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1巻
1-2
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香織は仕事を放棄して彼に媚びを売っているようだが、大倭は彼女に背を向けて黙々と作業をしている。
(……あれ? 大倭が香織ちゃんに代わって、客室からお膳を下げてくれたんだ)
大倭は昔から、口は悪いもののよく気が回る。番頭のようにふんぞり返ることはなく、多くの雑用を自発的にこなすため、周囲からの人望も厚い。
「副番頭は偉いんだから、そんなことしなくてもいいんですよう! それは雫さんのお仕事なんです! 廊下に出しておけばやってくれますよ」
香織の声にカチンと来た雫は、できるだけにこやかに、ふたりの背後から声をかけた。
「まあ、副番頭。お忙しいのに、わたしたちの仕事まで手伝って下さり、ありがとうございます。あ~ら、香織ちゃん、そこにいたの? 早めの休憩中?」
すると、香織はぎくりとした顔を向ける。
「そ、そうなんですよ。休憩中で……」
「そう。休憩中悪いけれど、わたしと一緒に、ひとつでもいいからお膳を厨房に運んでくれないかしら。仲居のお仕事を副番頭に任せるわけにはいかないでしょう?」
「え……。これ重いし、着物の袖に汚れがついたら困るし」
「たすき掛けしてあげる。それに着物は撥水加工。仮に汚れても予備の着物があるから安心して?」
「私は雑用するために仲居になったわけじゃ……」
「仲居になるのはこれからよ。見習いの今は、どんなに汚れても、仕事を覚えるのが大切」
優しく諭したつもりだったが、口を尖らせる香織は手強い。
「雫さんは、化粧が剥げても髪がほつれても気にしないひとだけど、私は華宵亭に相応しい女子力の高い姿でお客様の前に出たいんですよ。着替えれば終わりじゃないんです!」
雫はくらりとする。彼女の言い分を理解できない。
化粧が剥げて髪がほつれるのは、仕事で動き回るからだ。それに休憩時間の合間に、きちんと身だしなみは整えている。女子力が高いとは思わないが、低いと言われる筋合いはない。
「あのねぇ……」
雫の声が低くなったことで身の危険を感じたらしい。途端に香織は、大倭の袖を掴む。
「酷いです。雫さんが先輩たちから扱かれているのは自分のせいじゃないですか。それなのに、後輩の私に当たって、同じ目に遭わせようだなんて。香織……悲しい。副番頭、助けて下さい」
香織は大倭の袖を掴んだまま、大きな目をきゅるんと潤ませた。
だが大倭はその小悪魔的テクニックに堕ちるどころか、ため息をつき、香織の手を払う。
「泣くのは勝手だが、華宵亭の従業員として仕事をするのが先だと思わないか?」
漆黒の瞳が冷ややかだ。大倭が味方にならないと悟った香織は、屈辱に顔を歪めて「酷い」と言い捨てると、パタパタと走り去った。
「……香織ちゃんって、最初からブレないよね。あそこまで貫かれると清々しくも感じるわ」
「他人事かよ。どうにかなんねぇのか、あれ」
「どうにかする方法があるのなら、わたしが教えてもらいたいよ。彼女、仕事がしたいのではなくて、イケメン限定で婚活をしたいの。その候補のひとりが大倭。可愛い娘を泣かせた責任をとれって、荒ぶる番頭がやってこなければいいね。気がついたら外堀を埋められていそう」
「怖いこと言うなよ。大体、泣かせたのはお前だろうが」
小声で会話をしながらも、雫と大倭の片づけは素早い。雫がいつも通り三膳ずつ両手で運ぼうとしたところ、大倭が奪い取り、雫に二膳が手渡された。
(こうしたところが、男らしいというか……優しいんだよね)
「どうもありがとうね。助かりました」
「仕事だからな」
彼は基本的にぶっきらぼうだが、こうして雫をそっと助けてくれる。
今までどれだけ彼に助けられてきたことだろう。
「お前さ、女将かお袋に訴えた方がいいんじゃねぇか? この劣悪環境」
「わたしに、香織ちゃんその二になれと?」
「お前のは正当な訴えだろう? 仕事量が半端じゃないのに、一方で暇な仲居もいるんだから」
「ははは。まだまだ余裕。それに最初から、耐えるのも修業だって女将さんに言われてるし」
「だけどよ……」
大倭と仲居長である小夜子だけは、雫が瑞貴の許婚だということを知っている。
「黙って見守っていてよ、今まで通り。これはわたしの修業なの。それに騒ぐことで迷惑をかけたくないもの。和を大切にする若旦那に……」
大倭はなにか言おうとしたが、口を噤むと顔を背けた。彼の漆黒の瞳が苛立ったように揺れていたことに気づかず、雫は前方から現れた人影に足を止める。
爽やかな若草色の着物と羽織を着た、艶やかな男性――
「……若旦那、お帰りなさい!」
雫は破顔して、大倭の横を擦り抜けた。
その際、大倭が唇を噛みしめたのにも気づくことなく。
「ただいま、雫」
瑞貴は暗紫色の目を細めて柔らかく笑うと、雫の頭を撫でた。
ふわりと、甘い香りが雫の鼻腔を擽り、くらくらしてくる。
「頑張っているようだね。なにか困っていることはない?」
「ありません」
雫は今日も笑顔で嘘をつく。瑞貴の笑顔を曇らせないために。
「そう。それはよかった」
瑞貴から感じるのは、彼と初めて会った日から変わらない、ひだまりのような暖かさ。
どんなに心が凍てついても、彼の笑顔を見ると氷は溶け出し、どこまでも頑張ることができる。
「その膳は厨房に? 僕が返してきてあげる」
「駄目ですよ、若旦那。それはわたしの仕事ですから!」
「たまにはいいじゃないか。少しは手伝わせてよ」
「駄目ですって。若旦那は働きすぎだから、身体を休めて……」
「雫は、僕のことを心配してくれているの? 本当に優しいね、きみは」
瑞貴が甘やかな微笑を浮かべた時、ゴホンというわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
瑞貴はすっと笑みを消すと、冷ややかな声を出した。
「……なんだ、そこにいたのか、雫の腰巾着」
「いたのかじゃねぇだろうが、最初から目に入っていたくせに。雫の立場も考えて、周りを気にしろよ!」
昔から瑞貴は、大倭にだけは塩対応だ。そして大倭もまた、周りに人影がなければ、瑞貴に喰ってかかる。取り繕わなくてもいいのが幼馴染のよさだとは思うが、もうちょっと仲良くしてもいいんじゃないかとも思ってしまう。それとも男同士とはこういうものなのだろうか。
「お前に、こそこそする必要性を感じないんだけど」
「少しぐらい俺にも遠慮をしてみせろよ! ああ、もう。腹立たしいから、先に行ってるわ」
そう言いながらも、きっと大倭は周囲を見張ってくれるつもりなのだ。
「これで、うるさい小姑は消えたな。ようやく僕の許婚とふたりになれた」
瑞貴は、雫の頬を撫でてにっこりと微笑んだ。
〝許婚〟――それを耳にした雫はわずかに顔を歪めた。小さな棘がついた蔦のようなもので、緩やかに首を絞められている感覚になったのだ。
(いけない、いけない! ちゃんと笑顔にならなきゃ!)
