死ぬ予定の魔王をスキル誉め殺しで最強に育ててみた

的場カフカ

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土蛇退治

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 二人は場所を変えモンスターのレベルを変えひたすらに経験値上げに勤しんでいた。
 その度にニルはシオンの頭を撫でて褒めるせいでシオンは一つの場所をクリアすると自ら頭を差し出して撫でて撫でてと尻尾を振るようになった。
 これじゃあ本当にワンコを躾けているようでこれでいいのか?とほんのわずかだけ悩み結局はまぁいいやで結論を出した。

 草原を掻き分けて剣一本で駆け回るシオンには見慣れた。剣を振るうたびに金色に色の抜けた髪が跳ねまるで踊るようにモンスターを倒す。
 シオンのレベルはついに50となっていた。
 ニルは高台でその様子をあぐらをかいて見つめながら頬杖をつき思考に耽る。
 もうダンジョンに潜っても平気だろう。そろそろパーティーを組み始めても良さそうだ。
「シオン!」と名前を呼ぶとすぐに振り返り「なぁに」と間の抜けた返事が遠くから聞こえてくるとシュタッとニルの前に現れた。

「そろそろダンジョンに潜ろうと思う。」

「わぁ、ようやくだね。レベルも50になったし、僕の力でどのくらいいけるんだろう。」

 原作を読んでいれば50という数字がどれほどのものなのかよく分かる。
 一般人がおよそ10~20レベル、普通の冒険者が大体40くらいだ。そして勇者達は最終的に100レベルまでいくが、現段階は今のシオンとそう変わりないだろう。
 つまり遅れを取り戻せたのだ。
 ニルは心の中でガッツポーズを繰り出した。

「シオン、スキルはどんな感じだ?」

 シオンは鞄から持参したサンドイッチを取り出しもぐもぐと食べ始めていた。レタスにトマトにベーコンそれから卵をライ麦パンに似たようなバンズで挟んで大きく口を開けてそれに食らいついた。
 口の端を親指で拭いとるとちゅっと音を立ててそれを舐めとった。
 日は丁度真上に登り良いピクニック日和だ。

「うーんとね、中級モンスターまでなら操れるようになったよ。ドラゴン系はまだ難しいけど多分あと10くらいマインドゲージを上げたらいける。…ニル、お昼食べた?あーんして。」

 大人しく口を開けるニル。口いっぱいにトマトの酸味とベーコンの旨みそれからシオンの特製ソースの味が広がり幸せな気分に陥る。ごくりと喉を通るとすぐさま次が欲しくてたまらなくなる。
 シオンお手製の料理は出会った頃から食べているが、どれもこれも安い材料ながら手が込んでいてそこいらの食堂の飯にも引けを取らないぐらい美味い。
 こんだけの腕ならいっそ食事処を開いてもいいんじゃないかとさえ思うが、シナリオがシオンを悪役にするために動き続けるのなら力を持たないまま定職に就くのはあまり良いとは思えない。
 それに、今は片鱗がなくとも魔王になる未来が訪れないとは言い切れない。
 俺としては現魔王に勇者に倒されるという勤めを果たさせたいところだが、これからどうなるのかは俺にもわからない。
 結論、強さを持っていれば死ぬことはないだろう。

 それに原作での魔王シオンの強さは80、勇者達には遠く及ばなかった。それがたった数ヶ月で50だ。
 俺の教育方法は素晴らしい結果を出した!

 グフフと口角を上げて悪の幹部かのように笑う。
 また悪巧みをしているのかなとその様子を見守るシオンはニルの口元にべたりとついたソースに気がつくとそれをハンカチで拭う。
 シオンのことは真剣に考えるくせに自分のことになると途端に適当になるニル、そんなニルを世話することは誰にも譲ることのできないシオンの大切な役目だった。


