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刻まれた過去
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岩田源吾は幼い頃に街の商家へと養子にだされた。
主夫婦に子供が生まれる事はなく、彼が後を継いだのだ。程なくして結婚したのだが、彼等夫婦もまた子宝には恵まれずやむなかった。やむなく彼自身も養子を迎える。それから程なして妻がなくってしまったという。
この時点で既に義両親も既にいない。しかも店は義理の息子夫婦のみで切り盛りできてしまっている。かといって別に義理の息子夫婦と仲が悪い訳でもない。寧ろ何かにつけて気にかけてくれるし、彼を立ててくれた。
しかし、彼の立場からして身の置き所がないと考えるのも無理からぬところだった。
その上彼の心にはずっとひっかかっていることがある。
実家族は性質の悪い詐欺師に騙されたあげく、行き所が亡くなり無理心中したのだ。
自分自身は養子へ出て難を逃れた訳だが、結局自分もその後出来た縁ある人達をみんな失ってしまった。
そういう星の巡りあわせなのかもしれないと、日増しに想いは募り、息子夫婦に子供が生まれた事をきっかけに隠居することを決める。
住む土地は既に決めていた。彼が養子に入る前住んでいた地域だ、つまり彼の実家族が生まれ育ち悲惨な最期を遂げた土地だ。
自分が幼い頃に住んでいた家はとっくに取り壊されていたが、ほど近いところに空き家を見つけてそこに住むことにしたのだ。
移り住んですぐに辺りを見て回った。印象としては幼い頃とほとんど変わらない。
兄と一緒に駆け回った原っぱや川辺もそのまま残っており、まるでタイムスリップした感覚を味わった。
が、一か所だけ足を向けられない場所がある。
それは、実の家族が命を落とした木のある山道だ。
養子に出て以来、実家族との交流もなく、会わないままだったが、どのような最期を遂げたかは耳にしていた。
悲しみはあったが、それ以上に自分が【難を逃れて】生きながらえられた事に疚しさも感じた。だから、なるべく考えないようにしてきたのだ。
更に、ここに移り住む前に漏れ伝わってきていた噂。
それは、実家族が亡くなった木を使って次々と首吊りが発生していると。
単純に怖かった。
ひょっとしたら実家族は自分だけが助かったことを恨んでいるのかもしれない。家族全員が揃わないことを寂しがっているのかもしれないとも考えた。
考えすぎかもしれないし、例えそれが事実だとしても、源吾自身に非がある訳ではない。
今有る生を精一杯生きればいいと想う事にして、仕事に励んだ。
が、その結果はどうだったか。
縁ある人も亡くなり、実家族もいない。
彼は一人遺されただけだ。
いつか自分が呼ばれる番がくるのかもしれない。
そうしなければ首吊りの連鎖は終わらないのかもしれない。
そう想うこともあったがかといって彼は死ぬ気はさらさらなかった。
だから、あの木の傍まではいかなかった。いや、いけなかったのだ。
つまり、ここは懐かしい故郷の地でありながら、自分を死に誘うかもしれない忌地でもある。
そう考えたとき、彼は土地そのものに興味を覚えた。
そこで、未だに残っている地域の古老を訪ねて色々な話を聞いたのだが。
すると、元実家の遠縁にあたる男性に巡り合うことができてこんな話を聞かされた。
そこから更に遡った昔の事。
一帯は花森村と呼ばれていた頃の話。
あの山道の脇に小さな祠とご神木があった。それは名前もついていないが、田んぼや畑の五穀豊穣を司る、いわゆる農業神を祀る物だった。
そして、村にはその神様を祀る巫女の役割を果たす女性が住んでいた。
普段は農業を手伝っていたが、祀り事などを取り仕切り、日照りの時には雨乞いの儀式をしたりもする。
生活は手伝いやその儀式の見返りとして食べ物やお金を貰うことで成り立たせていたという。
