17 / 53
第1章 追憶
砕かれたもの 1.
しおりを挟む妖気にも似た、赤い光が窓から差し込まれる。
真紅の月を反射したかのような、床に拡がる血の染み。
その中央に横たわるのは、ユウナを可愛がった父の骸だ。
その場を舞台に選び狂った宴の開幕を告げたのは、凶々しい金色であり、その目に宿すのは、嗜虐的な支配者の艶だった。
……だが銀色は動かない。
「リュカ……。……よく見ていよ」
リュカは動かない――。
金色に急かされても、その顔は強張ったまま。
まるで溶融できぬ氷の彫刻のようだ。
纏う空気は煌びやかなれど、その瞳は澱んでいる。
その澱みを拡げるように、さらになすりつけるように、金色は誘惑のように優しい声音をリュカにかける。
「お前はいつでも、その姫を蹂躙したかったのだろう? その姫の潤った熱い蜜壷で、あの可愛らしい声を奏でるあの口で……果てることを夢見ていたのだろう……?」
「違……っ、僕は――っ!!」
リュカの氷の仮面が皹割れ、隠しきれない動揺が顔に拡がった。
「お前が今宵に向けて色気づいたのは……鍵を奪うという理由だけではあるまい。どんな名目であれ、この女をようやく抱けると思ったからだろう? だが……お前が長らく、その邪な欲を余に隠していたのは気に入らぬ。いっそこの姫を、余の性奴としてやろうか」
「違う、違う、違いますっ!! 僕は、僕はユウナのことなんて……」
「ならば、その目でよく見ていよ。この女が、余に貫かれる様を」
金の男……ゲイは、後ろからユウナの服の衿を、ぐいと左右に開いた。
「きゃっ!!」
ユウナは思わず露わになった胸を両手で隠そうとしたが、ゲイはそれを許さなかった。ユウナの両手首はゲイの片手に取られ、頭上にて固定される。
今まで異性に見せたことのなかった柔らかな双丘が、外気にさらされた。
ユウナは、熱視線を胸に感じ、羞恥に身を捩った。
ゲイと……そしてリュカからの――。
そして恐らくこの角度なら、サクからも見られているだろう。
「ふふ……。この姫、お前に抱かれるために下着をつけず、よき臭いと滑らかな肌を磨き上げて、お前に触れられるのを待っていたらしいぞ? なんと健気な」
その金色の瞳は、身を固まらせているリュカを捕えたまま、身じろぎするユウナの首筋に、蛇のように長く赤い舌を這わせた。
「………っ」
ユウナは羞恥に顔を紅く染め、漏れ出る声を押し殺し、代わりに引き攣った息をした。そうした仕草こそ、男の嗜虐的な情欲を煽るとも知らずに。
「まこと、甘露のように甘い肌だ。これならリュカも喜んだだろう」
ざらついた舌の感触に、ざわざわとユウナの肌がさざめく。
それはおぞましい感覚であるのに、それで終わらせないその舌の動きは絶妙で、そこから生じるじんわりとした熱に、思わずユウナの心悸が昂ぶっていく。
未知なる感覚に戸惑っている間に、ゲイの片手は豊かに実った白い乳房に伸ばされ、強く弱く揉みしだいていく。
「……っ、んっ……ぁ……」
その巧みな動きに甘い痺れは強まり、肌が粟立ち、息が乱れてくる。口から漏れるのが、甘さを含んだ吐息と変わるまでに、さほどの時間も必要としなかった。
「なぁ、リュカ。お前の許婚の乳房は、なかなかに柔らかで、吸い付くような触り心地がいい。生娘のくせに、揉めば揉むほどに紅く色づくこの肌が、なんとも艶めかしいではないか」
ゲイの手がユウナの胸の頂きの紅い蕾をきゅっと抓ると、ひくりとユウナの体が反応する。
「ふふふ、こんなに尖って可愛さを増したぞ、姫よ。もっともっと大きくしてやろうぞ?」
「……ぁっ……」
指の腹でこりこりと強く捏ねられ、思わずユウナは声を上げ身を仰け反らせて、身悶える。
リュカの目の前で。
サクの目の前で。
嫌だと思うのに、逃れたいと思うのに。
男を知らない無垢な体に、男の慣れた手淫は巧み過ぎた。
ユウナが初めて感じる、びりびりとした甘い痺れを引き出し、ユウナの理性を奪おうと翻弄する。
「さぁよく見ろ、リュカ。お前がなんとも思っていない女なら、見れるはずだ。見れないというのなら、今ここで……そうだな。お前の持つその小剣を、この姫の蜜壷の奥深くに差し込んでもいいんだぞ? 抽送のように何度も何度も激しく、深く!!」
仄かに上気した、ユウナの顔。
とろりとした黒曜石の瞳。
半開きになった桜貝のような唇。
艶めき始めた美しい女の顔は、リュカが視線を外そうとする以前に、既に彼を魅縛していた。
リュカの眼差しは、ユウナに向けられたまま。戸惑いと苦渋に揺れていたはずのその目は、次第に熱を孕んで濡れて行く。