「よし決めた!次の街に行こう、そっちのダンジョンの方がやりがいがありそうだ。それに、パーティーを組むにしてもここじゃ人が少なすぎる。」

 冒険者はモンスターのコアを売ることで収入を得ている。他にも依頼料やらなんやらで金を稼ぐことはできるが上位のモンスターを狩る方が得る金は大きい。
 そしてモンスターはダンジョンの地下に行けば行くほど上位の者が現れる。
 冒険者はダンジョンに潜ってこそ冒険者といえるのに、ダンジョン外で細々と金を稼ぐなんてことこの界隈の人間からしたら笑い者だ。
 だからパーティーに入っていない冒険者は新入りかよほどの物好きぐらいだ。

 この街、ガハジュにもダンジョンは存在する。
 だが、もともと人口が少なく、新入りなんてほとんどいないこの街でパーティーを募集する冒険者はほとんどいない。
 なのでパーティーを組むには新入りが多数いる大きな街に行かなければならないのだ。
 それをシオンに伝えると二つ返事でOKのサインを即座に手で作った。
 だが、大きな街に行けば行くほどシオンの元クラスメイトであり勇者達に遭遇する確率は高くなる。
 しかしこれから先、見つからないよう廃れた町や村だけを点々としていくわけにも行かない。
 ニルとシオンはそれだけは念頭に、次の街に出発することを決めた。


 ◇



 ガタガタと馬車が道を走り商人の男が手綱を握っている。商品である金物やその材料となる資源を乗せた荷車の隙間に入り込むようにしてニルとシオンは車に揺られていた。

「よかった。今回は馬車に乗せてもらえたね。」

「あぁ。(まぁ、あの時は俺が途中で降ろすように言ったんだけど)」

 ゴトっと石が引っかかり一瞬だけ大きく揺れた。シオンはすかさずニルの肩を支える。
「ありがとう」そう言うとにこりと笑ったシオン。爽やかな綺麗な顔とあいまってちょっとした仕草でさえ輝いて見える。
 俺もこう言うところを見習えばいいのか…いや、まず顔が違うだろ。
 そんなことで不貞腐れているニルを見てまた何か重要なことを考えているのだろうと勝手に期待しているシオン。またもやニルに対する畏敬の念が膨れ上がっているのをニルはまったく知らなかった。

 しばらく荷馬車は走り続け、鬱蒼とした林を抜けると青空が開け目の前に大きな街が現れた。
 あまりの雄大な光景に「おぉ!」と感嘆の声を漏らし膝立ちになったニル。
 食い入るように街を見つめていると空を泳ぐグリフォンの群れと遭遇した。ライオンに羽が生えたようなその異様な生き物は時折「グウォン」と鳴きながら青空を悠々と飛んでいる。

「すげぇ!なんだこりゃ!!大きな街に出た途端知らないモンスターがわんさかいる!」

「人が暮らしやすい所に集まるのと同じで地上で暮らすモンスター達も豊かな場所に集まるらしいね。」

 普通に考えれば自然を破壊する人間を避けて暮らすはずの生き物。けれどこの世界では自然は数多く残り、人間達の街はほんの一角にもならないほどだ。
 地上で暮らすモンスターはほとんどが友好的で人間との共存が可能だ。
 なので、モンスターが多ければ多いほどその街は豊かで栄えているのだとそう言えるのだ。

 すると、ドガンッと一際大きい衝撃が馬車を揺らし、馬が暴れヒヒンッと鳴いた。

「な!なんだ!」

 咄嗟に馬車を掴み振り落とされないようにする。
 どうやら何者かが荷馬車を攻撃しているようだが、その姿がどこにも見えない。
 しかしシオンは何かに気づいたようで鋭い目をして地面に視線を向けていた。なんなのだろうとニルもその視線を辿り地面に目を向けるとちょうど荷馬車の下あたりの土がもこもこと盛り上がっているのがわかった。
 まるでもぐらが何個も穴を開けたかのように、いやそれよりもずっと大きいものがそこにはあったのだ。

「これは……まさか」

「うん。土蛇だ、ニルは危ないから荷車の上にいてね。僕がなんとかしてくるから。」

 馬は悲鳴をあげながら驚いて逃げていったようだ。荷車を引くものがいなくなった前方には頭を抱え込んでカタカタと震えている御者の男が一人だけ。
 シオンはヒョイと荷車から飛び降りるとグングンと土の下を這いずり回る蛇を追いかけながら剣を振るう。
 ボコボコと土が盛り上がり綺麗に舗装された道路はぐちゃぐちゃに壊されていた。

