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夜の教室で聞かされた話は
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「ええ。おかしな点はまだあるわ。あなた、彼女の亡くなった瞬間を視たのよね」
「はい。視ました」
「ショッキングな事だったらごめんなさいね。彼女の死体そのものは視たかしら」
「いえ。もう大丈夫です。えっと、墜落した彼女の姿を見たかっていうことですよね。遠目になら見えました」
そう、ここから確かに見えた。茜色に染まる彼女の制服と地面に染み入る血の赤色を。それは未だに焼き付いている。
「ああ遠目なら気づかなかったかもしれないな。彼女ね、ゴム手袋をしていたの」
「へ? な、なんですかそれ」
私が見た彼女の最後の姿。それを思い出すことにより多少の感傷。それを吹っ飛ばすほどの想像していない状況が耳に入り私はついつい間抜けな声を上げてしまった。
「彼女の両手にはゴム手袋が嵌ってたの。白い薄手の奴ね」
「どうしてそんなものを嵌めてたんでしょう」
多分、話の流れからしたら警察もその理由を掴んではいないようだったがついついそんな言葉を漏らしてしまう。案の定滝田さんは首を振りながら答えた。
「さあ、それも謎なのよね。例えばだけど彼女、いわゆる潔癖症みたいなところがあったりとかしたのかな」
いわゆる潔癖症、脅迫性障害などの症状。人と直接触れ合うのを極度に嫌ったり、物を触れたりするときにゴム手袋をしたり、物にアルコール消毒を施したりしないと触れられないという人がいることは聞いたことがある。が、私は首を振った。
「いえ。そんな素振りはありませんでした」
彼女は比較的綺麗好きだとは思う。机やロッカーもきちんと整理整頓を心掛けていた。
特に学級委員の私は立場上そうした部分を指導点検しなければならなかったので、それを良く認識はしていた。
が、かと言って極度の潔癖症かと言えばそんな事はなかった筈だ。
放課後に級友から袋の開いたお菓子を差し出されて食べたりもしていた。何よりそうだ、今日夕方この教室で彼女の方から私は抱きつかれもしたのだ。
「まあ、そうでしょうね。熊谷先生だったっけ? 彼女って二見さんと古いお付き合いだったみたいじゃない。だから思い当たるか尋ねてみたけど、潔癖症だったとは思えないって言ってたわ。でも、じゃあ何で手袋をはめていたのか更に聞いてもさっぱりだって」
「その手袋はどこで手に入れたのかっていうのは分かってるんですか」
「まだ、はっきりしてないけど。多分学校の備品だと思われるわね。授業で使う事もあるんでしょう」
「確かに、調理実習とか理科の実験とかに使う事はありますね。あとは、掃除の時にも希望すれば貰えたと思います」
授業で使う場合はその都度配られる。それ以外の作業などに使いたい場合は職員室か、そこになければ事務室や用務員室に行けば貰えるようになっていた。
「誰でも手に入れられるものだったわけよね。問題はそれを何に使うつもりだったのかよね。掃除に使っていたってことは……例えば屋上の掃除をしようとしていたとか」
「いや、それはないと思いますよ」
校内の清掃の一部は生徒がやることにはなっていた。班に分かれて自分たちの教室やそれぞれの教科の特別室など割り振られはしたが屋上はその対象外だった筈だ。
「対象外だったからこそ、彼女が屋上のお掃除を買って出た。そして柵の外を綺麗にしようとした。でも身を誤って墜落したとか……」
「流石に無理有りませんか?」
彼女は基本的に真面目な人だったと思う、だからといって、余計な掃除をしたりするボランティア精神にあふれていたとは思えない。百歩譲ってそうだったとしても屋上へ勝手に入って靴も履かずに屋上の掃除をして回った上にそこから落ちたというのは流石に有り得ない。
「まね。自分でも言ってて現実味がないとは思う。でも、現実味がない奇妙な状況が残っているのも事実じゃない。何故か入り口に残っていた靴。手に嵌められたゴム手袋。凄く不自然というわけじゃない、けど、何か引っかかるんだよね」