そこには当初見せていた凍気などまるでなく、灼熱だけが渦巻いていた。
変わりゆく男の眼差し。ユウナが苦手としていたリュカの男としての顔に、ユウナは僅かに残る理性が反応した。
「見ないで……あたしを見ないで……っ!!」
羞恥、屈辱――。
こんな、はしたない姿を見せたくないのに。
それでも心と裏腹に、体は反応し始める。見られていると思えば、ますます熱くなる、淫らな体。
浅ましい女の性は、サクを傷つける残虐な男に従順で。男の手の動きひとつでどうにでもなる、そんなひ弱で脆弱な存在だということを思い知らせる。
……ユウナは片目から一筋涙をこぼした。
「やだ……」
口から自然と漏れたのは、体に抵抗する心の悲鳴――。
「やだ? サクとやらが死んでもいいのか?」
途端、ユウナの黒い瞳からすっと光が消え、ユウナから抵抗するすべての力は失われた。
理性が邪魔だ。
理性がサクの命を脅かすのだというのなら、理性などなくしてしまおう。
ただなされるがまま、ただの傀儡のように、この男を満足させて、この狂宴を早く終わらせよう……。それだけが、自分に許された道なのだと……彼女は悟ったのだった。
「早く……終わらせて……」
涙が混ざったような、か細い声が漏れる。
サクを見たい。
だけど見たくない。
きっとこんな痴態をさらす自分を、侮蔑の眼差しで見ているだろうから。
サクを苦しめる男に身悶える女など、もうサクは見向きもしないだろうから。
それでも信じて欲しい。サクを救いたいのは、変わらぬ真実なのだと。
どんな姿になりはてても、その心だけは守り抜くから。
多分、これがサクに出来る最後のこと。
今までありがとう。
大好きだった。
ずっと一緒にいたかった。
ハン、どうか少しでも早くサクを助けにきて。
きっとその時はもう、あたしはこの世にはいないだろうけれど。
虚ろな顔のユウナの目は、リュカが手にしたままの小剣に注がれる。
そして――
ユウナの顔に一瞬だけ生気が宿り、リュカをまっすぐに見た。
もしも今夜、離れと本殿を結ぶ鍵を外さなかったら、今頃リュカとの関係はどうなっていただろう。
今夜誰も死ぬことがなく、明日自分はリュカとの初夜を笑顔で迎えていたのだろうか。
ありもしないもしも話を、ぼんやりとユウナは考えた。
もしも今日、リュカに抱かれる覚悟をしなかったら。
もしも一年前、リュカを夫に選ばなかったら。
もしも十三年前、リュカを助けなかったら。
もしもリュカという男に、深入りしていなかったのなら。
既に予言されていたこの凶事は、きっと起きることはなかったのだ。
運命という必然的事象ではなく、ただの取り越し苦労だったと笑って終わったはずなのだ。
すべては己の私情が契機となった、人災だ――。
リュカに利用されていることも知らず、裏切りを知って、彼の憎悪を知って。
それでもまだサクと変わらぬ友情を信じ、これはリュカの意志ではないと……極限の努力で、たとえ時間がかかろうともリュカを許そうとも思った。
だがその結果、サクは四肢を砕かれた。
そして今、自分は凌辱という形にて、倭陵を滅ぼす道具を不届き者に与えようとしている。自分の認識の甘さが、臣下を父を殺しただけではなく、黒陵を滅ぼし倭陵を危機に陥れるのだ。
許せないのは、自分自身。
自分が、リュカという危険の種を大事に育て上げてきたのだ。
そうユウナが歯ぎしりをした時だった。
「尻を上げよ」
そんな上擦った声と共に、獣のような四つん這いの格好させられ、高く持ち上げられた臀部の裾が捲られる。
ユウナが、凌辱の意味を本能的に理解すると同時に――
「――っ!?」
熱く固いものが、下着の横から激痛を伴って胎内を貫いた。
「っ……。さすがにこれはキツい。ふんっ……」
まだ未開の狭道を、容赦なく抉るように一気に押し開く。
「う……がっ……」
ユウナの視界に、赤い火花が飛ぶ。
あまりの痛さに身を縮めれば縮めるほどに、激痛の衝撃は凄まじく。
「おぅ……締まる。お前の中は、熱く絡みついて……いいぞ?」
潤いが足りない膣内で粘膜と粘膜が激しく擦れ合う音がする。ゲイから高揚の声が上がり、ユウナは涙の滲んだ目で必死に込み上げる悲鳴を堪えた。
リュカはそんなユウナから目をそらし、ただじっと……、窓から見える赤い月を眺めていた。
その顔に感情を出すことなく。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる