死ぬ予定の魔王をスキル誉め殺しで最強に育ててみた

的場カフカ

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ギルド

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「はぁ…はぁ…やっっっと、着いた……」

 ニルは無様に膝に手をつき息を荒げながら地面に向かって今までの道のりの鬱憤を絶え間なく吐き出した。



 時間は五日前に遡る。

「冒険者ギルドに行きたいんだけど、一番近いところってどこにあるか知ってる?」

 シオンは首を振ってニルの役に立てない自分の存在価値について瞬時に疑った。
 何を考えているのか顔を見ればよくわかるシオンにニルはいつものことだと呆れると頭をガシガシと撫でる。
「うわっ」と声を上げて綺麗な金髪があっちこっちに散らばる。頬を赤らめ満更でもない様子のシオンはその心地を十分に堪能していた。

「…僕は知らないけど、地図ならきっと街役場の壁に貼られてるはずだよ。」

 半年も一人でこの世界を放浪していたシオンはニルが知らない情報をたくさん持っていた。読者の視点で見ているとわからなかったが、いざそこの住人になってみて初めて知る最アルの情報に元ファンであるニルは密かに感動した。

 シオンの情報通り街役場まで来ると確かに壁に大きな地図が貼られていた。
 多くの村や街、都市の名が書き込まれていて現在地の街には赤い丸が印付けられている。
 この国の言葉は元の世界のものと全く異なる。針金をグネグネと曲げたような文字は普通だったら読めないはず、しかしシオンは勇者のギフトで言語読解を得ており、ニルはこの世界の住人となっているので二人は全く困ることなく容易にそれらを読解することができた。
 ニルは視線で星マーク(ギルド)を探し、赤丸から徐々に遠ざかっていくことにまさか…と思いながらカチカチと歯を鳴らした。

「……ねぇ、ニル」

「言うんじゃねえ」

 いつまでも言葉を発しないニルに心配になったシオンはついに声をかけた。しかし返ってきたのは単調な言葉の裏に大鬱を隠したそっけない言葉だったことにシオンはどう励ましたらいいかもう既に考え始めていた。

 まいった。
 鬱だ、鬱。これは……

 と、お、すぎる!!!
 まさか隣の隣の街の一番近いギルドが山二つ超えていかなければならないなて。聞いてない。

「……これ、一体どのくらいかかるんだ。」

「……えーと四日ぐらい、かな」

「四日?!遠すぎだろ!」

 ニルは腕を組んで足をトントンと地面に叩き始めた。それをオロオロとした様子で見ているシオンはどうにか落ち着かせる方法はないか考えていたが、どうやら解決策が見当たらないようで口を開けては閉じるを繰り返している。

 このクソッタレ世界め、はじめの村からギルドを遠ざけやがって。大方、冒険者登録をしていない賊を量産するためだな、そのせいでシオンはいじめられっ子に転落していったんだ。
 ニルははぁぁと大きなため息をついた。
 最アルの世界はどうしてもシオンを陥れるためにシナリオが作られている、それはわかっていたがいざこいつを育てる立場になると原作の悪意に腹が立つ。
 こんな赤子同然のやつを地獄に落とすなんて、血も涙もないのか。
 いや、それは俺が最アルの世界の住人になったから言えるようになったからであって、ただの読者の立場なら悪役が育った環境なんて話を盛り上げるための味でしかない。 

 ふとニルがギュッと無意識に握った拳にシオンは優しく触れた。
 パッとシオンの方を向けば、何もわからないけどとても寂しそうな顔をしていた。胸を締め付けられるその顔は今にも泣き出しそうに見えて思わずシオンの頬に触れた。

「……行こう。ははっ、お前と二人なら大丈夫さ。」

「うん。」



 そう言ったのが五日前のこと、そして今、大丈夫と軽々しく言った自分を憎み想像以上の疲労により足が悲鳴を上げていたのだ。

「くそったれ」

「馬車のおじさん、あんまり乗せてくれなかったからね。大丈夫?ニル。」

 一応勇者の能力でピンピンしているシオン、疲れの色は少しだけ見えるがニルと比べれば些細な変化だ。
 シオンは膝を曲げてニルを覗き込んだ。うるりとした黒い瞳が主人を心配する犬のようで思わずきゅんと心が高鳴った。

