9 / 9
次なる試練
しおりを挟む
目の前には見たことのないほどの豪勢な料理と海賊の財宝のようなピカピカと光るカトラリー。
開いた口が塞がらないとはこのことだと、ニルは黄金に輝く椅子に腰掛け目の前の人物を見た。
四十手前ほどの利発そうな男だ。髪を後ろに撫で付けピシッと礼服に身を包み眼鏡をかけている。
一見冷たそうに見える風貌だが、目尻が下がり朗らかな笑顔を浮かべるのを見ると一気に気が抜けた。
一方シオンは警戒心を解くことなくジリジリと鋭い目つきでその男ーー領主リベリア・テオニードを睨みつけていた。
「この度は土蛇を退治してくださり心より感謝を申し上げます。長らく私の領民達は土蛇に悩まされており、しかし我らの力ではどうすることもできなく…そんな時にあなた方に助けられました。」
なんとお礼を申し上げれば良いかと、深々とその場にいたマクベルと他の兵と共に頭を下げた。
たしかに高レベル(ちなみに土蛇は35レベル)のモンスターは並の冒険者が勝てる相手ではない。それゆえ、手も足も出せなかった相手をひょいと一人で倒してしまったシオンに恩を感じているのだろう。
この豪華な食事もシオンの功績によるものだ。
そう考えると凄まじい場違い感で居た堪れなくなった。
俺、ここに居ていいのか?
だが、シオンのこと(ニルが指示しすぎて決断する場面ではニルに頼りがち)を考えると今退席する気にもなれなかった。
前世の小説オタクだった血が騒ぐ、大抵こう言う場合はなにか他の思惑があるに違いない。
「それで、こんな豪華なお礼をして、本当の目的はなんだ?」
ニルは足を組み頬杖をついた。わざとらしく傲慢な態度をとるとリベリアの目の色が変わったのがわかった。
シオンは途端に変わったニルの様子にワクワクとしながらその光景をじっと見ている。
「どうやらあなたの方が頭で、そちらの彼が手足、というわけですね。ええと……ニルさん。おっしゃる通りです。私はあなた方二人に頼みたいことがあります。
実は私達は土蛇の他にもう一つモンスターによる被害をこうむっているのです。
あなた方にはそのモンスターの討伐を依頼したいのです。」
そう話し始めた領主リベリア、ニルはやはりなとほんの少しばかり口角を上げる。
彼が言うには、もう一匹のモンスターというのは人の血を吸い生きる蟻、通称血蟻というらしい。
やつらは街の至る所に隠れ住み、夜な夜な暗闇の中に潜み現れては群れで人間の血を余すことなく吸い取ってしまう。
まるで吸血鬼だなとニルは心の中で揶揄する。
この街が血蟻によって崩壊していないのはやつらが夜にのみ活動するからだろう。不幸中の幸いだと言うことだ。
血蟻のレベルは大体5~10、一匹二匹では雑魚同然なそれは群をなすと脅威となる。彼らが怯える理由は十分にあった。
「報酬は?」
「金貨二百枚、それからこの街リベールの通行税免除。いかがでしょうか?」
金貨一枚一万円、つまり二百万をもらえると言うわけだ。それに、通行税免除は熱い。リベールはここいらでは一番に大きな街だ、冒険者学校もあり立派なギルドもある。それに貿易が盛んで資源が豊かだ。
断る理由が見つからない。
しかし、ここで前のめりになって「やる!やります!是非やらせてください!!ぐひひ」と馬鹿なことを言っては舐められるに決まっている。
リベリアに頭と言われたからには聡明でなくてはならない。よって俺の行動はただ一つ。
「金貨五百、それならやっていい。」
値段交渉だ!
「ごっ五百?!ちょ、それは、いくらなんでも…」
わかってる。わかっているよ。馬鹿げた値段だと……だが俺はやらなければならないんだ。ごめん!リベリア!
