姫君の憂鬱―悪の姫君と3人の王子共―

Chiyuki.

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#1 姫君の憂鬱

Ep.4 悔しくないの?

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次の日、叩かれた頬はしっかりと腫れていた。
小さな顔の半分を覆う湿布に、ジャガイモ共は私を取り囲んで心配している。

なのでアンニュイな顔で節目がちに微笑んで誤魔化しておいた。

ちなみにぶつけた肩もしっかり大アザになっていて、今日も腕がちゃんと上がらない。利き手なのに、ふざけるのも大概にしてほしい。


昼休みを迎えて楽しそうな生徒で賑わう廊下を、財布片手に鬱々とした気持ちで過ぎ去っていく。


人気のない特別教室棟の奥にある自販機コーナーにやってくると、自販機の前で立ち止まる。
薄暗い一角で、目が痛くなるくらい強い自販機の光が煌々と私を照らしている。

“お前、あんな一方的にやられて悔しくないの?”

……私の何がわかるってのよ、ムカつく。

血の通わないロボットみたいな能面を思い出して、ギリ、と歯噛みする。
言語化できない苛立ちにトン、と自販機を殴ると、背後から明るい声がした。

「あれぇ、奇遇だね~。」

榛名聖だ。
振り向いた私の顔がえらい事になっているのに、奴は表情ひとつ変えずいつも通りにヘラヘラと笑っている。
その隣で金髪は、わかりやすくギョッとして時間が止まったかの様に固まっている。

(……近江涼介はいないのか。)

昨日の今日だから顔を合わせずに済んでホッとした。
お決まりの笑顔を作りながら、Oが抜けてH2、水素になったら奴らをぼんやりと眺める。

「女の子達にやられたんだって~?大丈夫~?」

榛名聖が自分の右頬を人差し指でトントンと指さして聞いてきた。
“大丈夫か”と聞いた割に心配はしていないらしい。
声も態度も脱力し切っている。むしろ楽しそうですらある。

「フハハ、ちょっとはマシな顔になったな!…………大丈夫かよ。」

こっちは馬鹿にする割に心配してくれているらしい。
後半バツが悪そうに背けた顔を顰めてボソボソ喋るから、何言ってるかイマイチわからなかったけど。

この男、悪ぶってるだけで実はいい奴なんだね。

そう思って落とした時の罵詈雑言を減らしてあげようと思ったのに、次の瞬間にはブスを連呼しだしたからやめた。
バカ金髪はやっぱりバカのままだった。

「大丈夫だよ?でも心配してくれてありがとう。」

肩を竦めて潮らしく笑って見せる。

だって本当に平気だ。昨日よりは痛くないし。
……それに、アンタたちを落とせばやり返せるし。

「やられたらやり返せばいいのによ!」

さも当然という様にハッと息を吐いて金髪がそう言い放つ。
強気な言葉と口調に、私は一瞬固まった。

――おいおい、コイツは何を言っているんだ。
私はちゃんとやり返してる。“女が望む通りに男を誑かす”っていう最強の方法で。

なんて言うわけにもいかず、困った様に苦笑い。

「やっ……やだぁ、広瀬くんったらそんな怖い事言わないで?」

「……そーかよ。」

ヘラヘラとして見える私を見て、金髪は心底“理解不能”と言う顔をして、それ以上何も言わなくなった。

そうだよ、私はちゃんとやり返している。
私は、わたし、は…………。

不自然な沈黙。

どうして私は今、自分に言い聞かせる様なことをしているんだろう?
呼吸が乾いて、足元がほんの少し揺らぐ感覚を覚える。

ぼうっとしている間にいつのまにか私の隣に並んでいた榛名聖が、凍りついた私の顔を覗き込む様にして微笑んでいる。
その目には、目の奥に妖しい光がチラついて心を見透かされた気持ちになった。

「そうだよねぇ。“仕返し”って言うか、“正当化”してあげてるみたい。」

嫌な感じにざわついていた胸が、ピシと張り詰めた様な感覚。

……何が言いたいの? 

榛名聖の私の反応を伺って楽しんでいるかのような態度に腹が立つ。

全く意味がわからない。
それなのに焦燥に再び胸がざわついて、何かに縋る様にスカートの裾を握りしめた。

「あ?何言ってんだ聖。」

あけすけで怪訝な金髪の声で我に返って、咄嗟に笑顔を作り直す。
その様子に榛名聖は満足そうに笑みを深め、私の観察をやめて自販機と向かい合い缶飲料を選び始めた。

「んー?お姫様は優しいねって話だよ~。」

「はー?意味わかんね。」

会話が途切れた狭い空間に、ガコンと缶飲料の落ちる鈍い音だけが響く。
榛名聖の横顔は、それきり何も言うことはなかった。
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