泣きたい心地を堪えて、笑顔で瑞貴に問うてみる。
「若旦那、指切り、覚えてます?」
「もちろん。僕が泡になって消えないように、きみがずっと一緒にいてくれる約束だろう?」
今は、無邪気に彼の膝の上に乗ることはできない。気軽な触れ合いもできない。
近いのに遠い関係だ。それでも――
「そうです。今も消えないよう、見張っていますからね」
「ああ、見張っていて。結婚してからも僕をずっと」
するりと彼が口にした、結婚という言葉。ちくりと胸に痛みが走るけれど、彼がふたりだけの思い出を覚えてくれているのなら、それで満足しよう。
「若旦那~。お迎えの時間です!」
大倭の声が聞こえる。
「ああ、そんな時間なのか。じゃあ行かないと。……そうだ、雫」
瑞貴は袖から小瓶を取り出し、中身を指で摘むと雫の口の中に入れた。
それは老舗菓子店『松菓堂』の金平糖。上品な甘さが口に広がった。
「また後でね」
瑞貴は甘い顔で雫の頬を撫で、麗しい後ろ姿を見せて去っていく。
(やっぱり子供扱いされているわ。まあ、いつもくれるこの金平糖は、美味しくて好きだけど)
複雑な気持ちで、雫も急ぎ足でフロントに向かい、入ってきたばかりの客に頭を下げている大倭の隣に立った。そうして膳を持ったまま深く頭を垂らす。
「若旦那、会いたかったわ~」
やってきたのは、月に数度、華宵亭を利用する馴染み客――大女優の吉川映子だ。
瑞貴に抱きつき、メリハリある身体をぐいぐい押しつけ、派手に喜びを体現していた。
後ろには、ぺこぺこと頭を下げる困り顔の男性マネージャーがいる。いつもながら影が薄い。
瑞貴は映子の身体をやんわりと離し、微笑みながら言った。
「お待ちしておりました。いつもの桔梗の間にご案内します」
すると映子が慣れた動きで、するりと瑞貴の腕に自らのそれを絡める。
それを拒まぬ瑞貴に、雫の胸がちくりと痛む。
(嫉妬なんておこがましい。若旦那はエスコートしているのよ、お仕事)
そうは思えども、堂々と女を武器にできる映子が妬ましく、同時にあの美貌が羨ましい。
あれだけ美しい女性であれば、瑞貴の横に立っても誰も文句を言わないだろう。
(若旦那も、ああいう女性なら、隣に立たれると嬉しくなっちゃうんだろうな)
それにひきかえ、自分は――
(ああ、くよくよしちゃ駄目! わたしはわたし)
雫は気持ちを入れ替え、映子と連れ立って消える瑞貴に背を向け、厨房へ歩き出した。
*゚。・*・。゚*
夕暮れ時になると、華宵亭は茜色に染め上げられる。
特に大庭園の奥に広がる相模湾の水面が、夕映えに赤くなりゆく様子は絶景だ。
雫が小さい時は、よく庭で瑞貴の膝に乗せられ、美しい海を一緒に眺めた。
『雫。夕方は黄昏時というんだ。黄昏というのは〝誰そ彼〟ともいい、「あなたは誰ですか?」と聞いてしまうくらいに薄暗い頃、という意味なんだよ。段々と夜が近づいて、僕の顔がわからなくなってくる頃、雫は僕を残して帰ってしまうつもりなのか、それとも僕とずっと一緒にいてくれるのか、とても気になって寂しくなる』
放したくないとばかりに、ぎゅっと雫の身体を抱きしめて、瑞貴は言ったものだ。
『〝誰そ彼〟とは反対に、夜が明ける頃のことを〝彼は誰〟という。同じ薄暗い時でも、これから明るくなって雫と会える〝彼は誰時〟の方が、僕は好きだ』
「――はぁ、あの頃はよかったなあ」
赤色に染まる大庭園を見て、雫は過去を思い出しため息をついた。しかしすぐぱんぱんと頬を手で叩いて、自分自身に気合を入れる。
「昔にトリップしてはいけないわ。今は倉庫に行って器を探さないと!」
静かに廊下を走るのは、雫の得意技でもある。しかしこの時は焦りすぎて、つるりと滑った。このままでは派手にひっくり返り、大きな物音をたてて客をびっくりさせてしまう。なんとかそれを回避しようとした雫が、両手をばたばたさせて片足で踏ん張っていたところ、帯に後ろから誰かの手が巻きついた。そして優しげな声が雫の耳に届く。
「きみの危機だと思って駆けつけたつもりだけど、体操をしていたとかではないよね?」
瑞貴である。日舞で鍛えた彼の足さばきは神がかり的に音がしないため、気づかなかった。
「ち、違います。ありがとうございます、助かりました」
「役に立つことができたようでよかったよ。今、ちょうど夕食の手伝いをしようと、厨房に向かっていたところだったんだ。いいタイミングだったね」
ふわりと瑞貴は笑った。
「しかし、そんなに慌ててどうしたの? 厨房とは逆の方に向かっていたみたいだけれど」
「実は……デザートのみかんの花蜜アイスを載せる器なんですが、準備中に五客割れてしまいまして。他の仲居は足りない分を伊万里焼の小鉢に入れればいいと言うのですが、板長さんが渋っていますし、わたしも抵抗があるんです。今日は蒸し暑いのに、あの器では高級感はあっても冷涼感がなくて。それに白アイスに琥珀色の蜜をかけても、白磁では色が映えにくい。それで倉庫になら、なにかあるかもと」
すると瑞貴は腕組みをして思案顔を見せた。
「……華宵亭の食事も器も、季節を考えて僕と板長で決めている。特に板長はこだわりがあるひとだし、僕も伊万里焼の小鉢は反対だな。合わない」
「ですよね。大倭も、それなら色つきの硝子皿の方がマシではないかって」
瑞貴はひくりと片眉を跳ねさせる。
「……大倭も知っているのか?」
「え……あ、はい。わたしが聞いてみました。いけませんでした?」
「いや……。そうだな、倉庫に行かずとも、黒い楽焼の皿を使おう。硝子はどうも安っぽい」
瑞貴の返答が意外で、雫は驚きに目を瞬かせた。
「黒? 白いアイスは引き立ちますが、冷涼感が出ますか?」
「他で涼しさを感じさせればいい。ちょっとついてきて」
雫は瑞貴に誘われ、大庭園に向かった。奥の茂みの中に入ると、彼がある花を指さす。
「山荷葉だ」
「サンカヨウ?」
「そう。この白い小花は野花みたいに素朴だけど、ギザギザの葉は蓮に似ているだろう? 蓮の葉は別名、荷葉とも呼ばれ、これは山でよく見られる花だから山荷葉なんだ。これを使おうと思う」
「はぁ……。これが涼しさを感じさせるアイテムになるんですか? 可愛らしい花ではありますが」
瑞貴は意味深に笑うと、ホースを引いて山荷葉に水をかけた。
すると水を浴びた白い花びらは、氷細工のように透明になったのだ。
「えぇぇぇ……なんで……。うわ、裏まで透明だわ!」
「不思議だろう? これを皿に添え、一緒に冷たい蜜をかけてもらおう。黒の器だから白い花も映える。山荷葉の変化が、アイスの冷涼感を引き立ててくれるはずだ」
こうしてできた黒皿に山荷葉が添えられた花蜜アイスは、限定五客。目でも楽しめるこのデザートは大好評で、板長も今後のメニューに加えたいと大喜びだった。
雫は周囲に誰もいないことを確認して、瑞貴に客の反応を伝えに行った。身振り手振りを加えて嬉々として語る雫に、彼は柔らかく微笑む。
「食事は目でも楽しませるものだとわかっていたつもりでしたが、やはり若旦那はすごいです。あのお花、時間が経って乾いてくると、また白くなるんですね。手品のようでした!」
「ふふ。大庭園で山荷葉を見つけた時、雫に見せてあげたいと思っていたんだ。……茜さす時間帯をすぎても、こうして消えないで華宵亭にいてくれるきみが、目を輝かせて喜ぶ姿を見たくて」
雫の胸がとくりと切ない音をたてた。
(若旦那も夕陽で、同じ記憶を思い返してくれていたの? ……彼が思い出したのは、あの頃のわたし? それともあの頃の自分の気持ち?)