「なら、交渉決裂だ。さっ、行くぞシオン。」
「待ってください!それなら、二百五十で、勘弁してください。」
「四百だ。」
「ぐっ…三百」
「三百八十」
「…三百二十」
「「三百五十」」
どこかの映画の中の掛け合いシーンのようになったが、交渉成立だ。
俺としては交渉することに意味があって値段なんて二百でも多いくらいだ。
心の中で平謝りしながら、ニルは笑みをこぼした。
「かしこまりました。では金貨三百五十枚で、血蟻討伐の件二人に依頼いたします。……食えないお人ですね、あなたは。」
ふっきれたリベリアはニルに向かった笑った。どこかやつれたような気がするが、ニルはそれを見て見ぬ振りする。
側でそのやり取りをじっと見ていたシオンはキラキラとした視線を送っていた。
大方心の中で「ニルが一番!すごい!天才!」と賛美の言葉をかき集めているのだろう。
「承った。それじゃあ、早速今晩…と言いたいところだが。この街に到着して間もない、討伐は明日にしようと思うよ。」
「勿論。今日はゆっくりお休みください。
宿の方はもうお取りになりましたか?…よければ、私の邸に泊まって行ってください。朝食もおつけしますので。」
窓の外を見ると、もう夕暮れだった。
あんな横暴な交渉をしてしまったにも関わらず、十分にもてなしてくれるリベリアに罪悪感を募らせながらお言葉に甘えることにした。
◇
たらふく夕食を食った後豪華な部屋に案内された。
働いたのはシオンの方だって言うのに一番にベッドに倒れ込んだのはニルだった。
大きなダブルベッドが一つ、部屋の中心に置かれている。ニルは一目散にそのふわふわ具合を確かめるためマットレスの上に飛び込んだのだ。
「生まれて初めてこんなふわふわなベッドで寝るわー」
「本当だ、さすがお金持ちの家だね。」
シオンもベッドに腰掛けると手でふわふわとその感触を確かめた。
しばらくその心地に浸ってからニルはシオンに話しかけた。
「シオンに相談しないで決めちゃった。ごめん。」
「そ!そんな、いいよ僕なんて。ニルの決めたことについて行くって決めたから。だから、気にしないで。」
手を振りながらシオンはそう言った。
ニルは何かを思いついたのかバサッと飛び起きるとじとっとシオンを見つめた。
何か言いたいことがあるのだろう、シオンは変なことを言ってしまったかと自分の発言を思い出しながら突き刺さるニルの視線に居た堪れなくなっていた。
「シオン。俺はお前のことを使い勝手のいい駒だとは思っていない。俺が全て正しいとは言い切れないし、さっきだって間違った答えを出してしまったかもしれない。」
「そんなっ」と否定する言葉をシオンは途中で投げかけた。
しかし、ニルは止まらなかった。
「だから、言いたいことがあれば言ってくれ。その方が俺は嬉しい。」
にこりと笑うとシオンは唖然とした。
自分の在り方がニルが望むものと違っていたことが悔しくてならなかった。
けれど、ニルはシオンに人としての自分を望んでくれた。
悔しくて嬉しくてやっぱり死ぬほど嬉しくて。今にも飛び跳ねて踊れない舞を踊ってみたくなった。
「あぁ…ニル。うん。わかったよ。ニルがそう言うならそうするよ。」
「なんか違う気がしないでもないが……まぁいいや。それで?手始めになんかあるか?なんでもいいぞ、これは違うんじゃないかとか、やりたいこととかして欲しいこととか。」
「し、し、し、し、して欲しいこと?!」
顔を真っ赤にしながら後ろにひっくり返りそうになるシオン。ぶつぶつと何かを呟きながら、試行錯誤をしているようだ。
途端にそんなことを始めたので、ニルの方は何を言うつもりなんだとゾッとしながら鞄の中に入っている金袋をチラリと見た。
「その…考えたんだけどね。ニルにお願いがあって………夜、ぎゅってして寝てもいい?」
え………え?