 まさかこんな所に土蛇がいるなんてな。今のシオンには最高の相手だ、今まで雑魚としか戦わせてやれなかったからそろそろ苦戦というものを教えたかったところだ。
 それに、土蛇のコアは高く売れる。皮も貴族なんかが使う小物によく使われるし、身は白身魚と似ていて意外と美味い。
 余すとこなく金を取れる最高の獲物だ。
 ニルはじゅるりと舌なめずりをするとシオンをそっちのけでついに気絶した御者の懐を弄り出した。
 女将の性質が移ったのか金にめざとくなったニル、本人曰く「これは今後の生活費であって別に悪いことなんて何もないだろ。は?女将みたいだ?ふざけるな、まったくもって違うだろ!」とのことらしい。

 いつの間にか土蛇を倒していたシオンはニルが御者の服の中に手を入れているのを見てハッと肝が冷えた。
 ペロリと下唇を舐める妖艶な(なんらかの力が発動しニルにのみとんでもエフェクトがかけられている)姿が自分に向けられていないことに気がつくと胸がムカムカと熱くなり頭に血がのぼる。
「ググゥ」と虫の息であった土蛇の脳天にグサリとおもいきり剣を突き刺すとドバドバと血を流し今度こそ絶命した。

 ああ、なんてことだ!!ニル!!そんなっ、僕はこっちにいるのに!

 シオンは剣を土蛇から抜き出し駆け出した。
 しかし、突然荷車の目の前にどこからともなくぞろぞろと鎧を着た兵士が集まりピシリと剣を構えている。
 いったいぜんたい何が起こったんだ!と驚いているニル。シオンはと言うと、頭にある嫉妬心を一度拭い大声でニルの名を叫ぶと瞬時にニルの前に出て盾になった。
 ものすごい眼力で兵士を睨みつけ、威嚇する獣のように全身でビキビキと強烈なオーラを放つ。

「お前らは誰だ。」

 聞いたことのない冷たい声はシオンのものだった。ニルはゾクリと背筋が凍る感覚に襲われる。

「驚かせてしまい大変失礼致しました。我らは領主グレース様に仕える兵士。決して怪しいものではございません。」

 先頭に立つ一人の兵士がゴツい声でそう言った。
 彼は名をマクベルと言い部下に武器を下すよう命令するとみんな一様に腰の鞘に剣を戻した。
 いまだに剣を構えているシオンにニルはポンと背中を叩くと前に出た。

「俺達に何か用か?」

「我らは領主様に土蛇の討伐を命じられて来ました。近頃そいつは街の周辺を彷徨き街を行き来する人々に危害を加えていました。それで領主様が討伐するよう命じたのです。」

 マクベルの話を聞いていれば彼らの目的がよくわかった。最初は冒険者ギルドに依頼をされていた内容だったが土蛇のレベルが高く数人がかりで何度も討伐に向かったのだがなかなか倒すことができず手を焼いていたためとうとう軍を派遣したのだ。
 ニルとシオンは偶然出軍の日と被ってしまったらしい。

「恥ずかしながらこの平和なご時世、兵を動かすことは滅多になく実践経験が薄い我らに敵う相手だとは到底思えませんでした。そんな時、土蛇が討伐されているのを見てすぐにこの場に駆けつけました。
 我らの街をそして我らの沽券をお守りいただきなんと申し上げれば良いか。
 先程領主様からのご通達で、よければ邸宅にお越しいただきたいと、お礼の品をご用意させていただいております。」

 深々と頭を下げたマクベルとその部下。
 彼らから見れば二人など道端の石ころ同然の位だと言うのにそんな格下のものにまで頭を下げる兵達。
 ニルとシオンは互いに目を合わせその光景に驚きながらとりあえずその領主様とやらに会ってみようとそう決めた。
 どうやら意図せず人助けをしてしまったらしい。
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