死ぬ予定の魔王をスキル誉め殺しで最強に育ててみた

的場カフカ

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スキル誉め殺し

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「シオン!違うそうじゃないって!……あー、逃げちまった。」

「ごめん。」

 申し訳なさそうにぶらりと剣を下ろしたシオン。ただのスライムも倒せなかった彼は顔を暗くしたがためせっかくのイケメンが台無しだ。
 ひょこひょこと草むらを逃げていったスライム、すぐ側でその様子を見ていたニルは腕を組んでため息をついた。

 この調子じゃ強くなるまでにあと何千年かかるか、原作のシオンは一体どうやってあそこまで強くなれたのか。
 それでも勇者達には遠く及ばなかったわけだが、今のこれを見るとニルが手を加えたことは失敗だったかと頭を抱えた。
 やはり強さの源は極限まで追いやられた末に掴んだ世界への憎しみの力が大きかったかと、進路変更で谷底に突き落としてしまおうかと悩んだ。
 だがしかしそんなことをしてしまえば初めに殺されるのはニルだ。その案は頭の中でバシッとはたき落とした。

 草むらを掻き分けてニルの方へ向かってくるシオン。今度は嬉しそうな顔をして手にはコア(モンスターの心臓である宝石の形をしたもの)を握りしめていた。

「ニル!一匹だけだけど殺せたよ!ほら!」

 手を開いてコアを見せる健気なシオン。スライムを倒すだけなのに開いた手はボロボロで強く剣を握って何度も立ち向かった姿が想像できた。
 汗をかいてびちょびちょの前髪がペタリと額に張り付いていた。にこりと笑うその姿にニルは心打たれ、一度でも谷底に突き落としてやろうかと思ってしまった自分を責めた。
 ニルはシオンの肩をポンと叩いた。

「よくやった。すごいぞシオン。」

 すると聞き覚えのある機械音が頭の中を流れた。

【スキル『誉め殺し』を獲得ーー対象を褒めることにより一定時間の経験値が5倍になるーー条件ーー必ず対象に触れてスキルを使うこと】

 するとシオンの頭上に現れた経験値の数値がきゅるきゅると変動し+5だったものが+25に変化した。

 な、なんだ!これは!!スキル『誉め殺し』?ダサすぎにも程があるだろ!

 ニルは心の中で地団駄を踏み、だがしかしよく考えてみれば結構使えるかも?なスキルにふむとシオンの頭上を凝視した。

「ど、どうしたの?」

 レベル3だったシオンのパラメーターがぐんぐんと伸びて数値が変わる。スライム一匹を倒しただけなのにぴこぴこと二つほどレベルが上がる。
 これは驚いた。
 難しい顔をするニルにこてりと首を傾げたシオン。どんなにアホみたいな表情でもイケメンは絵になってしまうのだから感服だ。

 スキル『誉め殺し』とてつもない能力を得てしまったかもしれない。




「どうしよニル…」

 シオンが困惑気味になるのも頷ける。だってたった一日でこいつはレベル3から20に上がったのだ。スライムなんて片手でひょいと倒せるくらい強くなったシオンは己の変わりように親鳥に縋るようにニルに視線を向けた。
 ニルは正直に自分の得たスキルについて話そうとしたがやめた。もしスキルを発動するためにわざと褒めていたのだと思われたらこいつのことだ、経験値が上がるにしてもしょぼくれるに決まっている。
 ニルは時が来たらこのことについて話すことに決めた。

 それよりも予定よりも早く勇者レベルまで辿り着けそうなので心の中で拍手喝采をした。

 宿の机に地図を広げてふむふむと顎を触っているニルの横からにゅっとシオンが顔を出した。何をしているのか気になったようだが、ニルはただ考えていただけで地図をいじっているわけではないのでシオンには何をしていたのかわかりっこない。
 案の定「なにしてるの?」と聞いてきたシオン。ニルは真面目な顔で「次の探索地を探してる。」と言った。
 今のシオンの腕前ならダンジョンの側まで行ける気がする。本当はダンジョンに潜りたいところだが、そのためにはパーティーを組まなければならない。シオンにはまだそれはレベルが高い、一歩ずつ着実にレベルを上げてから挑んだ方が確実だ。
 それにそっちの方がかっこいい。