それが聞けず、雫は控えめな微笑を作る。
「ありがとう……ございます」
そんな雫に向けられた暗紫色の瞳は、切なげに揺れていた。
不意に伸ばされた瑞貴の手が雫の頬を撫で、その親指がおもむろに彼女の唇をなぞった。
なにかを訴えられている気がする。妖しく艶めき出した彼の空気が、雫を戸惑わせた。
「若、旦那……?」
わずかに怯えた雫の声を聞き、瑞貴はため息をつくと、袖から金平糖の小瓶を取り出す。長い指でひとつ摘んで雫の口に入れ、また瓶を袖にしまう。
それを見た雫は、ふと疑問を投げかけた。
「若旦那の袖からはいつも金平糖が出てきますが、金平糖以外のお菓子も入っているんですか?」
「ふふ、案外きみが好きな練り切りとかも入っているかもしれないよ?」
(え……和菓子まで入っているの? だからいつも甘い香りがしているとか……)
「……ちょっと、覗いてみてもいいですか?」
「だーめ。これは僕の秘密」
瑞貴は、形のいい唇の前に人差し指をたてた。雫はその仕草にエロチックさを感じてどきどきしてしまう。それを悟られまいと出した声は、やけに上擦ったものになった。
「そ、そう言われたら、とても気になるんですが!」
「だったら……ずっと僕を気にしていてよ。四六時中」
切れ長の目はぞくりとするほど挑発的で、雫の鼓動がさらに騒がしく跳ねた。
心臓がおかしくなると雫が焦った次の瞬間、暗紫色の目が愉快そうに細められる。
「おかしな体操なんてしていないで、さ」
途端に雫は先ほどの醜態を思い出し、真っ赤になって言った。
「あれは体操じゃありませんってば! 綺麗さっぱりと忘れて下さい!」
「ははは。忘れられないほどすごい体勢だったよ。こんな感じ……飛べない鶴?」
同じ体勢を再現しても、瑞貴の動きはどこまでも優雅である。
「真似しないで下さい。若旦那、誰かが見ていたら!」
雫は焦って、きょろきょろとあたりを見回した。幸い、誰もいない。
「僕の体操だと言えばいい。これから皆で朝の体操としてこれをしようか。雫、指導役頼むね」
「それだけはいやです!」
「おや、仲居が僕の決定に逆らっていいのかな?」
「うう……今日の若旦那は、意地悪です!」
雫が恨みがましく涙目を向けると、瑞貴は雫の頬を撫で、優しく微笑んだ。
「ふふ、これも……可愛い僕の許婚への愛情表現だよ」
その言葉は、どこまでも清らかで――
(……ああこれが、わたしが欲しい愛であれば幸せなのに)
雫はまた切ない気持ちを封じて、微笑み返すのだった。
*゚。・*・。゚*
華宵亭では、仲居は昼食を控え室でとることになっている。
下っ端の雫は、いつも二時頃にひとりで食べているが、その日は片づけに手間取り、三時過ぎになってしまった。自販機の飲み物を買いに行く間に香織がやってきたらしく、和室にある鏡台の前で化粧を直している。
気遣って話しかけても返事がない。控え室に重い沈黙が流れる。
他に食事ができる場所もないため、ひたすら胃に詰め込んで、仕事へ戻ろうと心に決めた。
(クレンジングから化粧のやり直し? それは、ご苦労なことで……)
ちらりと鏡台を窺い見た雫は、鏡に映っている顔を思わず二度見してしまった。
重い一重の目、団子っ鼻に分厚い唇、エラの張った顔。
雫が知る香織とは、似ても似つかぬ顔が映っていたのだ。
(香織ちゃん……よね? 髪形も、あの化粧ポーチも……)
考えてみれば、あの厳つい番頭の娘だというのに香織はやけに可愛かった。母親がかなりの美人なのだろうと思っていたが、鏡の中の香織は、ずいぶんと番頭に似ている気がする。
視線を感じたのか、鏡の中から冷ややかな眼差しを向けられた。
「……笑いたければ笑えばいいでしょう。雫さんは化粧が剥げた最悪な顔でも、中の中くらいの凡顔だからいいかもしれませんが、私は雫さんより若々しくてピチピチなのに、こんな顔なんです。一時間に一回は補正しないといけないだなんて、面倒で理不尽すぎますよ」
辛辣な言葉を浴びせられたことよりも、どんな化粧をすればあの可愛らしい顔になるのかということの方が、雫は気になって仕方がない。再び鏡を見ると、香織が左目を作り終えたところだ。
雫は茶碗と箸を持ったまま香織の横に立ち、じっと鏡を見つめた。
「なんでそんな……かまぼこ形のぱっちり二重の目になるの?」
その感想に反応することなく、香織は雫が知らない小道具を駆使して顔を作る。自分も知る香織の顔に近づいていくにつれ、雫の目が見開かれた。
「神……」
「これくらい当然です。女ですから」
「詐欺……」
「『うるせぇ、黙りやがれ』ですよ。努力して身につけた武器にケチつけないで下さい。私の素顔、広めるなら勝手にどうぞ。若旦那も副番頭もまるで相手にしてくれないし。私、ここを辞めるつもりですから」
「一ヶ月で⁉」
「一ヶ月ももったんだからいいじゃないですか。元々、華宵亭が欲しい父さんが、私をハニートラップに使おうとしていただけですし。うまくいかなきゃ、いる意味ないでしょう?」
とんでもない内幕を聞かされた気がする。
「いやだったんですよね、女だからという理由で父親から利用されるの。それに私の学生時代の不本意な仇名、腋臭です。だからさっさと結婚して名字を変えたかった」
(常脇香織……なるほど、常に腋が香っていると)
「ここにいても結婚できそうにないし、番頭の娘というだけで、仕事もせず色目ばかり使う……こんな女をちやほやする仲居にもうんざり。逆にいい指導役ぶって仕事をさせようとする、誰かさんもうざかったし」
香織のことを見誤っていたのかもしれないと、雫は思った。素の彼女はどこまでもドライかつ毒舌で、姿を変えることで複雑なやりきれなさを誤魔化していたのだ。
(ああ、わたし……まだまだひとを見る目がないな)
雫は笑って香織の顔に手を伸ばすと、ほっそりとした輪郭を作っているテープを一気に剥がす。
「ちょっと、なにするんですか!」
素顔のエラが目立ち、香織がヒステリックに怒鳴る。
「猫を被ってできないフリをしていた挙げ句、逃げようとしている罰。ギブアップはまだ早いよ、香織ちゃん。努力と根性があることを、あなたはまだわたしたちに見せていない。このままじゃ、ただの世間知らずの負け犬だよ」
香織は返事をしなかった。
「わたしなら、できないと思われるのは絶対いや。皆ができていることなら特に、どんな努力をしてでもやり遂げたい。それが、わたしのプライド」
「どんなに頑張っても、ひとと同じことができなかったらどうするんですか……」
香織は握った手に力を入れて、ぼそりと呟く。
「自分は、顔以外でもひとより劣っていると、再認識させられるだけなのに」
香織はきっと、顔の造作で傷ついてきたのだ。そのせいで必要以上に臆病になっている。彼女にとって化粧とは、弱い自分を守る虚勢なのだろう。培った技がなければ、己がいかに脆弱なのか悟っている。努力しないことは、彼女の逃げ道なのだ。
「やってみないとわからないじゃない。自分の可能性を信じてあげないの? まだわたしより若いのに、人生、そうやって諦め続けるの?」
「……っ」
「可愛さ以外に、努力してもうひとつ武器を手に入れようよ。あなたがアプローチしなくても、男の方が〝顔だけじゃない女〟って寄ってきてくれるような。一石二鳥だと思うけど」
雫の提案に、香織は小さく答えた。
「……頑張ったら。若旦那、振り向いてくれますかね?」
途端に雫は血相を変える。
「ターゲットは若旦那⁉ 駄目よ、駄目! 彼は振り向かせちゃ、絶対駄目!」
思わず私情を挟んで即答した後、気まずい沈黙が流れた。
「……雫さん、副番頭ではなくて若旦那が本命なんですか?」
「い、いや、その……」
なぜ大倭の名前が出てくるのかと思いつつ、自爆してしまった雫は頬の熱さを感じている。
「うわ……まるで裸でエベレスト登山に挑戦するような無謀さ」
雫はずぅんと落ち込んで、その場で四つん這いになった。そしてふと思う。
自分には瑞貴を振り向かせるために、女として〝努力して身につけた武器〟はあったかと。
彼に恥をかかせないように、仲居の仕事は全力で取り組んできたが、瑞貴個人に対しては、昔から素のままだった気がする。香織のようなアピールもしたことがない。
(もしかして、子供扱いされているのは、わたしのせい⁉)
今の自分が女らしくなれば、いくらかは意識してくれるだろうか。
「大体、色気皆無の雫さんと色気垂れ流しの若旦那が、釣り合うわけ……」
雫は両手で、香織の手を強く握りしめた。
「香織ちゃん。色っぽくなれるお化粧方法、教えて。今すぐ!」
*゚。・*・。゚*
「香織ちゃんのメイクは、神技だわ。今まではなかった色気っぽいものも出ている気がする」
雫は化粧室の鏡に自分の顔を映して、感嘆の息をつく。
教えを乞うたものの、結局、雫の不器用さを見兼ねた香織にメイクをしてもらったのだが、のっぺりしていた顔に陰影がつき、肌つやもよくなった気がするのだ。香織に散々毒を吐かれた甲斐がある。
(これなら若旦那も、少しはわたしを意識してくれるかな……)
「……いけない、こんな時間。仕事に戻らないと」
休憩時間後は、華宵亭自慢の懐石料理の準備が待っている。
本日の懐石料理は七品。客の食べる速度を見計らい、適温の品を部屋に運ばないといけない。
夕食に関しては、仲居全員が手分けして配膳することになっている。
さらに華宵亭の名物は、女将が作る季節の食前酒。旬の花や果実を漬け込んだもので、味だけではなく、色や匂いも同時に楽しめる。
配膳室は戦場だった。せっかくの化粧を瑞貴に見せに行く時間もない。
厨房は板前たち男性調理人の神聖な場だ。昔、女性は立ち入り禁止だったらしいが、今は仲居も出入りができ、完成したばかりの上品な料理をすぐにカートで運ぶことができる。
雫があたふたと料理をカートに入れていると、ふと白髪頭の板長と目が合う。
彼は副板長の時から雫を知っていて、瑞貴や大倭とのおやつにと、よく和菓子を作ってくれた。
「どうした雫ちゃん。今日はやけに色っぺぇな」
褒められた雫は顔がにやけないように気をつけながら、いつもと同じだとすまして答える。
「女が変わる時は男絡みだと相場が決まっているもんだ。男だろ、片桐の坊主か?」
「なんで大倭が出てくるんですか。板長さんご存じでしょう、ただの幼馴染です」
「いやいやいや。お前さんがそうでも、あの坊主は……」
その時だ。
「……まだかな。待っているんだけど」
苛立った声を響かせて、中に入ってきたのは瑞貴だった。
慌てて謝罪の言葉を口にして頭を下げるふたりだが、瑞貴の様子はいつもとは違うままだ。無表情でふたりの横を素通りすると、カートに料理を載せ始める。
「若旦那、わたしがやります」
雫は青ざめた。仕事中に無駄口を叩いていたから、瑞貴を失望させてしまったのだ。雫は涙を堪えつつ料理をカートに載せ、配膳室に運ぶために誰もいない廊下へ出た。
(……あれ? 大倭が香織ちゃんに代わって、客室からお膳を下げてくれたんだ)
大倭は昔から、口は悪いもののよく気が回る。番頭のようにふんぞり返ることはなく、多くの雑用を自発的にこなすため、周囲からの人望も厚い。
「副番頭は偉いんだから、そんなことしなくてもいいんですよう! それは雫さんのお仕事なんです! 廊下に出しておけばやってくれますよ」
香織の声にカチンと来た雫は、できるだけにこやかに、ふたりの背後から声をかけた。
「まあ、副番頭。お忙しいのに、わたしたちの仕事まで手伝って下さり、ありがとうございます。あ~ら、香織ちゃん、そこにいたの? 早めの休憩中?」
すると、香織はぎくりとした顔を向ける。
「そ、そうなんですよ。休憩中で……」
