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第四章
慰めの旋律と恐怖の姉達
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「なんだ、パスト。まだ怒っているのか」
「怒ってないです」
「そんなに私と寝ていたのが嫌だったのか?なんだ?思春期か?」
「違います。もういいですから」
「寒かったのだし、家族同然なんだ。同じ布団で寝たっていいだろうが」
もう知らん。
まさか酔った勢いで先生に手を出したのかと本気で焦ったんだぞ。
それが、お仕置き的運動中に、殴って気絶させたついでに、これ幸いと前からしたかった一緒の布団で寝るというのをやってみだと抜かしおる。
俺はさっさと朝飯をかっこみ、先生を待たずに外に出た。
「これがマイグロリア……」
「まだ出来て間もないから、しばらくは硬い音が出るだろうが、まあその辺は理解してくれると助かる」
「わかってるって……。とりあえず弾いてみるけどいいよな?」
返事も待たずにさっさと構えてしまう俺。
舞い上がってんなぁと自分でも思うけど仕方ない。
音を出してみたが、言ってた通り、まだ全然音が出ない。
楽器の板が全然振動しないからだ。
それでもひたすらバーバーバーバー弾きまくると、漸くそれらしくなってきた。
そんな時である。
「やあ」
「あれ、ヤクーさん。どうしたんですか?」
なんかヤクーさんがやってきた。
「姉達から逃げてきた。レデンにパストならここにいるって聞いたものでな。久しぶりに何か弾いてくれないか?」
元気が出そうな曲か、はたまた慰めるような曲か。
どちらを弾けばヤクーさんは喜ぶだろうか……。
うーん……。
ま、どっちともとれそうな曲でも弾くか。
「それじゃ、『オーロラ』と『農民の踊り』の二曲を弾きますね」
まずオーロラを弾く。
あ、ヤクーさん泣いちゃったよ。
漢泣きだよ。
ついでに楽器屋のおっちゃんも泣いてた。
次に農民の踊りを弾くと、ヤクーさんは楽しそうに手を叩いて聴いてくれた。
ついでに楽器屋のおっちゃんは、何故かまた泣いてた。
「ありがとうパスト。ところで最初の曲だが、オーロラと言っていたな。なんだか明け方のような気分にもなったぞ」
「お、耳がいいですね。この曲は別名『曙』とも言うんですよ。曙とは太陽が登る明け方のことです。まあなんかこう、明けない夜はないですから、もう少し頑張りましょうねという感じです」
ガチ泣きされた。
どんだけ怖いんだお姉さん達。
その後、なぜかぼーっとしている先生を顔の前で手を叩いて、正気に戻したり、泣きまくるおっさんにせがまれ他にも弾いたりして時間はあっという間に昼過ぎ。
流石に腹減ったということで、前に行ったヤクーさんオススメのお店へ。
……行く途中に奴らは現れた。
「こらヤクー!今日は久しぶりの山刈りだってのにどこ行ってたのよ!」
「さっさと行くわよー!」
アフロで白いワンピースを着た色黒マッチョ二人。
「ね、姉さべプッ!」
「姉さんじゃなくて、お姉ちゃんと呼べって何度も言ってんでしょうが」
「まったく。これは教育し直したほうがいいかしらね」
一瞬でヤクーさんの顔を掴んで持ち上げる色黒マッチョの片割れ。
「姉……だと……」
「ん?ああああ!パスト君じゃないの!」
「あらほんと。久しぶりじゃない」
ヤクーさんの怖い姉達。
その正体は、ラルクエンで店を開いていた、ミラーさんとマオーさんだった。
*****
「うん、美味い!やはり運動後の食事は最高だな」
「ホントよねぇ。それにしてもクーテちゃん強いわねぇ」
「まともに攻撃が通らなかったの久しぶりだわ」
なんのこっちゃだろうから、纏める。
あの後、先生とミラーさん、マオーさんはなぜか意気投合し、その流れで何故か手合わせとなり、1対1対1の大乱闘が行われた。
化物達による大乱闘。
それはそれは……地味だった。
あらゆる攻撃が無音で行われ、無音で防がれる。
派手な魔法の押収もない。
もう一度言おう。
おっそろしく、地味な戦いだった。
二、三分ほどで終わった大乱闘。
三人は硬い握手を交わし、そして現在に至る。
「か、彼女は何者なんだ……。あの姉達と対等に戦えるなんて……」
「俺が通ってる学園の先生」
「なる……ほど……」
するとヤクーさんは先生をジッと見つめると、不意に顔色を変えて目を逸らした。
あーこれは……。
「そんな怖がらんでも、先生はギリ常識人ですから問題ないですよ」
「ほ、本……当か?いきなり特訓だとか言って足を縛って川に突き落とすとかしないか?」
「しねぇよ……。もはやそれ特訓じゃなくてただの虐めだよ」
「あーら虐めじゃないわよ。それくらい私達ならみんなやってるわよ。ねークーテ」
突然後ろから声をかけてきたのは、ミラ……マ……どっちだ……。
わからんぞ……。
「いや、私は重りをつけて海に落とされたな」
などと先生は申しておりますはい。
「あーそっちか!この辺は川しかないから縛って落とすくらいしかないのよねー」
なんの話で盛り上がってんだよ……。