「少し休んでギルドに向かおう。腹減った。」

「うん。」と嬉しそうに呟くとシオンはよろよろと立ち上がるニルの肩を支えて二人で歩き始めた。
 随分と人通りの多くなった街、側から見れば今の二人は兄弟というよりも足の悪いお爺ちゃんを支えて歩く年若い息子のように見えるだろう。ニルは密かに葛藤を覚えた。



 昼過ぎ、人がまばらになり始めた食堂でニルとシオンはスタミナ定食を人目を気にすることもなくバクバクと口に放り込んでいた。
 店にいた客達は食いっぷりのいい若者二人の姿を見て驚いた顔をしている。
 カチャカチャとスプーンとフォークの鳴る音、ごくごくと水が喉を通る音、忙しないその様子にゆっくり食べなさいと言う者も現れなかった。
 まるでテレビでよく見た早食い大会の決勝だと誰かは思うはずだ。

 最後に水を飲み干すとずっと止めていた息を吐くように大きく声を上げるとポンと腹を叩いて大会は終了した。
 どうやら決着は次回に持ち越しだ。

「もう食えねーー」

「お腹いっぱいだよ。」

 この世界で初めて感じた満腹感は酷く幸せな心地でしばしの間浸っていた。
 しばらくすると復活した二人は役場でもらった地図を机の上に広げていた。


「ギルドはここだ、すぐそこだな。とりあえず冒険者登録だけ済まして今日は宿を探そう。」

「うん。そうだね」

 疲れ切った体に鞭打つほど時間がないわけでもないし、とりあえず今日は登録だけ済ましてとっととあったかい布団で寝たい気持ちだった。それはシオンの方も同じだったようで参ったと言う表情でニルの言葉に数回頷いていた。

 少しして重い腰を起こすと食堂を出た。ギルドは本当にここからすぐ近くにあり二十歩ほど歩くと看板が出てきた。シオンもニルもはじめて来た街なので手探り状態に追われると思ったが、近くにいい感じの宿も見つけどうやら迷わずに今日が終われそうだとほっとした。

 辿り着いた煉瓦造りのギルドはちらほらと人が見えて賑わってるとは言えないが他の店よりも人の出入りが激しかった。
 彼らは冒険者なのだろう。うちの村に居た野蛮な不法冒険者なんかと比べ物にならないくらい身なりも整っていて、それに男だけではない女も少しだが見えた。
 ニルが怖いもの知らずにズンズンと進んで行ってしまうことにシオンは心配になりながらもその後を追う。
 どうしてもこの世界の人間に対し怯えが勝ってしまうのだったが、ニルはそんなシオンを知ってか先導するように先に進む。


 扉を開ければムワッとした匂いに包まれた。オレンジ色の電球がピカピカと冒険者達の甲冑を照らしている。
 ニルとシオンはその光景におぉ!と感嘆の息を漏らした。

 こ、これこそ異世界!すごいすごい!まるで小説の中だ!いや…そうなんだけど、ようやく実感が湧いた。

 シオンに袖をクイっと引っ張られ受付へ向かった。三人ほどの列に並びすぐに順番が回ってくる。

「こんにちは。ガハジュの街ギルドへようこそ。ご用件はなんでしょうか?」

 可愛らしい受付嬢が定型分を読み上げてにこりと笑う。

「ええと、冒険者登録をしたいんですが」

「登録ですねかしこまりました。」

「そうしましたらーー」と、受付嬢は机の下から用紙を取り出すと記入欄を簡単に伝えペンを渡された。
 魔法の世界だと言うのに随分ローテクな仕様なんだとどこかがっかりしながらペンを持った。