「そう。休憩中悪いけれど、わたしと一緒に、ひとつでもいいからお膳を厨房に運んでくれないかしら。仲居のお仕事を副番頭に任せるわけにはいかないでしょう?」
「え……。これ重いし、着物の袖に汚れがついたら困るし」
「たすき掛けしてあげる。それに着物は撥水加工。仮に汚れても予備の着物があるから安心して?」
「私は雑用するために仲居になったわけじゃ……」
「仲居になるのはこれからよ。見習いの今は、どんなに汚れても、仕事を覚えるのが大切」
優しく諭したつもりだったが、口を尖らせる香織は手強い。
「雫さんは、化粧が剥げても髪がほつれても気にしないひとだけど、私は華宵亭に相応しい女子力の高い姿でお客様の前に出たいんですよ。着替えれば終わりじゃないんです!」
雫はくらりとする。彼女の言い分を理解できない。
化粧が剥げて髪がほつれるのは、仕事で動き回るからだ。それに休憩時間の合間に、きちんと身だしなみは整えている。女子力が高いとは思わないが、低いと言われる筋合いはない。
「あのねぇ……」
雫の声が低くなったことで身の危険を感じたらしい。途端に香織は、大倭の袖を掴む。
「酷いです。雫さんが先輩たちから扱かれているのは自分のせいじゃないですか。それなのに、後輩の私に当たって、同じ目に遭わせようだなんて。香織……悲しい。副番頭、助けて下さい」
香織は大倭の袖を掴んだまま、大きな目をきゅるんと潤ませた。
だが大倭はその小悪魔的テクニックに堕ちるどころか、ため息をつき、香織の手を払う。
「泣くのは勝手だが、華宵亭の従業員として仕事をするのが先だと思わないか?」
漆黒の瞳が冷ややかだ。大倭が味方にならないと悟った香織は、屈辱に顔を歪めて「酷い」と言い捨てると、パタパタと走り去った。
「……香織ちゃんって、最初からブレないよね。あそこまで貫かれると清々しくも感じるわ」
「他人事かよ。どうにかなんねぇのか、あれ」
「どうにかする方法があるのなら、わたしが教えてもらいたいよ。彼女、仕事がしたいのではなくて、イケメン限定で婚活をしたいの。その候補のひとりが大倭。可愛い娘を泣かせた責任をとれって、荒ぶる番頭がやってこなければいいね。気がついたら外堀を埋められていそう」
「怖いこと言うなよ。大体、泣かせたのはお前だろうが」
小声で会話をしながらも、雫と大倭の片づけは素早い。雫がいつも通り三膳ずつ両手で運ぼうとしたところ、大倭が奪い取り、雫に二膳が手渡された。
(こうしたところが、男らしいというか……優しいんだよね)
「どうもありがとうね。助かりました」
「仕事だからな」
彼は基本的にぶっきらぼうだが、こうして雫をそっと助けてくれる。
今までどれだけ彼に助けられてきたことだろう。
「お前さ、女将かお袋に訴えた方がいいんじゃねぇか? この劣悪環境」
「わたしに、香織ちゃんその二になれと?」
「お前のは正当な訴えだろう? 仕事量が半端じゃないのに、一方で暇な仲居もいるんだから」
「ははは。まだまだ余裕。それに最初から、耐えるのも修業だって女将さんに言われてるし」
「だけどよ……」
大倭と仲居長である小夜子だけは、雫が瑞貴の許婚だということを知っている。
「黙って見守っていてよ、今まで通り。これはわたしの修業なの。それに騒ぐことで迷惑をかけたくないもの。和を大切にする若旦那に……」
大倭はなにか言おうとしたが、口を噤むと顔を背けた。彼の漆黒の瞳が苛立ったように揺れていたことに気づかず、雫は前方から現れた人影に足を止める。
爽やかな若草色の着物と羽織を着た、艶やかな男性――
「……若旦那、お帰りなさい!」
雫は破顔して、大倭の横を擦り抜けた。
その際、大倭が唇を噛みしめたのにも気づくことなく。
「ただいま、雫」
瑞貴は暗紫色の目を細めて柔らかく笑うと、雫の頭を撫でた。
ふわりと、甘い香りが雫の鼻腔を擽り、くらくらしてくる。
「頑張っているようだね。なにか困っていることはない?」
「ありません」
雫は今日も笑顔で嘘をつく。瑞貴の笑顔を曇らせないために。
「そう。それはよかった」
瑞貴から感じるのは、彼と初めて会った日から変わらない、ひだまりのような暖かさ。
どんなに心が凍てついても、彼の笑顔を見ると氷は溶け出し、どこまでも頑張ることができる。
「その膳は厨房に? 僕が返してきてあげる」
「駄目ですよ、若旦那。それはわたしの仕事ですから!」
「たまにはいいじゃないか。少しは手伝わせてよ」
「駄目ですって。若旦那は働きすぎだから、身体を休めて……」
「雫は、僕のことを心配してくれているの? 本当に優しいね、きみは」
瑞貴が甘やかな微笑を浮かべた時、ゴホンというわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
瑞貴はすっと笑みを消すと、冷ややかな声を出した。
「……なんだ、そこにいたのか、雫の腰巾着」
「いたのかじゃねぇだろうが、最初から目に入っていたくせに。雫の立場も考えて、周りを気にしろよ!」
昔から瑞貴は、大倭にだけは塩対応だ。そして大倭もまた、周りに人影がなければ、瑞貴に喰ってかかる。取り繕わなくてもいいのが幼馴染のよさだとは思うが、もうちょっと仲良くしてもいいんじゃないかとも思ってしまう。それとも男同士とはこういうものなのだろうか。
「お前に、こそこそする必要性を感じないんだけど」
「少しぐらい俺にも遠慮をしてみせろよ! ああ、もう。腹立たしいから、先に行ってるわ」
そう言いながらも、きっと大倭は周囲を見張ってくれるつもりなのだ。
「これで、うるさい小姑は消えたな。ようやく僕の許婚とふたりになれた」
瑞貴は、雫の頬を撫でてにっこりと微笑んだ。
〝許婚〟――それを耳にした雫はわずかに顔を歪めた。小さな棘がついた蔦のようなもので、緩やかに首を絞められている感覚になったのだ。
(いけない、いけない! ちゃんと笑顔にならなきゃ!)
