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第三章
してしまった同情(クーテ視点)
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二人を宥めるのに思いの外時間がかかってしまった。
だが聞き出した話では、どうもパストが居酒屋で酔ったまま何かのゲームをしていたそうだ。
それで負けそうになったパストは言い訳して逃げようとしたところを、ゲームをしていた奴らに色々と言われ、ゼロの塔に特攻したそうだ。
頭が痛くなる……。
とりあえず件の居酒屋へ。
「あの人が教えにきてくれたんです」
アオちゃんが指を指した人は黒い髪に少し平坦な顔の女の子だった。
「も、申し訳ありません!ボクの仲間が……」
その子の話だと、今はいないがその仲間とやらがパストに喧嘩を売られたと因縁をつけ、パストはそれに応戦。
だが、流石に殴り合いはパストが死んでしまうと言って、その子はや、やきゅーけんなるゲームをしたそうだ。
じゃんけんをして負けたら衣服を脱ぐというゲーム。
そして、パストはそれに負け、あと1枚目というところで、パストが言い訳して帰ろうとしたが、そこに追い打ちのようになんか言ったらしい。
「何を言われたら……」
「『ヨンの迷宮の五十階層まで行ったらチャラにしてやろう』と」
「なに?だがパストはゼロの塔に行ったと……」
「どうも酔っ払っていたせいで、間違えて行ったみたいなんですよ」
……いっそこのままにしてしまおうかと思ってしまった。
「まあ、さっきは焦りましたけど、師匠のことですから、そう簡単には死なないでしょうから、もし助けに行くならちゃんと準備してからでも遅くはないと思います。それに、届け出無しの迷宮探索は認められているものの自己責任です」
「だが、私は奴の担任だ。奴が進級するまでは私が奴の保護者だ」
「過保護すぎませんか?」
「そういうものだ」
そこから私はここでのツテを頼ったが、やはり届け出無しでは捜索隊は組むことができず、ギルドにも頼ってみたが、パーティー一つ組むことができなかった。
「くそっ!!」
もう昼になったというのに……。
アオちゃんは一人黙々と串焼き肉を食べていて、心配する素振りが全く無い。ように見えるが時折ボーッと入り口を見ているので、口ではああ言いつつも内心かなり心配しているようだ。
リーシャはチェニックが宥めているが、あまり意味が無いように見える。
こうなったら一人ででも……。
「よお、あんたがクアルさんかい?」
「ぁあ?」
そこには髭面のいかにもという雰囲気の男が数人並んでいた。
「俺達は昨日の夜、一緒に飲んでいたモンだ」
「なに?」
「俺達を捜索隊に加えてくれ」
彼等も最初は自己責任だと思っていたが、パストとの酒は楽しかったらしく、しかもその時にパストが面白可笑しく話した身の上を思い出し、やっぱり助けに行こうと決めたそうだ。
ありがたい。
それからは、ソイツ経由でかなりの人数が集まり、時間はかかったが、全員生きて帰れるであろう装備等を揃え、いざ行かんとなったその時、
「あ、師匠」
「ん?アオなにしてんの?」
パスト!
無事だった……の……か……。
あろう事があれだけ全員に心配をかけておいて、ヘラヘラと居酒屋に入ってきたのだ……。
「……おいパスト」
背後から話しかけると奴は引き攣った笑みでこちらを、見上げてくる。
「……こ、こんばんは先生」
「おおこんばんはパスト。私の言いたい事がわかるか?」
「…………すっぽかして申し訳ございませんでした」
私は衝動的にぶん殴ってしまった。
「なにすんですか?!」
「貴様は何をしたかわかっているのか?!」
「だから罰をすっぽかしたからでしょ?だからって殴ることないじゃないっすか!」
「そんなことで殴るか馬鹿者!!」
貴様はッ……!
「あ、記憶失うほど飲んだからですか?まあそりゃ確かに悪いですけど……。まあ殴られるか」
「……貴様は本当にわからないのか?」
貴様はっ……!!
「貴様はさっきまでどこにいたのかわかってないのか?」
「……あー……ヨ、ヨンの迷宮にイタヨウナキガスルナー」
「本当にそう思って言ってるのか?」
「…………いいえ」
貴様はっ……!!!
「貴様は酔ったままゼロの塔に単身で突撃したんだよ。なんの装備も持たずトランクス一丁でな」
「あーそれで俺、一人で爆睡してたんすね……」
「貴様はそれがどういうことかわかってるのか?」
「え?笑い話でしょ?」
私は今度は意思を持って殴ろうとしたが、躱された。
「なんで殴るんすか?!」
「なんで殴られたのかまだわからないのか!!」
「そりゃ酔ったまま突っ込んじまったことは悪いなあと思いますし、罰をすっぽかしたことも悪いとは思います。でも殴られるほどのことじゃないと思うんですけど……」
「貴様は……」
だが、私は何も言えなくなってしまった……。
髭面に聞いたパストの身の上を思い出したからだ……。
「師匠」
「なんだ?」
アオちゃんがパストに話しかけている。
これで少しは分かってくれるだろうと全員が思っただろう。
だから……。
「俺の心配なんかする人いたの?」
こんな言葉が出るなんて思っていなくて。
そして私は……いやここにいた私達全員が思ってしまった。
「え?なんでみんなそんな……えーなんだよ。俺が死んでも関係ないだろ。まあ、先生の場合は監督不行届きで罰せられるから怒られるのはわかるけどさ。ここにいる奴らほとんど昨日会ったばっかの奴らじゃん。なんでみんなそんな……そんな……」
こいつほど、可哀相な子供はいないと。
「……アオ、帰るぞ」
「はい師匠」
店を出るパストの背中に、誰一人声をかけることができなかった。
だが聞き出した話では、どうもパストが居酒屋で酔ったまま何かのゲームをしていたそうだ。
それで負けそうになったパストは言い訳して逃げようとしたところを、ゲームをしていた奴らに色々と言われ、ゼロの塔に特攻したそうだ。
頭が痛くなる……。
とりあえず件の居酒屋へ。
「あの人が教えにきてくれたんです」
アオちゃんが指を指した人は黒い髪に少し平坦な顔の女の子だった。
「も、申し訳ありません!ボクの仲間が……」
その子の話だと、今はいないがその仲間とやらがパストに喧嘩を売られたと因縁をつけ、パストはそれに応戦。
だが、流石に殴り合いはパストが死んでしまうと言って、その子はや、やきゅーけんなるゲームをしたそうだ。
じゃんけんをして負けたら衣服を脱ぐというゲーム。
そして、パストはそれに負け、あと1枚目というところで、パストが言い訳して帰ろうとしたが、そこに追い打ちのようになんか言ったらしい。
「何を言われたら……」
「『ヨンの迷宮の五十階層まで行ったらチャラにしてやろう』と」
「なに?だがパストはゼロの塔に行ったと……」
「どうも酔っ払っていたせいで、間違えて行ったみたいなんですよ」
……いっそこのままにしてしまおうかと思ってしまった。
「まあ、さっきは焦りましたけど、師匠のことですから、そう簡単には死なないでしょうから、もし助けに行くならちゃんと準備してからでも遅くはないと思います。それに、届け出無しの迷宮探索は認められているものの自己責任です」
「だが、私は奴の担任だ。奴が進級するまでは私が奴の保護者だ」
「過保護すぎませんか?」
「そういうものだ」
そこから私はここでのツテを頼ったが、やはり届け出無しでは捜索隊は組むことができず、ギルドにも頼ってみたが、パーティー一つ組むことができなかった。
「くそっ!!」
もう昼になったというのに……。
アオちゃんは一人黙々と串焼き肉を食べていて、心配する素振りが全く無い。ように見えるが時折ボーッと入り口を見ているので、口ではああ言いつつも内心かなり心配しているようだ。
リーシャはチェニックが宥めているが、あまり意味が無いように見える。
こうなったら一人ででも……。
「よお、あんたがクアルさんかい?」
「ぁあ?」
そこには髭面のいかにもという雰囲気の男が数人並んでいた。
「俺達は昨日の夜、一緒に飲んでいたモンだ」
「なに?」
「俺達を捜索隊に加えてくれ」
彼等も最初は自己責任だと思っていたが、パストとの酒は楽しかったらしく、しかもその時にパストが面白可笑しく話した身の上を思い出し、やっぱり助けに行こうと決めたそうだ。
ありがたい。
それからは、ソイツ経由でかなりの人数が集まり、時間はかかったが、全員生きて帰れるであろう装備等を揃え、いざ行かんとなったその時、
「あ、師匠」
「ん?アオなにしてんの?」
パスト!
無事だった……の……か……。
あろう事があれだけ全員に心配をかけておいて、ヘラヘラと居酒屋に入ってきたのだ……。
「……おいパスト」
背後から話しかけると奴は引き攣った笑みでこちらを、見上げてくる。
「……こ、こんばんは先生」
「おおこんばんはパスト。私の言いたい事がわかるか?」
「…………すっぽかして申し訳ございませんでした」
私は衝動的にぶん殴ってしまった。
「なにすんですか?!」
「貴様は何をしたかわかっているのか?!」
「だから罰をすっぽかしたからでしょ?だからって殴ることないじゃないっすか!」
「そんなことで殴るか馬鹿者!!」
貴様はッ……!
「あ、記憶失うほど飲んだからですか?まあそりゃ確かに悪いですけど……。まあ殴られるか」
「……貴様は本当にわからないのか?」
貴様はっ……!!
「貴様はさっきまでどこにいたのかわかってないのか?」
「……あー……ヨ、ヨンの迷宮にイタヨウナキガスルナー」
「本当にそう思って言ってるのか?」
「…………いいえ」
貴様はっ……!!!
「貴様は酔ったままゼロの塔に単身で突撃したんだよ。なんの装備も持たずトランクス一丁でな」
「あーそれで俺、一人で爆睡してたんすね……」
「貴様はそれがどういうことかわかってるのか?」
「え?笑い話でしょ?」
私は今度は意思を持って殴ろうとしたが、躱された。
「なんで殴るんすか?!」
「なんで殴られたのかまだわからないのか!!」
「そりゃ酔ったまま突っ込んじまったことは悪いなあと思いますし、罰をすっぽかしたことも悪いとは思います。でも殴られるほどのことじゃないと思うんですけど……」
「貴様は……」
だが、私は何も言えなくなってしまった……。
髭面に聞いたパストの身の上を思い出したからだ……。
「師匠」
「なんだ?」
アオちゃんがパストに話しかけている。
これで少しは分かってくれるだろうと全員が思っただろう。
だから……。
「俺の心配なんかする人いたの?」
こんな言葉が出るなんて思っていなくて。
そして私は……いやここにいた私達全員が思ってしまった。
「え?なんでみんなそんな……えーなんだよ。俺が死んでも関係ないだろ。まあ、先生の場合は監督不行届きで罰せられるから怒られるのはわかるけどさ。ここにいる奴らほとんど昨日会ったばっかの奴らじゃん。なんでみんなそんな……そんな……」
こいつほど、可哀相な子供はいないと。
「……アオ、帰るぞ」
「はい師匠」
店を出るパストの背中に、誰一人声をかけることができなかった。
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