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53話 マグロの解体 2
しおりを挟む【マグロ視点】
「ちょっ、本当に勘弁してください、父上! 嫌なのです!」
「何をいまさら子供みたいなことを言っているのだ! フォルクス家として、レミーラ嬢にストーカー紛いのことをしただけでなく、王族の方々にも大恥になるような真似を連続でしおってからに!」
「謝ります、謝りますから……お願いいたします!」
私は父上に抱き着くように懇願していた。いや、実際には抱き着いて彼の動きを制止していたのだが……。そうしないと、父上も母上も私の前から去って行きそうだったからだ。
「やめてください! お願いします……! 私から公爵の座を取らないでください!」
「マグロ、貴様は……本当に海に帰した方が良いのかもしれないな……」
「あなた、流石にそれは言い過ぎだわ」
「お前……」
ああ、母上が少しフォローしてくれている……! これは少し光明が見えて来たか……!?
「海に帰すのは危険極まりないわ。マグロの毒素で周囲の環境汚染になりかねないのだし」
「確かにそうだったな……私としたことが。イオン国王陛下に謝罪しなければならないところだった」
「まったく……気を付けてくださいね、あなた」
「うむ、今度からは気を付けるとしよう。愚息のあまりの不出来さについ……な。私の教育が間違っていたのだから、私の責任でもあるのだが……」
……傍から聞いていると、ギャグのような会話が繰り広げられている。私を海に帰すかどうかの会話……いや、あり得ない会話なのだが、環境汚染になるとまで言われてしまった。
その前に海に帰されたら死ぬんですが……。そんな会話を平気でしている両親に、私は本当に恐怖を感じてしまう。これは……本当にヤバいやつなのでは?
「マグロ、お前は公爵の肩書きを剥奪後、行ってももらうところがある」
「行ってもらうところ……どこでしょうか、それは……?」
「我が国の新たなる政策の1つだ。それに参加してもらおう」
新たな国家政策の1つ……? フォルクス家が管理している土地での作業になるのだろうか? それなら……なんとかなるかもしれない。
「ど、どういうものでしょうか……?」
「遠洋漁業だ」
「遠洋漁業……?」
名前くらいは聞いたことがあるが……つまりは船で遠出をし、遠海の魚を大量に獲って戻ってくるあれだろう。他国ではともかく、この国ではまだそこまで盛んではないはず。
「遠洋漁業に参加し戻ってこられたら、少しは認めてやる。その時のお前の成長次第では……公爵へ戻ることも不可能ではないかもしれん。まあ、イオン国王陛下等の許可がいるがな」
「ほ、本当ですか? 父上……!」
それはまたとないチャンスだ! 公爵に戻れるチャンスがあるのなら……頑張るしかない。ふふふ、私はフォルクス家の御曹司である事実は変わらないのだから、周囲の者が重労働をさせることはないだろう。
「ただし、遠洋漁業の期間は2年間だ。それまでは原則、陸地に戻ってくることはない。この意味が理解出来るか?」
「……えっ?」
2年間……? 2年間も海の上に居るのか……えっ?
「海の上は王国の法律や階級、地位が通用しない場所だとも聞いている。ほとんど全てが屈強な戦士のような連中だ。まあ、色々と気を付けるようにな」
「……」
何を気を付けるんだろうか……いや、そんなはずは……。
「お前のように育ちの良い坊ちゃんは、格好の的にされるかもしれんな。まあ、その地獄を生き抜けばお前も少しは成長出来るだろう」
「ち、父上……!!」
私の叫びは父上、母上に届かなかった。いや、そんなバカな……そんな環境に私を、実の息子を放り込むわけがない。そのように無理矢理考えていたのだが……。
私はその1週間後、無慈悲にも遠洋漁業に飛ばされたのだ……。ああ、神よ……実在するのなら、私に加護をお与えください……!
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