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第五章
発狂。そしてゴリ押し
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あれから三ヶ月たった六月末。
土砂降りの中病院に駆け込み、花梨のいる部屋に向かうと、途中で榊さんに出会った。
「やっほー和樹くんっ」
「こんにちは、榊さん」
三ヶ月も会ってれば流石にそこそこ仲も良くなるわけで。
「あららー下ビショビショじゃないの。タオル貸したげるから拭いておきなよ」
「どうも。ところで榊さんはどこに行くんですか?」
「休憩だから君を迎えにねー。ってかいつものことじゃん」
「それもそうですね」
俺がまだ来ていないとこうして休憩の時は入り口で待っていてくれるのだ。
仲良くなりすぎた気がしないでもない。
「花梨は?」
「相変わらずって感じだよ。ただ前みたいな発狂とかは無くなったね」
「そうですか」
俺が来るようになって三ヶ月。
その間一度も自傷行為とかには及んでいない。
ただ、どうも俺の名前には時たま反応を見せるようになっていた。
反応と言っても、ちらっと眼球が動いたり、ヒュッと息を吐いたりとかだが、それでも反応は反応だ。
三ヶ月も経っているし、そろそろ次のステップに行ってもいいかも知れない。
「榊さん」
「ん?」
「もしかしたら今日はヤバイかも知れないんで構えておいてください」
「何する気?」
榊さんは眉を顰めた。
「ちょっと新しいお話をね」
毎日ほぼ同じ話のローテション。
そろそろ抜け出そうか。
「おはよう花梨。また来たよ。和樹だよ」
「…………」
今日は眼球のみっと。
「今日は少し新しいお話をしようか」
「…………」
……よし。
「き……き、き……きき……、……、……恭介こことだ」
どうだ?!
「……ぁ」
ん?
「……ぁぁ……ぃ……」
あ、ヤバイこれ。
「榊さん!」
「え?」
「待機してる人を呼んでください!早く!」
瞬間。
「いやああああああああああああ!!!!!!」
予想通り、花梨は絶叫した。
俺は慌てて抱きしめる。
「花梨落ち着け!ごめん!悪かったから落ち着け!花梨!花梨!!」
「アガああああああああ!!」
花梨は細腕を振り回して暴れる。
俺の顔やらにぶつかって結構痛いがそんなことはどうでもいい。
榊さんが呼んでくれた医師の人がすぐに鎮静剤を打ったことで花梨は大人くしくなった。
屋上に行く階段の途中で俺と榊さんは話をすることにした。
雨が降ってるから屋上は無理だからだ。
「何やったの?」
「いやぁ……一年前の原因といいますか、そいつの名前を言ったんですよ」
「……恭介君のことね」
「知ってるんですか?」
確か面会とかしてないはずだけど。
「会ったことはないけどあの子たまに恭介君の名前を叫んでたから」
なるほどね。
「何があったの?」
「んーまあ、ちょっとした喧嘩ですよ」
「ちょっとした喧嘩で包丁が出て来るって何?」
「さー俺ショックで忘れちゃってますから」
「……そういうことにしといたげる」
さて。
予想通りの展開だ。
やっぱりゴリ押しするしかないか。
「まあしばらくはまた恭介の名前は封印です」
「そうだね」
大丈夫。
今夜には終わらせるから。
*****
さてやりますか。
深夜二時。
丑三つ時と呼ばれる時間。
俺は部屋から病院の屋上に転移した。
今からやることは実験済みとはいえ超危険というか恐怖しかない。
それでも覚悟は決めている。
そして俺は花梨の部屋に転移した。
「ふーん。夜中はいないのか」
部屋には花梨がベッドで寝ているだけ。
榊さんとかもいなかった。
好都合ではある。
俺は花梨に近づいた。
「よく寝てるな」
俺は両手を花梨に翳した。
そして時間遡行魔法術を使う。
花梨の身体は俺が写真で焼き付けた記憶と同じように健康的な肉付きになった。
髪もショートカットで、肌もみずみずしい。
「よし、次だ」
もう一度手を翳して時間遡行魔法術を使う。
使う場所は記憶。
この間眼鏡のおさげで実験したら上手くいったから問題無いだろうけど、それでも怖い。
なんせ戻すのは恭介を刺そうとした直前なのだから。
一年前に戻せるのかはハッキリ言って分からん。
そして……。
「う……」
花梨が目を開けた。
「あ……か、ずにい……」
ああ。
「うん。和樹だよ」
「かずに……あ……あれ?えーと……きょうす……け……私……あ、えと」
「花梨、落ち着け。花梨」
「部屋が……それで、彼女……がそう彼女だ……私は彼女で気持ち悪くて……そう……かずにいが……」
「花梨!」
思わず抱きしめると花梨は急に黙りこくった。
「……………………」
落ち着いた……か?
「あ、ァァ……ぁぁああああああああああ!!!!」
花梨は俺に抱き締められながら叫んだ。
やっぱり駄目か?!