 しかしそんなことを思っている間も無く早々にペンが止まった。案の定シオンは顔を青くしながらなんて言ったらいいのか分からなさそうに目線を下げる。

「…出身地か」

 シオンの中ではニルはシオンが勇者だということをまだ知らないでいる。
 勇者はなにかと免除されるため冒険者登録も勝手に城の人間がやってくれてこう言う手間も心配も本来はしなくていいため、勇者がこんなところで冒険者登録をするなどありえないのだ。
 ここで馬鹿正直に私は勇者で無能だったために城を追い出されましたなんて、言えるほど強い精神を持っているわけがないシオンはどうしたら良いのか一人で悶々と考えているのだった。
 下手なことを言ってニルに嫌われたらどうしよう。もし無能なことがバレたらニルに愛想つかれたらどうしよう。シオンにはこれからの旅路を一人で歩いていける気がしないのだ。ニルに嫌われたら崖から身を投じる覚悟だって出来ているほど、シオンにとってこの事実を告げることは死活問題なのだ。
 そんな今にも死にそうなシオンの姿を見てニルは「適当に書いておけばいい」と軽々しくそう言った。
 実際ギルドの登録に厳重な審査があるわけでもない、年々増え続けているモンスターを退治してくれる者が現れるだけで国としてはラッキーなのだ。だから、出自なんて本当に適当でいいのだ。
 シオンの不安も回収しつつ、ついでに自身の出自もよくわからなかったために発した言葉にシオンは過剰に感激していた。

 やっぱり、ニルはすごい!一生ついていこう!

 記入用紙を適当に書きつつホクホクと安心してニルの隣に落ち着いていたシオン。ぎゅっとニルの服を握る姿はまるでご主人様の用事を大人しく待つワンコのようだった。


 ◇


「これが冒険者証か。意外にしっかりしてるんだな。」

 チャリンと音を鳴らした首から下げる形の鉄製の証明証。無地の楕円の形をしたそれはようやく魔法の世界を感じさせてくれるハイスペックなもので、ギルドにあるとある機械にかざすとその人の情報を閲覧できる仕組みになっていた。

 すごいすごいと、ニルはベッドにころんと倒れ込むとそれをじっくりと見つめた。
 先に風呂に入っていたシオンが顔を真っ赤にしながら出てくるとその様子を見てクスリと笑った。
 自分にとっては兄同然の存在が子供のように新しいものに釘付けになっている姿は見応えがあった。シオンはニルの隣に座り同じように倒れ込んだ。
 シオンの頬に艶やかな黒髪があたりくすぐったい。ニルの毛をひとつまみするとくるくると手遊びをしながらニルの手元を見た。

「明日から、行くんだよね?」

「あぁ、とりあえず簡単なモンスターから狩って経験値を貯めなきゃな。」

 シオンは少し黙って口を開いた。

「ニル……僕ね、信じてもらえないかもしれないけど……異世界から来た、勇者。なんだ。」

 ニルは急なシオンの告白に驚き危うく手に持っている鉄の板を顔面に落としてしまいそうになった。
 ニルが口を開く前にシオンが続けて言う。

「でもね…その、あまり強くない職業だったから、城を追い出されちゃったんだ。だから……その、強くなれる可能性はすごく低くて。本当にニルにはたくさん迷惑をかけて、それなのに僕、何も返せなくて……でも、それでも少しでもニルのために何かしたくて。こんな僕だけどニルとずっと一緒にいたい………です。」

 今にも泣きそうなシオン。いつもの自虐節炸裂なのは変わらないが、しっかりと自分の意思を伝えられらようになったのはいい傾向なのだろう。
 ニルは我が子同然のシオンの成長に胸が温かくなった。
 クイっと首を傾け目の前のシオンの整った顔を見据える。今にも鼻と鼻がくっつきそうなその距離にシオンは目を開いて途端に顔を真っ赤にさせた。

「馬鹿。散々言ったろ?俺はお前がいいの。わかった?」

 シオンの真っ赤に熱った頬に触れて熱いと笑うニル。
 今だに呆けているシオンは金魚のようにパクパクと口を閉じたり開いたりしながらニルの言葉の処理に追われていた。
 はたして全知全能のニルにシオンの気持ちはわかっただろうか。いまだに原作のシオンの印象が抜けきれていないニルはきっとシオンの心の変化を正確に読み取ることはできないだろう。
 シオンがその言葉一つ一つに救われていることをニルは知らない。
 だがそれほどまでにニルの言葉には強い力があった。





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