泣きたい心地を堪えて、笑顔で瑞貴に問うてみる。
「若旦那、指切り、覚えてます?」
「もちろん。僕が泡になって消えないように、きみがずっと一緒にいてくれる約束だろう?」
今は、無邪気に彼の膝の上に乗ることはできない。気軽な触れ合いもできない。
近いのに遠い関係だ。それでも――
「そうです。今も消えないよう、見張っていますからね」
「ああ、見張っていて。結婚してからも僕をずっと」
するりと彼が口にした、結婚という言葉。ちくりと胸に痛みが走るけれど、彼がふたりだけの思い出を覚えてくれているのなら、それで満足しよう。
「若旦那~。お迎えの時間です!」
大倭の声が聞こえる。
「ああ、そんな時間なのか。じゃあ行かないと。……そうだ、雫」
瑞貴は袖から小瓶を取り出し、中身を指で摘むと雫の口の中に入れた。
それは老舗菓子店『松菓堂』の金平糖。上品な甘さが口に広がった。
「また後でね」
瑞貴は甘い顔で雫の頬を撫で、麗しい後ろ姿を見せて去っていく。
(やっぱり子供扱いされているわ。まあ、いつもくれるこの金平糖は、美味しくて好きだけど)
複雑な気持ちで、雫も急ぎ足でフロントに向かい、入ってきたばかりの客に頭を下げている大倭の隣に立った。そうして膳を持ったまま深く頭を垂らす。
「若旦那、会いたかったわ~」
やってきたのは、月に数度、華宵亭を利用する馴染み客――大女優の吉川映子だ。
瑞貴に抱きつき、メリハリある身体をぐいぐい押しつけ、派手に喜びを体現していた。
後ろには、ぺこぺこと頭を下げる困り顔の男性マネージャーがいる。いつもながら影が薄い。
瑞貴は映子の身体をやんわりと離し、微笑みながら言った。
「お待ちしておりました。いつもの桔梗の間にご案内します」
すると映子が慣れた動きで、するりと瑞貴の腕に自らのそれを絡める。
それを拒まぬ瑞貴に、雫の胸がちくりと痛む。
(嫉妬なんておこがましい。若旦那はエスコートしているのよ、お仕事)
そうは思えども、堂々と女を武器にできる映子が妬ましく、同時にあの美貌が羨ましい。
あれだけ美しい女性であれば、瑞貴の横に立っても誰も文句を言わないだろう。
(若旦那も、ああいう女性なら、隣に立たれると嬉しくなっちゃうんだろうな)
それにひきかえ、自分は――
(ああ、くよくよしちゃ駄目! わたしはわたし)
雫は気持ちを入れ替え、映子と連れ立って消える瑞貴に背を向け、厨房へ歩き出した。
*゚。・*・。゚*
夕暮れ時になると、華宵亭は茜色に染め上げられる。
特に大庭園の奥に広がる相模湾の水面が、夕映えに赤くなりゆく様子は絶景だ。
雫が小さい時は、よく庭で瑞貴の膝に乗せられ、美しい海を一緒に眺めた。
『雫。夕方は黄昏時というんだ。黄昏というのは〝誰そ彼〟ともいい、「あなたは誰ですか?」と聞いてしまうくらいに薄暗い頃、という意味なんだよ。段々と夜が近づいて、僕の顔がわからなくなってくる頃、雫は僕を残して帰ってしまうつもりなのか、それとも僕とずっと一緒にいてくれるのか、とても気になって寂しくなる』
放したくないとばかりに、ぎゅっと雫の身体を抱きしめて、瑞貴は言ったものだ。
『〝誰そ彼〟とは反対に、夜が明ける頃のことを〝彼は誰〟という。同じ薄暗い時でも、これから明るくなって雫と会える〝彼は誰時〟の方が、僕は好きだ』
「――はぁ、あの頃はよかったなあ」
赤色に染まる大庭園を見て、雫は過去を思い出しため息をついた。しかしすぐぱんぱんと頬を手で叩いて、自分自身に気合を入れる。
「昔にトリップしてはいけないわ。今は倉庫に行って器を探さないと!」
静かに廊下を走るのは、雫の得意技でもある。しかしこの時は焦りすぎて、つるりと滑った。このままでは派手にひっくり返り、大きな物音をたてて客をびっくりさせてしまう。なんとかそれを回避しようとした雫が、両手をばたばたさせて片足で踏ん張っていたところ、帯に後ろから誰かの手が巻きついた。そして優しげな声が雫の耳に届く。
「きみの危機だと思って駆けつけたつもりだけど、体操をしていたとかではないよね?」
瑞貴である。日舞で鍛えた彼の足さばきは神がかり的に音がしないため、気づかなかった。
「ち、違います。ありがとうございます、助かりました」
「役に立つことができたようでよかったよ。今、ちょうど夕食の手伝いをしようと、厨房に向かっていたところだったんだ。いいタイミングだったね」
ふわりと瑞貴は笑った。
「しかし、そんなに慌ててどうしたの? 厨房とは逆の方に向かっていたみたいだけれど」
「実は……デザートのみかんの花蜜アイスを載せる器なんですが、準備中に五客割れてしまいまして。他の仲居は足りない分を伊万里焼の小鉢に入れればいいと言うのですが、板長さんが渋っていますし、わたしも抵抗があるんです。今日は蒸し暑いのに、あの器では高級感はあっても冷涼感がなくて。それに白アイスに琥珀色の蜜をかけても、白磁では色が映えにくい。それで倉庫になら、なにかあるかもと」
すると瑞貴は腕組みをして思案顔を見せた。
「……華宵亭の食事も器も、季節を考えて僕と板長で決めている。特に板長はこだわりがあるひとだし、僕も伊万里焼の小鉢は反対だな。合わない」
「ですよね。大倭も、それなら色つきの硝子皿の方がマシではないかって」
瑞貴はひくりと片眉を跳ねさせる。
「……大倭も知っているのか?」
「え……あ、はい。わたしが聞いてみました。いけませんでした?」
「いや……。そうだな、倉庫に行かずとも、黒い楽焼の皿を使おう。硝子はどうも安っぽい」
瑞貴の返答が意外で、雫は驚きに目を瞬かせた。
「黒? 白いアイスは引き立ちますが、冷涼感が出ますか?」
「他で涼しさを感じさせればいい。ちょっとついてきて」
雫は瑞貴に誘われ、大庭園に向かった。奥の茂みの中に入ると、彼がある花を指さす。
「山荷葉だ」
「サンカヨウ?」
「そう。この白い小花は野花みたいに素朴だけど、ギザギザの葉は蓮に似ているだろう? 蓮の葉は別名、荷葉とも呼ばれ、これは山でよく見られる花だから山荷葉なんだ。これを使おうと思う」
「はぁ……。これが涼しさを感じさせるアイテムになるんですか? 可愛らしい花ではありますが」
瑞貴は意味深に笑うと、ホースを引いて山荷葉に水をかけた。
すると水を浴びた白い花びらは、氷細工のように透明になったのだ。
「えぇぇぇ……なんで……。うわ、裏まで透明だわ!」
「不思議だろう? これを皿に添え、一緒に冷たい蜜をかけてもらおう。黒の器だから白い花も映える。山荷葉の変化が、アイスの冷涼感を引き立ててくれるはずだ」
こうしてできた黒皿に山荷葉が添えられた花蜜アイスは、限定五客。目でも楽しめるこのデザートは大好評で、板長も今後のメニューに加えたいと大喜びだった。
雫は周囲に誰もいないことを確認して、瑞貴に客の反応を伝えに行った。身振り手振りを加えて嬉々として語る雫に、彼は柔らかく微笑む。
「食事は目でも楽しませるものだとわかっていたつもりでしたが、やはり若旦那はすごいです。あのお花、時間が経って乾いてくると、また白くなるんですね。手品のようでした!」
「ふふ。大庭園で山荷葉を見つけた時、雫に見せてあげたいと思っていたんだ。……茜さす時間帯をすぎても、こうして消えないで華宵亭にいてくれるきみが、目を輝かせて喜ぶ姿を見たくて」
雫の胸がとくりと切ない音をたてた。
(若旦那も夕陽で、同じ記憶を思い返してくれていたの? ……彼が思い出したのは、あの頃のわたし? それともあの頃の自分の気持ち?)
