマイは困ったような表情を浮かべた。
「僕たちと同じ状況だったわけですね。他にもプレイヤーを見かけましたか?」
「いや、ずっと1人で、ようやくアンタ達を見つけたんだよ……そ、そうだ! パーティー! 俺とパーティーを組まないか! HPがゼロになったら死ぬってさっき謎の男が言ってたよな! 俺は絶対に死にたくないんだ! 頼むよ!」
「あ、いや、それは……」
リストは言葉を濁し、困ったような表情を浮かべた。当然の反応といえる。
MSOの世界では、最大4人のプレイヤーでパーティーを組むことが出来る。
4人でパーティーを組んだ場合、モンスターとバトルをする時は4人でバトルに臨めるわけで、リスクの分散や攻撃力の増加が見込めるため、一見するとパーティーを組むことにメリットしかないように見える。
しかし、実際にはデメリットもある。パーティーを組むとお互いの位置情報やステータス、アイテムの所持状況やスキルツリーの構成が丸わかりになってしまうのだ。
悪意を持ったプレイヤーがわざと他のプレイヤーとパーティーを組み、筒抜けの情報を活用して悪事を働く例をこれまで何百件と聞いたことがある。
故にパーティーを組む際は、プレイヤーの性格や態度、プレイスタイルやステータスなどをしっかり見定めることが定跡となっている。
しかし、目の前のカマイは初対面にも関わらずいきなりパーティーを組もうと言い出した。はっきり言って非常識!
「な、何だよその目は!」
私とリストのそっけない態度が気に入らなかったのか、カマイは声を張り上げた。
「パーティーを組む際はしっかりプレイヤーを見定める必要があることは承知のはずです。申し訳ありませんが、いきなり貴方とパーティーを組むことは出来ません」
リストは冷静な口調で言った。そういう言いにくいところをさらっと言えるあたり、リストは本当にすごいんだよなぁ。
「いやいやいや! それはそうだけどさ! 今は非常事態だろ! 取り敢えずパーティーを組んで、お互いの生存確率を上げた方が絶対いいって!」
「ですからそれは……」
「危ないっっ!!!」
殺気を感じ、私は叫んだ。それと同時に勢いよくリストを突き飛ばした。
先程と比べて殺気が濃く、力強かった。リストを突き飛ばさないと危ない、と本能が叫んだ故の行動だった。
「ぐるあああああああっっ!!!」
「うわあああああああっっ!!!」
モンスターの叫び声、そしてカマイの悲鳴が轟いた。慌てて私は上体を起こす。銀色の巨大な虎がカマイに猛攻を仕掛けているのが見えた。
Cランクモンスター【シルバータイガー】だ。奇襲を仕掛けてきたのだろう。データリセットを喰らった直後のプレイヤーが戦っていいモンスターではない。
「やめろおおおっ!! やめろおおおおおおおっ!!!!!」
カマイは叫びながらなんとか盾で攻撃を捌こうとしていたが、シルバータイガーの攻撃の威力が高すぎて捌ききれていない。
カマイの頭上に表示されているHPのバーがぐんぐん減少し、あっという間にレッドゾーンに突入した。あと少しでHPが尽きる合図だ。
「やめてっっ!!!!!」
私が立ち上がり、絶叫したその瞬間。シルバータイガーの鋭利な爪がカマイの胴を切り裂いた。カマイの頭上のHPのバーが瞬時に消え失せる。
カマイは全てを悟ったのか、私たちに憎悪の視線を向け、「お前たちのせいだ!!」と叫んだ。
「お前たちがすぐにパーティーを組んでくれなかったから! ふざけるな! ふざ」
ぱしゅん、という淡い音とともに、カマイは消滅した。
……嫌だ。
そんな、嘘だ。
こんなのひどい。ひどすぎる。
私は、カマイがMSOの世界で死に、さらに現実世界においても死んだことを悟った。散り際のカマイの表情がその事実を雄弁に物語っていた。
驚愕、混乱、悲しみ。様々な感情がまるで洪水のように押し寄せてくる。
リストに激しく肩を揺さぶられ、「アラーテ、しっかりして!」と叫ばれてなければ私の精神はすぐに崩壊していたかもしれない。
「リスト……」
「気を確かに持つんだ! 僕がタンクになって攻撃を受け止める! その隙にアラーテはシルバータイガーを倒してくれ!」
「そんな、経験値がリセットされた直後にシルバータイガーを倒すなんて……」
無理、と言いかけたその瞬間。ぱちん、と乾いた音が響いた。痛みを感じるとともに、リストに頬を平手打ちされたのだと気付く。
「ふざけるな! ここでおとなしく殺されるつもりか! 僕は死にたくない! 大切なアラーテにも死んでほしくない! 今のステータスじゃシルバータイガーからは逃げられない! さっきアイテムボックスを見たけどワープアイテムは無かった! そして僕1人じゃシルバータイガーは倒せない! 一緒に戦って倒すしかないんだよっ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お気に入りの追加やいいねで応援していただけると泣いて喜びます!
執筆のモチベーションに繋がりますので、どうかよろしくお願いします!
0
あなたにおすすめの小説
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる