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恋は義務であり無関心は罪である
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「あの娘ムカツクわ!私を前にして愛を冒涜するなんて!」
天空にそびえたつ神々の住居の一室で怒りの混じった声が響き渡る。
声の主は愛と美の神アプロディテ。その美貌は万物が賞賛するほどである。そんな彼女には、端正な顔立ちが特徴的な息子がいた。名前はエロス。見た目は若く美しい少年のようだが、母アプロディテ同様、人よりはるかに長く生きている。
「うるさいよ母さん。人の部屋でそんな大声出さないでよ。あと部屋に入る時はちゃんとノックしてね。」
部屋の隅のベッドで本を読んでいるエロスは、いつものことであるかのように単調に言った。
「冷たいのねエロス。でもねエロス、愛と美を司る神である母さんにとっては存在を否定されたような気分なのよ?あなたも同じ愛の神ならわかるでしょう?」
息子に対して甘えるように言うアプロディテだったが、エロスは本から目を離すこともなく静かに無視した。
「母さんね、エロスにお願いがあってここに来たのよ。」
悪い予感がしたのかエロスの表情がこわばる。
エロスはあからさまに嫌そうな顔をしながらも読んでいた本を閉じ、ベッドから起き上がり、アプロディテの話を聞く体制をとった。
「母さんのお願いはいつもむちゃくちゃだからな。控えめなお願いで頼むよ。その娘を殺してほしいなんてことは言わないでよ。」
「あの娘を殺してほしいの。」
「言っちゃったよ。」
ストレートな依頼にあきれるエロスだったが、前から破天荒なところがある母親だったのでそこまでの驚きはなかった。かくいうエロスも他人にとんでもない災いをもたらしたことがあったので、その依頼に特に意見しようとは思わなかった。
「そもそもその殺したい娘の名前も聞いてないよ。どこの誰だい?どっかの神の身内だなんて言わないでよ。」
「名前はコレー、私の妹よ。」
「言っちゃったよ。」
これはエロスにとっても予想外の返答で少し驚いていた。殺してほしい相手が母親の妹だとは。しかも妹ということはアプロディテやエロス同様、神であり、エロスの叔母にあたる存在だ。
「私だってこれまで我慢してきたのよ!アテナやアルテミス、いろんな女にバカにされてきたわ!でも今回は我慢できないわ!」
またも大声で言うアプロディテだったが、嫌なことを思い出したのか今度はさっきよりも感情をこめて言っているようだった。
「アテナさんとは人類巻き込んで戦争までしたじゃん。我慢できてないじゃん。」
嫌な思い出をほじくり返すように言うエロス。
「まあ私も義理とはいえ妹を殺そうなんて本気で思ってないわ。ただ罰を与えるだけよ。愛を疎んじる者に罰を与えるのも私の仕事だからね。そこでエロス、あなたの矢を使ってあの娘に愛の苦しさを味あわせたいだけよ。」
「(我慢できてないことに対する言及は無視か・・)それは僕の金の矢でその娘を射って、愛をわからせたいってこと?」
「違うわ。それじゃ罰にならないじゃない。一度愛を冒涜したあの子に愛を知る資格はないわ。それにあの子はかわいいわ。もし金の矢を射って愛に溺れれば、あの子のために尽くす男なんてすぐに見つかって、幸せになってしまうわ。だから私があなたに使ってほしいのは、金の矢とは正反対の効力を持つ鉛の矢よ。」
エロスには金でできた矢と、鉛でできた矢があった。金の矢で射たれた者は愛に溺れ、鉛の矢で射たれた者は愛を一切拒むようになる。
「ふむ。鉛の矢で愛を心の底から毛嫌いさせたいわけだね。」
「そう!愛を知れないということが自分にどれだけの損失をもたらすのかあの子は知らず知らずのうちに味わうのよ!」
力強く言い放ったが、エロスはどうも腑に落ちていない。
「本人が実感できないことじゃお仕置きとしてはあんま意味ない気もするけどな。」
「何言ってるのよ。あなたの鉛の矢のせいで、男からのアプローチに耐えられなくなって自分の体を植物に変えちゃった女の子がいたじゃない。」