それを聞きたくてもそれに答えてくれるはずの本人はもうこの世にいはいないのだ。
「はい。視ました」
「ショッキングな事だったらごめんなさいね。彼女の死体そのものは視たかしら」
「いえ。もう大丈夫です。えっと、墜落した彼女の姿を見たかっていうことですよね。遠目になら見えました」
そう、ここから確かに見えた。茜色に染まる彼女の制服と地面に染み入る血の赤色を。それは未だに焼き付いている。
「ああ遠目なら気づかなかったかもしれないな。彼女ね、ゴム手袋をしていたの」
「へ? な、なんですかそれ」
私が見た彼女の最後の姿。それを思い出すことにより多少の感傷。それを吹っ飛ばすほどの想像していない状況が耳に入り私はついつい間抜けな声を上げてしまった。
「彼女の両手にはゴム手袋が嵌ってたの。白い薄手の奴ね」
「どうしてそんなものを嵌めてたんでしょう」
多分、話の流れからしたら警察もその理由を掴んではいないようだったがついついそんな言葉を漏らしてしまう。案の定滝田さんは首を振りながら答えた。
「さあ、それも謎なのよね。例えばだけど彼女、いわゆる潔癖症みたいなところがあったりとかしたのかな」
いわゆる潔癖症、脅迫性障害などの症状。人と直接触れ合うのを極度に嫌ったり、物を触れたりするときにゴム手袋をしたり、物にアルコール消毒を施したりしないと触れられないという人がいることは聞いたことがある。が、私は首を振った。
「いえ。そんな素振りはありませんでした」
彼女は比較的綺麗好きだとは思う。机やロッカーもきちんと整理整頓を心掛けていた。
特に学級委員の私は立場上そうした部分を指導点検しなければならなかったので、それを良く認識はしていた。
が、かと言って極度の潔癖症かと言えばそんな事はなかった筈だ。
放課後に級友から袋の開いたお菓子を差し出されて食べたりもしていた。何よりそうだ、今日夕方この教室で彼女の方から私は抱きつかれもしたのだ。
「まあ、そうでしょうね。熊谷先生だったっけ? 彼女って二見さんと古いお付き合いだったみたいじゃない。だから思い当たるか尋ねてみたけど、潔癖症だったとは思えないって言ってたわ。でも、じゃあ何で手袋をはめていたのか更に聞いてもさっぱりだって」
「その手袋はどこで手に入れたのかっていうのは分かってるんですか」
「まだ、はっきりしてないけど。多分学校の備品だと思われるわね。授業で使う事もあるんでしょう」
「確かに、調理実習とか理科の実験とかに使う事はありますね。あとは、掃除の時にも希望すれば貰えたと思います」
授業で使う場合はその都度配られる。それ以外の作業などに使いたい場合は職員室か、そこになければ事務室や用務員室に行けば貰えるようになっていた。
「誰でも手に入れられるものだったわけよね。問題はそれを何に使うつもりだったのかよね。掃除に使っていたってことは……例えば屋上の掃除をしようとしていたとか」
「いや、それはないと思いますよ」
校内の清掃の一部は生徒がやることにはなっていた。班に分かれて自分たちの教室やそれぞれの教科の特別室など割り振られはしたが屋上はその対象外だった筈だ。
「対象外だったからこそ、彼女が屋上のお掃除を買って出た。そして柵の外を綺麗にしようとした。でも身を誤って墜落したとか……」
「流石に無理有りませんか?」
彼女は基本的に真面目な人だったと思う、だからといって、余計な掃除をしたりするボランティア精神にあふれていたとは思えない。百歩譲ってそうだったとしても屋上へ勝手に入って靴も履かずに屋上の掃除をして回った上にそこから落ちたというのは流石に有り得ない。
「まね。自分でも言ってて現実味がないとは思う。でも、現実味がない奇妙な状況が残っているのも事実じゃない。何故か入り口に残っていた靴。手に嵌められたゴム手袋。凄く不自然というわけじゃない、けど、何か引っかかるんだよね」
それを聞きたくてもそれに答えてくれるはずの本人はもうこの世にいはいないのだ。
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