それが聞けず、雫は控えめな微笑を作る。
「ありがとう……ございます」
そんな雫に向けられた暗紫色の瞳は、切なげに揺れていた。
不意に伸ばされた瑞貴の手が雫の頬を撫で、その親指がおもむろに彼女の唇をなぞった。
なにかを訴えられている気がする。妖しく艶めき出した彼の空気が、雫を戸惑わせた。
「若、旦那……?」
わずかに怯えた雫の声を聞き、瑞貴はため息をつくと、袖から金平糖の小瓶を取り出す。長い指でひとつ摘んで雫の口に入れ、また瓶を袖にしまう。
それを見た雫は、ふと疑問を投げかけた。
「若旦那の袖からはいつも金平糖が出てきますが、金平糖以外のお菓子も入っているんですか?」
「ふふ、案外きみが好きな練り切りとかも入っているかもしれないよ?」
(え……和菓子まで入っているの? だからいつも甘い香りがしているとか……)
「……ちょっと、覗いてみてもいいですか?」
「だーめ。これは僕の秘密」
瑞貴は、形のいい唇の前に人差し指をたてた。雫はその仕草にエロチックさを感じてどきどきしてしまう。それを悟られまいと出した声は、やけに上擦ったものになった。
「そ、そう言われたら、とても気になるんですが!」
「だったら……ずっと僕を気にしていてよ。四六時中」
切れ長の目はぞくりとするほど挑発的で、雫の鼓動がさらに騒がしく跳ねた。
心臓がおかしくなると雫が焦った次の瞬間、暗紫色の目が愉快そうに細められる。
「おかしな体操なんてしていないで、さ」
途端に雫は先ほどの醜態を思い出し、真っ赤になって言った。
「あれは体操じゃありませんってば! 綺麗さっぱりと忘れて下さい!」
「ははは。忘れられないほどすごい体勢だったよ。こんな感じ……飛べない鶴?」
同じ体勢を再現しても、瑞貴の動きはどこまでも優雅である。
「真似しないで下さい。若旦那、誰かが見ていたら!」
雫は焦って、きょろきょろとあたりを見回した。幸い、誰もいない。
「僕の体操だと言えばいい。これから皆で朝の体操としてこれをしようか。雫、指導役頼むね」
「それだけはいやです!」
「おや、仲居が僕の決定に逆らっていいのかな?」
「うう……今日の若旦那は、意地悪です!」
雫が恨みがましく涙目を向けると、瑞貴は雫の頬を撫で、優しく微笑んだ。
「ふふ、これも……可愛い僕の許婚への愛情表現だよ」
その言葉は、どこまでも清らかで――
(……ああこれが、わたしが欲しい愛であれば幸せなのに)
雫はまた切ない気持ちを封じて、微笑み返すのだった。
*゚。・*・。゚*
華宵亭では、仲居は昼食を控え室でとることになっている。
下っ端の雫は、いつも二時頃にひとりで食べているが、その日は片づけに手間取り、三時過ぎになってしまった。自販機の飲み物を買いに行く間に香織がやってきたらしく、和室にある鏡台の前で化粧を直している。
気遣って話しかけても返事がない。控え室に重い沈黙が流れる。
他に食事ができる場所もないため、ひたすら胃に詰め込んで、仕事へ戻ろうと心に決めた。
(クレンジングから化粧のやり直し? それは、ご苦労なことで……)
ちらりと鏡台を窺い見た雫は、鏡に映っている顔を思わず二度見してしまった。
重い一重の目、団子っ鼻に分厚い唇、エラの張った顔。
雫が知る香織とは、似ても似つかぬ顔が映っていたのだ。
(香織ちゃん……よね? 髪形も、あの化粧ポーチも……)
考えてみれば、あの厳つい番頭の娘だというのに香織はやけに可愛かった。母親がかなりの美人なのだろうと思っていたが、鏡の中の香織は、ずいぶんと番頭に似ている気がする。
視線を感じたのか、鏡の中から冷ややかな眼差しを向けられた。
「……笑いたければ笑えばいいでしょう。雫さんは化粧が剥げた最悪な顔でも、中の中くらいの凡顔だからいいかもしれませんが、私は雫さんより若々しくてピチピチなのに、こんな顔なんです。一時間に一回は補正しないといけないだなんて、面倒で理不尽すぎますよ」
辛辣な言葉を浴びせられたことよりも、どんな化粧をすればあの可愛らしい顔になるのかということの方が、雫は気になって仕方がない。再び鏡を見ると、香織が左目を作り終えたところだ。
雫は茶碗と箸を持ったまま香織の横に立ち、じっと鏡を見つめた。
「なんでそんな……かまぼこ形のぱっちり二重の目になるの?」
その感想に反応することなく、香織は雫が知らない小道具を駆使して顔を作る。自分も知る香織の顔に近づいていくにつれ、雫の目が見開かれた。
「神……」
「これくらい当然です。女ですから」
「詐欺……」
「『うるせぇ、黙りやがれ』ですよ。努力して身につけた武器にケチつけないで下さい。私の素顔、広めるなら勝手にどうぞ。若旦那も副番頭もまるで相手にしてくれないし。私、ここを辞めるつもりですから」
「一ヶ月で⁉」
「一ヶ月ももったんだからいいじゃないですか。元々、華宵亭が欲しい父さんが、私をハニートラップに使おうとしていただけですし。うまくいかなきゃ、いる意味ないでしょう?」
とんでもない内幕を聞かされた気がする。
「いやだったんですよね、女だからという理由で父親から利用されるの。それに私の学生時代の不本意な仇名、腋臭です。だからさっさと結婚して名字を変えたかった」
(常脇香織……なるほど、常に腋が香っていると)
「ここにいても結婚できそうにないし、番頭の娘というだけで、仕事もせず色目ばかり使う……こんな女をちやほやする仲居にもうんざり。逆にいい指導役ぶって仕事をさせようとする、誰かさんもうざかったし」