「あーそういえばあったなそんなこと。あれは予想外だった。でももう男女双方に金と鉛別々の矢を使うのは僕は嫌だよ。後味が悪い結末になることは目に見えてる。」
エロスはかつて自身の矢の能力を笑った男女の神に金と鉛の矢をそれぞれに射ったことがある。男には金の矢を、女には鉛の矢を使った。男は女に求愛し続け、女はそれを拒み続けた。男が諦めずに、女を追うが、女はそれに耐えきれず自身の身を自ら木へと変化させた。それほど矢の効力が強かったためそれ以来エロスは、矢を二つ同時に別々の者に使うことはなかった。
「もちろん使う矢は鉛の矢一本でいいわ。で、やってくれるわよね。」
アプロディテは特にエロスの昔話を蒸し返す気はないようで、すぐに本題に切り返した。
「んーやっぱり怖いな。母さんの義理の妹ってことは全能神ゼウスの実の娘なわけでしょ?さすがにまずいよ。」
アプロディテは全知全能の神であるゼウスの養子であったが、義理の妹コレーは、ゼウスと豊穣の神デメテルの実の娘であった。
「まあ確かにそうね。直接コレーに手を出すのは確かにばれる危険性も高いわ。それにばれたとき問題なのは父よりも母ね。」
「?」
「母デメテルは私に劣らず怒りだしたら手が付けられないとんでもないヒステリー女なのよ。」
「(自覚あったんだ・・)コレーさん?だっけ?その人は一応僕の叔母にあたるわけだろ?全能神も僕の祖父になる。身内でのでかい争いはできるだけしたくないな。そういうことは父さんに頼んでだら?」
あまり乗り気ではないエロスは、とりあえずダメ元で身近な存在として父を推薦した。
「アレスに?あの人に頼んだらそれこそ神全体を巻き込んでの戦争になるわ。あの人は戦争バカなのよ。戦いでしか、物事を進められないの。私のこの繊細な問題はあの人には絶対に解決できないわ。」
父に頼むつもりは毛頭なかったのか、淡泊かつ流暢に答えた。
その反応に、もう他を推薦しても反対される気がしたので、エロスは自分が手伝うしかないとあきらめた。
「はあ・・しょうがないな・・。ねえ、コレーさんは愛や恋みたいなのは全く興味ないんだよね?」
「え?まあ今のところはそうね。私には他人の愛や恋の気持ちがわかるから、あの子が今恋に興味がないのは間違いないわ。」
アプロディテにその質問の意図はわからなかったが、エロスが協力的な態度になりつつあるのを感じて、質問にははっきりと答えた。
「わかった。じゃあまずコレーさんに鉛の矢を打つ必要はない。他のどっかの男に金の矢を射ってコレーさんを好きになってもらおう。そうすれば求愛してくる男にコレーさんは困り果てるはずだよ。これでどう?それなりのお仕置きにはなるんじゃない?」
罪を与える作戦内容の流れを堂々と、そしてざっくり説明するエロスだったが、アプロディテはどこか納得のいかない表情を見せていた。
「なーんかちょっと甘い気がするわねー。恋は突然やってくるものなのよ?その求愛してくる男を好きなったら失敗よ?それに求愛してくる男が気にくわなかったら、コレーは余裕でそいつをぶっ殺すわ。」
とりあえずエロスの説明を受けてすぐ頭に浮かんだ作戦の欠点に触れるアプロディテだったが、エロスは考える間もなくすぐに答えた。
「相手の男がコレーさんより高位の神で、なおかつコレーさんの嫌いなタイプなら問題ないよ。相手が自分より高位の神なら殺せないし、コレーさんの嫌いなタイプならそいつを好きになる可能性は低い。そいで立場上コレーさんも断れなくて悩み苦しむ。まあコレーさんの嫌いなタイプは愛の神である母さんならわかるでしょ?」
つまり、コレーよりも高位の男の神(場合によっては女も可)を探し出し、さらにそこからコレーが生理的に受け付けないようなタイプの神をアプロディテの力で割り出す。その二つの条件がそろった男の神を見つけたら、その男をエロスの金の矢で射ぬき、愛に溺れる男を作る。というのがエロスの案であった。しかし問題はいくつかある。それはエロスも十分わかっていた。
「なるほどね・・。でもまだ欠点だらけじゃないそれ?まあコレーの嫌いなタイプくらいはわかるわ。でも問題はその後よ。あなたの矢って、」
「わかってるよ。矢を射った後も大きな問題の一つだね。」
遮るように言うエロス。