「かずにい!恭介が!気持ち悪いって!私は殺そうとした!恭介を!それで!目が覚めて!夢なの?!夢だよね!恭介は私の事気持ち悪いって言わないよね!」
「言ってない!言ってないから!悪い夢だから!あの恭介が言うわけ無いだろ!」
「うわああああああんんんん!!!」
花梨は俺の中で大号泣した。
土砂降りの中病院に駆け込み、花梨のいる部屋に向かうと、途中で榊さんに出会った。
「やっほー和樹くんっ」
「こんにちは、榊さん」
三ヶ月も会ってれば流石にそこそこ仲も良くなるわけで。
「あららー下ビショビショじゃないの。タオル貸したげるから拭いておきなよ」
「どうも。ところで榊さんはどこに行くんですか?」
「休憩だから君を迎えにねー。ってかいつものことじゃん」
「それもそうですね」
俺がまだ来ていないとこうして休憩の時は入り口で待っていてくれるのだ。
仲良くなりすぎた気がしないでもない。
「花梨は?」
「相変わらずって感じだよ。ただ前みたいな発狂とかは無くなったね」
「そうですか」
俺が来るようになって三ヶ月。
その間一度も自傷行為とかには及んでいない。
ただ、どうも俺の名前には時たま反応を見せるようになっていた。
反応と言っても、ちらっと眼球が動いたり、ヒュッと息を吐いたりとかだが、それでも反応は反応だ。
三ヶ月も経っているし、そろそろ次のステップに行ってもいいかも知れない。
「榊さん」
「ん?」
「もしかしたら今日はヤバイかも知れないんで構えておいてください」
「何する気?」
榊さんは眉を顰めた。
「ちょっと新しいお話をね」
毎日ほぼ同じ話のローテション。
そろそろ抜け出そうか。
「おはよう花梨。また来たよ。和樹だよ」
「…………」
今日は眼球のみっと。
「今日は少し新しいお話をしようか」
「…………」
……よし。
「き……き、き……きき……、……、……恭介こことだ」
どうだ?!
「……ぁ」
ん?
「……ぁぁ……ぃ……」
あ、ヤバイこれ。
「榊さん!」
「え?」
「待機してる人を呼んでください!早く!」
瞬間。
「いやああああああああああああ!!!!!!」
予想通り、花梨は絶叫した。
俺は慌てて抱きしめる。
「花梨落ち着け!ごめん!悪かったから落ち着け!花梨!花梨!!」
「アガああああああああ!!」
花梨は細腕を振り回して暴れる。
俺の顔やらにぶつかって結構痛いがそんなことはどうでもいい。
榊さんが呼んでくれた医師の人がすぐに鎮静剤を打ったことで花梨は大人くしくなった。
屋上に行く階段の途中で俺と榊さんは話をすることにした。
雨が降ってるから屋上は無理だからだ。
「何やったの?」
「いやぁ……一年前の原因といいますか、そいつの名前を言ったんですよ」
「……恭介君のことね」
「知ってるんですか?」
確か面会とかしてないはずだけど。
「会ったことはないけどあの子たまに恭介君の名前を叫んでたから」
なるほどね。
「何があったの?」
「んーまあ、ちょっとした喧嘩ですよ」
「ちょっとした喧嘩で包丁が出て来るって何?」
「さー俺ショックで忘れちゃってますから」
「……そういうことにしといたげる」
さて。
予想通りの展開だ。
やっぱりゴリ押しするしかないか。
「まあしばらくはまた恭介の名前は封印です」
「そうだね」
大丈夫。
今夜には終わらせるから。
*****
さてやりますか。
深夜二時。
丑三つ時と呼ばれる時間。
俺は部屋から病院の屋上に転移した。
今からやることは実験済みとはいえ超危険というか恐怖しかない。
それでも覚悟は決めている。
そして俺は花梨の部屋に転移した。
「ふーん。夜中はいないのか」
部屋には花梨がベッドで寝ているだけ。
榊さんとかもいなかった。
好都合ではある。
俺は花梨に近づいた。
「よく寝てるな」
俺は両手を花梨に翳した。
そして時間遡行魔法術を使う。
花梨の身体は俺が写真で焼き付けた記憶と同じように健康的な肉付きになった。
髪もショートカットで、肌もみずみずしい。
「よし、次だ」
もう一度手を翳して時間遡行魔法術を使う。
使う場所は記憶。
この間眼鏡のおさげで実験したら上手くいったから問題無いだろうけど、それでも怖い。
なんせ戻すのは恭介を刺そうとした直前なのだから。
一年前に戻せるのかはハッキリ言って分からん。
そして……。
「う……」
花梨が目を開けた。
「あ……か、ずにい……」
ああ。
「うん。和樹だよ」
「かずに……あ……あれ?えーと……きょうす……け……私……あ、えと」
「花梨、落ち着け。花梨」
「部屋が……それで、彼女……がそう彼女だ……私は彼女で気持ち悪くて……そう……かずにいが……」
「花梨!」
思わず抱きしめると花梨は急に黙りこくった。
「……………………」
落ち着いた……か?
「あ、ァァ……ぁぁああああああああああ!!!!」
花梨は俺に抱き締められながら叫んだ。
やっぱり駄目か?!
「かずにい!恭介が!気持ち悪いって!私は殺そうとした!恭介を!それで!目が覚めて!夢なの?!夢だよね!恭介は私の事気持ち悪いって言わないよね!」
「言ってない!言ってないから!悪い夢だから!あの恭介が言うわけ無いだろ!」
「うわああああああんんんん!!!」
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