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#4 初めてのお出かけ
Ep.19 クラゲみたいな奴
しおりを挟む――そして、現在に至る。
なぜショッピングモールかと言われれば、まあ、なんでもあるし無難かなって。
「で?どうすんの?」
頭上から無機質な声が降ってきた。近江涼介だ。
あんまりこだわりなさそうな大きめの無地のTシャツと、黒のテーパードパンツというどシンプルな格好なのに、いやそのせいかいつにも増して大人に見えるから憎らしい。
「うーん……?」
近江涼介の質問に、顎に手を当てて首を捻る。周りを見ればファミリーもカップルも友達グループもキャッキャうふふと楽しそうに歩いているけど……。
「友達ってこういうところで何するの?」
「知らね。」
「…………。」
私と近江涼介の間に、沈黙が流れた。
***
「涼ちゃん、ひーちゃん、こっちこっち~。」
知らない間に少し離れたところへ行っていた榛名聖が、手を振っている。その後ろには、カラフルで騒々しいゲームコーナーが広がっていた。
「見てよ。まーくん、ゲーセン初めてなんだって~。」
榛名聖の側まで行くと、すぐそこのUFOキャッチャーと広瀬真が睨めっこしている。
「なんだコレ…あんなちっさいアームでこんなでかいの捕れんのか?無理じゃね?」
「UFOキャッチャー知らないとかどこの貴族よ。
こういうのはね、小銭吸い取りマシーンなの。ほら見てないで行くよ。」
UFOキャッチャー相手に明らかな好奇の眼差しを向ける広瀬真の首根っこを掴んで引っ張る。
「待て」と抵抗してUFOキャッチャーにしがみつく広瀬真の横で、小銭が機械に落ちる音がした。
――ピコピコと軽快な電子音と、カチャリと短く鳴るボタン操作音。操られたアームは的確にデッカいひよこの体を掴んで、取り出し口まで運んでいく。
まるで手足かの様にアームを自在に操っているのは、なんと近江涼介だ。
その様子を私と広瀬真はあんぐりと口を広げて見ている。
「ん。やる。」
ぼてんと落ちてきたヒヨコを近江涼介は取り出して、広瀬真の腕に抱かせる。広瀬真の瞳がまた輝いた。
「すげーよ涼介!俺にも教えろ!」
近江涼介と広瀬真の2人がUFOキャッチャーと向き合ってしまった。
(何あの異様な盛り上がり…。寒っ。)
ドン引きの私は、そっとその場を離れることにして後退りした。
***
ゲームコーナーを出てすぐの壁に凭れ溜め息を吐く。
数メートル先ではガチャガチャと煩わしいゲーム音や高くポップな音がいくつも重なって聞こえてきて、余計に私を疲れさせた。
「ひーちゃんはやらないの?UFOキャッチャー。」
榛名聖がやってきて、私の隣で壁に背をつく。
「やらないわよ……。金髪があんなに盛り上がってる意味がわからない。」
向こうで未だにワイワイやっている2人を遠い目で見る。
あれが友達の在るべき姿なのか?……とてもじゃないけど理解できそうにない。
金髪はアクリル板に額をつける勢いで前のめりになって、喜んだりショックを受けたり忙しそうだ。
それに付き合う近江涼介は面白そうでもつまらなそうでもない虚無の顔だけど。
操作ボタンのすぐ側には小銭が積んであって、その本気度にまた引いた。
「ところでひーちゃんは、なんでまーくんだけいつまでも“金髪”って呼んでるの~?」
「私をすぐブスって言うバカだから。」
間髪入れない即答に、榛名聖がクスリと笑う。
「まーくんは社会経験0人間だからねぇ。悪い子ではないんだけど、デリカシーないんだよねぇ。
……とっても過保護なんだよ、お家が。」
フォローをしたようで、なってない。
広瀬真を見つめながら、榛名聖はそう言った。
口元は相変わらず貼り付けたように弧を描いているのに、その目には何故か影を落とす。
その冷たさにドキリとして思わず釘付けになる。
私の視線に気づいた途端、榛名聖の目に落ちていた影がふっと消えて、まるで何事もなかったかのようにいつもの脱力した笑顔に戻った。
「そうだ~。なんか取ってあげよっか?俺も結構得意なんだよねぇ。」
(……あれ?いつも通り?)
さっきの冷笑は気のせいだったのだろうか。
肩透かしを食らったような気持ちになりつつ、普通の態度を取り繕う。
「いや、いい。欲しいのないし。面白さもわからないし。」
「えー?こういうところで友達同士バカになって遊ぶのが楽しいんでしょ~?」
あ、やっぱり気のせいか。
気の抜けた口調と芯のない腑抜けた態度に、ほんの少しだけホッとする。
……それにしても、そうやって言うってことは、さてはコイツは友達経験者か。
「……理解できない。榛名聖は簡単にバカになれそうね、羨まし。」
なんか容易に想像できるわ。チャラチャラした友達侍らせて、ヘラヘラ遊んでそうだもん。この人。
「ん~。まぁ、そういうこともあったかな?
バカやるのってその場は楽しいんだけど、疲れちゃうんだよねぇ。結構すぐ飽きちゃうし。」
――あれ?やっぱりちょっと変?
ゲームセンターのカラフルで強い閃光が作る陰影のせいだろうか。
いつもふわふわヘラヘラして、深い海を揺蕩うクラゲみたいな、掴み所のない奴。
ずっと笑顔なのに、榛名聖の感情が幾重にも重なって見えた。
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