何年かは彼女が雨ごいをすると、見事雨が降りだし村を救ってくれていたのだが、ある時、日照りが続き飢饉や疫病が村を襲う。
巫女は雨ごいを行ったが、その時に限って雨が降らない。
そこで村の庄屋を始め村の者たちは彼女が責め立てた。このまま行けば村八分にするとまでいった。それだけ切羽詰まっていたのだ。
折悪くその時、彼女は身ごもってもいた。しかし、村の者は父親が誰だか知らない。
村八分となれば誰も頼ることもできず出産も一人でやらなければならない。無事生まれても独り身で子供を育てることなどできない。
そういわれた彼女は「わかりました。では、責任をもって雨を降らせて御覧にいれましょう」いうと、祠の方へ向かっていった。
暫くすると、実際に雨が降りだしたという。
村人たちは大層喜んだ。が、巫女が戻ってこない。あまりに遅いので皆連れだって様子を見に行くと、彼女はご神木に首を吊って亡くなっていた。つまり、自分の身を捧げることで雨ごいを果たしたのだ。
村人たちは大層嘆き悲しんだが、村の庄屋は「村の恥だからと」表にださないように口を封じた。
しかし、人の口に戸は立てられない。
実は巫女が身籠っていた子供の父親は庄屋ではないかと噂が立った。
普段であれば、村の庄屋が愛人を作って面倒を見るくらいのことは問題なかっただろう。
だが、飢饉の折にはそんな余裕はない。そこで村八分にするといって彼女を追いこんだ。
どこかに別な土地に追っ払えればいいとでも思ったのかもしれない。
でも、結果はこれだ。
流石に外聞がわるい。だから真実が漏れるのを恐れて村の者へ口を封じたのだろうと。
ただ、村人たちも彼女を責め立てた一員であり共犯者だ。敢えてそこに触れようというものはいなかった。
結果、祀られていた祠やご神木には誰も近づかなくなりその記憶も風化していく。
ただ、庄屋一族の一部にだけこの話が伝わっていたらしい。古老は父親から口伝えにその話をきかされたのだという。
源吾はそれを聞いて顔が青ざめて、身体が震えるのを抑えられなかった。
その村の庄屋の一族とは彼の先祖に他ならなかったからだ。
主夫婦に子供が生まれる事はなく、彼が後を継いだのだ。程なくして結婚したのだが、彼等夫婦もまた子宝には恵まれずやむなかった。やむなく彼自身も養子を迎える。それから程なして妻がなくってしまったという。
この時点で既に義両親も既にいない。しかも店は義理の息子夫婦のみで切り盛りできてしまっている。かといって別に義理の息子夫婦と仲が悪い訳でもない。寧ろ何かにつけて気にかけてくれるし、彼を立ててくれた。
しかし、彼の立場からして身の置き所がないと考えるのも無理からぬところだった。
その上彼の心にはずっとひっかかっていることがある。
実家族は性質の悪い詐欺師に騙されたあげく、行き所が亡くなり無理心中したのだ。
自分自身は養子へ出て難を逃れた訳だが、結局自分もその後出来た縁ある人達をみんな失ってしまった。
そういう星の巡りあわせなのかもしれないと、日増しに想いは募り、息子夫婦に子供が生まれた事をきっかけに隠居することを決める。
住む土地は既に決めていた。彼が養子に入る前住んでいた地域だ、つまり彼の実家族が生まれ育ち悲惨な最期を遂げた土地だ。
自分が幼い頃に住んでいた家はとっくに取り壊されていたが、ほど近いところに空き家を見つけてそこに住むことにしたのだ。
移り住んですぐに辺りを見て回った。印象としては幼い頃とほとんど変わらない。
兄と一緒に駆け回った原っぱや川辺もそのまま残っており、まるでタイムスリップした感覚を味わった。
が、一か所だけ足を向けられない場所がある。
それは、実の家族が命を落とした木のある山道だ。
養子に出て以来、実家族との交流もなく、会わないままだったが、どのような最期を遂げたかは耳にしていた。
悲しみはあったが、それ以上に自分が【難を逃れて】生きながらえられた事に疚しさも感じた。だから、なるべく考えないようにしてきたのだ。
更に、ここに移り住む前に漏れ伝わってきていた噂。
それは、実家族が亡くなった木を使って次々と首吊りが発生していると。
単純に怖かった。
ひょっとしたら実家族は自分だけが助かったことを恨んでいるのかもしれない。家族全員が揃わないことを寂しがっているのかもしれないとも考えた。
考えすぎかもしれないし、例えそれが事実だとしても、源吾自身に非がある訳ではない。
今有る生を精一杯生きればいいと想う事にして、仕事に励んだ。
が、その結果はどうだったか。
縁ある人も亡くなり、実家族もいない。
彼は一人遺されただけだ。
いつか自分が呼ばれる番がくるのかもしれない。
そうしなければ首吊りの連鎖は終わらないのかもしれない。
そう想うこともあったがかといって彼は死ぬ気はさらさらなかった。
だから、あの木の傍まではいかなかった。いや、いけなかったのだ。
つまり、ここは懐かしい故郷の地でありながら、自分を死に誘うかもしれない忌地でもある。
そう考えたとき、彼は土地そのものに興味を覚えた。
そこで、未だに残っている地域の古老を訪ねて色々な話を聞いたのだが。
すると、元実家の遠縁にあたる男性に巡り合うことができてこんな話を聞かされた。
そこから更に遡った昔の事。
一帯は花森村と呼ばれていた頃の話。
あの山道の脇に小さな祠とご神木があった。それは名前もついていないが、田んぼや畑の五穀豊穣を司る、いわゆる農業神を祀る物だった。
そして、村にはその神様を祀る巫女の役割を果たす女性が住んでいた。
普段は農業を手伝っていたが、祀り事などを取り仕切り、日照りの時には雨乞いの儀式をしたりもする。
生活は手伝いやその儀式の見返りとして食べ物やお金を貰うことで成り立たせていたという。
何年かは彼女が雨ごいをすると、見事雨が降りだし村を救ってくれていたのだが、ある時、日照りが続き飢饉や疫病が村を襲う。
巫女は雨ごいを行ったが、その時に限って雨が降らない。
そこで村の庄屋を始め村の者たちは彼女が責め立てた。このまま行けば村八分にするとまでいった。それだけ切羽詰まっていたのだ。
折悪くその時、彼女は身ごもってもいた。しかし、村の者は父親が誰だか知らない。
村八分となれば誰も頼ることもできず出産も一人でやらなければならない。無事生まれても独り身で子供を育てることなどできない。
そういわれた彼女は「わかりました。では、責任をもって雨を降らせて御覧にいれましょう」いうと、祠の方へ向かっていった。
暫くすると、実際に雨が降りだしたという。
村人たちは大層喜んだ。が、巫女が戻ってこない。あまりに遅いので皆連れだって様子を見に行くと、彼女はご神木に首を吊って亡くなっていた。つまり、自分の身を捧げることで雨ごいを果たしたのだ。
村人たちは大層嘆き悲しんだが、村の庄屋は「村の恥だからと」表にださないように口を封じた。
しかし、人の口に戸は立てられない。
実は巫女が身籠っていた子供の父親は庄屋ではないかと噂が立った。
普段であれば、村の庄屋が愛人を作って面倒を見るくらいのことは問題なかっただろう。
だが、飢饉の折にはそんな余裕はない。そこで村八分にするといって彼女を追いこんだ。
どこかに別な土地に追っ払えればいいとでも思ったのかもしれない。
でも、結果はこれだ。
流石に外聞がわるい。だから真実が漏れるのを恐れて村の者へ口を封じたのだろうと。
ただ、村人たちも彼女を責め立てた一員であり共犯者だ。敢えてそこに触れようというものはいなかった。
結果、祀られていた祠やご神木には誰も近づかなくなりその記憶も風化していく。
ただ、庄屋一族の一部にだけこの話が伝わっていたらしい。古老は父親から口伝えにその話をきかされたのだという。
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