エロスの矢の効力には条件がある。矢で射ぬかれた者が誰かれ構わず好きになったり、嫌いになったりするわけではない。射ぬかれた者が最初に見たものが対象となる。つまり先の条件にあてはまる男を金の矢で射ても、その男の目の前にコレーがいなければ意味がないのだ。よって、男の目の前にどうやってコレーを持っていくのかが大きな問題の一つであった。
「でも僕としてはそれよりも、条件に合う男を見つけ出すことの方が問題だと思う。母さんの力で、コレーさんの嫌いなタイプを割り出すのはいいとしても、ゼウスの子であるコレーさんより高位の神というのはかなりハードルが高いんだよね。」
エロスの言っていることは至極当然であった。最高位の神に属するゼウスの実の子であるコレーよりも、高位の神となれば、それだけでかなり絞られる。その中からコレーの嫌いなタイプを探すのはいささか無茶であった。かのように思われたが、
「いや、ぴったりのがいるわ。」
「早?!」
アプロディテの自信満々の口ぶりに素直に驚くエロス。
「コレーはいつも妖精たちときれいな花があるところで遊んでるわ。」
「ふむふむ。」
「つまり暗くて清潔感の感じられない場所が嫌いなのよ。」
「・・ふむ。」
「てことはそんな環境で暮らしてる奴も嫌いに違いないわ!」
「・・む?」
「よし、じゃあさっそくいくわよ。」
「?!。待って。いろいろわからなかった。何?母さん恋愛の神とか言いながら他人の嫌いなタイプとかもっと具体的にわからないの?憶測で動こうとしたよね?」
何もかもが曖昧過ぎた母の言葉に戸惑うエロス。
アプロディテが言っていたのはコレーの周囲の環境の好き嫌いであって、人物の容姿や性格の好き嫌いについては全く触れていなかった。
「エロス、女にはね、生まれたときから女の勘って神器が備わってて、」
「勘て言っちゃってるよ。てか結局どの神のこと言ってるのかわからないんだけど、誰のこと?今の母さんの話だとそんな劣悪な環境にコレーさんより高位の神がいるなんてとても思えないんだけど・・」
アプロディテのこれまでの曖昧で極端な回答ぶりから、まっとうな返事が返ってくるとは思えなかったエロス。期待せず質問を投げかけたが、アプロディテの回答はいろんな意味で予想を超えていた。
「いるわよ。冥界神ハデスが。」
天空にそびえたつ神々の住居の一室で怒りの混じった声が響き渡る。
声の主は愛と美の神アプロディテ。その美貌は万物が賞賛するほどである。そんな彼女には、端正な顔立ちが特徴的な息子がいた。名前はエロス。見た目は若く美しい少年のようだが、母アプロディテ同様、人よりはるかに長く生きている。
「うるさいよ母さん。人の部屋でそんな大声出さないでよ。あと部屋に入る時はちゃんとノックしてね。」
部屋の隅のベッドで本を読んでいるエロスは、いつものことであるかのように単調に言った。
「冷たいのねエロス。でもねエロス、愛と美を司る神である母さんにとっては存在を否定されたような気分なのよ?あなたも同じ愛の神ならわかるでしょう?」
息子に対して甘えるように言うアプロディテだったが、エロスは本から目を離すこともなく静かに無視した。
「母さんね、エロスにお願いがあってここに来たのよ。」
悪い予感がしたのかエロスの表情がこわばる。
エロスはあからさまに嫌そうな顔をしながらも読んでいた本を閉じ、ベッドから起き上がり、アプロディテの話を聞く体制をとった。
「母さんのお願いはいつもむちゃくちゃだからな。控えめなお願いで頼むよ。その娘を殺してほしいなんてことは言わないでよ。」
「あの娘を殺してほしいの。」
「言っちゃったよ。」
ストレートな依頼にあきれるエロスだったが、前から破天荒なところがある母親だったのでそこまでの驚きはなかった。かくいうエロスも他人にとんでもない災いをもたらしたことがあったので、その依頼に特に意見しようとは思わなかった。
「そもそもその殺したい娘の名前も聞いてないよ。どこの誰だい?どっかの神の身内だなんて言わないでよ。」
「名前はコレー、私の妹よ。」
「言っちゃったよ。」
これはエロスにとっても予想外の返答で少し驚いていた。殺してほしい相手が母親の妹だとは。しかも妹ということはアプロディテやエロス同様、神であり、エロスの叔母にあたる存在だ。
