縊れ憑きの部屋 百鬼夜荘(闇)

山井縫

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入居

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 この期に及んで念押しとはどういうつもりかという言葉を呑み込んで田村は言った。
「それさえ目をつぶれば破格の条件です。人間いつか死ぬわけですしね、気にしても仕方ないと思う事にします」
 その言葉を聞き、ぎこちないながら山口は顔を柔和な物に戻した。
「そうですか、ありがとうございます。こちらとしても本当に助かります。では、契約を進めましょう」
「はい。で、あの。因みにこれ聴いていいのか分からないんですけど」
「なんでしょうか。今の内に質問があればお答えしますよ」
「前の住人の方。死因というんでしょうか。どのようにして亡くなったのか聞いてもいいですか?」
「ああ……。やはり気になりますか?」
山口は困ったような、それでいて仕方ないよなという雰囲気の表情を浮かべる。
「はい。それは、気にならないと言えば嘘になります。教えて頂けますか?」
 言った途端に後悔の念も浮かぶ。が、もう遅かった。
「縊死です」
 山口からシンプルな言葉が放たれる。
「イシ?」
 音だけ聞いてもすぐに意味が繋がらず聞き返してしまう。
「はい、首を……」
「ああ、その縊死ですか」
 つまり首を吊ったのだ。
 その様を想像しそうになる思考を振り払うように山口は言う。
「教え頂いてありがとうございました。よろしくお願いいたします!」
 それで決まりだった。日を開けずに直ぐに入居した。
 部屋は想像以上に綺麗で広々としている。
 (住みやすそうな部屋だ。これは掘り出し物かもしれないぞ)
 悪いことが続き、先が見えない中で得られた幸運。
 (ここから全て上手く行くかもしれない)
 そんな風に心を踊らせた。
 すぐに就職はできないだろう。仕方ないので派遣会社に登録して単発の仕事でしのぐ事にした。
 そんなこんなであっという間に2週間が過ぎる。一日の仕事はモデルルームの会場案内。外に立って看板を持ち8時間立ち続けるというもの。ただただ、退屈な上、足腰にも負担がかかる非常にきつい仕事だ。
 (早く終われ。早く帰りたい)
 心で念じながら待ち望んだ終業時間。心身共に疲弊した状態でようやく愛し我が家に帰宅した訳だ。次の日も早い。今日も早く寝なきゃならない。
 スーパーの半額シールが張られたマグロ丼を平らげ、シャワーを浴びてすぐ布団に入る。
 暗くなった部屋で暫し目を開けたままぼんやり天井を見上げていた。
 すると、

 ギッ~、ギッ~、ギッ~、ギッ~ギッギッ

 どこからか音が聞こえてきた。何かが擦れるような音。その音が鳴るのは実は今日が初めてではない。
 入居した初日から、どこからともなく聴こえてくるのだ。

 ギッ~、ギッ~、ギッ~、ギッ~ギッ~。

 初めは上の階から聴こえてくるのかと思ったが、どうも様子が違う。音の発生源は明らかに部屋の中だ。
 (幻聴かな。心の中でやはり気にしてるのか)
 この部屋が破格で入居出来た理由。それを忘れた訳ではない。でも、敢えて意識しないようにした。
 住めば都だ。部屋に不満は何もない。それさえ気にしなければ暮らしていける。
 考えるな。考えるな。
 しかし、

 ギッ~ギッ~ギッ~ギッ~ギッ~

 鳴り続ける異音に思考が鈍る。更には真上の天井に何かが見えるような気がした。いや、気がしたのではない。

 見える、

 いつの間にか寝ている自分の真上。

 ギッ~ギッ~ギッ~ギッ~ギッ~

 音と共に天井から紐状の何かが垂れ下がり、先に何か大きなものがぶら下がっているのが解る。それは真っ黒な人影だった。

 ギッ~ギッ~ギッ~ギッ~ギッ~

 ロープにぶら下がったソレは音に合わせて大きく揺れていた。                               
 (ウソだウソだ。信じたくない。幻覚幻聴だ。こんな事あるはずない)
 思ったと同時に気づく。自分の身体が動かない。いわゆる金縛りだ。
 身動きもできず目も閉じられなくなってしまった。

 ギッ~ギッ~ギッ~ギッギッギッ~

 音と共に真上で起きている大きな振り子運動。それは彼の意識が途絶えるまで止むことは無かった。
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