「よし決めた。ダンジョンの側まで行こう。今日より少し大変になるけど平気か?」

「うん勿論だよ。ニルが言うなら頑張れるよ、それにこんなに経験値が貯まるなんて僕もびっくりしてるし、今ならなんでも倒せそうな気分だよ。」

「油断は禁物だ」と言うと楽しそうにこくりと頷き「はーい」と小さく手を上げた。本当に大丈夫か?と心配になるがシオンはこの上なく幸せそうにニコニコと笑顔を浮かべながらベッドに腰掛けた。

 シオンはこんなに安心した気持ちになったのは人生で初めてだと思っていた。それほどまでにニルとの生活が心地よく、今までの最悪な日々を忘れさせてくれた。



「シオン!そっち!」

「うん!」

 剣が犬型のモンスターを貫き生々しく血が噴き出る。ピシャリと青々しく生い茂る草原に降り注ぎモンスターは息絶えた。
 しかし、シオンはその様子に心を痛めることもなく笑顔でニルに視線を向けた。冒険者にとってモンスターは狩る対象、そこに悲痛な思いなど存在することはない。
 だが、シオンはまだ冒険者になって間もない。普通なら初心者であれば命を奪うことに対しそれなりの感情を持ち合わせているはずなのだが、シオンにはそれが一切なかった。
 ただニルの言う通りにモンスターを殺し、にこにこと褒めてと言わんばかりの笑顔でニルに視線を向ける。
 普通の人間であれば彼はどこかおかしいと思えたはずなのだがシオンを育てているのは全知全能である浜中零もといニルだ。少しの加虐性は原作の魔王シオンと比べれば可愛いもの、ニルは特に気にすることなくただひたすらにシオンを戦わせて褒めちぎった。

「よくやった!昨日よりも断然よくなってるぞ!その調子だ。」

 その度にニルのスキルによりシオンは強くなり、貧弱自虐ぎみ勇者はたちまちそこいらの冒険者とは比べ物にならないくらいに強くなった。
 順風満帆に過ごしていく中、何かを忘れている気がするな…と思いながらハッとシオンは気づいた。そういえばニルにまだ言っていないことがあったと。
 シオンはニルの背中に声をかけてようやく口にすることになった。だがそれもニルはよく知っている事実でさほど驚くこともなくフリだけをしながら「どういうタイミングだよ」と心の中で突っ込みを入れたのだった。

「ニル、実はまだ言ってないことがあったんだ。僕の職業…『指揮者(コンダクター)』についてちょっとだけ話しても良いかな。」

 シオンは手入れをしていた剣を膝の上に置いたままニルに向きなおった。そこから始まった話の内容は知っているものばかりで、ニルは欠伸をしないように歯を食いしばりながら真面目を装いその話を聞いた。
 最アルを読んでいない人にもし説明するのなら。
 ニルの職業指揮者(女神からもらったくそったれ職業)とは所謂モンスター使いだ。
 そう聞けばえ?めっちゃつよいじゃん?なにがクソなの?となるだろうが、その理由はシオンとの相性がすこぶる悪いからだ。
 指揮者の能力はモンスターを操ることができる。しかし、それには条件があった。
 指揮者の称号を持つものは肉体の強さである経験値のパラメーターと同時に精神的な強さである『マインドゲージ』と言うものが見ることができる。
 条件というのは、己の経験値、そしてそのマインドゲージが共にコントロールする対象よりも上でなければならないのだ。
 マインドゲージとは精神力の強さ、剣を持ち自ら率先してモンスターに立ち向かう勇者達が強いとすれば、遠くからそれを見て自分には関係がないと日々己よりも強いものに怯えながら過ごしている奴らは弱いと言える。
 それを考えれば転移した当時のシオンは半端なく弱かった。
 それに、マインドゲージの悪い点は経験値と異なりほとんど変動しない。生まれ持ったレベルで生涯ほとんど変わることがないのだ。
 それにより、当時のシオンがコントロールできるモンスターはいないに等しかった。
 女神は見誤ったのだ。勇者は全員、精神力が高いだろうと見ていたために、人選ミスをしたのだ。
 異世界の住人は皆マインドゲージが高いと、思っていたのだ。