それからも先生達による昔はこんな特訓流行ってた談義が始まり、俺とヤクーさんは巻き込まれる形でその話に付き合わされた。
「怒ってないです」
「そんなに私と寝ていたのが嫌だったのか?なんだ?思春期か?」
「違います。もういいですから」
「寒かったのだし、家族同然なんだ。同じ布団で寝たっていいだろうが」
もう知らん。
まさか酔った勢いで先生に手を出したのかと本気で焦ったんだぞ。
それが、お仕置き的運動中に、殴って気絶させたついでに、これ幸いと前からしたかった一緒の布団で寝るというのをやってみだと抜かしおる。
俺はさっさと朝飯をかっこみ、先生を待たずに外に出た。
「これがマイグロリア……」
「まだ出来て間もないから、しばらくは硬い音が出るだろうが、まあその辺は理解してくれると助かる」
「わかってるって……。とりあえず弾いてみるけどいいよな?」
返事も待たずにさっさと構えてしまう俺。
舞い上がってんなぁと自分でも思うけど仕方ない。
音を出してみたが、言ってた通り、まだ全然音が出ない。
楽器の板が全然振動しないからだ。
それでもひたすらバーバーバーバー弾きまくると、漸くそれらしくなってきた。
そんな時である。
「やあ」
「あれ、ヤクーさん。どうしたんですか?」
なんかヤクーさんがやってきた。
「姉達から逃げてきた。レデンにパストならここにいるって聞いたものでな。久しぶりに何か弾いてくれないか?」
元気が出そうな曲か、はたまた慰めるような曲か。
どちらを弾けばヤクーさんは喜ぶだろうか……。
うーん……。
ま、どっちともとれそうな曲でも弾くか。
「それじゃ、『オーロラ』と『農民の踊り』の二曲を弾きますね」
まずオーロラを弾く。
あ、ヤクーさん泣いちゃったよ。
漢泣きだよ。
ついでに楽器屋のおっちゃんも泣いてた。
次に農民の踊りを弾くと、ヤクーさんは楽しそうに手を叩いて聴いてくれた。
ついでに楽器屋のおっちゃんは、何故かまた泣いてた。
「ありがとうパスト。ところで最初の曲だが、オーロラと言っていたな。なんだか明け方のような気分にもなったぞ」
「お、耳がいいですね。この曲は別名『曙』とも言うんですよ。曙とは太陽が登る明け方のことです。まあなんかこう、明けない夜はないですから、もう少し頑張りましょうねという感じです」
ガチ泣きされた。
どんだけ怖いんだお姉さん達。
その後、なぜかぼーっとしている先生を顔の前で手を叩いて、正気に戻したり、泣きまくるおっさんにせがまれ他にも弾いたりして時間はあっという間に昼過ぎ。
流石に腹減ったということで、前に行ったヤクーさんオススメのお店へ。
……行く途中に奴らは現れた。
「こらヤクー!今日は久しぶりの山刈りだってのにどこ行ってたのよ!」
「さっさと行くわよー!」
アフロで白いワンピースを着た色黒マッチョ二人。
「ね、姉さべプッ!」
「姉さんじゃなくて、お姉ちゃんと呼べって何度も言ってんでしょうが」
「まったく。これは教育し直したほうがいいかしらね」
一瞬でヤクーさんの顔を掴んで持ち上げる色黒マッチョの片割れ。
「姉……だと……」
「ん?ああああ!パスト君じゃないの!」
「あらほんと。久しぶりじゃない」
ヤクーさんの怖い姉達。
その正体は、ラルクエンで店を開いていた、ミラーさんとマオーさんだった。
*****
「うん、美味い!やはり運動後の食事は最高だな」
「ホントよねぇ。それにしてもクーテちゃん強いわねぇ」
「まともに攻撃が通らなかったの久しぶりだわ」
なんのこっちゃだろうから、纏める。
あの後、先生とミラーさん、マオーさんはなぜか意気投合し、その流れで何故か手合わせとなり、1対1対1の大乱闘が行われた。
化物達による大乱闘。
それはそれは……地味だった。
あらゆる攻撃が無音で行われ、無音で防がれる。
派手な魔法の押収もない。
もう一度言おう。
おっそろしく、地味な戦いだった。
二、三分ほどで終わった大乱闘。
三人は硬い握手を交わし、そして現在に至る。
「か、彼女は何者なんだ……。あの姉達と対等に戦えるなんて……」
「俺が通ってる学園の先生」
「なる……ほど……」
するとヤクーさんは先生をジッと見つめると、不意に顔色を変えて目を逸らした。
あーこれは……。
「そんな怖がらんでも、先生はギリ常識人ですから問題ないですよ」
「ほ、本……当か?いきなり特訓だとか言って足を縛って川に突き落とすとかしないか?」
「しねぇよ……。もはやそれ特訓じゃなくてただの虐めだよ」
「あーら虐めじゃないわよ。それくらい私達ならみんなやってるわよ。ねークーテ」
突然後ろから声をかけてきたのは、ミラ……マ……どっちだ……。
わからんぞ……。
「いや、私は重りをつけて海に落とされたな」
などと先生は申しておりますはい。
「あーそっちか!この辺は川しかないから縛って落とすくらいしかないのよねー」
なんの話で盛り上がってんだよ……。
それからも先生達による昔はこんな特訓流行ってた談義が始まり、俺とヤクーさんは巻き込まれる形でその話に付き合わされた。
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