もっと、なんだろう、俺は金が欲しいとか。女の子と遊びたいとか、そんなことを言われるかと思ったが、シオンのお願いは俺の予想を飛び越えて空まで飛んでいった。
「ごめん、やっぱ嫌だよね。一緒に寝られるだかでも嬉しいのに、そんな気持ち悪いこと。」
だんだんとしょぼくれていくシオンにニルは首を掻いた。
まさか抱き枕がわりにされるとは思ってもみなかったからびっくりしたが、まぁ自分から言ったことだ、シオンがそれがいいってのなら付き合ってやるしかない。
それに、金関係じゃなくてよかった。リベリアの報酬を10:1にしたいとか言われたらどうしようかと思った。
「いいよ。だけど、こんな貧相な体抱いて寝ても気持ちよくもなんともないと思うけどな。」
「抱いっ……ううん。ニルがいいの。」
「あっそう。」
二人の間に緊張感が漂いニルはもじもじと下を向いた。今シオンの顔を見たら何かが変わってしまいそうな気がして勇気が出なかった。
「……とりあえず、明日のことを考えてからにしよう。無計画じゃ流石にお前だとしても難しいからな。」
シオンはこくりと小さく頷くとニルをチラリと見た。
ただの黒髪に紫色の目のパッとしない青年、けれどシオンの目に映るのは柔らかい髪と夜空のような瞳を持ったこの世でたった一人のかけがえのない青年の姿だった。
とうにこの感情に名がつけられることを知っていた。
だけど、自分のわがままのせいでニルを困らせたくない。無理だと分かっているのなら、死ぬまで一生ニルの道具でいたい。と、そう思っていたのだ。
他人に縛られ、命令をされるのなんて嫌だったはずなのに、ニルには縛られていたいと思ってしまう自分がいた。
なぜ、ニルがこの世界に詳しいのか、ただの村人でないことぐらい分かっていた。
けれどそれを知るのはまだ先でいい、この関係が続けられるのなら知らなくたっていい。
ニルはニルなのだから。
シオンはにこりと笑うと明日のことについて話しているニルの横顔を見つめた。
「俺じゃなくて地図を見ろよ。」と何度も言われたことがあった。そんな口を尖らせた顔がたまらなく好きだった。
本当は気まづいくせに僕の頼み事を聞いてくれる優しいニル。その優しさに漬け込むことを許して欲しい。
「おい、聞いてるのか?また俺の顔見てたろ、ほんとお前ってやつは。」
可愛いニル。
世界一愛しているよ。
◇
「本当にこんなんでいいのか?てか、お前デカすぎ、最初からこんなデカかったか?」
「ごめん、なんかレベル上がるようになってから成長しちゃって。ニルに迷惑をかけたくないんだけど、身長を縮めることはできないんだよ。」
本気で残念がるシオンに呆れながらニルはこの体勢を諦めることにした。
大きいベッドで寝ているはずなのに、でかい男に後ろから抱きしめられているせいでニルの体は身動きができなくなった。
やっぱり剣を持って戦い、レベルが上がると自然に体つきは良くなるらしい。筋トレという筋トレをしているところを見たことがないからおそらくそうだ。
事前準備が終わりニルがさっさと布団で寝ようとしたら尻尾を振ったシオンがそこに居た。
忘れてくれないかなと思ったが、さすがにこんな短時間でそれはなかったらしい。
あっという間に後ろから覆い被されて簡単にシオンの腕の中にスッポリとおさまってしまった。なんだか解せない。
それにさっきから俺の首元をすんすん吸っているせいでくすぐったくてたまらない。
「なぁ、シオン」と声をかけると「なぁに?」と嬉しそうにするため受け入れる他なかった。
「ニル、いい匂いする。石鹸の匂いだ、赤ちゃんみたい。」
「ちょっと、くすぐったいって…ぅ……あぅ」
……
どこぞのえろ漫画かよ…
自分がテンプレすぎて吐き気がする。
そして最悪なことにテンプレ男が俺の他にも居た。
「ニ、ニル……ごめん。」
語尾にハートでもつくかのように甘ったるい声を出したシオン。背中に当たったヤツの存在感が主張し始めてニルは思わず「あっ」声を出してしまった。
デカすぎないか?こいつのソコもレベルアップしたって言うのかよ!くそ!
シオンは腕を緩めるとニルに背中を向けてベッドから片足を下ろした。
そんなしょぼくれた背中をチラリと見るとニルの頭の中で善良な心が囁いた。
かわいそうな背中だ。女も当てがわれずに冴えない男と二人旅。そりゃあ溜まるに決まってる。
お前のために働いてるってのに、とんでもない仕打ちだ。これは責任を取らないと、シオンが気の毒でしょうがない。
ニルは少々考えると、ええい!自分が育てるって言ったんだ!男に二言はねぇ!と、シオンの名を呼んだ。
「ちょっと待て。俺がやってやる。」
打倒女将、地獄の長距離歩行旅、そして、第三の壁が今ニルの目の前に立ち塞がった。
あぁ、やってやろうじゃないか!
ーーーー
こんにちは!的場カフカです!
投稿が遅れてしまいすいませんでした。
なかなか執筆の時間が設けられず暇があれば書いていたのですが、前回からお時間がかかってしまいました。
待っていてくださった方、申し訳ございません。
ようやく文字数がいい感じに溜まったので久しぶりに投稿します!
ぜひこれからもニルとシオンを見守っていただけたら幸いです。
ついに次回念願の回です!