 だから、シオンは追放された。身勝手な話にも程があるということだ。


 もじもじとしながらシオンは下を向いてちらりとニルの方を覗き見た。
 シオンの話を聞いて押し黙っているにニルにまずい…どうしようかと顔を真っ青にさせる。
 だがしかしそんなシオンの心配事は杞憂に終わる。ニルはそんなシオンに「もう一度よく自分のレベルを確かめてみろ。」と言った。
「え?」と呆けながらも言う通りにすると48と書いてあるレベルの他、変わらないからと言って確かめずにいたマインドゲージを見ると目を見開いてニルを見た。そこには悪巧みをしているかのようにニタっと笑ったニルがいた。

「し、知ってたの?」

「俺も黙ってきたけどスキル『鑑定』を持ってるんだ。シオンの職業も、最近の変化もすぐにわかったよ。」

 ぱちくりと目を数度瞬きするシオン。
 鑑定を持っているなんて嘘だが、手っ取り早く説明するにはこれしかなかった。

 そう、断固として動かなかったシオンのマインドゲージは冗談かのようにグンと伸びていたのだ。
 レベル3から14へ。ニルはもう一度ニタリと笑うと今まで連れ回した甲斐があったと大いに喜んだ。

 一番最初、女将のところから脱出する際、金を持って逃げようと持ちかけた。勿論自分の貯金だけじゃ何日かしたらすぐに底を尽きるからというのもあったが、一番の目的はシオンに壁を越えるイベントを発生させたかったからだ。
 まぁ、シオンが女将を殺すという予想外はあったが、あのイベントはシオンの心に大きく影響をもたらした。
 そして、何日もほとんど飲まず食わずでギルドまで歩き続ける、これも実はニルが企んだことだった。
 四日もかかることは正直ゲッと思ったが、わざと馬車を途中で降りて野宿をしながらその辺の木の実それから川の水を飲み暮らしたのはシオンの精神力を高めるための試練だったのだ。(馬車を少し使ったのはちょっと四日は長すぎると言う浜中零の思惑だった)
 え?予想外が多いだって?文字を追うだけだった生活が実践に変わったんだ、それに最アルの序盤なんて記憶にうっすら残ってる程度だぞ??文句あるならテメェがやれ。

 と、まぁ、こんな感じで。この道中少しずつだがマインドゲージを上げていく努力もしていたってことだ。

 シオンはなぜ自分のマインドゲージが上がったのか疑問に思い少し考えてからやはりニルのおかげだ!という結論に辿り着いていた。
 間違ってはいないが結局そこに行くというのは少々思考力というものが欠けていっている気がしないでもない。だが、それほどまでにニルへの信頼が尋常なく、時にそれは異常なのでは?と思えるほどにズブズブと依存して行ったのだ。
 悪いことに、ニルはそれに気づいていない。シオンを育てることに頭が支配されているため己の存在などどっちに行くか迷った時の立て看板のようなものだと思っていた。
 その立て看板がどんなに重要であるか本人はわかっていないのだ。
 まったく、困った二人だと第三者がいればきっと呆れているだろうがここには二人しかいない。それに余計な横槍を入れようものならシオンにぶっ叩かれるのは予想がつく。

「僕をずっと見ていてくれたの?」

 この含みのあるシオンの言葉に「ん?当たり前だろ?」と鈍感に返すニル。ベッドに腰掛ける二人、シオンの膝と肩がニルに触れて顔を赤らめながらシオンはニルの顔を覗き込んだ。

「ねぇ、ニル。これからもずっと見ていてね。」

 黒い髪にゆるりと指を通し落ちたそれを耳にかける。その動作は色気を孕んでおり、どうしたって意中の人を落とそうとしているようにしか見えない。
 だが、そんなことにも気が付かず、じっと地図を眺めているニル。シオンはそんなニルが好きでたまらなかった。

 大好き、ニル。好き過ぎて死んじゃいそうだよ。

 紫色の瞳はこちらを見てはくれなかった。
 だけど、それでいい。ニルは僕だけのものなんだから。

 狂気が芽生え、愛が膨らむ。
 本来なら生まれなかった感情をニルは意図せずに作り上げてしまった。
 それが幸と出るか吉と出るかは、今はまだ誰にもわからない。



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