縊れ憑きの部屋 百鬼夜荘(闇)

山井縫

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刻まれた過去

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 まずはあゆみが言っていたあの土地の来歴についてだ。
 そもそもあの辺一帯は、太平洋戦争直後まで農家の地主が持っていたものだった。
 が、農地改革などのあおりを受けて経済的な打撃を受ける。それでもその段階では没落したとは言えない。
 それでも次男を養子に出し、残り家族全員食っていくだけなら何とかなったのだが。
 そこへある男がやってきた。自分はアメリカのある企業と繋がりがあり、輸入貿易会社を作る準備をしている。投資してもらえばすぐに何十倍、何百倍の金となって戻ってくる。
 また、会社が上手く回ったら、あなたの子供を優遇して迎え入れてもいい。この片田舎で農業をやるよりずっと楽に暮らせますよ。
 まだ戦後の混乱期これからどうなるかわからない。
 そんな風に言われて当時としては少なくない金を数回に渡って払った。が、結果それは詐欺だった。途端に借金まみれになり、住んでいた家や僅かながら残っていた土地も手放さなければならなくなった。

 しかし、そうなったら行き所がない。
 結果として父親、母親、息子。
 三人並んで山の中の木に首を吊ったのだという。

「一家心中か。そりゃ壮絶だな……」
 康太がたまらないような顔をして呻きながら言う。

「はい。そういった経緯もあって、流れ流れて山口家が所有することになりました。私の曽爺さんのです。進んで買ったというより、色々なしがらみで押し付けられたもののようです」

 それから度々その木で首を吊る者が現れた。酷い時には年に20件を超えたこともあるという。

「元々、山を通っている道の脇に木は立っていました。当時はその道が生活道路として使用されていた為それなりの人通りがあったようなんです」
 しかし、時代が下るにつれて他の道も整備され山道自体が使われなくなった。
 また、元々不便な土地だ。地域に住んでいた人たちも多くが土地を離れていく。

「そうなるに従って首を吊る者もいなくなっていった訳ですか」

「と、想います。記録としてたどれるのは40年ほど前が最後でした。ただ、何にしても手を付けるような土地ではありませんので」

 人の手も入らない様な荒れ地の事だ。ほっぽらかし状態になっても仕方ないだろう。
 しかし、時代が下り新駅開発の話が出た。
 途端にあの辺一帯の土地の価値は跳ね上がる。

「タダ同然、押し付けられた土地にようやく価値が出たんじゃないですか。めでたいことだ」

 相当儲かったのだろう、羨ましい限り。口には出さないがそんな想いが口の端に見て取れる。

「ええ。山を切り崩し開発した土地にいくつかマンションや建売がたちました。やはり……」

 そこで一旦沈黙した後、彼は言葉を続けたが、
「首吊りの木が立っていたのはあのマンションがある場所辺りのようです、それで……」
 更に今度は言葉を濁すようにまた言葉がとまる。

「どうかしましたか? 」

 修二が不思議そうな顔で先を促す。

 が、山口の様子はそれまでの会話と明らかに違う。動揺しているのが見て取れた。

「いや……。因縁というものはあるんですね。お祓いの時の経験は貴重なものでした。金鞠あゆみさんを信じてない訳でもないんです。でも、どこか夢のような感覚もあったんです」

「まあ、首吊りが連続で起きるなんていうのは、尋常ではないですからな。しかも、建物が立つ前に起きたことが影響するなんて考えもつきませんよ」

「いえ、そうではないんです。いや、それも含めてではあるんですが……」

「それ以上に何かあるんですか? 」

「はい。そもそもの発端と思われる事件なんですが」

「はあ、家族全員が首吊ったって奴ですね」

 あの土地に立っていた首吊りの木の来歴。その発端となったと思われる一家心中。

「いえ、正確に言うと全員ではないのです。先ほど言った通り、次男が養子に出されました。その方は岩田源吾という男性です」

 フルネームがいきなり出てきたので面食らった。

「良く名前まで特定できたな。そもそも、この土地に長く住む俺だってそんな話きいたことなかったぜ」

 店の中の作業をしながら黙って聞いていた康太がそこでようやく口を挟んだ。

 修二も想う。そもそも僅か2週間で来歴までここまでの話を良く特定できたものだ。
 不動産屋だからやはり土地に顔が利くのだろうか。

「いえ、特定するまでもないんです。その方は首吊り部屋の初入居者だったんです」

 修二と康太の二人は一瞬山口の言った言葉を吞み込めなかった。
 頭の中でその意味が浸透すると共に衝撃を受けた。

「え! じゃあ、あの部屋の首吊り第一号ってことですか! 」

 つまり、自分の家族が心中した場所で同じく非業の死を遂げたということになる。
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