よろしくお願いします。
開いた口が塞がらないとはこのことだと、ニルは黄金に輝く椅子に腰掛け目の前の人物を見た。
四十手前ほどの利発そうな男だ。髪を後ろに撫で付けピシッと礼服に身を包み眼鏡をかけている。
一見冷たそうに見える風貌だが、目尻が下がり朗らかな笑顔を浮かべるのを見ると一気に気が抜けた。
一方シオンは警戒心を解くことなくジリジリと鋭い目つきでその男ーー領主リベリア・テオニードを睨みつけていた。
「この度は土蛇を退治してくださり心より感謝を申し上げます。長らく私の領民達は土蛇に悩まされており、しかし我らの力ではどうすることもできなく…そんな時にあなた方に助けられました。」
なんとお礼を申し上げれば良いかと、深々とその場にいたマクベルと他の兵と共に頭を下げた。
たしかに高レベル(ちなみに土蛇は35レベル)のモンスターは並の冒険者が勝てる相手ではない。それゆえ、手も足も出せなかった相手をひょいと一人で倒してしまったシオンに恩を感じているのだろう。
この豪華な食事もシオンの功績によるものだ。
そう考えると凄まじい場違い感で居た堪れなくなった。
俺、ここに居ていいのか?
だが、シオンのこと(ニルが指示しすぎて決断する場面ではニルに頼りがち)を考えると今退席する気にもなれなかった。
前世の小説オタクだった血が騒ぐ、大抵こう言う場合はなにか他の思惑があるに違いない。
「それで、こんな豪華なお礼をして、本当の目的はなんだ?」
ニルは足を組み頬杖をついた。わざとらしく傲慢な態度をとるとリベリアの目の色が変わったのがわかった。
シオンは途端に変わったニルの様子にワクワクとしながらその光景をじっと見ている。
「どうやらあなたの方が頭で、そちらの彼が手足、というわけですね。ええと……ニルさん。おっしゃる通りです。私はあなた方二人に頼みたいことがあります。
実は私達は土蛇の他にもう一つモンスターによる被害をこうむっているのです。
あなた方にはそのモンスターの討伐を依頼したいのです。」
そう話し始めた領主リベリア、ニルはやはりなとほんの少しばかり口角を上げる。
彼が言うには、もう一匹のモンスターというのは人の血を吸い生きる蟻、通称血蟻というらしい。
やつらは街の至る所に隠れ住み、夜な夜な暗闇の中に潜み現れては群れで人間の血を余すことなく吸い取ってしまう。
まるで吸血鬼だなとニルは心の中で揶揄する。
この街が血蟻によって崩壊していないのはやつらが夜にのみ活動するからだろう。不幸中の幸いだと言うことだ。
血蟻のレベルは大体5~10、一匹二匹では雑魚同然なそれは群をなすと脅威となる。彼らが怯える理由は十分にあった。
「報酬は?」
「金貨二百枚、それからこの街リベールの通行税免除。いかがでしょうか?」
金貨一枚一万円、つまり二百万をもらえると言うわけだ。それに、通行税免除は熱い。リベールはここいらでは一番に大きな街だ、冒険者学校もあり立派なギルドもある。それに貿易が盛んで資源が豊かだ。
断る理由が見つからない。
しかし、ここで前のめりになって「やる!やります!是非やらせてください!!ぐひひ」と馬鹿なことを言っては舐められるに決まっている。
リベリアに頭と言われたからには聡明でなくてはならない。よって俺の行動はただ一つ。
「金貨五百、それならやっていい。」
値段交渉だ!
「ごっ五百?!ちょ、それは、いくらなんでも…」
わかってる。わかっているよ。馬鹿げた値段だと……だが俺はやらなければならないんだ。ごめん!リベリア!