「私だってこれまで我慢してきたのよ!アテナやアルテミス、いろんな女にバカにされてきたわ!でも今回は我慢できないわ!」
またも大声で言うアプロディテだったが、嫌なことを思い出したのか今度はさっきよりも感情をこめて言っているようだった。
「アテナさんとは人類巻き込んで戦争までしたじゃん。我慢できてないじゃん。」
嫌な思い出をほじくり返すように言うエロス。
「まあ私も義理とはいえ妹を殺そうなんて本気で思ってないわ。ただ罰を与えるだけよ。愛を疎んじる者に罰を与えるのも私の仕事だからね。そこでエロス、あなたの矢を使ってあの娘に愛の苦しさを味あわせたいだけよ。」
「(我慢できてないことに対する言及は無視か・・)それは僕の金の矢でその娘を射って、愛をわからせたいってこと?」
「違うわ。それじゃ罰にならないじゃない。一度愛を冒涜したあの子に愛を知る資格はないわ。それにあの子はかわいいわ。もし金の矢を射って愛に溺れれば、あの子のために尽くす男なんてすぐに見つかって、幸せになってしまうわ。だから私があなたに使ってほしいのは、金の矢とは正反対の効力を持つ鉛の矢よ。」
エロスには金でできた矢と、鉛でできた矢があった。金の矢で射たれた者は愛に溺れ、鉛の矢で射たれた者は愛を一切拒むようになる。
「ふむ。鉛の矢で愛を心の底から毛嫌いさせたいわけだね。」
「そう!愛を知れないということが自分にどれだけの損失をもたらすのかあの子は知らず知らずのうちに味わうのよ!」
力強く言い放ったが、エロスはどうも腑に落ちていない。
「本人が実感できないことじゃお仕置きとしてはあんま意味ない気もするけどな。」
「何言ってるのよ。あなたの鉛の矢のせいで、男からのアプローチに耐えられなくなって自分の体を植物に変えちゃった女の子がいたじゃない。」
「あーそういえばあったなそんなこと。あれは予想外だった。でももう男女双方に金と鉛別々の矢を使うのは僕は嫌だよ。後味が悪い結末になることは目に見えてる。」
エロスはかつて自身の矢の能力を笑った男女の神に金と鉛の矢をそれぞれに射ったことがある。男には金の矢を、女には鉛の矢を使った。男は女に求愛し続け、女はそれを拒み続けた。男が諦めずに、女を追うが、女はそれに耐えきれず自身の身を自ら木へと変化させた。それほど矢の効力が強かったためそれ以来エロスは、矢を二つ同時に別々の者に使うことはなかった。
「もちろん使う矢は鉛の矢一本でいいわ。で、やってくれるわよね。」
アプロディテは特にエロスの昔話を蒸し返す気はないようで、すぐに本題に切り返した。
「んーやっぱり怖いな。母さんの義理の妹ってことは全能神ゼウスの実の娘なわけでしょ?さすがにまずいよ。」
アプロディテは全知全能の神であるゼウスの養子であったが、義理の妹コレーは、ゼウスと豊穣の神デメテルの実の娘であった。
「まあ確かにそうね。直接コレーに手を出すのは確かにばれる危険性も高いわ。それにばれたとき問題なのは父よりも母ね。」
「?」
「母デメテルは私に劣らず怒りだしたら手が付けられないとんでもないヒステリー女なのよ。」
「(自覚あったんだ・・)コレーさん?だっけ?その人は一応僕の叔母にあたるわけだろ?全能神も僕の祖父になる。身内でのでかい争いはできるだけしたくないな。そういうことは父さんに頼んでだら?」
あまり乗り気ではないエロスは、とりあえずダメ元で身近な存在として父を推薦した。
「アレスに?あの人に頼んだらそれこそ神全体を巻き込んでの戦争になるわ。あの人は戦争バカなのよ。戦いでしか、物事を進められないの。私のこの繊細な問題はあの人には絶対に解決できないわ。」
父に頼むつもりは毛頭なかったのか、淡泊かつ流暢に答えた。
その反応に、もう他を推薦しても反対される気がしたので、エロスは自分が手伝うしかないとあきらめた。
「はあ・・しょうがないな・・。ねえ、コレーさんは愛や恋みたいなのは全く興味ないんだよね?」
「え?まあ今のところはそうね。私には他人の愛や恋の気持ちがわかるから、あの子が今恋に興味がないのは間違いないわ。」
アプロディテにその質問の意図はわからなかったが、エロスが協力的な態度になりつつあるのを感じて、質問にははっきりと答えた。
