姫君の憂鬱―悪の姫君と3人の王子共―

Chiyuki.

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#クレイジー注意報!

Ep.9 もやもや

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「で、なんで俺のとこに来るわけ?」

机の影に隠れるようにして傍で縮こまっている私に一瞥もくれず、近江涼介は読書に勤しむ。

「だって植木鉢だよ?!
金髪じゃ身代わりにしかなれないだろうし、榛名聖じゃ心許ないし……」

1番頼れそうな近江涼介と僅かな休憩時間でも行動を共にするのが、最も安全な気がする。

そう思ってわざわざ隣の隣のクラスまで避難してきたのだ。

「……なんで鞄抱えてんの?まだ授業残ってるけど。」

「ああこれ?教科書とか捨てられると困るから、自己防衛よ。」

近江涼介の無な目がスンと遠くなる。

「お前は何と戦ってんの?」

「陰湿ないじめとですけれども。」


教室内から近距離で痛い視線をぶつける女共に、犯人は誰だとばかりに睨みを利かせる。

近江涼介はやっと本を閉じたかと思えばため息を吐いてこちらへと向き直った。


「何が来ようと1人でぶっ飛ばすんじゃなかったっけ?」

「さすがに武器を用いての攻撃は遠慮したいんで。
近江涼介の側にいれば女子からの直接攻撃は避けられるしさー……」

真面目な顔で対策を説明していると、始業を告げるチャイムが鳴る。

「チャイム鳴ったぞ、教室帰れよ。」

冷たい声。あっという間にそっぽ向かれた。
まるで私なんか存在していないかのよう。


なんだよなんだよ、“自分は関係ありません”って?

無意識に目を尖らせて頬を膨らす。
胸にもやっとしたものが残る。嫌な感じだ。


「ごめんね、“近江くん”。もう頼らないから!」

特上のぶりっこスマイルをぶつけて踵を返す。

 
冷血漢なんか頼りにした私が馬鹿だった。

いいよもう、知らないっ!


「――うわ、なんだよお前。般若みたいな顔してっぞ。」

終業のチャイムの後、まだ席に残っている私の側を通りかかったドン引き顏の金髪に言われた。

うるさいよ、っていうか同じクラスだったのかよ、存在感がてめーの身長並みで気づかなかったわよ。
その派手な金髪はなんのための金髪よ。

「………………。」

…なんて元気に言い返したいところだけど、そんな気力もなく一睨みした後深く溜息をついた。

「金髪はいいわね、頭と身長以外に悩みがなさそうで。」

「おいどういうことだコラ。」

キリキリし出した金髪を全く相手にせず頬杖をついてそっぽ向く。

授業中ずっと頭の中は近江涼介だった。


――なによ、あの態度は!
私が危険に曝されてるっていうのに、飄々としちゃってさ。

私、が…

……あれ?私って…

「あ、まーくんおまたせ~。」

腑抜けた声に教室が湧く。
榛名聖の登場だ。女どもの歓声に応えて、のんびりと手を振り応じながら教室の中まで入ってくる。

「聖!帰るか。」

金髪は鞄を肩にかけ直す。

「涼ちゃん待ってるよ~、早く行かないとね。」

私達の目の前まで来るも、私になんか目もくれない。
そのまま私を置いて金髪と2人で去って行こうとする。

絶世の美少女が側にいるのに、だ。

またしても心がモヤッとする。眉根がギュッと近くなった。

…というかいつもなら、「あ~、藤澤ちゃんも元気~?」とか言うじゃんか。

「は…」

「顔が怖いよ、藤澤ちゃん。」

呼びかけた声を遮り1度だけ振り向いて、榛名聖が綺麗に笑う。

「自慢の美少女が台無しだよ~?
……なんでそんな顔になっちゃったのかな?」

私の答えを待たずにまた出口の方へと歩き出す。

なんで、って。知るわけない。

そもそも私の顔が怖いなんて、天地がひっくり返ってもあるわけないじゃない。

「じゃーな、ブ……、行こうぜ聖。」

金髪が慌てて口を噤んで背を向ける。
モヤモヤした胸からギシ、と音が鳴った気がして堪える様に歯を食いしばった。

――それからはいつもの憎まれ口を叩くこともなく、金髪と榛名聖はファンの女子を侍らせて去って行った。


なんなの!?なんなの!?

なんなのあいつら!!

廊下で声をかけてきた男達に笑顔でさよならと手を振るも、心の中は大噴火。
涼やかに歩いているつもりなのに歩調もなんだか荒々しくなってしまった。


私が危険な目に遭ってるのに!

近江涼介は冷たいし!
榛名聖はヘラヘラしてるし!
金髪はバカだし!アホだし!

……ってアレ?
それって割と、いつも通りじゃない?

「なんで怒ってたの?私……。」

急に冷静になって立ち止まる。後ろを歩く人が気づかずぶつかりそうになっていたけど、気にしない。無意識に笑いが溢れた。

そうよ、なんで怒ってたの?奴らが無礼なのはいつものことじゃない。
はー、無駄にエネルギー消費しちゃった。失敗失敗☆

なんだかスッキリして足取りも軽やかになってきた。

『どうしてそんな顔になっちゃったのかな?』

榛名聖の言葉なんてどこかに飛んでいって、モヤモヤの理由を掘り下げて考えもせず家に帰りその日はぐっすり眠った。
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