「なら、交渉決裂だ。さっ、行くぞシオン。」
「待ってください!それなら、二百五十で、勘弁してください。」
「四百だ。」
「ぐっ…三百」
「三百八十」
「…三百二十」
「「三百五十」」
どこかの映画の中の掛け合いシーンのようになったが、交渉成立だ。
俺としては交渉することに意味があって値段なんて二百でも多いくらいだ。
心の中で平謝りしながら、ニルは笑みをこぼした。
「かしこまりました。では金貨三百五十枚で、血蟻討伐の件二人に依頼いたします。……食えないお人ですね、あなたは。」
ふっきれたリベリアはニルに向かった笑った。どこかやつれたような気がするが、ニルはそれを見て見ぬ振りする。
側でそのやり取りをじっと見ていたシオンはキラキラとした視線を送っていた。
大方心の中で「ニルが一番!すごい!天才!」と賛美の言葉をかき集めているのだろう。
「承った。それじゃあ、早速今晩…と言いたいところだが。この街に到着して間もない、討伐は明日にしようと思うよ。」
「勿論。今日はゆっくりお休みください。
宿の方はもうお取りになりましたか?…よければ、私の邸に泊まって行ってください。朝食もおつけしますので。」
窓の外を見ると、もう夕暮れだった。
あんな横暴な交渉をしてしまったにも関わらず、十分にもてなしてくれるリベリアに罪悪感を募らせながらお言葉に甘えることにした。
◇
たらふく夕食を食った後豪華な部屋に案内された。
働いたのはシオンの方だって言うのに一番にベッドに倒れ込んだのはニルだった。
大きなダブルベッドが一つ、部屋の中心に置かれている。ニルは一目散にそのふわふわ具合を確かめるためマットレスの上に飛び込んだのだ。
「生まれて初めてこんなふわふわなベッドで寝るわー」
「本当だ、さすがお金持ちの家だね。」
シオンもベッドに腰掛けると手でふわふわとその感触を確かめた。
しばらくその心地に浸ってからニルはシオンに話しかけた。
「シオンに相談しないで決めちゃった。ごめん。」
「そ!そんな、いいよ僕なんて。ニルの決めたことについて行くって決めたから。だから、気にしないで。」
手を振りながらシオンはそう言った。
ニルは何かを思いついたのかバサッと飛び起きるとじとっとシオンを見つめた。
何か言いたいことがあるのだろう、シオンは変なことを言ってしまったかと自分の発言を思い出しながら突き刺さるニルの視線に居た堪れなくなっていた。
「シオン。俺はお前のことを使い勝手のいい駒だとは思っていない。俺が全て正しいとは言い切れないし、さっきだって間違った答えを出してしまったかもしれない。」
「そんなっ」と否定する言葉をシオンは途中で投げかけた。
しかし、ニルは止まらなかった。
「だから、言いたいことがあれば言ってくれ。その方が俺は嬉しい。」
にこりと笑うとシオンは唖然とした。
自分の在り方がニルが望むものと違っていたことが悔しくてならなかった。
けれど、ニルはシオンに人としての自分を望んでくれた。
悔しくて嬉しくてやっぱり死ぬほど嬉しくて。今にも飛び跳ねて踊れない舞を踊ってみたくなった。
「あぁ…ニル。うん。わかったよ。ニルがそう言うならそうするよ。」
「なんか違う気がしないでもないが……まぁいいや。それで?手始めになんかあるか?なんでもいいぞ、これは違うんじゃないかとか、やりたいこととかして欲しいこととか。」
「し、し、し、し、して欲しいこと?!」
顔を真っ赤にしながら後ろにひっくり返りそうになるシオン。ぶつぶつと何かを呟きながら、試行錯誤をしているようだ。
途端にそんなことを始めたので、ニルの方は何を言うつもりなんだとゾッとしながら鞄の中に入っている金袋をチラリと見た。
「その…考えたんだけどね。ニルにお願いがあって………夜、ぎゅってして寝てもいい?」
え………え?