「わかった。じゃあまずコレーさんに鉛の矢を打つ必要はない。他のどっかの男に金の矢を射ってコレーさんを好きになってもらおう。そうすれば求愛してくる男にコレーさんは困り果てるはずだよ。これでどう?それなりのお仕置きにはなるんじゃない?」
罪を与える作戦内容の流れを堂々と、そしてざっくり説明するエロスだったが、アプロディテはどこか納得のいかない表情を見せていた。
「なーんかちょっと甘い気がするわねー。恋は突然やってくるものなのよ?その求愛してくる男を好きなったら失敗よ?それに求愛してくる男が気にくわなかったら、コレーは余裕でそいつをぶっ殺すわ。」
とりあえずエロスの説明を受けてすぐ頭に浮かんだ作戦の欠点に触れるアプロディテだったが、エロスは考える間もなくすぐに答えた。
「相手の男がコレーさんより高位の神で、なおかつコレーさんの嫌いなタイプなら問題ないよ。相手が自分より高位の神なら殺せないし、コレーさんの嫌いなタイプならそいつを好きになる可能性は低い。そいで立場上コレーさんも断れなくて悩み苦しむ。まあコレーさんの嫌いなタイプは愛の神である母さんならわかるでしょ?」
つまり、コレーよりも高位の男の神(場合によっては女も可)を探し出し、さらにそこからコレーが生理的に受け付けないようなタイプの神をアプロディテの力で割り出す。その二つの条件がそろった男の神を見つけたら、その男をエロスの金の矢で射ぬき、愛に溺れる男を作る。というのがエロスの案であった。しかし問題はいくつかある。それはエロスも十分わかっていた。
「なるほどね・・。でもまだ欠点だらけじゃないそれ?まあコレーの嫌いなタイプくらいはわかるわ。でも問題はその後よ。あなたの矢って、」
「わかってるよ。矢を射った後も大きな問題の一つだね。」
遮るように言うエロス。
エロスの矢の効力には条件がある。矢で射ぬかれた者が誰かれ構わず好きになったり、嫌いになったりするわけではない。射ぬかれた者が最初に見たものが対象となる。つまり先の条件にあてはまる男を金の矢で射ても、その男の目の前にコレーがいなければ意味がないのだ。よって、男の目の前にどうやってコレーを持っていくのかが大きな問題の一つであった。
「でも僕としてはそれよりも、条件に合う男を見つけ出すことの方が問題だと思う。母さんの力で、コレーさんの嫌いなタイプを割り出すのはいいとしても、ゼウスの子であるコレーさんより高位の神というのはかなりハードルが高いんだよね。」
エロスの言っていることは至極当然であった。最高位の神に属するゼウスの実の子であるコレーよりも、高位の神となれば、それだけでかなり絞られる。その中からコレーの嫌いなタイプを探すのはいささか無茶であった。かのように思われたが、
「いや、ぴったりのがいるわ。」
「早?!」
アプロディテの自信満々の口ぶりに素直に驚くエロス。
「コレーはいつも妖精たちときれいな花があるところで遊んでるわ。」
「ふむふむ。」
「つまり暗くて清潔感の感じられない場所が嫌いなのよ。」
「・・ふむ。」
「てことはそんな環境で暮らしてる奴も嫌いに違いないわ!」
「・・む?」
「よし、じゃあさっそくいくわよ。」
「?!。待って。いろいろわからなかった。何?母さん恋愛の神とか言いながら他人の嫌いなタイプとかもっと具体的にわからないの?憶測で動こうとしたよね?」
何もかもが曖昧過ぎた母の言葉に戸惑うエロス。
アプロディテが言っていたのはコレーの周囲の環境の好き嫌いであって、人物の容姿や性格の好き嫌いについては全く触れていなかった。
「エロス、女にはね、生まれたときから女の勘って神器が備わってて、」
「勘て言っちゃってるよ。てか結局どの神のこと言ってるのかわからないんだけど、誰のこと?今の母さんの話だとそんな劣悪な環境にコレーさんより高位の神がいるなんてとても思えないんだけど・・」
アプロディテのこれまでの曖昧で極端な回答ぶりから、まっとうな返事が返ってくるとは思えなかったエロス。期待せず質問を投げかけたが、アプロディテの回答はいろんな意味で予想を超えていた。
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