香織のことを見誤っていたのかもしれないと、雫は思った。素の彼女はどこまでもドライかつ毒舌で、姿を変えることで複雑なやりきれなさを誤魔化していたのだ。
(ああ、わたし……まだまだひとを見る目がないな)
雫は笑って香織の顔に手を伸ばすと、ほっそりとした輪郭を作っているテープを一気に剥がす。
「ちょっと、なにするんですか!」
素顔のエラが目立ち、香織がヒステリックに怒鳴る。
「猫を被ってできないフリをしていた挙げ句、逃げようとしている罰。ギブアップはまだ早いよ、香織ちゃん。努力と根性があることを、あなたはまだわたしたちに見せていない。このままじゃ、ただの世間知らずの負け犬だよ」
香織は返事をしなかった。
「わたしなら、できないと思われるのは絶対いや。皆ができていることなら特に、どんな努力をしてでもやり遂げたい。それが、わたしのプライド」
「どんなに頑張っても、ひとと同じことができなかったらどうするんですか……」
香織は握った手に力を入れて、ぼそりと呟く。
「自分は、顔以外でもひとより劣っていると、再認識させられるだけなのに」
香織はきっと、顔の造作で傷ついてきたのだ。そのせいで必要以上に臆病になっている。彼女にとって化粧とは、弱い自分を守る虚勢なのだろう。培った技がなければ、己がいかに脆弱なのか悟っている。努力しないことは、彼女の逃げ道なのだ。
「やってみないとわからないじゃない。自分の可能性を信じてあげないの? まだわたしより若いのに、人生、そうやって諦め続けるの?」
「……っ」
「可愛さ以外に、努力してもうひとつ武器を手に入れようよ。あなたがアプローチしなくても、男の方が〝顔だけじゃない女〟って寄ってきてくれるような。一石二鳥だと思うけど」
雫の提案に、香織は小さく答えた。
「……頑張ったら。若旦那、振り向いてくれますかね?」
途端に雫は血相を変える。
「ターゲットは若旦那⁉ 駄目よ、駄目! 彼は振り向かせちゃ、絶対駄目!」
思わず私情を挟んで即答した後、気まずい沈黙が流れた。
「……雫さん、副番頭ではなくて若旦那が本命なんですか?」
「い、いや、その……」
なぜ大倭の名前が出てくるのかと思いつつ、自爆してしまった雫は頬の熱さを感じている。
「うわ……まるで裸でエベレスト登山に挑戦するような無謀さ」
雫はずぅんと落ち込んで、その場で四つん這いになった。そしてふと思う。
自分には瑞貴を振り向かせるために、女として〝努力して身につけた武器〟はあったかと。
彼に恥をかかせないように、仲居の仕事は全力で取り組んできたが、瑞貴個人に対しては、昔から素のままだった気がする。香織のようなアピールもしたことがない。
(もしかして、子供扱いされているのは、わたしのせい⁉)
今の自分が女らしくなれば、いくらかは意識してくれるだろうか。
「大体、色気皆無の雫さんと色気垂れ流しの若旦那が、釣り合うわけ……」
雫は両手で、香織の手を強く握りしめた。
「香織ちゃん。色っぽくなれるお化粧方法、教えて。今すぐ!」
*゚。・*・。゚*
「香織ちゃんのメイクは、神技だわ。今まではなかった色気っぽいものも出ている気がする」
雫は化粧室の鏡に自分の顔を映して、感嘆の息をつく。
教えを乞うたものの、結局、雫の不器用さを見兼ねた香織にメイクをしてもらったのだが、のっぺりしていた顔に陰影がつき、肌つやもよくなった気がするのだ。香織に散々毒を吐かれた甲斐がある。
(これなら若旦那も、少しはわたしを意識してくれるかな……)
「……いけない、こんな時間。仕事に戻らないと」
休憩時間後は、華宵亭自慢の懐石料理の準備が待っている。
本日の懐石料理は七品。客の食べる速度を見計らい、適温の品を部屋に運ばないといけない。
夕食に関しては、仲居全員が手分けして配膳することになっている。
さらに華宵亭の名物は、女将が作る季節の食前酒。旬の花や果実を漬け込んだもので、味だけではなく、色や匂いも同時に楽しめる。
配膳室は戦場だった。せっかくの化粧を瑞貴に見せに行く時間もない。
厨房は板前たち男性調理人の神聖な場だ。昔、女性は立ち入り禁止だったらしいが、今は仲居も出入りができ、完成したばかりの上品な料理をすぐにカートで運ぶことができる。
雫があたふたと料理をカートに入れていると、ふと白髪頭の板長と目が合う。
彼は副板長の時から雫を知っていて、瑞貴や大倭とのおやつにと、よく和菓子を作ってくれた。
「どうした雫ちゃん。今日はやけに色っぺぇな」
褒められた雫は顔がにやけないように気をつけながら、いつもと同じだとすまして答える。
「女が変わる時は男絡みだと相場が決まっているもんだ。男だろ、片桐の坊主か?」
「なんで大倭が出てくるんですか。板長さんご存じでしょう、ただの幼馴染です」
「いやいやいや。お前さんがそうでも、あの坊主は……」
その時だ。
「……まだかな。待っているんだけど」
苛立った声を響かせて、中に入ってきたのは瑞貴だった。
慌てて謝罪の言葉を口にして頭を下げるふたりだが、瑞貴の様子はいつもとは違うままだ。無表情でふたりの横を素通りすると、カートに料理を載せ始める。
「若旦那、わたしがやります」
雫は青ざめた。仕事中に無駄口を叩いていたから、瑞貴を失望させてしまったのだ。雫は涙を堪えつつ料理をカートに載せ、配膳室に運ぶために誰もいない廊下へ出た。
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