もっと、なんだろう、俺は金が欲しいとか。女の子と遊びたいとか、そんなことを言われるかと思ったが、シオンのお願いは俺の予想を飛び越えて空まで飛んでいった。
「ごめん、やっぱ嫌だよね。一緒に寝られるだかでも嬉しいのに、そんな気持ち悪いこと。」
だんだんとしょぼくれていくシオンにニルは首を掻いた。
まさか抱き枕がわりにされるとは思ってもみなかったからびっくりしたが、まぁ自分から言ったことだ、シオンがそれがいいってのなら付き合ってやるしかない。
それに、金関係じゃなくてよかった。リベリアの報酬を10:1にしたいとか言われたらどうしようかと思った。
「いいよ。だけど、こんな貧相な体抱いて寝ても気持ちよくもなんともないと思うけどな。」
「抱いっ……ううん。ニルがいいの。」
「あっそう。」
二人の間に緊張感が漂いニルはもじもじと下を向いた。今シオンの顔を見たら何かが変わってしまいそうな気がして勇気が出なかった。
「……とりあえず、明日のことを考えてからにしよう。無計画じゃ流石にお前だとしても難しいからな。」
シオンはこくりと小さく頷くとニルをチラリと見た。
ただの黒髪に紫色の目のパッとしない青年、けれどシオンの目に映るのは柔らかい髪と夜空のような瞳を持ったこの世でたった一人のかけがえのない青年の姿だった。
とうにこの感情に名がつけられることを知っていた。
だけど、自分のわがままのせいでニルを困らせたくない。無理だと分かっているのなら、死ぬまで一生ニルの道具でいたい。と、そう思っていたのだ。
他人に縛られ、命令をされるのなんて嫌だったはずなのに、ニルには縛られていたいと思ってしまう自分がいた。
なぜ、ニルがこの世界に詳しいのか、ただの村人でないことぐらい分かっていた。
けれどそれを知るのはまだ先でいい、この関係が続けられるのなら知らなくたっていい。
ニルはニルなのだから。
シオンはにこりと笑うと明日のことについて話しているニルの横顔を見つめた。
「俺じゃなくて地図を見ろよ。」と何度も言われたことがあった。そんな口を尖らせた顔がたまらなく好きだった。
本当は気まづいくせに僕の頼み事を聞いてくれる優しいニル。その優しさに漬け込むことを許して欲しい。
「おい、聞いてるのか?また俺の顔見てたろ、ほんとお前ってやつは。」
可愛いニル。
世界一愛しているよ。
◇
「本当にこんなんでいいのか?てか、お前デカすぎ、最初からこんなデカかったか?」
「ごめん、なんかレベル上がるようになってから成長しちゃって。ニルに迷惑をかけたくないんだけど、身長を縮めることはできないんだよ。」
本気で残念がるシオンに呆れながらニルはこの体勢を諦めることにした。
大きいベッドで寝ているはずなのに、でかい男に後ろから抱きしめられているせいでニルの体は身動きができなくなった。
やっぱり剣を持って戦い、レベルが上がると自然に体つきは良くなるらしい。筋トレという筋トレをしているところを見たことがないからおそらくそうだ。
事前準備が終わりニルがさっさと布団で寝ようとしたら尻尾を振ったシオンがそこに居た。
忘れてくれないかなと思ったが、さすがにこんな短時間でそれはなかったらしい。
あっという間に後ろから覆い被されて簡単にシオンの腕の中にスッポリとおさまってしまった。なんだか解せない。
それにさっきから俺の首元をすんすん吸っているせいでくすぐったくてたまらない。
「なぁ、シオン」と声をかけると「なぁに?」と嬉しそうにするため受け入れる他なかった。
「ニル、いい匂いする。石鹸の匂いだ、赤ちゃんみたい。」
「ちょっと、くすぐったいって…ぅ……あぅ」
……
どこぞのえろ漫画かよ…
自分がテンプレすぎて吐き気がする。
そして最悪なことにテンプレ男が俺の他にも居た。
「ニ、ニル……ごめん。」
語尾にハートでもつくかのように甘ったるい声を出したシオン。背中に当たったヤツの存在感が主張し始めてニルは思わず「あっ」声を出してしまった。
デカすぎないか?こいつのソコもレベルアップしたって言うのかよ!くそ!
シオンは腕を緩めるとニルに背中を向けてベッドから片足を下ろした。
そんなしょぼくれた背中をチラリと見るとニルの頭の中で善良な心が囁いた。
かわいそうな背中だ。女も当てがわれずに冴えない男と二人旅。そりゃあ溜まるに決まってる。
お前のために働いてるってのに、とんでもない仕打ちだ。これは責任を取らないと、シオンが気の毒でしょうがない。
ニルは少々考えると、ええい!自分が育てるって言ったんだ!男に二言はねぇ!と、シオンの名を呼んだ。
「ちょっと待て。俺がやってやる。」
打倒女将、地獄の長距離歩行旅、そして、第三の壁が今ニルの目の前に立ち塞がった。
あぁ、やってやろうじゃないか!
ーーーー
こんにちは!的場カフカです!
投稿が遅れてしまいすいませんでした。
なかなか執筆の時間が設けられず暇があれば書いていたのですが、前回からお時間がかかってしまいました。
待っていてくださった方、申し訳ございません。
ようやく文字数がいい感じに溜まったので久しぶりに投稿します!
ぜひこれからもニルとシオンを見守っていただけたら幸いです。
ついに次回念願の回です!
よろしくお願いします。
31
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白くて続きが楽しみです!頑張ってください!!
ありがとうございます♪
とても嬉しいです!無事最後まで書けるよう頑張ります^_^